やっていないのに本番・わいせつを疑われた|冤罪事件の戦い方
「利用していた店が摘発されたと聞いて数日後、警察から電話がありました。参考人として話を聞かせてほしいという話でしたが、行ったらそのまま自分が調べられるのではないかと不安です」。風俗トラブルのご相談では、このような声を伺うことがあります。一方で、「参考人だと言われたので気にせず何度か話をしに行った。あとから自分の行為について細かく聞かれ、話が違うと感じた」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
インターネット上の解説では、風俗店の摘発で責任を問われるのは営業していた側であり、利用していた方は事情を聞かれる立場にとどまる、と説明されています。この説明そのものは誤りではありません。ただし、それは「店の事件」についての説明です。呼ばれた側が知りたいのは、どこまでが事情を聞かれるだけの話で、どこから自分自身の話に変わるのか、という線の位置のはずです。
この記事では、店の摘発をきっかけに利用者が参考人として呼ばれる場面を取り上げ、立場が入れ替わる分岐点がどこにあるのかを整理します。有利に見せる答え方を扱うものではなく、事実と違う理解のまま手続が進むことを避けるための整理です。
この記事で扱う範囲
次の四つに絞って説明します。
- 摘発の捜査が、そもそも誰の事件として動いているのか。
- 参考人として話を聞かれる立場から、自分自身が対象になる立場へ移る分岐点はどこか。
- その入れ替わりが、手続のどの部分に表れるのか。
- 呼ばれた側として、その場で意識しておきたいこと。
押収された顧客名簿や予約の記録がどう読まれるのか、取調べで具体的に何を聞かれるのか、参考人と被疑者の一般的な違いといった論点は、それぞれ別の解説に譲ります。すでに逮捕や呼出しを受けている場合は、記事の一般論ではなく個別のご相談をご検討ください。
摘発の捜査は誰の事件として動いているのか
風俗店の摘発で捜査の対象になっているのは、店の営業です。無許可や無届の営業、営業の方法、従業員の使い方といった点が調べられ、その立証のために、営業がいつからどのように行われていたかが確かめられていきます。利用していた方は、その事実を知っている立場の人として登場します。
利用者は「被疑者以外の者」として位置づけられる
捜査機関は、捜査に必要があるときに被疑者以外の者へ出頭を求め、取り調べることができるとされています(刑事訴訟法223条1項)。実務でいう参考人はこの立場です。参考人という呼び名は、事件と関係がない人という意味ではなく、その事件の被疑者ではない人という意味にとどまります。だからこそ、同じ人が別の事件では被疑者として扱われることが起こり得ます。
呼び方や連絡の口調では立場は決まらない
電話で「確認したいことがあるだけです」と言われた、呼出しの文面が事務的だった、といった事情から立場を読み取ろうとされる方は少なくありません。しかし、連絡の言い回しは、その時点での捜査機関の見立てを正確に反映しているとは限りません。逆に、口調が厳しかったからといって、対象が自分に移っているとも限りません。判断の材料は、言葉ではなく後述する手続の形のほうにあります。
立場が入れ替わる三つの分岐点
利用者が調べられる側に移るのは、店の事件の中で心証が悪くなったからではありません。客自身を名宛人とする別の事件が立ち上がったときに、立場が入れ替わります。分岐点は、大きく三つに分けて整理できます。
| 分岐の系統 | どこで分かれるか | 主に問題となる評価 |
|---|---|---|
| 利用の中身 | その場での行為が、店の営業とは別に、罰則の名宛人となる行為に当たるか | 相手の年齢、撮影、同意の有無、周囲から見える状態 |
| 営業への関与 | 利用する立場を超えて、営業の一部を担っていたと見られるか | 周旋、場所の提供、資金の提供など |
| 摘発後の行動 | 連絡や依頼が、他人の事件の証拠や犯人に働きかける行為に当たるか | 証拠を隠す行為、犯人をかくまう行為 |
分岐点1 利用の中身そのものが別の罰則に触れている場合
対価を払って性的なサービスを受けたという事実だけでは、利用者に罰則が向けられる仕組みにはなっていません。売春防止法は売春を助長する行為を処罰する組み立てになっており、風営法の規制も名宛人は営業する側です。分岐が生じるのは、同じ一回の利用の中に、別の法律が名宛人として利用者を想定している行為が含まれていた場合です。
相手の年齢
相手が18歳未満であった場合、児童買春として利用者自身が対象になります(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律4条)。対償の供与だけでなく、その供与の約束でも要件を満たすとされています(同法2条2項)。年齢の認識については、確かめなかったこと自体が有利に働くわけではなく、状況によっては認識があったと評価されることがあります。店が年齢を確認していたかどうかは店側の事情であり、利用者の認識の問題とは別に評価されます。
撮影と記録
同意なく性的な姿態を撮影する行為は、それ自体を対象とする法律が置かれています(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条)。店の摘発で押収された記録の中に撮影の痕跡がうかがわれる場合や、端末に保存された画像が話題になった場合には、話の中心が店の営業から利用者自身へ移ることがあります。保存したまま忘れていたという事情も、事後に問題として扱われることがあります。
同意の有無と、周囲から見える状態
サービスの範囲や進め方をめぐって相手が拒む意思を示していたと評価される場合、不同意わいせつや不同意性交等の問題として扱われることがあります(刑法176条、177条)。また、店の作りや客席の配置によっては、行為が周囲から認識できる状態にあったとして、公然わいせつの観点から関係者の関与が問題とされた例も報じられています(刑法174条)。いずれも、店の届出の有無とは別の筋道で立ち上がる論点です。
分岐点2 営業する側に回っていたと見られる場合
もう一つの分岐は、利用する立場から営業を支える立場へ移っていた場合です。売春防止法は、周旋、場所の提供、資金等の提供といった行為に罰則を置いています(売春防止法6条、11条、13条)。これらの規定は、営業者かどうかという肩書ではなく、行った行為の中身によって当てはまりが判断されます。
「手伝った」という距離感
知人を店に紹介して手数料を受け取っていた、自宅や借りている部屋を待機や利用の場所として提供していた、開業や運転資金を出していた、といった関わり方は、利用者としての立場を超えていると評価される余地があります。本人の意識としては人助けや付き合いのつもりでも、外形として営業の一部を担っていたと見られるかどうかで判断されます。摘発された店の関係者が、資金の出所や紹介の経路について供述している場合、その名前が挙がることによって連絡が来ることもあります。
常連であることは分岐点ではない
利用回数が多い、店長と親しい、割引を受けていたといった事情は、それ自体で立場を変えるものではありません。回数の多さは、営業の実態を知る人として話を聞かれる理由にはなりますが、営業への関与とは別の話です。この二つが混同されると、必要以上に不安を抱えたまま聴取に臨むことになります。
分岐点3 摘発の後の行動が新しい問題を作る場合
三つ目は、摘発そのものではなく、その後に取った行動によって生じる分岐です。ここは、本人の意思で避けられる部分でもあります。
店に連絡して記録を消してもらう
名簿から自分の名前を消してほしい、予約の履歴を削除してほしいと店側に依頼する行為は、他人の刑事事件の証拠に働きかける行為として評価される余地があります(刑法104条)。捜査が始まっている段階では、店の記録は店だけのものではなく、事件の証拠として扱われている可能性があるためです。同じ理由から、関係者の逃走や所在を隠すことに関わる行為も、別の条文の問題になります(刑法103条)。
関係者と話を合わせる
摘発の後、店の関係者や他の利用者から連絡が入り、「こう話しておいてほしい」と求められることがあります。求めに応じて事実と異なる説明をした場合、その内容は書面として残り、後から訂正するのに手間がかかります。参考人の段階では供述に宣誓が伴わないため、話した内容そのものに直ちに罰則が及ぶわけではありませんが、証拠を作り出す方向に関わった場合は、先ほどの条文の問題として扱われ得ます。
同じ日に二つの立場になることがある
見落とされやすいのが、立場は一本の線の上を移動するとは限らない、という点です。店の営業について話を聞かれる場面では参考人であり、同じ日の後半に自分自身の行為について聞かれる場面では被疑者である、という状態が起こり得ます。
このとき、作られる書面も分かれます。店の営業について述べた部分と、自分自身の行為について述べた部分とでは、後の手続での使われ方が異なるためです。同じ一日の出来事でも、どちらの事件について話しているのかによって、その話が持つ意味が変わります。話の途中で主語が「店は」から「あなたは」に移ったと感じたときは、その点を確認しておく実益があります。
切り替わりは、言葉より手続の形に表れる
立場が変わったことが宣言されるとは限りません。手続の外形に、次のような変化が現れることがあります。
- 質問の中心が、店の営業の様子から、自分がその場で何をしたかへ移っている。
- 答えたくないことは答えなくてよい、という趣旨の説明が改まって行われた。
- 本籍や家族構成、収入や前科の有無など、事件そのものとは離れた身の上の事柄を詳しく聞かれた。
- 携帯電話や衣類などを預けてほしい、指紋や写真を取らせてほしいと求められた。
- 署名を求められた書面の表題や記載の形式が、それまでのものと変わっている。
これらは一つあれば立場が変わったといえる性質のものではなく、いくつかが重なったときに、扱いが変わりつつある可能性を示す材料になります。どの時点から対象になっていたのかは、捜査機関の内心ではなく、手続の外形から後で判断されるものであり、その場で本人が確定できるものではありません。
どちらの立場でも共通していること
参考人として呼ばれた場合も、身柄を拘束されていない限り、出頭に応じるかどうか、途中で退去するかどうかは本人の意思に委ねられています(刑事訴訟法223条2項、198条1項ただし書)。また、供述が書面にまとめられた場合には、読み聞かせや閲覧を受け、内容に誤りがあれば訂正の申立てをすることができ、署名押印を拒むこともできます(同法223条2項、198条3項から5項まで)。
言い分を述べないことについては、被疑者に対しては告知が定められていますが、参考人については同じ告知の規定が準用されていません(同法198条2項)。ただし、告知の規定がないことと、自分に不利益な供述を強いられない保障そのものがないことは、別の問題です(日本国憲法38条1項)。「参考人には黙秘権がない」という説明を目にすることがありますが、告知の有無の話と保障の有無の話は区別して理解しておくほうが実際的です。
相談を検討する時期
連絡が来た段階では、自分がどちらの立場で呼ばれているのか、本人には判断がつきにくいことがほとんどです。日時、店の名称、どのような聞かれ方をしたか、思い当たる事情があるかを整理したうえで、聴取に行く前に相談しておくと、当日の見通しが立てやすくなります。すでに一度話をした後であっても、内容を振り返って次の対応を考える余地は残ります。
よくあるご質問
参考人として呼ばれた場合、行かないという選択はできますか
身柄を拘束されていない参考人については、出頭は任意とされています。もっとも、応じないことで捜査が終わるわけではなく、証人尋問という別の手続が用いられる場合もあります。行くかどうかだけでなく、行った場合に何を聞かれるかまで含めて検討することをおすすめします。
立場が変わったかどうか、その場で質問してもよいのでしょうか
どの立場で話を聞かれているのかを尋ねること自体は、差し支えのないことです。回答が得られない場合もありますが、質問したという事実が不利益に働く性質のものではありません。
家族や勤務先に連絡が行くことはありますか
参考人としての連絡は、本人の携帯電話に入ることが多いといえます。本人と連絡が取れない場合など、限られた場面では他の連絡先が検討されることもあります。この点は事案によって異なるため、一般化して受け止めないほうがよいところです。
まとめ
- 摘発の捜査は店の営業を対象として動いており、利用者は被疑者以外の者として話を聞かれる立場に置かれる(刑事訴訟法223条1項)。
- 立場が入れ替わるのは心証の問題ではなく、利用者自身を名宛人とする別の事件が立ち上がったときである。
- 第一の分岐は利用の中身で、相手の年齢、撮影、同意の有無、周囲から見える状態が評価の対象になる(児童買春処罰法4条、性的姿態等撮影処罰法2条、刑法176条・177条・174条)。
- 第二の分岐は営業への関与で、紹介、場所の提供、資金の提供といった行為の中身から判断される(売春防止法6条・11条・13条)。
- 第三の分岐は摘発後の行動で、記録の削除を依頼する行為などが別の問題として扱われ得る(刑法104条、103条)。
- 店の件では参考人、自分の件では被疑者という状態が同じ日に生じることがあり、作られる書面も分かれる。
- 出頭や退去の任意性、調書の閲覧と訂正の申立て、署名押印の拒絶は、いずれの立場でも共通して認められている(刑事訴訟法223条2項、198条1項ただし書・3項から5項まで)。
- 告知の規定が準用されていないことと、不利益な供述を強いられない保障がないことは別の問題である(日本国憲法38条1項)。
風俗トラブルでお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。利用していた店が摘発され、警察から連絡が入ったという段階のご相談も含め、状況の整理からお手伝いしています。
参考人として話を聞かれる立場なのか、自分自身のことを聞かれ始めているのか。その線引きは、外から見えている情報だけでは判断が難しい場面が少なくありません。どちらの立場であっても、事実と違う内容が書面として残ることは避けたいところです。判断に迷われている段階でも、お気軽にご相談ください。


