刃物を持ち歩いていただけ|銃刀法と軽犯罪法の使い分け
ストーカー行為の疑いで家族が逮捕された、あるいはご自身が逮捕・釈放された後に、「被害者の方と示談をすることはできるのか」というご相談は少なくありません。結論からいえば、逮捕された後であっても、弁護人を通じて被害者の方に示談を申し入れることはできます。ただし、ストーカー事件には他の事件と異なる事情があり、示談の進め方や示談書に盛り込む内容にも特有の配慮が求められます。この記事では、逮捕後の手続の流れと示談が意味を持つ時期、示談を進める際の注意点、被害者の方が示談に応じない場合の対応について解説します。
本記事は2026年10月時点の法令に基づいて記載しています。ストーカー規制法は近年たびたび改正されているため、個別の事案では最新の条文と運用をご確認ください。
逮捕された後でも、示談の申し入れはできる
示談とは、加害者側と被害者の方が話し合い、謝罪や金銭の支払い、今後の約束などについて合意することをいいます。逮捕されたからといって示談ができなくなるわけではなく、身柄を拘束されている間も、弁護人が本人に代わって被害者の方に申し入れを行うことができます。
ストーカー規制法違反の罪は、以前は被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪でしたが、2016年の法改正で非親告罪となりました。そのため、示談が成立して被害者の方が処罰を望まないと表明しても、それだけで手続が終わるわけではありません。一方で、被害者の方との示談の有無は、検察官が起訴するかどうかを判断する際や、裁判所が刑を決める際に考慮される事情の一つです。非親告罪であっても、示談に取り組む意味は小さくありません。
逮捕後の手続の流れと、示談が意味を持つ時期
逮捕された後は、法律で定められた時間の枠の中で手続が進みます。示談がどの段階で成立するかによって、処分への影響の仕方が変わってきます。
| 段階 | 期間の目安 | 示談との関係 |
|---|---|---|
| 逮捕から検察官への送致 | 48時間以内 | 弁護人が選任され、示談の申し入れに向けた準備を始める時期 |
| 検察官による勾留請求の判断 | 送致から24時間以内 | この段階で示談が成立している例は多くありません |
| 勾留 | 原則10日間、延長されると最大でさらに10日間 | 示談交渉の中心となる時期。成立すれば勾留満期前に釈放されることもあります |
| 起訴・不起訴の判断 | 勾留の満期まで | 示談の成否が判断材料の一つとなります |
| 起訴後 | 公判の終結まで | 量刑や保釈の判断で考慮されます |
このように、逮捕から起訴・不起訴の判断までは最大で23日間程度しかありません。ストーカー事件では、被害者の方が加害者側との接触に強い不安を抱いていることが多く、申し入れから合意までに時間がかかる傾向があります。勾留されている間に示談をまとめたい場合は、できるだけ早い段階で弁護人に動いてもらうことが望ましいといえます。身柄の拘束が長引く事情については、【刑事事件】身内がストーカー規制法違反で捕まった|身柄が長引く理由と、家族が用意できるものでも解説しています。
示談が処分に与える影響
起訴・不起訴の判断で考慮される事情
検察官は、行為の内容や期間、回数、前科・前歴の有無、本人の反省の程度、再発のおそれなどを総合的に考慮して、起訴するかどうかを判断します。示談が成立し、被害者の方が処罰を求めないという意思(宥恕)を示した場合には、こうした判断で本人に有利な事情として扱われることがあります。宥恕の意味については、宥恕文言の意味|「許す」と書かれると刑事処分はどう変わるかで詳しく説明しています。
示談が成立しても処分が残る場合がある
示談はあくまで考慮される事情の一つであり、示談が成立すれば必ず不起訴になるというものではありません。禁止命令に違反していた場合や、行為が長期間に及んでいた場合、住居侵入や脅迫などほかの罪も問題となっている場合などは、示談が成立しても起訴されることがあります。この点は示談が成立しても処分が残る場合|示談=不起訴ではない理由でも取り上げています。処分の見通しについては、【刑事事件】ストーカーで前科はつくのか|警告・検挙・起訴の分かれ目と、不起訴になる場合もあわせてご覧ください。
起訴された後の示談
起訴された後に示談が成立しても、起訴そのものが取り消されることはありません。ただし、判決で刑を決める際に考慮されるほか、保釈の判断に影響することもあるため、示談に取り組む意味が失われるわけではありません。
示談は弁護人を通じてしか進められない
本人や家族が被害者の方に連絡してはいけない理由
ストーカー事件の示談では、本人はもちろん、家族が被害者の方に直接連絡を取ることも避けなければなりません。謝罪のつもりであっても、被害者の方にとっては新たなつきまといと受け止められるおそれがあります。さらに、捜査機関からは被害者の方に働きかけて供述を変えさせようとしていると疑われ、勾留が長引いたり、保釈が認められにくくなったりする原因にもなり得ます。謝罪の気持ちを伝えたい場合でも、その方法は弁護人と相談して決めることになります。謝罪の連絡がなぜ問題になるのかは、【ストーカートラブル】謝りたい|謝罪の連絡そのものが問題になる理由で解説しています。
被害者の連絡先は捜査機関を通じて照会する
ストーカー事件の被害者の方は、加害者に住所や連絡先を知られることを強く警戒しているのが通常です。本人が被害者の方の連絡先を知っている場合でも、その連絡先を使って弁護人が直接連絡することは慎重であるべきだと考えられています。
一般的には、弁護人が警察や検察官に対して示談の意向を伝え、被害者の方の了承が得られた場合に、弁護人に限って連絡先を教えてもらうという流れをとります。その際、弁護人は連絡先を本人や家族に伝えないことを約束するのが通例です。被害者の方が連絡先の開示に応じない場合には、この段階で示談交渉が進まないこともあります。
ストーカー事件の示談書に盛り込む内容
ストーカー事件の示談では、金銭の支払いだけでなく、今後の接触をどう断つかが中心的な関心事になります。被害者の方の不安を和らげる内容でなければ、合意に至ることは難しいといえます。一般的に検討される条項は次のとおりです。
- 謝罪の意思を示す条項。
- 示談金の金額と支払方法を定める条項。
- 被害者の方への接触・連絡を禁止する条項。
- 被害者の方の住居や勤務先などへの接近を禁止する条項。
- 写真や連絡先などのデータを削除することを確認する条項。
- 約束に違反した場合の違約金を定める条項。
- 被害者の方が処罰を求めない意思を示す宥恕の条項。
- 示談書に定めたもの以外に債権債務がないことを確認する清算条項。
示談金の金額には決まった相場があるわけではなく、行為の内容や期間、被害者の方が受けた精神的な負担、転居や通院の必要が生じたかどうかなどによって大きく異なります。被害者の方から高額な提示があった場合の考え方は、【刑事事件】被害者から高額な示談金を示された|折り合わないときの進め方で解説しています。また、被害者の方が氏名や住所を伏せたまま示談を希望される場合の書面の作り方は、被害者の氏名が伏せられている事件で示談書をどう作るかをご参照ください。
示談書の接触禁止と、警察の禁止命令との関係
示談書に定める接触禁止は、当事者間の約束です。違反した場合には違約金の請求などの民事上の問題になりますが、示談書の条項に違反したこと自体を理由に逮捕されるわけではありません。
これに対して、ストーカー規制法に基づく禁止命令は、都道府県公安委員会が出す行政上の命令であり、示談とは別の手続です。示談が成立したからといって、すでに出されている禁止命令が自動的に失われるわけではありません。示談の成立後も、禁止命令に違反する行為をすれば処罰の対象となり得ますし、示談書に違反する接触が新たなストーカー行為として扱われることもあります。示談の成立はゴールではなく、合意した内容を守り続けることが前提になります。
被害者の方が示談に応じないとき
ストーカー事件では、被害者の方が加害者側との関わりそのものを避けたいと考え、示談の申し入れを断られることも珍しくありません。その場合でも、次のような対応を検討することがあります。
- 家族による監督体制や転居の予定など、再発防止に向けた具体的な取り組みを整え、検察官に示します。
- 専門の医療機関やカウンセリングにつながり、行為の背景にある問題に向き合っていることを示します。
- 被害者の方が受け取りを拒んだ場合に備え、示談金に相当する金額の供託や、弁護士会などへの贖罪寄付を検討します。
- 時間をおいて、被害者の方の意向を確認しながら改めて申し入れを行います。
これらは示談の代わりになるものではありませんが、処分を判断する際の事情として考慮されることがあります。断られた後の対応は、示談を申し入れたが断られた|そのあとに残る手段でも取り上げています。なお、被害者の方が示談を望まない意思を示しているのに申し入れを繰り返すことは、被害者の方の負担を増やすことになりかねません。申し入れの回数や時期は、弁護人が慎重に判断します。
家族ができること
逮捕された本人は、身柄を拘束されている間、自分で示談のための準備をすることができません。家族が担える役割としては、弁護人を選任すること、示談金を準備すること、身元引受人として本人の生活を監督する体制を整えることなどが挙げられます。
ストーカー事件では、釈放後に本人が再び被害者の方に近づくのではないかという点が、捜査機関にとっても被害者の方にとっても大きな関心事です。本人と同居して生活を見守る、被害者の方の生活圏から離れた場所に住む、通院に付き添うといった具体的な監督の内容を示せるかどうかが、示談交渉にも処分の判断にも影響することがあります。勾留中に家族ができることについては、勾留延長を止めるために家族ができることもご参照ください。
よくあるご質問
国選弁護人でも示談交渉をしてもらえますか
勾留された段階で国選弁護人が選任された場合も、示談交渉を行ってもらうことは可能です。ただし、国選弁護人は逮捕直後には選任されないため、逮捕から勾留までの間に動き出したい場合には、私選弁護人を選ぶことも選択肢になります。
判決が出た後でも示談はできますか
判決が確定した後でも、被害者の方が応じる意思を示せば、民事上の解決として示談をすることは可能です。ただし、刑事処分への影響はなくなるため、被害者の方にとっても応じる動機が乏しくなり、連絡先が分からないまま話が進まないことも少なくありません。
示談をすれば、被害者の方と今後も話ができるようになりますか
ストーカー事件の示談は、多くの場合、今後一切の接触をしないことを前提に成立します。示談を関係を修復するきっかけと考えて連絡を取ろうとすれば、新たなストーカー行為と受け止められ、再び逮捕されるおそれがあります。
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ストーカー事件での逮捕と示談のご相談
ストーカー事件で逮捕された後の示談は、被害者の方の不安に配慮しながら、限られた時間の中で進める必要があります。本人や家族が直接動くことで状況が悪化することもあるため、早い段階で弁護人に方針を相談し、示談の申し入れと再発防止の準備を並行して進めることが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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