支払うつもりはあった|詐欺罪の故意はいつの時点で判断されるか
本記事は2026年10月時点の法令と一般的な実務をもとに、風俗店の利用をめぐって警察署に呼ばれた方に向けて、聴取の流れと聞かれることの多い事項を整理したものです。実際に何を聞かれるかは、事案の内容や捜査の段階によって異なります。
風俗店の利用をめぐって、警察から「一度署に来て話を聞かせてほしい」と連絡が来ることがあります。キャストや店から被害の申告があった場合のほか、利用した店が摘発され、客として事情を聞かれる場合もあります。どちらであっても、呼ばれた側は「何を聞かれるのか」「答え方で不利にならないか」という不安を抱えたまま当日を迎えがちです。
この記事では、警察署での聴取がどのような順番で進み、どのような事項を尋ねられることが多いのかを場面ごとに整理します。あわせて、当日までに準備しておきたいことと、聴取の場で気をつけたい点も取り上げます。
最初に確かめたいのは「どの立場で呼ばれているか」
警察が話を聞く相手には、大きく分けて2つの立場があります。犯罪の疑いをかけられている「被疑者」と、それ以外の関係者である「参考人」です。被疑者の取調べは刑事訴訟法198条、参考人の取調べは同法223条に根拠があり、いずれも逮捕・勾留されていない限り、出頭を断ることや、途中で退去することが法律上は認められています。
| 立場 | 呼ばれる典型的な場面 | 主に聞かれること |
|---|---|---|
| 被疑者 | キャストや店から被害届が出された、盗撮を疑われている | 自分の行為の有無と内容、当日の経緯 |
| 参考人 | 利用した店が摘発された、他の客の事件の関係者になった | 店の営業実態、サービス内容、料金の支払い |
ただし、参考人として呼ばれた場合でも、話を聞くうちに本人の行為に疑いが向き、被疑者として扱われるようになることがあります。たとえば、摘発された店に18歳未満の従業員がいた場合、その従業員を利用した客は、店の営業実態だけでなく自身の行為についても尋ねられる可能性があります。この分かれ目については【風俗トラブル】参考人として呼ばれた|客が被疑者に切り替わる分岐点で詳しく解説しています。
呼び出しの電話を受けた段階で、「どの件について」「どの立場で」話を聞きたいのかを尋ねておくと、準備の方向が定まりやすくなります。
警察署での聴取はどのような順番で進むのか
事案によって違いはありますが、逮捕されずに呼ばれた場合の聴取は、おおむね次のような順番で進むことが多いです。
- 受付と担当の警察官への引き継ぎ。
- 氏名・生年月日・住所・職業などの本人確認。
- 被疑者として呼ばれている場合の、供述拒否権(黙秘権)の告知。
- 事件についての聴取。
- 生い立ちや仕事、家族などの身上についての聴取。
- 供述調書の読み聞かせ・閲覧と、署名・押印の求め。
被疑者の場合には、これに加えて、指紋の採取や顔写真の撮影、スマートフォンの任意提出を求められることもあります。逮捕されていない段階では、これらは本人の協力を前提とする手続です。応じるかどうか迷うときは、その場で即答せず、弁護士に相談してから判断する余地があることも知っておきたいところです。スマートフォンについては【刑事事件】警察に「スマホを任意で出してほしい」と言われた|応じる前に確認することで整理しています。
所要時間は、参考人として短時間の確認で終わる場合もあれば、被疑者として半日近くに及ぶ場合もあります。一度で終わらず、日を改めて複数回呼ばれることも珍しくありません。なお、被疑者の取調べについては、国家公安委員会規則により、深夜や1日8時間を超えて行う場合には警察本部長などの事前の承認が必要とされています。日程の組み方は【刑事事件】取調べの日程を仕事に合わせられるか|当日にかかる時間と、複数回に及ぶ場合の組み立てもご覧ください。
事件について聞かれることが多い事項
事件についての聴取では、店の利用に至った経緯から、当日の行為、その後のやり取りまでを、時間の流れに沿って尋ねられるのが一般的です。それぞれの供述がどのように争点に結びつくかは、風俗事件の取調べで聞かれること|供述が争点に直結する項目で詳しく扱っています。
利用に至った経緯
店をどうやって知ったか、予約の方法と伝えた名前・電話番号、利用した回数、指名の有無などです。偽名で予約していた場合や、以前から同じキャストを指名していた場合には、その事情も確認されます。
当日の状況
入店や待ち合わせの時刻、部屋に入ってから退室するまでの流れ、交わした会話、行為の内容などを、細かく聞かれることがあります。キャストから同意のない行為を訴えられている場合には、相手がどのような言葉や態度を示し、それを自分がどう受け止めたかが質問の中心になりやすいところです。2023年の刑法改正で設けられた不同意性交等罪・不同意わいせつ罪では、相手が同意しない意思を形成・表明・全うすることが難しい状態にあったかどうかが問題とされるため、当時の状況を具体的に確認される傾向があります。
飲酒の有無や量、体調、料金のやり取り(追加の料金を払ったか、店のルールの説明を受けたか)について尋ねられることもあります。
撮影やスマートフォンの扱い
盗撮を疑われている場合には、撮影の有無、使った機器、データの保存先や他人への送信の有無などを聞かれます。性的姿態撮影等処罰法の撮影罪が問題になる場面では、スマートフォンの中身の確認を求められることもあります。
相手の年齢についての認識
相手が18歳未満だった事件では、年齢をどう認識していたか、店やキャストから年齢の説明があったか、身分証などを確認したか、見た目や会話から気づく事情はなかったか、といった点が尋ねられます。年齢の認識は罪の成否に関わる事項であるため、記憶にあることとないことを区別して答えることが大切です。詳しくは相手が18歳未満だと知らなかった|年齢の確認と認識の評価をご覧ください。
利用後のやり取り
店から金銭を請求されたか、支払ったか、示談書や誓約書を書いたか、キャスト本人と連絡を取ったかなど、その後の経過も確認されます。
店が摘発された場合の参考人聴取
客として呼ばれた場合には、店のサービス内容、料金体系、受付や送迎をしていたスタッフの様子など、店の営業実態を中心に聞かれることが多いです。店側の立件に向けた聴取であっても、話の流れによっては自分の行為に質問が及ぶ可能性がある点は、先に触れたとおりです。摘発時の客の扱いについては利用した風俗・メンエスが摘発された|客も逮捕・事情聴取されるのかで解説しています。
身上について聞かれること
被疑者として呼ばれた場合には、事件とは別に、本人の経歴や生活状況について聞かれ、「身上調書」と呼ばれる書面が作られることがあります。主な項目は次のとおりです。
- 出生地、学歴、職歴、現在の勤務先と仕事の内容。
- 家族構成と同居している家族。
- 収入や資産、借金の有無。
- 前科・前歴の有無。
- 健康状態や通院の状況、飲酒の習慣。
勤務先や家族について聞かれると、会社や家族に連絡されるのではないかと心配になる方は少なくありません。身上の聴取は、処分を決める際に生活の状況を考慮するための確認として行われるもので、聞かれた内容がそのまま勤務先などに伝わるわけではありません。ただ、捜査の必要から関係先に確認が入る可能性がまったくないとは言い切れないため、気になる点は事前に弁護士へ相談しておくと見通しが立てやすくなります。
呼ばれた日までに準備しておきたいこと
警察署に行く前に、次のような準備をしておくと、当日に落ち着いて受け答えしやすくなります。
- 利用した日時、店名、予約の経路、当日の流れを、覚えている範囲で時系列のメモにしておくこと。
- 予約の記録、店やキャストとのメッセージ、支払いの記録などを、消さずにそのまま残しておくこと。
- 覚えていることと、はっきりしないことを、メモの上で分けておくこと。
- 仕事などの都合で指定の日に行けない場合は、早めに連絡して日程を調整すること。
- できれば出頭の前に弁護士に相談し、話す内容の整理と当日の注意点を確認しておくこと。
特に、メッセージや画像の削除には注意が必要です。不安からデータを消してしまうと、自分に有利な事情を示す記録まで失われるうえ、証拠を隠そうとしたと受け取られるおそれもあります。
聴取の場で気をつけたいこと
記憶にないことを推測で埋めない
警察官から「こうだったのではないか」と問われると、話を合わせてしまいたくなることがあります。しかし、推測で答えた内容が調書に残ると、後から記憶違いだったと説明しても受け入れられにくくなります。覚えていないことは、覚えていないと伝えて差し支えありません。
話したくないことは話さなくてよい
被疑者には、自己の意思に反して供述する必要がないことが保障されています(刑事訴訟法198条2項)。すべてを黙秘するか、一部だけ答えるかは、事件の内容や証拠の状況によって有利・不利が分かれるため、事前に弁護士と方針を相談しておくことが望ましいです。考え方は黙秘したほうがよいのか|黙秘の効果とリスクの整理で整理しています。
調書は内容を確認してから署名する
聴取の最後には、警察官が話をまとめた供述調書を読み聞かせ、または閲覧させたうえで、署名・押印を求めます。内容が話したことと違う場合は訂正を申し立てることができ、納得できなければ署名・押印を断ることもできます(刑事訴訟法198条4項・5項。参考人にも同法223条2項で準用)。行為の評価に関わる部分は、言い回しの小さな違いでも丁寧に確認しておきたいところです。詳しくは調書に署名・押印を求められた|訂正を求める権利をご覧ください。
弁護士の同行について
現在の日本の実務では、取調べの場に弁護士が立ち会うことは一般に認められていません。もっとも、弁護士が警察署まで同行して近くで待機し、休憩の際に助言を受けるという形をとることはあります。任意の聴取であれば、途中で弁護士に相談したいと伝えて中断を求めることもできます。詳しくは取調べに弁護人は立ち会えるのかをご覧ください。
聴取の後に起きうること
参考人としての聴取であれば、1回で終わることもあります。被疑者として呼ばれた場合は、追加の聴取を経て、警察から検察庁へ事件が送られ(いわゆる書類送検)、検察官からの呼び出しを受けたうえで、起訴するかどうかが判断されるのが一般的な流れです。逮捕されずに進む在宅事件でも、処分が決まるまでに数か月かかることがあります。
キャストなど被害を申告している方がいる事件では、示談が成立しているかどうかが、検察官の判断の中で考慮されることがあります。加害者とされる側が相手の連絡先を知ることは通常難しいため、示談を検討する場合は弁護士を通じて進めることになります。被害届が出た後の流れは【風俗トラブル】被害届が受理されたと言われた|その後の流れと呼び出しまでの期間で解説しています。
よくあるご質問
警察署に呼ばれたら、その場で逮捕されることはありますか
任意の呼び出しに応じた場合、その日のうちに帰宅できることも少なくありませんが、事案の重さや証拠の状況によっては、聴取の後に逮捕されることもあり得ます。呼び出しを受けた段階で弁護士に相談し、見通しを確認しておくことが考えられます。相談のタイミングについては【刑事事件】警察から電話が来た段階で弁護士に相談する意味もご覧ください。
家族に知られずに警察署に行くことはできますか
任意の聴取であれば、本人が自分で警察署に出向くのが基本で、家族への連絡が前提とされているわけではありません。ただし、警察からの郵便や電話が自宅に届くことや、身柄を拘束された場合には家族が事情を知る場面が出てくることもあるため、状況に応じた備えが必要です。
呼び出しを断るとどうなりますか
任意の出頭要請は、法律上は断ることができます。ただ、被疑者として呼ばれているのに正当な理由なく応じない状態が続くと、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断され、逮捕状の請求につながる場合があります。都合がつかないときは、断るのではなく日程の調整を申し出るのが現実的です。
警察署での聴取は、何を聞かれるかが分からないまま臨むと、不安から事実と違う受け答えをしてしまいやすい場面です。呼ばれた理由と自分の立場を確かめ、当日までに記憶と記録を整理しておくことで、事実に沿った説明がしやすくなります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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