実名報道は避けられるのか|報道の判断と弁護人ができること
事件そのものが終わっても、生活はそこから続きます。処分が確定したあとに寄せられるご相談は、「仕事を続けられるのか」「部屋を借りられるのか」「海外に行けるのか」という三つに集まります。
この記事では、前科がついた場合について、法律上の制限として条文で決まっていることと、相手が知ったときにどう扱われるかという事実上の問題を分けて整理します。この二つを混ぜて考えると、条文上は何の制限もない場面まで諦めてしまったり、逆に期限や時間のかかる手続を取りこぼしたりすることがあるためです。
法律上の制限と、事実上の不利益を分ける
前科とは、有罪の裁判が確定した経歴をいいます。略式命令による罰金も、執行猶予付きの判決も、有罪が確定している以上は前科として扱われます。
もっとも、前科があることによって法律上当然に制限されるものは、条文で定められた場面に限られます。一定の資格の欠格事由、拘禁刑以上の刑を受けた公務員の失職、旅券の発給に関する規定などです。
これに対して、就職や住まいの場面で実際に問題になりやすいのは、法律上の制限ではなく、相手方が事情を知ったときにどう判断するかという事実上の評価です。こちらは、事件の内容や時間の経過、報道の有無によって結論が変わります。以下、場面ごとに見ていきます。
就職・仕事はどうなるのか
いま勤めている会社を辞めなければならないのか
有罪判決を受けたこと自体によって、雇用契約が当然に終わるわけではありません。拘禁刑以上の刑を受けた公務員のように、法律で失職が定められている場合は別ですが、民間企業では就業規則の解釈の問題になります。
この点について、裁判所は慎重な枠組みを取ってきました。最高裁判所昭和45年7月28日判決(横浜ゴム事件)は、住居侵入により罰金2,500円に処せられた従業員の懲戒解雇について、行為が私生活の範囲内で行われたこと、刑が軽微にとどまったこと、職務上の地位が指導的なものでなかったことなどを勘案し、会社の体面を著しく汚したとまで評価するのは当たらないとしました。最高裁判所昭和49年3月15日判決(日本鋼管事件)も、私生活上の行為が懲戒の対象となるのは、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合であるという考え方を示しています。
つまり、事件の内容、刑の重さ、職務との関連性、社内での地位、報道の有無などを総合して判断されるということです。会社から退職を促されている段階であれば、退職届を出す前に、就業規則の懲戒事由と退職に関する条項を確認することをおすすめします。いったん自分から退職の意思を示すと、後から争える範囲は狭くなります。
採用の場面で自分から申告する義務はあるか
履歴書に賞罰欄がある場合の扱いについて、仙台地方裁判所昭和60年9月19日判決は、賞罰欄の「罰」は確定した有罪判決を意味し、使用者から格別の言及がない限り、起訴猶予などの前歴まで記載する義務はないという趣旨の判断をしています。
尋ねられてもいないのに自分から申告する義務は、通常はありません。他方で、尋ねられたうえで事実と異なる回答をすれば、経歴詐称として後から問題になり得ます。なお、名古屋地方裁判所昭和56年7月10日判決は、18年前の犯罪歴を理由とする懲戒解雇を無効としており、時間の経過も判断要素とされています。
就労を支える公的な仕組み
法務省と厚生労働省は、平成18年度から「刑務所出所者等総合的就労支援対策」を実施しています。矯正施設、保護観察所、ハローワークが連携し、職業相談や職業紹介、事業主との面接などを行う仕組みです。
また、犯罪や非行をした人の事情を理解したうえで雇用する事業主を「協力雇用主」といい、保護観察所への登録制で全国に置かれています。就労時の身元保証人を確保できない場合に備え、雇用主に業務上の損害が生じたときに一定の上限の範囲で見舞金が支払われる身元保証制度も用意されています。
ただし、これらは主に矯正施設を出た人や保護観察の対象になっている人を想定した制度です。罰金だけで手続が終わった場合や、身体の拘束を受けずに在宅のまま進んだ場合は、対象になりにくいのが実情です。その場合は、一般の求人ルートで動くことになります。
住まいは借りられるのか
入居審査で前科が調べられることはあるのか
前科の情報は検察庁と本籍地の市区町村で管理されていますが、いずれも一般に公開されていません。最高裁判所昭和56年4月14日判決は、前科等は人の名誉や信用に直接かかわる事項であり、みだりに公開されないという法律上保護に値する利益があるとしています。貸主や不動産会社、家賃債務保証会社が公的な方法で前科を調べる手段は、通常はありません。
入居審査で実際に見られているのは、収入とその安定性、勤務先、連帯保証人の有無、家賃債務保証会社の審査結果です。保証会社が参照する信用情報には、犯罪歴は登録されていません。
注意が必要なのは、実名で報道された事件です。氏名で検索して事件が出てくる状態であれば、審査の過程で知られる可能性は残ります。
申告義務と、あとから知られた場合
賃貸借契約の申込みにあたり、聞かれていない前科を自分から告げなければならないという法律上の義務は、通常はありません。一方で、勤務先や収入について事実と異なる申告をすれば、それ自体が契約上の問題になります。
契約後に前科が判明したとしても、それだけで直ちに契約を解除できるわけではありません。賃貸借契約の解除は、当事者間の信頼関係が破壊されたといえるかどうかで判断されるのが原則だからです。ただし、契約書に置かれている反社会的勢力の排除条項に関する表明保証に反する場合は、その条項に沿った解除が問題になります。
住まいが確保できないときに使える仕組み
更生保護法85条は「更生緊急保護」を定めています。身体の拘束を解かれた人のうち、親族からの援助や公的機関からの保護を受けられない場合に、保護観察所が宿泊場所の供与や金品の給与・貸与、帰住の援助などを行うものです。
対象には、刑務所を満期で出た人だけでなく、保護観察の付かない執行猶予を受けた人、起訴猶予となった人、罰金または科料の言渡しを受けた人なども含まれます(同条1項)。本人の申出があり、保護観察所の長が必要と認めたときに行われ(86条1項)、期間は身体の拘束を解かれた後、原則として6か月を超えない範囲とされています(85条4項。必要が認められる場合の延長の定めもあります)。
宿泊場所としては、全国の更生保護施設や、あらかじめ保護観察所に登録された民間法人などが運営する自立準備ホームが使われています。いずれも一時的な居住支援であり、その間に自立の準備を進めることが前提です。なお、身体の拘束を受けなかった方は、この制度の対象にはなりません。
このほか、住宅セーフティネット法に基づいて都道府県が指定する居住支援法人が、住まい探しの相談、家賃債務保証、入居後の見守りなどを行っています。同法の改正法は令和7年10月1日に施行され、見守りと福祉サービスへのつなぎを行う「居住サポート住宅」の仕組みが設けられました。公営住宅の入居資格は収入や住宅に困っている事情によって判断され、前科があること自体は資格要件として掲げられていないのが通例です。
保護観察がついている場合の住まいのルール
保護観察付きの執行猶予や仮釈放の場合、更生保護法50条1項は一般遵守事項として、住居を定めて保護観察所の長に届け出ること、届け出た住居に居住すること、転居または7日以上の旅行をするときはあらかじめ保護観察所の長の許可を受けることを定めています。引っ越しには事前の手続が必要になりますので、部屋を決める前に担当者へ相談してください。
海外渡航はできるのか
海外渡航の問題は、日本から出られるかと相手国に入れるかの二つに分かれます。混同されやすいところですが、判断する主体も基準もまったく別です。
日本のパスポート(旅券法13条)
旅券法13条1項3号は、拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで、または執行を受けることがなくなるまでの者について、一般旅券の発給をしないことが「できる」と定めています。裁量を認める規定であって、該当すれば必ず発給されないという趣旨ではありません。執行猶予中の方も、文言上はこれに当たり得ます。
一般旅券発給申請書には「刑罰等関係」欄があり、外国で入国拒否・退去命令・処罰を受けたことがあるか、現在日本の法令により起訴されて判決確定前か、現在仮釈放・刑の執行停止・執行猶予の処分を受けているか、旅券法違反で有罪判決が確定したことがあるかなど、六つの質問が置かれています。ここで問われているのは、外国での処分歴と旅券に関する犯罪、そして現在の状態が中心です。
いずれかに該当する場合は、通常の申請書類に加えて「渡航事情説明書」と、判決謄本などの資料を提出することになります。申請できる窓口が都道府県内の一か所に限られていることが多く、外務省の審査に1か月から2か月程度かかるとされています。該当するにもかかわらず「いいえ」と記載した場合は、旅券法23条1項による処罰の対象になります。
執行猶予の期間が経過すれば、3号による制約は外れます。罰金を納め終えている場合も同号には当たりません。
相手国に入れるか(ビザ・入国審査)
入国を認めるかどうかは、相手国の当局が判断します。日本の「前科」「前歴」の区別が、そのまま通用するわけではありません。
たとえば在日米国大使館は、逮捕歴がある場合はビザなしで渡米することはできず、渡米資格を判断するためにビザの申請が必要だと説明しています。申請の際には判決謄本や裁判記録など犯罪歴に関する関連書類をすべて提出し、日本語の書類には英訳文を付ける必要があるとされています。書類が手元にない場合は、手続を受けた裁判所を管轄する地方検察庁に自分で連絡して入手します。審査には数週間から数か月を要するとされ、事実を隠そうとすることは勧められないこと、虚偽の申告をした場合には入国が永久に許可されないことも明記されています。
基準は国によって異なり、短期の観光であれば問題にならない国も多い一方、審査が厳しい国もあります。共通しているのは、どのルートを取るにしても時間がかかるという点です。渡航予定日から逆算して準備を始め、航空券や宿泊の手配を先に確定させないほうが安全です。なお、保護観察中の方は、7日以上の旅行に事前の許可が必要です。
よくある誤解
- 戸籍謄本や住民票に前科が記載されることはありません。市区町村が発行する身分証明書も、後見登記や破産に関する事項を証明するもので、前科は記載されません
- クレジットカードやローンの審査で参照される信用情報に、犯罪歴は登録されていません
- 「前科が消える」とは、刑法34条の2や27条により刑の言渡しの効力が失われることを指し、検察庁の記録そのものがなくなるという意味ではありません
- 家族に法律上の制限が及ぶことはありません。ただし、実名報道がある場合には、氏名で検索されることによる影響が残ります
場面ごとの整理
| 場面 | 法律で決まっている制限 | 実際に判断を左右するもの |
|---|---|---|
| 就職・仕事 | 一部の資格の欠格事由、拘禁刑以上の刑を受けた公務員の失職 | 就業規則の内容、職務との関連性、報道の有無、賞罰欄の記載 |
| 住まい | 原則としてなし(保護観察中の届出・許可は別) | 収入と勤務先、保証会社の審査、氏名で検索したときの情報 |
| 海外渡航 | 旅券法13条1項による発給の制限 | 相手国の基準、書類の準備と審査に必要な時間 |
事件が終わったあとにしておきたいこと
- 判決謄本や略式命令の謄本、不起訴処分告知書などの書面を確保しておく(ビザの申請や資格の手続で、あとから求められることがあります)
- 刑の言渡しの効力が失われる時期を数えておく(刑法34条の2、27条)
- 就業規則の懲戒事由と退職に関する条項を確認しておく
- 自分の氏名で検索し、報道やネット上の記載の有無を把握しておく
- 保護観察がついている場合は、届出と事前の許可が必要な行為を確認しておく
まとめ
前科によって法律上当然に閉ざされる道は、一般に思われているほど広くありません。就職の場面では就業規則と判断枠組みの問題であり、住まいの場面では法律上の制限はほとんどなく、審査で見られているのは収入や保証の内容です。
他方で、旅券の申請や相手国のビザのように、手続そのものに時間がかかり、順番を間違えると取り返しがつきにくい場面もあります。資格に関する届出のように、期限が定められているものもあります。
不安の中で判断を急ぐと、退職や解約など、後から戻せない選択をしてしまうことがあります。どこまでが法律上の制限で、どこからが事実上の評価なのか。この切り分けができれば、次に何をすべきかは見えてきます。判断に迷う場面があれば、決めてしまう前に、条文と手続を確認するところから始めてください。


