被害者が複数いる|弁償の順序と原資の作り方
「相手は18歳以上だと思っていた」「本人がそう言っていた」。18歳未満の相手との関係が問題になった場面で、最も多く語られる言い分です。しかし、この説明がそのまま通るかどうかは、法律ごとに評価の枠組みが異なり、また「知らなかったこと」と「逮捕されないこと」も同じではありません。この記事では、年齢の確認としてどのようなことが評価されるのか、そして年齢についての認識が捜査や裁判でどう判断されるのかを整理します。なお本稿は、責任を免れるための説明の組み立て方を示すものではありません。18歳未満の相手との性的な関わりは、相手の側に被害が生じる行為であり、法律はその保護のために設けられています。
「知らなかった」と「逮捕されない」は別の問題
最初に押さえておきたいのは、故意の有無と、身柄を拘束されるかどうかは、別々に判断されるという点です。
児童買春罪をはじめ、この分野の多くの罪は故意犯です。相手が18歳未満であるという認識がまったくなかったのであれば、犯罪は成立しません。しかし捜査機関は、当事者の内心を直接見ることはできません。捜査は、ホテルの出入り、SNSのやり取り、相手の申告といった外側から見える事情をもとに始まります。
逮捕するかどうかは、犯罪の嫌疑があること(刑事訴訟法199条)に加えて、証拠を隠されるおそれや逃亡のおそれがあるかどうか(刑事訴訟規則143条の3)で判断されます。つまり「自分には故意がなかった」という事情は、それだけで逮捕を止める要素にはならないということです。
「知らなかったのだから放っておけばよい」と考えて何もしないまま、突然の呼び出しや逮捕という形で事態が動くことがあります。事実関係に不安がある段階で、記録の保存や説明の準備を整えておくことには意味があります。
年齢の認識は、法律ごとに評価のされ方が違う
「知らなかった」がどこまで効くかは、適用される法律によって変わります。おおまかには次のとおりです。
| 法律 | 年齢のライン | 「知らなかった」の扱い |
|---|---|---|
| 児童買春・児童ポルノ禁止法4条 | 18歳未満 | 故意犯。ただし「18歳未満かもしれない」と思いながら行為に及べば故意が認められ得る |
| 青少年健全育成条例(都道府県ごと) | 18歳未満 | 年齢を知らないことを理由に処罰を免れないとしたうえで、過失がないときは除くとする規定を置く条例が多い |
| 刑法176条3項・177条3項 | 16歳未満(13歳以上は5歳以上年長の場合) | 故意犯。相手の同意があっても成立し得る |
| 児童福祉法34条1項6号 | 18歳未満 | 故意犯。事実上の影響力を及ぼして淫行を助長・促進したかで判断される |
注意したいのは、条例には「過失があれば処罰され得る」構造のものがあるという点です。年齢を知らないことに落ち度があった場合まで処罰の対象に含める規定で、東京都の条例にも神奈川県の条例にも同旨の定めがあります。児童買春罪では故意がないとされた事案でも、条例違反として扱われる可能性が残るのはこのためです。条文は自治体ごとに異なるため、どの地域の話かによって結論が変わり得ます。
なお、児童買春・児童ポルノ禁止法9条にも年齢の不知に関する規定がありますが、これは「児童を使用する者」を対象とした条文で、児童買春罪そのものには適用されません。この点を取り違えて説明している情報も見かけますので、条文の対象範囲は確認しておく必要があります。
実務で分かれ目になるのは「未必の故意」
故意は、「18歳未満だと確実に知っていた」場合に限られません。「18歳未満かもしれない、それでもかまわない」という程度の認識でも故意(未必の故意)が認められます。
そのため、実際の争点は「知っていたか、知らなかったか」ではなく、「疑いを持ってしかるべき事情があったのに、そのまま進めたのか」に置かれます。捜査機関も裁判所も、相手の外見や言動、出会いの経緯、やり取りの内容、行動の時間帯といった客観的な事情を積み上げて、その時点でどう考えていたはずかを判断します。
ここで誤解されやすい点をひとつ挙げます。年齢を確かめなかったほうが有利になる、ということはありません。確認しなかったこと自体が、疑いを持ちながら踏み込んだ事情として評価され得ますし、条例のように過失を問う規定では、確認を怠ったことが正面から責任の根拠になります。「聞かなければ知らないままでいられる」という発想は、法律上まったく機能しません。
何が「年齢の確認」として評価されるのか
では、どこまでやれば「確認した」といえるのか。実務の感覚として、評価が分かれる典型を整理します。
確認として評価されにくいもの
- 本人が「18歳以上」と口頭で言っただけ
- SNSやプロフィール欄に記載された年齢
- 見た目、化粧、服装から受けた印象
- お酒を飲んでいた、たばこを吸っていた
- 「働いている」「一人暮らし」と話していた
- 相手が「大丈夫だから」と言っていた
いずれも、相手がその気になれば簡単に作れる外形です。自己申告や印象だけを根拠にしていた場合、確認したとは評価されにくいのが実情です。
一定の意味を持ち得るもの
- 公的な身分証の券面を実際に見て、生年月日を確かめた
- その確認をした事実が記録として残っている
- 年齢が確かめられなかった時点で関係を持たなかった
もっとも、身分証を見たという事情があれば当然に責任を免れる、というものでもありません。相手が他人名義の証明書や偽造された証明書を示していた場合には、過失の有無が問題になり得ますが、その場合でも、他に疑うべき事情があったかどうかと合わせて総合的に判断されます。
アプリやサイトの年齢確認は「自分が確認したこと」にはならない
見落とされがちなのがこの点です。出会い系サイト規制法は、インターネット異性紹介事業者に対して、利用者が18歳未満でないことを確認する義務を課しています。確認の方法は、運転免許証など年齢を証する書面の提示や画像送信、マイナンバーカードによる生年月日情報の送信、クレジットカードなど児童が通常利用できない支払方法への同意といったものです。
ただし、これは事業者に課された義務であって、利用者個人が年齢を確認したことにはなりません。さらに、この義務が及ぶのは「インターネット異性紹介事業」に当たるサービスであり、一般的なSNSや、異性紹介を目的としないアプリには適用されません。「アプリに登録できていたのだから18歳以上のはずだ」という説明が、そのまま通るとは限らないということです。
風俗店を介した場合も同じ構造です。風営法は、営業者に対して18歳未満の者を客に接する業務に従事させることを禁じています。届出のある店を通常の方法で利用したという事情は、年齢についての判断材料のひとつにはなり得ますが、店側の義務が守られていたかどうかと、利用者本人の認識は別の問題です。店を通したから安全、とはいえません。
疑うきっかけがあったかどうか
最終的に効いてくるのは、年齢を疑うべき事情があったかという点です。平日の昼間に自由に動いていた、通学や制服の話が出ていた、帰宅時間を気にしていた、保護者や学校の話題が出ていた、同年代の交友関係だけが見えていた。こうした事情が残っていれば、「18歳以上だと信じていた」という説明は通りにくくなります。
認識は「そのとき何を言ったか」ではなく記録から判断される
年齢についての認識は、本人の説明だけで決まるものではありません。メッセージのやり取り、写真、位置情報、アプリの登録内容といった記録が、あとから捜査に現れます。自分の端末から消しても、相手の端末やサービス側に残っていることがあり、削除した事実そのものが確認されることもあります。
ここから導かれる注意点は明確です。記録を消すこと、相手や保護者に直接連絡を取ること、内容の異なる説明をすり合わせることは、いずれも証拠隠滅と受け取られ、身柄拘束の理由になり得ます。有利に働き得る記録まで一緒に失う点でも、消すことに利益はありません。
連絡が来たとき、不安が続いているときにできること
- やり取りや記録をそのままの形で保存する。編集や削除はしない
- 相手本人やその保護者に直接連絡しない。窓口は代理人を通すのが前提になる
- 時系列を自分で整理しておく。出会いの経緯、日時、場所、確認したこと
- 取調べを受ける前に弁護士に相談する。供述はあとから動かしにくい
- 在宅で捜査が進む場合でも、呼び出しを無視しない
なお、これらの罪は親告罪ではないため、当事者間で話がついたからといって、それだけで手続きが終わるわけではありません。被害を受けた側は未成年者であり、対応には慎重さが求められます。具体的な進め方は事案によって大きく異なりますので、個別に確認してください。
確認できない相手とは関係を持たない、という結論
ここまで見てきたとおり、「知らなかった」という説明が単独で機能する場面は限られています。故意が否定されても条例違反が残る構造があり、確認を怠ったこと自体が評価の対象になり、認識は事後の記録から推認されます。
結局のところ、確実な方法はひとつしかありません。年齢を確かめられない相手とは、関係を持たないことです。
これらの法律が守ろうとしているのは、18歳未満の子どもの心身の健全な成長です。18歳未満の相手が関わる事案では、相手の側にも保護と支援が必要な状態が生じています。年齢を確かめなかったことの結果は、自分の刑事責任だけにとどまりません。すでに事態が動いてしまっている場合には、早い段階で弁護士に事実関係を伝え、そのうえで取るべき対応を検討することをおすすめします。


