【刑事事件・被害者側】刑事事件と並行して、慰謝料を請求することはできる?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

暴行やけが、性被害、つきまといなどの被害を受け、警察が捜査を始めたり加害者が起訴されたりしている。そうした状況で「刑事事件が終わるまで、慰謝料の話はできないのではないか」と考え、請求を先送りにしている方は少なくありません。結論からお伝えすると、刑事手続と慰謝料の請求は別々の手続であり、刑事事件と並行して慰謝料を求めることはできます。ただし、刑事事件がどの段階にあるかによって使える方法が変わり、進め方によっては後から請求しにくくなる場面もあります。この記事では、被害を受けた方の立場から、並行して請求する方法と注意点を整理します。

本記事は、犯罪の被害を受けた方が加害者に慰謝料などを求める場面を前提に、2026年10月時点の法令に沿って説明しています。罪名や手続の段階によって使える制度が異なるため、個別のご事情は弁護士にご確認ください。


刑事手続と慰謝料の請求は別の手続

 刑事手続は、国が加害者に刑罰を科すかどうかを決める手続です。これに対して慰謝料の請求は、被害を受けた方が加害者に対し、不法行為にもとづく損害賠償(民法709条・710条)を求める民事上の手続です。目的も担い手も異なるため、被害者が刑事事件の終了を待たなければならない決まりはありません。
 一方で、刑事事件の結果は慰謝料の請求に無関係というわけでもありません。有罪判決が出ていれば、加害行為があったことを示す有力な材料になりますし、捜査や公判で作られた記録を民事の証拠として使えることもあります。並行して進めるかどうかは、「待つ利点」と「待つことで失うもの」を比べて決めることになります。

並行して慰謝料を求める4つの方法

 刑事事件と並行して慰謝料を求める方法は、大きく分けて次の4つです。

方法使える主な時期特徴
示談交渉捜査段階から判決前まで加害者側から申入れがあることが多く、金額と条件を話し合いで決める
刑事和解起訴後、刑事裁判の審理中成立した合意を刑事裁判の調書に記載してもらう
損害賠償命令起訴後、第一審の弁論終結まで刑事裁判を担当した裁判所が賠償額を判断する。対象となる罪が限られる
民事訴訟時期の制限なし(時効に注意)罪名を問わず使えるが、時間と費用がかかりやすい


示談交渉

 加害者に弁護人がつくと、処分を軽くするために被害者との示談を求めて連絡が来ることがよくあります。示談金には、慰謝料のほか治療費や休業による損失などを含めて取り決めるのが一般的です。示談書には「加害者を許す」という宥恕(ゆうじょ)条項や、被害届の取下げに関する条項、「これ以外に請求しない」という清算条項が入ることが多く、署名すると後から追加の請求をすることは難しくなります。応じるかどうかを決める前に、加害者側から示談を持ちかけられた|応じる前に確認することもあわせてご覧ください。

刑事和解

 刑事裁判の途中で被告人と被害者の間に損害賠償についての合意ができた場合、両者が共同で申し立てることで、その合意内容を公判調書に記載してもらえる制度です(犯罪被害者保護法19条)。調書に記載された合意には裁判上の和解と同じ効力があり、約束どおりに支払われないときは、それをもとに強制執行を申し立てることができます。分割払いで合意する場合など、支払いが滞る心配があるときに検討の余地がある方法です。

損害賠償命令制度

 一定の罪で起訴された事件について、被害者が刑事裁判を担当している裁判所に申し立てると、有罪判決の後に同じ裁判所が損害賠償について審理する制度です(犯罪被害者保護法23条以下)。申立手数料は請求額にかかわらず2,000円で、審理は原則として4回以内の期日で行われ、刑事事件の記録を証拠として利用できます。
 対象は、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪(傷害など)、不同意わいせつ・不同意性交等、逮捕・監禁、略取・誘拐などに限られます。けがを伴わない暴行、器物損壊、詐欺、名誉毀損、ストーカー規制法違反などは対象外です。また、申立ては第一審の弁論終結までにする必要があり、当事者から異議が出ると通常の民事訴訟に移ります。詳しくは損害賠償命令制度|刑事裁判の中で賠償を求める方法で解説しています。

民事訴訟

 罪名や起訴の有無にかかわらず、刑事事件と同時に慰謝料を求める民事訴訟を起こすことができます。ただし、証拠を被害者側でそろえる必要があるため、刑事裁判の記録が手に入るのを待ってから提起するという判断もあります。被害者は、第一回の公判期日の後であれば、原則として刑事裁判の記録の閲覧・謄写を申し出ることができます(犯罪被害者保護法3条)。

刑事事件の段階ごとに使える手段

 刑事事件の進み具合によって、選べる方法は次のように変わります。

刑事事件の段階主な選択肢
捜査中(逮捕・在宅のいずれも)示談交渉、民事訴訟の提起
起訴された後示談交渉、刑事和解、損害賠償命令の申立て、記録の閲覧・謄写、被害者参加
判決が出た後民事訴訟(損害賠償命令を申し立てていればその審理)
不起訴になった場合民事訴訟、検察審査会への申立て


 起訴された後は、慰謝料の請求とは別に、刑事裁判そのものに関わる手段も増えます。法廷で意見を述べたり被告人に質問したりできる制度については被害者参加制度|法廷でできることとできないことをご覧ください。
 不起訴になった場合でも、民事上の責任がなくなるわけではありません。刑事で求められる立証の水準と民事のそれは異なるため、不起訴でも慰謝料の請求が認められることはあります。この点は不起訴になった後に民事で請求できるのかで、処分そのものに納得できない場合については不起訴に納得できない|検察審査会への申立てで解説しています。

並行して進めるときに気をつけたいこと


時効の期間を確認しておく

 不法行為にもとづく慰謝料の請求権は、損害と加害者を知った時から3年(人の生命・身体を害する不法行為では5年)、または行為の時から20年で時効によって消滅します(民法724条・724条の2)。刑事事件が長引いているうちに期間が近づくこともあるため、刑事の結論を待つ場合でも、時効までの残りの期間は早めに確かめておくと安心です。

示談書の条項が民事の請求を閉じることがある

 示談書に清算条項が入っていると、示談金とは別に慰謝料を求めることは原則としてできなくなります。治療が続いていて後遺症が残るかどうか分からない段階で示談する場合には、将来の損害を清算の対象から外す条項を入れるかどうかも検討が必要です。条項の意味については清算条項の意味|後から追加請求されないためにも参考になります。

加害者と直接やり取りしない

 慰謝料の話し合いをきっかけに、加害者に住所や連絡先を知られてしまうおそれがあります。刑事手続では起訴状などで被害者の氏名や住所を伏せる手続が設けられており、民事訴訟でも住所などを相手方に秘匿する申立てができます。交渉は弁護士を通じて行い、直接のやり取りは避けるのが無難です。

回収の見込みも考えておく

 判決や命令で賠償が認められても、加害者に支払う資力がなければ、実際に受け取るのは容易ではありません。刑事裁判の判決前は、加害者側にも賠償によって誠意を示したいという事情があるため、話し合いで支払いを受けやすい時期でもあります。金額だけでなく、確実に受け取れる方法かどうかも含めて選ぶことが大切です。

被害の内容による違い

 慰謝料の額は、被害の内容や程度、通院の期間、後遺症の有無、加害行為の態様などから個別に判断されます。刑事裁判で科される刑の重さとは別の基準で決まるため、刑が軽かったからといって慰謝料が低くなるとは限りません。交際相手からの暴力であれば恋人から暴力を受けた|暴行罪・傷害罪と慰謝料請求、つきまといの被害であれば【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てで、それぞれ請求できる項目を整理しています。

よくあるご質問


慰謝料を請求すると、加害者の刑に影響しますか

 慰謝料を請求したこと自体が刑を重くするわけではありません。一方で、示談が成立したり賠償が支払われたりすると、加害者にとって有利な事情として処分や量刑で考慮されることがあります。示談に応じるかどうかは、受け取る金額と、処分への影響をどう受け止めるかの両面から考えることになります。

加害者が罪を否認していても請求できますか

 請求すること自体はできます。ただし、加害者が事実を争っている場合は話し合いでの解決が難しく、刑事裁判の結果や記録を見てから民事の手続を選ぶほうが進めやすいこともあります。

示談に応じたら、被害届を取り下げなければなりませんか

 示談の内容によります。取下げを条件にしない示談もあり得るため、条項を確認したうえで、納得できない条件には応じないという選択もできます。

まとめ


  • 刑事手続と慰謝料の請求は別の手続であり、刑事事件と並行して請求できます。
  • 並行して求める方法には、示談交渉・刑事和解・損害賠償命令・民事訴訟があります。
  • 損害賠償命令は対象となる罪が限られ、第一審の弁論終結までに申し立てる必要があります。
  • 示談書の清算条項や時効の期間によって、後から請求できなくなることがあります。
  • 加害者と直接やり取りせず、住所などを知られない形で進めることが大切です。


 刑事事件と並行して慰謝料を求める場合、どの方法をどの時期に選ぶかによって、受け取れる金額や手続の負担が変わることがあります。加害者側から示談の連絡が来ている、刑事裁判の期日が近づいているといった段階でも、まずは状況を整理するところから始めてみてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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