【刑事事件】風俗トラブルの事情聴取で、スマホを提出するよう求められたら?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

この記事は2026年10月時点の法令と実務をもとにしています。2025年に成立した刑事訴訟法の改正(電磁的記録提供命令の創設など)は、2027年3月31日までに段階的に施行される予定であり、施行の時期によって扱いが変わる部分があります。


風俗店やメンズエステの利用をめぐって警察から事情を聞かれた際、「スマホを提出してもらえますか」と求められることがあります。スマホには店とのやり取りや予約の履歴だけでなく、家族や仕事の連絡、写真など生活のほとんどが入っているため、その場で応じるべきか迷う方が多い場面です。

 この記事では、スマホの提出を求められたときに確かめておきたいこと、断った場合や提出した場合にその後どうなるのか、風俗トラブルならではの注意点を整理します。

「提出してほしい」には二つの種類がある

警察がスマホを手元に置く方法は、大きく分けて「任意提出」と「差押え」の二つです。どちらに当たるかによって、断れるかどうかが変わります。

項目任意提出(領置)令状による差押え
根拠刑事訴訟法221条刑事訴訟法218条
裁判官の令状不要必要(捜索差押許可状など)
断れるか断ることができる令状に基づくため拒めない
渡される書面任意提出書への署名を求められ、押収品目録交付書が渡される令状の呈示があり、押収品目録交付書が渡される


 任意提出は、本人が自分の意思で警察に渡し、警察がそれを預かる(領置する)という手続です。あくまで任意ですので、求められても応じる義務はありません。一方、裁判官が発付した令状に基づく差押えであれば、本人の同意がなくてもスマホは持っていかれます。

 事情聴取の場で「提出してほしい」と言われた段階では、多くの場合は任意提出の依頼です。まずは「これは任意のお願いですか、それとも令状がありますか」と確認しておくと、その後の判断がしやすくなります。

任意提出を求められたときに確かめたいこと


自分が参考人なのか、被疑者なのか

風俗店の摘発に伴って客として話を聞かれる場合と、キャストからの被害届を受けて自分が疑いをかけられている場合とでは、スマホの持つ意味が大きく異なります。後者であれば、スマホの中のやり取りがそのまま自分に不利な証拠として使われる可能性があります。立場がはっきりしないときは、遠慮せずに尋ねてかまいません。

何のために、どの範囲を見るのか

特定の日の予約履歴やメッセージを確認したいのか、写真や動画の有無を調べたいのかによって、提出の必要性や範囲は変わります。任意提出の場合、端末ごと預かったうえでデータを複写して解析することが一般的で、目的以外のデータが目に触れることもあり得ます。何を確認したいのかを聞いておくことは、自分の状況を理解するうえでも役に立ちます。

任意提出書と一緒に出される書面

任意提出に応じると、任意提出書への署名・押印を求められます。このとき、「所有権放棄書」への署名もあわせて求められることがあります。所有権を放棄すると、捜査が終わってもスマホは戻らないことになりますので、内容を読み、放棄したくない場合はその旨を伝えることが大切です。

その場で決めないという選択

提出するかどうかを、その場で即答しなければならないわけではありません。「弁護士に相談してから回答したい」と伝えて持ち帰ることもできます。いったん提出すると、後から「やはり返してほしい」と申し出ても、捜査に必要と判断される間は返ってこないのが通常です。

 任意提出に応じる前の確認事項は、【刑事事件】警察に「スマホを任意で出してほしい」と言われた|応じる前に確認することでも解説しています。

断った場合に起きうること

任意提出を断ったこと自体が罪になったり、罰則を受けたりすることはありません。ただし、警察がスマホの内容を確認する必要があると判断すれば、裁判官に令状を請求し、差押えという形でスマホを押収することがあります。その場合、後日自宅に捜索が入るなど、手続がより大がかりになることも考えられます。

 また、提出を断ったことだけで直ちに逮捕されるわけではありませんが、逮捕や勾留の要否は、証拠を隠したり処分したりするおそれがあるかどうかなど、事件全体の事情から判断されます。断るか応じるかは、事件の内容や自分の立場、スマホに何が残っているかによって適切な対応が変わるため、一律に「断ればよい」「出せばよい」とはいえません。

ロック解除やパスコードを求められたら

スマホを提出した後、あるいは差し押さえられた後に、ロックの解除やパスコードの開示を求められることがあります。現行の刑事訴訟法には、捜査機関が差押えの際に端末の操作などの協力を「求めることができる」という規定(刑事訴訟法222条1項が準用する111条の2)はありますが、協力しなかったことへの罰則は定められていません。

 パスコードを伝えることは、黙秘権との関係でも議論がある問題です。顔や指紋による生体認証の扱いを含め、【刑事事件】スマホの解錠を求められた|生体認証と黙秘権の関係で詳しく整理しています。

 なお、冒頭で触れた2025年の法改正により、電子データの提供を命じる「電磁的記録提供命令」という新しい制度が設けられました。施行後は、データの扱いをめぐる実務が変わる可能性がありますので、その時点での運用を確認しながら対応することが必要です。

提出前にデータを消すことは避ける

提出を求められて、店やキャストとのやり取り、写真などを消してしまいたいと考える方もいます。しかし、スマホのデータは削除しても解析で復元されることがあり、消した事実そのものが「証拠を隠そうとした」と受け取られるおそれがあります。その結果、逮捕や勾留が必要と判断されやすくなるなど、かえって不利な方向に働くことが考えられます。

 データの削除がどう評価されるかについては、撮影データを消してしまった|証拠隠滅と復元の実際もあわせてご覧ください。

提出した後の流れ|スマホはいつ返ってくるのか

提出したスマホは、警察がデータの解析を終え、捜査に必要がなくなった時点で返還(還付)されます。返ってくるまでの期間は事件の内容や解析の量によって異なり、数週間で戻る場合もあれば、検察官が起訴・不起訴を決めるまで戻らない場合もあります。

 スマホが手元にない間の生活については、次のような点が問題になりやすいところです。

  • 新しい端末を用意したり、SIMカードを再発行したりすることは一般に可能ですが、事前に担当の警察官に伝えておくと行き違いを防げます。
  • 押収品目録交付書には押収された物が記載されているため、返還を求める際の手がかりとして保管しておきます。
  • 仕事や生活に欠かせない事情がある場合は、仮還付(一時的に返してもらう手続)や還付を求めることができます。
  • 返還に関する警察の対応に不服がある場合は、裁判所に準抗告を申し立てる方法もあります。


 返還の時期や押収された範囲の考え方については、スマホ・PCを押収された|いつ返るのか、中身はどこまで見られるのかや押収品目録交付書から分かること|還付請求の手順で解説しています。

風俗トラブルならではの注意点

風俗トラブルでスマホが問題になるのは、そこに次のような情報が集まっているためです。

  • 店の予約サイトや公式アカウントとのやり取り。
  • キャスト本人や店のスタッフとのメッセージ、通話の履歴。
  • 店から受けた請求や、示談交渉の経過を示す記録。
  • 過去に利用した別の店の履歴や写真。


 このうち、店からの請求の経緯や当日のやり取りは、自分の言い分を裏付ける材料になることもあります。提出する前に、どのような記録が残っているかを自分でも把握し、必要な部分は写しを残しておくと、その後の取調べや示談交渉で事実関係を説明しやすくなります。

 一方で、今回の件とは別の利用履歴が見つかり、捜査の範囲が広がる場合もあります。どのような条件で余罪の捜査に及ぶのかは、【風俗トラブル】押収された端末から過去の利用履歴が出た|余罪捜査が広がる条件をご参照ください。

 また、事情聴取では、スマホの中身を前提に質問が組み立てられることがあります。記憶があいまいなまま、メッセージの文面に合わせて話を作ってしまうと、事実と異なる内容の調書が作られるおそれがあります。取調べの受け方については、「認める調書」を作られないために|風俗トラブルの取調べ対応の注意点で詳しく触れています。

弁護士に相談するとできること

スマホの提出を求められた段階で弁護士に相談すると、提出に応じるかどうかを、事件の見通しを踏まえて判断することができます。弁護士は、提出する場合の範囲や返還の時期について捜査機関とやり取りをしたり、所有権放棄書への署名を避けたりといった調整を行うことができます。

 事情聴取そのものへの弁護士の立会いは、現在の実務では認められないことが多いものの、聴取の前後に助言を受けることは可能です。この点は取調べに弁護人は立ち会えるのかで説明しています。また、キャストからの被害届が出ている事案では、被害者との示談交渉を並行して進めることで、最終的な処分に影響することもあります。

まとめ


  • 事情聴取での「スマホを提出してほしい」は、多くの場合は任意の依頼であり、断ることができます。
  • 令状に基づく差押えであれば拒めないため、任意か令状によるものかをまず確認します。
  • 提出する場合は、任意提出書とあわせて出される所有権放棄書の内容に注意します。
  • 提出前にデータを消すと、復元されたうえで不利に評価されるおそれがあります。
  • スマホが返ってくる時期は事件によって異なり、還付や仮還付を求めることもできます。


 スマホを提出するかどうかは、その後の取調べや示談、処分の見通しにつながる判断です。警察から求められて迷っている段階であれば、回答する前に一度ご相談いただくことで、取れる対応を落ち着いて選ぶことができます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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