【刑事事件・被害者側】示談に応じると、加害者の処分はどう変わる?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

本記事は、刑事事件の被害に遭われた方が、加害者側から示談の申入れを受けた場面を想定し、2026年10月時点の法令に基づいて解説しています。実際の処分は、事件の内容や手続の段階によって異なります。


加害者の弁護人から「示談のお願い」という連絡が届くと、多くの被害者の方が「示談に応じたら、相手は罰を受けずに済んでしまうのか」「応じなかったら、自分に何か不利益があるのか」と迷われます。示談は、加害者の処分に影響することがある一方で、示談をしたからといって処分が自動的に決まるものではありません。

 この記事では、示談に応じた場合に加害者の処分がどう変わり得るのかを、示談の中身と手続の段階に分けて整理します。被害者の方が、応じるかどうか、応じるならどのような内容にするかを考える際の材料としてお読みください。

処分を決めるのは検察官と裁判所であり、示談はその判断材料の一つ

刑事事件の示談は、法律上は加害者と被害者の間で結ぶ民事上の合意(和解)です。加害者の刑事処分を決めるのは、起訴・不起訴の段階では検察官、裁判になれば裁判所であり、被害者と加害者の合意で処分そのものを決めることはできません。

 それでも示談が処分に影響するのは、検察官が起訴するかどうかを判断する際に、犯罪後の情況も考慮できるとされているためです(刑事訴訟法248条)。示談が成立していると、主に次の2つの点が評価されます。

  • 被害の弁償を受け、被害が金銭的にある程度回復していること。
  • 被害者が加害者の処罰を強く求めていない、または許していること。


 つまり、示談は「処分を軽くする約束」ではなく、処分を決める側に伝わる事情の一つです。どの程度重く見られるかは、事件の種類や悪質さ、加害者の前科の有無などによって変わります。

示談の中身によって、処分への伝わり方は変わる

「示談に応じる」と一口に言っても、合意の中身にはいくつかの段階があります。被害者がどこまで受け入れるかによって、処分を決める側への伝わり方が変わります。

合意の中身処分を決める側への伝わり方
被害弁償を受け取るだけで、許すとは書かない被害が回復した点は考慮されますが、処罰を求める気持ちは残っているものとして扱われます。
示談書に宥恕(処罰を望まない)の文言を入れる被害回復に加えて、被害者自身の意思として処罰の必要性が下がったと評価される材料になります。
示談とあわせて被害届を取り下げる処罰を望まない意思の表れとして扱われますが、取下げだけで捜査が終わるとは限りません。
親告罪について、起訴前に告訴を取り消す検察官はその事件を起訴できなくなります。取り消した後に同じ事件で改めて告訴することはできません。


「許す」と書くかどうかは被害者が選べる

示談書の「宥恕(ゆうじょ)」とは、加害者を許し、刑事処罰を望まないという意思を示す文言です。加害者側が用意する示談書には、この文言が入っていることが少なくありません。

 しかし、被害弁償は受けるが許すとまでは書きたくない、という選択も可能です。宥恕の文言を外せば、処分への影響は小さくなる傾向がありますが、被害者の気持ちと異なる書面に署名する必要はありません。宥恕の意味については宥恕文言の意味|「許す」と書かれると刑事処分はどう変わるかでも解説しています。

親告罪かどうかで、告訴の取消しの重みが違う

名誉毀損罪、侮辱罪、器物損壊罪、過失傷害罪、私事性的画像記録の提供等の罪など、告訴がなければ起訴できない罪を親告罪といいます。親告罪では、起訴される前に告訴が取り消されると、検察官は起訴できません(刑事訴訟法237条1項)。また、一度取り消すと同じ事件について再び告訴することはできません(同条2項)。

 これに対し、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪、暴行罪、傷害罪、窃盗罪などは親告罪ではありません。これらの罪では、被害届を取り下げても、検察官が事件の内容をふまえて起訴することがあります。取下げや取消しの書き方は被害届の取下げ・告訴の取消をどう書くかにまとめています。

どの段階で応じるかによって、影響の出方が変わる

示談が処分にどう反映されるかは、事件が手続のどの段階にあるかによっても変わります。

警察に届け出る前、または捜査の初期

被害届を出す前に示談が成立し、被害者が届け出ないことにすれば、事件として扱われないまま終わることがあります。ただし、親告罪でない事件では、警察がすでに事件を把握していれば、示談があっても捜査が進むことがあります。

加害者が逮捕・勾留されている段階

勾留は、証拠を隠したり逃げたりするおそれがあるかどうかなどをもとに判断されます。示談が成立し、被害者への働きかけのおそれが低いと見られると、勾留が続く必要性が低いと判断され、釈放につながることがあります。もっとも、釈放は事件の終わりを意味するものではなく、処分が決まるまで捜査は続きます。

検察官が起訴・不起訴を決める前

示談が処分に最も影響しやすいのはこの段階です。比較的軽い事件で、被害回復と宥恕がそろっている場合には、起訴を見送る判断(起訴猶予)がされることがあります。不起訴にはいくつかの種類があり、その違いは不起訴の3類型はどう違うのか|どれを目指すべきかで整理しています。

起訴された後

起訴された後に示談が成立しても、裁判が取りやめになることは基本的にありません。親告罪であっても、起訴後に告訴を取り消すことはできないとされています。この段階の示談は、裁判所が刑の重さを決める際の事情として考慮され、刑が軽くなったり、執行猶予が付く方向に働いたりすることがあります。なお、有罪となれば、執行猶予付きの判決や罰金であっても前科として扱われます。

示談が成立しても、処分が大きく変わらない場面

示談は加害者に有利な事情として扱われることが多いものの、次のような場合には、示談があっても起訴されたり、相応の刑が言い渡されたりすることがあります。

  • 被害が重い事件や、手口が悪質で計画的な事件。
  • 加害者に同種の前科があり、繰り返しのおそれがあると見られる事件。
  • 被害者が複数いて、一部の被害者としか示談ができていない事件。
  • 社会全体の利益を害する罪など、個人の被害回復だけでは処罰の必要性が下がりにくい事件。


 加害者の弁護人が「示談すれば不起訴になる」と説明してきたとしても、それは見通しの一つにすぎません。被害者の側も、示談がそのまま処分の結果を約束するものではないことを理解したうえで判断することが大切です。詳しくは示談が成立しても処分が残る場合|示談=不起訴ではない理由でも触れています。

応じる前に、被害者側で確かめておきたいこと

示談は一度成立すると、後から内容を変えることが難しい合意です。署名する前に、少なくとも次の点を確認しておくと安心です。

  • 宥恕の文言や被害届取下げの約束が、自分の気持ちと合っているか。
  • 示談金の額が、治療費・休業損害・慰謝料などの損害に見合っているか。
  • 清算条項によって、示談書に書かれていない損害を後から請求できなくなる範囲。
  • 分割払いの場合、支払いが滞ったときの取決めと、宥恕の文言を出す時期。
  • 接触禁止や口外禁止など、今後の安全や生活を守るための約束。
  • 自分の氏名・住所・連絡先が、加害者本人に伝わらない形になっているか。


 特に分割払いでは、宥恕を先に示したのに支払いが途中で止まる、ということが起こり得ます。期限の利益喪失条項などで備える方法は分割払いの示談書|期限の利益喪失条項と公正証書で解説しています。申入れを受けたときの確認事項全体については、加害者側から示談を持ちかけられた|応じる前に確認することもあわせてご覧ください。

示談に応じないという選択もある

示談に応じるかどうかは、被害者が自由に決められます。応じなかったことで、被害者が法的に不利な扱いを受けることはありません。

 示談をしない場合でも、損害の賠償を求める道は残ります。民事の請求のほか、一定の罪については刑事裁判の手続の中で賠償を求める制度があります(損害賠償命令制度|刑事裁判の中で賠償を求める方法)。また、裁判で被害についての気持ちを述べる心情等の意見陳述や、一定の事件で法廷に参加する制度もあります(被害者参加制度|法廷でできることとできないこと)。

 加害者が不起訴になった場合でも、民事で賠償を求めることはできます。その場合の考え方は不起訴になった後に民事で請求できるのかで解説しています。

よくあるご質問


加害者側から被害弁償のお金を受け取ったら、許したことになりますか

お金を受け取ることと、加害者を許すことは別の問題です。宥恕の文言がある書面に署名しなければ、被害弁償を受けたという事実が考慮されるにとどまります。ただし、受け取る際の書面に何が書かれているかは必ず確認してください。

一度示談して許した後、やはり処罰を求めたくなった場合はどうなりますか

示談で示した宥恕を後から撤回することは、簡単ではありません。撤回の意思を検察官に伝えること自体はできますが、処分にどう反映されるかは事情によります。詳しくは示談が成立した後に被害者が処罰を求めた|宥恕の撤回はできるのかをご覧ください。

加害者本人や家族と直接やり取りしなければなりませんか

その必要はありません。刑事事件の示談は、加害者の弁護人を通じて進めるのが一般的で、被害者の方も弁護士に窓口を任せることができます。連絡先を弁護人限りとする条件を付けて応じることもできます。

納得できる形で判断するために

示談に応じると、加害者の処分は軽くなる方向に動くことがありますが、その程度は示談の中身、手続の段階、事件の内容によって大きく異なります。被害者の方が、自分の気持ちと生活の安全を守れる内容になっているかを確かめたうえで判断できるよう、早めに見通しを整理しておくことが役に立ちます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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