詐欺の疑いで銀行口座が凍結された|解除までの手順

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

銀行から連絡が入り、口座が使えなくなった。引き落としも振込も止まったのに、理由を尋ねても「詐欺への利用が疑われるため」としか説明されない。詐欺に加担した覚えのない方にも起こる事態です。まず押さえておきたいのは、「口座の凍結を解いてもらうこと」と「口座の残高が消えてしまうのを止めること」は別の手続だという点です。前者に期限はありませんが、後者には期限があります。この記事では、凍結を支えている仕組みを整理したうえで、解除までにたどる手順をご説明します。

口座の凍結には二つの根拠がある


 「凍結」は法律上の用語ではなく、実務上の呼び方です。詐欺の疑いによる凍結を支えている根拠は二つあります。
 一つは、犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律、いわゆる振り込め詐欺救済法です。同法3条1項は、捜査機関等から口座の不正な利用に関する情報の提供があることその他の事情を勘案し、犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるときは、金融機関は取引の停止等の措置を適切に講ずるものとする、と定めています。もう一つが、各金融機関の預金規定です。

根拠そこで求められる判断そこから生じること
振り込め詐欺救済法3条1項犯罪利用預金口座等である「疑いがある」と認めるとき取引の停止等の措置(いわゆる凍結)
同法4条1項犯罪利用預金口座等であると「疑うに足りる相当な理由」があると認めるとき預金保険機構への公告の求め(預金等債権の消滅手続の開始)
各金融機関の預金規定法令や公序良俗に反する行為に利用され、またはそのおそれがあると認められる場合など取引の停止、通知による解約


 注目していただきたいのは、入口の段階が「疑いがあると認めるとき」で足りる点です。犯罪への関与が確かめられていることも、名義人の言い分を聞くことも、条文上は前提とされていません。入口が広いのは、被害金が引き出されるのを防ぐという法律の目的によるものです。

身に覚えがなくても凍結されることがある


 凍結のきっかけは、捜査機関から金融機関への情報提供、振込先として指定された被害者からの申出、金融機関自身による取引のモニタリングなどです。いずれも、名義人の関与の有無を確定させたうえで行われるものではありません。
 名義人側の事情も一様ではありません。口座やキャッシュカード、暗証番号を渡した場合のほか、身分証を送ったことをきっかけに知らないうちに口座が開設されていた場合、詐欺の被害に遭った方が「返金のため」と説明されて資金の中継に使われた場合などもあります。
 つまり、「詐欺に関与したかどうか」と「口座が凍結されるかどうか」は、そのまま重なりません

先に動き出す期限は「公告」のほうにある


 凍結の連絡を受けた方が見落としやすいのが、残高に関わる手続です。金融機関が、犯罪利用預金口座等であると疑うに足りる相当な理由があると認めたときは、預金保険機構に対し、預金等債権の消滅手続の開始に係る公告を求めなければならないとされています(同法4条1項)。この判断では、捜査機関等からの情報提供、それに基づく被害状況の調査結果、名義人の所在等の調査結果、取引の状況などが考慮されます。
 公告は預金保険機構のホームページ上で行われ、口座のある金融機関や口座番号、名義人の氏名または名称、対象となる預金等債権の額、権利行使の届出の方法と期間などが掲載されます。この期間は、公告の日の翌日から起算して60日以上とされています(同法5条)。
 そして、期間内に権利行使の届出等がなく、犯罪利用預金口座等でないことも明らかにならなかったときは、対象となる預金等債権は消滅します(同法7条)。消滅した残高は、被害を申告した方への被害回復分配金の原資に充てられます。凍結そのものに期限はなくとも、残高については期限が動いているということです。

届出で止まるのは消滅手続であって、凍結ではない


 期間内に権利行使の届出をすれば、金融機関から預金保険機構へその旨が通知され、消滅手続は終了します。残高が被害者への分配に回ることは、その時点で止まります。
 もっとも、届出は「残高を消させない」ための手続であって、「口座を元どおり使えるようにする」ための手続ではありません。届出をしても凍結が続くことはあり、預金規定に基づいて口座が解約され、残高が別段預金などで管理される扱いになることもあります。預金は残っていても、手元に引き出せる状態には戻っていないわけです。解除を求めるなら、別の働きかけが必要になります。

解除の手続は、法律ではなく預金規定に書かれている


 振り込め詐欺救済法には、いったん講じられた取引の停止等の措置をどう解除するかについての規定は置かれていません。手がかりは、預金規定の側にあります。たとえば三菱UFJ銀行の普通預金規定(2026年4月1日現在)は、預金者から合理的な説明がなされたこと等により、マネー・ローンダリング等への抵触のおそれが解消されたと認められる場合には、銀行は速やかに取引等の制限を解除する旨を定めています。また、口座が解約されて残高がある場合や取引の停止の解除を求める場合には、通帳と届出印鑑を持参して申し出ることとされ、銀行は手続に相当の期間をおき、必要な書類等の提出を求めることがあるとされています。
 あわせて見ておきたいのが、疑いがあるにもかかわらず、正当な理由なく銀行からの確認に応じない場合が、解約の事由として挙げられている点です。連絡を避けることは、状況を改善しないどころか、解約に近づく事情として扱われ得ます。規定は金融機関ごとに異なりますので、ご自身の口座がある銀行の預金規定を確認することが出発点になります。

解除までにたどる手順


 進め方を整理すると、次のようになります。

・金融機関に連絡を取り、どの措置が講じられ、公告の求めが行われているのかを確認する
・預金保険機構の公告を確認し、権利行使の届出の期間が動いているかどうかを把握する
・期間内であれば、残高が消滅することを避けるため、権利行使の届出を行う
・口座の利用状況と入金の原因を説明する資料をそろえ、金融機関に提出して解除を申し入れる
・捜査機関からの情報提供が発端である場合には、捜査機関に対しても経緯を説明する
・解除に至らない場合やすでに解約されている場合には、残高の受け取りや法的手続を検討する

 順番が入れ替わることも、並行して進むこともありますが、期間が定められているのは権利行使の届出であり、この一点は後回しにできません。

説明の中身をどう組み立てるか


 伝えるべき内容には、法律の側にヒントがあります。同法25条1項は、預金等債権が消滅した後の請求について、届出を行わなかったことについてのやむを得ない事情その他の事情、口座の利用の状況、その口座への主要な入金の原因について必要な説明が行われたこと等により、犯罪利用預金口座等でないことについて相当な理由があると認められる場合を要件としています。
 裏を返せば、「その口座を何に使ってきたのか」と「入ってきたお金がどこから来たのか」が判断の中心に置かれているということです。給与や年金の受取、事業の売上など口座の性格が分かる資料、取引相手との契約書や請求書、残っているメッセージが説明の支えになります。関与していないという主張だけでは判断材料が増えません。入金一件ごとの原因を跡づけられる形にすることが求められます。

期間を過ぎてしまった場合と、訴訟という選択肢


 公告に気づかないまま期間が過ぎ、預金等債権が消滅してしまうこともあります。その場合でも、名義人等には、同法25条1項に基づき、消滅した額に相当する額の支払を金融機関に請求できる余地が残されています。
 また、被害に係る財産以外の財産による入金が行われていたときは、消滅した額から、その入金以外のすべての入金の合計額を差し引いた額の支払を請求できるとする定めもあります(同条2項)。事業用の口座など、被害金以外の入出金が大きい口座で意味を持つ規定です。
 訴訟には二つの側面があります。払戻しの訴えが提起されている場合や強制執行等が行われている場合には、そもそも公告の求めの規定が適用されません(同法4条2項1号)。他方で、訴訟では口座が犯罪利用預金口座等ではないことを名義人の側で示す必要があり、裁判例でも簡単に認められてきたわけではありません。費用と時間の負担も生じるため、交渉での解決可能性と見比べて判断する事柄です。

他の銀行にも広がる理由と、2027年4月に始まる情報共有


 一つの口座の凍結をきっかけに、他の銀行の口座まで使えなくなったり、新たな開設を断られたりすることがあります。これは偶然ではありません。振り込め詐欺救済法は、資金を移転する目的で利用された疑いがある他の金融機関の口座があると認めるときは、その金融機関に必要な情報を提供するものとする、と定めています(同法3条2項)。預金保険機構の公告も誰でも閲覧できる形で行われるため、名義人の情報は事実上、他行からも参照し得る状態に置かれます。
 この流れは制度としても強化されようとしています。金融庁は2026年、犯罪による収益の移転防止に関する法律の施行規則および監督指針を改正し、預金取扱金融機関に対し、犯罪等に利用されたと認めた口座の情報を他の金融機関へ提供することなどを、努力義務として定めました。施行は2027年4月1日の予定で、情報共有システムは全国銀行協会の子会社である株式会社マネー・ローンダリング対策共同機構が2027年3月までに構築し、同年4月から稼働する予定とされています。
 一つの口座の問題が他の口座に及びやすい状況は、今後さらに明確になっていく見込みです

刑事責任が並行して問題になる場合


 口座を第三者に渡していた場合には、凍結とは別に刑事責任が問題になることがあります。犯罪による収益の移転防止に関する法律は、預貯金通帳やキャッシュカード、引出し・振込みに必要な情報の譲渡等を処罰の対象としており、2026年7月10日施行の改正で法定刑が引き上げられました。事情を知りながら提供していたと評価されれば、詐欺罪の共犯として扱われる可能性もあります。凍結の解除に向けた説明と刑事手続での説明は内容が重なり合いますので、どちらか一方だけを見て話を進めることは避けたほうがよい場面です。

いま避けたい行動と、進めておきたい準備


 状況を悪くしやすいのは、次の行動です。

・金融機関からの連絡や確認を無視する
・公告の期間を確認しないまま様子を見る
・凍結される前に残高を他の口座へ移そうとする
・口座を渡した相手や、指示をしてきた相手に対応を相談する
・やり取りの記録や取引の資料を削除する

 反対に、早い段階で進めておきたいのは次の準備です。

・金融機関からの通知や書面をそのまま保管する
・口座の入出金の履歴を取り寄せ、入金の原因を一件ずつ整理する
・相手方とのメッセージや契約に関する資料をそろえる
・給与の受取や引き落としについて、当面の代替手段を確保する

おわりに


 詐欺の疑いによる口座の凍結は、関与の有無が確定する前の段階で始まります。そのため名義人の側からは理由が見えにくく、何を、どこに、いつまでに伝えればよいのかが分かりにくくなっています。動いているのは、残高に関わる公告の期間と、解除に向けた金融機関とのやり取り、そして事案によっては刑事手続という、性質の異なる流れです。どこから手を付けるべきかは、口座の使われ方や措置の段階によって変わります。当事務所では初回のご相談を無料でお受けしており、受付は24時間対応しています。進め方を整理したい方は、早めにご相談ください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼