「接見」で弁護士は何をするのか|依頼から面会までの流れ
「登録に必要だから」と言われて、運転免許証やマイナンバーカードの写真を送ってしまった。送信した直後から不安になったものの、相手にどう切り出せばよいのかも分からない。そうした状態でこのページを開く方が少なくありません。
この記事は、いわゆる闇バイトの募集に応じ、身分証の画像や住所・電話番号といった個人情報を渡してしまった段階の方に向けたものです。送った写真で相手に何ができて何ができないのかを制度の面から確認したうえで、今日から取れる手立てを順に説明します。
「握られた」には二つの意味がある
身分証の写真を送ってしまった状態は、ひとまとめに「個人情報を握られた」と表現されます。ただ、そこから生じる不利益は性質の違う二つに分かれ、それぞれ手当ての方向が異なります。ここを混ぜたまま考えると、対処が空回りします。
| 区分 | 起きること | 手当ての方向 |
|---|---|---|
| 脅しの材料になる | 「家に行く」「家族に知らせる」などと言われ、断りにくくなる | 相手の手元から取り戻すことはできない。脅しが働きにくい状態をつくる |
| 名義を悪用される | 自分の名義で契約や口座開設をされるおそれがある | あらかじめ備えを置き、異変に早く気づけるようにする |
相談の現場で先に問題になるのは、多くの場合が上の段です。警視庁の担当者も、身分証の画像や住所・電話番号は一度渡すと脅しの材料として使われることがあり、その結果「辞めたい」と思っても抜け出しにくくなると説明しています。下の段の心配がなくなるわけではありませんが、両者は分けて考えたほうが整理しやすくなります。
写真一枚でどこまでできるのか
本人確認の方法は、画像を送る方式から離れつつある
「この写真で勝手に口座を作られるのではないか」という不安は、当然のものです。ここは制度の動きを踏まえておくと、見通しが立てやすくなります。
携帯電話については、携帯電話不正利用防止法の施行規則が改正され、2026年4月1日から、非対面の契約で本人確認書類の画像や自分の顔写真を送る方式が原則として使えなくなりました。マイナンバーカードのICチップを読み取る方法などへ移行しています。
金融機関などが従う犯罪収益移転防止法についても、施行規則の改正が2027年4月1日の施行予定で進んでいます。本人確認書類の画像情報を送る方法や写しを送付する方法は原則として廃止され、マイナンバーカードの公的個人認証に原則一本化される方向です。
つまり、身分証の画像だけで新規の契約を通すことは、制度としては通りにくい方向に動いています。もっとも、あらゆる手続きが画像を使わなくなったわけではないため、後述する備えは置いておくのが穏当です。
実際に起きているのは、契約よりも「脅しの材料」としての利用
犯罪グループは、登録に必要だという説明で運転免許証・学生証・マイナンバーカードなどを求めます。中には、身分証と顔が一緒に写った写真、家族の情報、自宅の入口から部屋までの道順が分かる動画まで求められる例があると、東京都の啓発サイトでも紹介されています。
これらは、契約に使うためというより、断れなくするための材料として集められている側面が大きいものです。裏を返せば、材料の価値を下げる手当てが、この段階での中心的な対処になります。
アプリを消しても、相手の手元の情報は消えない
この段階で最も多い行動が、通信アプリの削除やアカウントの消去です。しかし、警察庁が公表している応募段階の相談事例には、匿名性の高いアプリを削除したところ、別の連絡手段で個人情報をそのまま送り返されたという例、やり取りを消したら「個人情報は分かっている」と告げられたという例が挙げられています。
自分の端末から消えるのは、自分の側の記録です。相手が保存した画像は残ります。しかも、後で警察や弁護士に経緯を説明するとき、そのやり取りこそが自分の立場を裏づける材料になります。削除を急ぐ理由は、実はあまりありません。
この段階でできること
送った内容を書き出す
何を、いつ、どの手段で送ったのかを、覚えている範囲で書き出してください。身分証の種類、顔写真の有無、住所や勤務先・学校名、家族の情報、口座番号や電話番号を伝えたかどうか。相談の場で最初に聞かれるのはここです。
やり取りを保存する
消える設定のアプリでは画面の保存が難しい場合もありますが、相手のアカウント名、募集を見た媒体、最初に連絡した日、指示内容の要点はメモに残せます。振込があれば入出金の記録も残してください。
警察に相談する
「相談したら自分が捕まるのではないか」という不安から、ためらう方は多くいます。ただ、警察庁は2024年10月に各都道府県警察へ通達を出し、犯罪グループから脅されている人やその家族を保護する取り扱いを整えています。本人・家族の一時避難や周辺のパトロール強化などが行われ、2025年11月末までの実施は544件と公表されています。年代は20代がおよそ45パーセント、10代がおよそ25パーセントです。
急ぎでない相談は警察相談専用電話「#9110」、地域の事情を伝えたい場合は最寄りの警察署が窓口になります。すでに危害をほのめかされているなど差し迫った状況であれば110番です。
信用情報機関に本人申告をしておく
名義の悪用に備える手当てとして、信用情報機関の本人申告制度があります。あまり知られていませんが、この場面では使える仕組みです。
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)は、本人確認書類の紛失・盗難のほか「自分の名義を他人あるいは第三者に悪用される恐れがあるとき」を利用場面として挙げています
- 全国銀行協会の全国銀行個人信用情報センターは、本人確認書類の紛失・盗難に加えて「漏えい等」により名義を冒用される可能性がある場合を対象としています
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)にも同様の受付があります
登録しておくと、加盟する会社がクレジットやローンの申込みを審査する際、その申告が参考情報として確認されます。CICでは登録から5年間有効で、途中の削除もできます。
ただし、限界もあわせて理解しておいてください。あくまで審査する会社への注意喚起であり、各社の判断を拘束するものではなく、悪用されないことを保証する仕組みでもありません。全国銀行協会は、預金口座の開設時には照会が行われない旨も明示しています。万能ではありませんが、置いておいて損のない備えです。
身分証そのものの扱いをどう考えるか
マイナンバーカードには、紛失・盗難のときにコールセンターで24時間365日受け付ける一時利用停止の仕組みがあります。ただしこれは、カードが手元から失われた場合を前提とした制度です。カードは手元にあり、写真だけを送ってしまった場合には、そのままでは当てはまらないのが原則です。
また、作り直せば安全になるという単純な話にもなりません。写真を送ったことを理由に番号を切り替える手続きが用意されているわけではないためです。手元の身分証の扱いで悩むより、記録を残し、相談先を確保し、本人申告のような備えを置くほうが現実的です。
家族に先に話しておく
「家族にばらす」という言葉が脅しとして効くのは、家族が何も知らないからです。先に自分から伝えておけば、その言葉の力は落ちます。言いにくさは残りますが、相談の場に家族が同席できると、その後の手続きも進めやすくなります。未成年の方であれば、保護者への連絡は避けて通れません。
避けたほうがよい行動
- やり取りを消す、アカウントを削除する、電話番号を変える(相手の手元の情報は消えず、自分の説明材料だけが失われます)
- 相手と一対一で交渉して「情報を消してほしい」と頼む(応じる保証はなく、要求の入口になりかねません)
- 情報を返してもらう条件として指示された作業に応じる(その作業自体が別の刑事責任につながる場合があります)
- 何も起きていないのだから、と時間を置く(状況が動くほど、説明できることが減っていきます)
身分証を送ったこと自体は罪になるのか
自分名義の身分証の画像を第三者に送る行為そのものは、それだけで犯罪として扱われるものではありません。問題の中心は、その後に何を求められ、何に応じたかにあります。
特に注意が必要なのは、銀行口座やキャッシュカード、携帯電話の契約や端末を渡す段階です。ここまで進むと、実行役でなくても独立した刑事事件になり得ます。2026年7月に施行された改正犯罪収益移転防止法では、口座等を譲り渡す行為の法定刑が引き上げられ、報酬を得て送金を代行する行為にも罰則が新設されました。身分証の話と、口座・携帯の話は、法的な重さが違うものとして分けて考えてください。
すでに脅しが始まっている場合
「家に行く」「家族に知らせる」「写真をネットに流す」といった言葉が出ている場合、相手の側が脅迫罪や強要罪に問われ得る行為をしています。自分が応募してしまった立場であっても、脅されていること自体を相談することはできます。
警察庁・文部科学省・こども家庭庁が2026年6月に連名で公表した資料でも、個人情報を送ってしまって脅された場合には110番するよう呼びかけられています。応じ続けるほど関与が深まり、説明できる余地が狭まっていきます。判断を先送りしないほうが結果はよくなりやすい、という関係にあります。
ご家族が気づいた場合
本人の様子から気づいたご家族が、強く叱責してしまうことがあります。心情としては当然ですが、本人が口を閉ざすと、警察や弁護士に説明すべき情報が失われます。まず確認していただきたいのは、次の点です。
- どの媒体で募集を見て、いつ連絡したか
- 何を送ったか(身分証の種類、顔写真、家族や住所の情報)
- 口座やキャッシュカード、携帯電話を渡していないか
- 現金や荷物の受け渡しに関わっていないか
- 現在どのアプリでやり取りが続いているか
本人が未成年であれば、家庭裁判所の手続きが関わる可能性があり、成人の事件とは流れが異なります。学校への対応も含め、早い段階で相談されることをおすすめします。
弁護士にできること
ご相談ではまず経緯を時系列で整理し、現在どの位置にいるのかを法的に切り分けます。そのうえで、警察への相談をどう組み立てるか、出頭や自首を検討すべき事情があるか、事実関係をどう説明するのが正確かを一緒に検討します。
当事務所では、相談は24時間受け付けており、初回のご相談は無料です。逮捕されている場合の接見は即日対応が可能で、警察署への出頭に弁護士が同行する対応も全国で行っています(移動にかかる実費は別途必要です)。深夜・早朝のご連絡にも対応できる場合があります。
まとめ
- 身分証の写真を送った状態は「脅しの材料になる害」と「名義を悪用される害」に分かれ、対処の方向が違います
- 本人確認の方法は画像送信から離れつつあり、携帯電話は2026年4月、金融機関は2027年4月の施行に向けて厳格化が進んでいます
- アプリやアカウントを消しても相手の手元の情報は残り、失われるのは自分の説明材料のほうです
- できることは、送った内容の書き出し、やり取りの保存、警察への相談、信用情報機関への本人申告、家族への共有です
- 口座やキャッシュカード、携帯電話の受け渡しは身分証とは重さが違い、それ自体が刑事事件になり得ます


