痴漢を疑われて駅員室に連れて行かれた|その場で何をすべきか
家族が勾留されてから10日ほどが経つと、「そろそろ帰ってくるのか」「それとも延びるのか」という時期に差しかかります。ところが、この時期に家族のもとへ何かが知らされることは、ほとんどありません。連絡がないまま日が過ぎ、あとになって延長が決まっていたと知る、というご相談は少なくありません。
勾留の延長は、最初に勾留が決まったときとは別の関門で判断されます。最初の勾留のときに用意した書面をそのまま出し直すだけでは、延長の判断には届きにくいという事情があります。ここでは、延長がどのように決まるのか、家族の側で用意できる材料は何か、そして締め切りがいつ来るのかを順に整理します。
満期日がいつなのかを最初に確かめる
数え始めるのは逮捕された日ではない
勾留の期間は、検察官が勾留を請求した日を1日目として10日間と定められています(刑事訴訟法208条1項)。数え始めるのは逮捕された日ではなく、勾留が請求された日です。民法のように初日を数えないという扱いや、土日祝日を除くという扱いはとられていません。
逮捕からは48時間以内に検察官へ事件が送られ、そこから24時間以内に勾留が請求されます。そのため、逮捕の日から数えると13日目あたりが最初の満期日にあたるのが通常です。家族が「逮捕から10日」と数えていると、実際の締め切りより2日ほど遅い日を思い描くことになり、材料を用意する時間を取り違えてしまいます。
満期日が土日や祝日にあたるときは、その直前の平日までに判断が行われることがあります。締め切りは、家族が想定しているよりも前倒しになりやすいと考えておくほうが安全です。
延長を求めるのは検察官、決めるのは裁判官
10日で捜査が終わらないと検察官が判断したときは、裁判官に対して期間の延長を請求します。裁判官が「やむを得ない事由がある」と認めれば延長が認められ、その期間は通じて10日を超えないものとされています(同条2項)。最初の10日と合わせて最長20日、逮捕からの日数でいえば最長23日という区切りになります。
なお、内乱や外患、騒乱にあたるような一部の事件では、さらに5日を限度とする延長が定められていますが(208条の2)、一般の事件で問題になることはまずありません。
| 段階 | 期間の区切り | 判断する人 |
|---|---|---|
| 逮捕から送致まで | 48時間以内 | 警察 |
| 送致から勾留請求まで | 24時間以内 | 検察官 |
| 最初の勾留 | 勾留請求の日から10日 | 裁判官 |
| 勾留の延長 | 通じて10日まで | 裁判官 |
延長の判断は、最初の勾留とは別のことを見ている
ここが、この局面でいちばん誤解されやすいところです。
最初の勾留で見られていたこと
最初の勾留では、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があることを前提に、住居が定まっていない、証拠を隠すおそれがある、逃げるおそれがある、のいずれかにあたるかどうかが見られます。そのうえで、身柄を押さえておく必要があるかどうかが判断されます。身元引受書や生活の安定を示す資料は、この関門に向けた材料です。
延長の局面で加わる「やむを得ない事由」
延長では、これに別の関門が加わります。「やむを得ない事由」について、裁判所は、事件が複雑で困難であること、あるいは証拠の収集が遅れたり難しかったりすることなどのために、期間を延ばしてさらに取調べをするのでなければ起訴・不起訴の決定をすることが困難な場合を指す、という趣旨の判断を示しています(最高裁昭和37年7月3日判決)。
つまり、延長の場面で正面から問われているのは、本人がどういう人物かではなく、捜査がどこまで進んでいて、あと何が残っているのかという点です。
同じ書面を出し直すだけでは届きにくい
この違いは、家族が用意する材料の中身に直結します。身元引受書や生活環境の資料は、逃げるおそれ・証拠を隠すおそれという関門に向けたものであり、延長の場面でも意味を失うわけではありません。ただし、それだけでは「捜査がまだ終わっていない」という理由に正面から答えたことにはなりません。両方をそろえて初めて、延長の判断材料として働きます。
延長が求められやすい事件の形
どのような事情が「やむを得ない事由」として挙げられやすいのかを知っておくと、何を確かめればよいかが見えてきます。
- 共犯者や関係者が多く、供述の食い違いを確かめる必要がある事件。
- 被疑事実が多数にわたる事件や、金銭の流れの計算が複雑な事件。
- 押収した端末やデータの解析、鑑定の結果を待っている事件。
- 重要な参考人の病気や不在などで、話を聞けていない事件。
- 否認や黙秘があり、供述以外の証拠を積み上げる必要がある事件。
このうち否認や黙秘については、誤解のないように付け加えておきます。黙秘は法律上認められた権利であり、行使したこと自体が処分を重くする理由になるわけではありません。ただ、供述以外から事実を確かめる作業が増えるため、捜査に時間がかかりやすい面はあります。どう対応するかは、弁護人と本人が事件の中身を踏まえて決めることであり、家族が外から促す事柄ではありません。
もうひとつ、余罪の捜査があります。本件とは別の疑いを調べるためだけに期間を延ばすことは、認められないと説明されています。逮捕と勾留について二度の審査を求めた法律の趣旨を回り込むことになるためです。他方、本件を起訴するかどうかを決めるうえで別の事実の捜査結果を踏まえる必要がある場合には、結局は本件の捜査だと評価されます。ここは争いになりやすい部分です。
また、他の事件を抱えていて手が回らなかったといった捜査側の都合は「やむを得ない事由」にあたらないとされています。
家族には連絡が来ないという前提
通知の仕組みは最初の勾留のときだけ
最初に勾留が決まったときは、裁判所から弁護人へ通知が行われます。弁護人がいない場合には、本人が指定した親族など1人に通知されます(刑事訴訟法79条、207条1項)。しかし、この仕組みは勾留したときのものであり、延長が決まったこと、処分が決まったこと、釈放されたことについて、家族に知らせる仕組みは置かれていません。
「何も言われていないから、まだ何も起きていない」という受け止め方は、この段階では成り立ちません。連絡がないことは、状況が動いていないことを意味しません。
状況を確かめる方法
弁護人がついていれば、検察官に延長を求める意向があるか、その理由は何か、いつ判断されるのかを事前に確かめることができます。弁護人がいない場合、家族にできるのは留置されている警察署に問い合わせて在監の有無を確かめることが中心で、延長の理由や見通しまでは分かりません。接見等禁止がついているときは面会もできないため、情報を得る道は弁護人を通すほかにほとんど残りません。
家族だからこそ用意できる材料
本人には集められない資料がある
身柄を拘束されている本人は、書類を取り寄せることも、勤務先や学校に連絡することもできません。携帯電話は押収されていることが多く、連絡先すら手元にありません。この局面で外部の資料を集められるのは、実際上は家族と弁護人だけです。
拘束が続くと何が失われるかを、書面で示す
「かわいそうだ」「家族が困っている」という訴えは、それだけでは判断材料になりにくいものです。効きやすいのは、拘束が続くことでいつまでに何が確定的に失われるのかを、日付の入った第三者の書面で示すことです。
| 失われるおそれのあるもの | 裏づけになりうる資料 |
|---|---|
| 勤務先での地位 | 欠勤の扱いに関する連絡文書、就業規則の該当部分 |
| 学業や資格 | 試験・実習・登録手続の日程が分かる書面 |
| 治療の継続 | 診察の予約票、処方の期間が分かる書面 |
| 扶養している家族の生活 | 保育や介護の利用状況が分かる書面 |
| 事業上の義務 | 契約書の履行期限、取引先とのやり取り |
いずれも、家族が言葉で説明するのではなく、期限が客観的に読み取れる形で用意することが要点です。集めた資料は弁護人に渡し、どれをどの段階で出すかは弁護人の判断に委ねます。
示談にあてる資金を用意する場合
被害者がいる事件では、示談や被害弁償の見通しが立っているかどうかが判断に影響します。交渉そのものは弁護人が窓口になりますが、資金の準備は家族が担うことが多い部分です。実務では、示談にあてる資金を弁護人が預かり、預かっている事実を示す書面を裁判所や検察官に提出する方法がとられることがあります。金額や配分の判断は事件ごとに異なるため、弁護人と相談したうえで進めてください。
なお、示談の交渉が続いていること自体が、延長を求める理由として挙げられる場合もあります。交渉が動いているのであれば、その進み具合を早めに検察官へ伝えてもらうことが、期間を短くする方向に働きます。
渡す先と締め切り
材料は、満期日の当日ではなく、その数日前までに弁護人の手元に届いている必要があります。延長を求めるかどうかの検察官の判断は、満期日より前に事実上固まっていることが多いためです。原本が必要な書類もあるため、何をいつまでに用意するかは、最初の打ち合わせの時点で確認しておくと動きやすくなります。
延長の日数は10日と決まっているわけではない
延長というと10日が加わるものと受け取られがちですが、条文が定めているのは「通じて10日を超えることができない」という上限です。最初の勾留と違い、裁判官は10日より短い期間を定めることができます。検察官の側が10日より短い期間を求めることもあります。
延長が決まった後でも、その決定に対する不服申立てによって日数が削られることがあります。延長そのものが取り消される例は多くありませんが、日数が短くなる形で結論が変わることは実際にあります。拘束されている側にとって、数日の違いは小さくありません。
また、満期日を待たずに処分が決まることもあります。示談が成立した場合などに、その時点で不起訴とされて釈放される、あるいは処分を保留したうえで釈放されるという流れです。延長の期間が始まったからといって、その日数を使い切るまで動かないと決まっているわけではありません。
この局面で逆効果になりやすいこと
延長は「捜査がまだ終わっていない」という判断です。したがって、家族の行動が確かめるべき事柄を増やすと、延長を求める理由をかえって強めることになります。
- 共犯者とされている人や、その家族に連絡を取ること。事情を聞き合った事実そのものが、供述の擦り合わせを疑わせる材料になります。
- 被害者や目撃者に直接連絡を取ること。謝罪の意図であっても、働きかけと受け取られます。
- 本人の部屋や端末、書類を片づけること。親族が本人のために証拠を隠した場合に刑を免除できるという定めはありますが(刑法105条)、免除するかどうかは裁判所の判断に委ねられており、責任を問われない仕組みではありません。
- 事件の内容をSNSに書くことや、事情を広く相談して回ること。第三者に伝わった内容が、捜査の対象を広げることがあります。
いずれも、心配のあまり動いてしまいやすい行動です。判断に迷うときは、動く前に弁護人に確認してください。
延長が決まった後に残っていること
延長が認められたとしても、そこで手続が終わるわけではありません。延長の決定に対しては、別の裁判官の判断を求める不服申立ての手続があります。また、勾留の理由や必要がなくなったときは勾留の取消しを請求することができ、この請求は本人や弁護人だけでなく、配偶者や直系の親族、兄弟姉妹も行うことができます(刑事訴訟法87条1項)。拘禁が不当に長くなったときにも同じ扱いが定められています(91条1項)。
一方で、起訴される前の段階に保釈という制度はありません(207条1項ただし書)。保釈金を用意すればすぐに出られるという説明を受けたときは、その説明自体を疑ってください。接見等禁止は勾留とは別に付け加えられる処分であり、これを解くための手続は別に用意されています。
早い段階で相談する意味
延長の局面で家族ができることは、精神的に支えることだけではありません。締め切りを正しく把握すること、外の資料を集めること、資金を準備すること、そして動かないほうがよい場面で動かないこと。どれも、期日が来てからでは間に合いません。
当事務所は池袋と新橋に事務所を構え、ご家族からのご相談も承っています。初回のご相談は無料で、24時間受付のうえ、状況に応じて即日の接見にも対応しています。ご本人と連絡が取れない状態でも、伺える範囲の事情から動き出すことはできます。
まとめ
- 勾留の期間は勾留請求の日を1日目として10日間で、逮捕の日から数えるとずれが生じます。
- 延長は検察官が求め、裁判官が「やむを得ない事由」の有無を判断します。
- 延長の関門は、本人の人物像ではなく捜査の進み具合に向けられています。
- 延長が決まったこと、処分が決まったことを家族に知らせる仕組みはありません。
- 家族が用意できるのは、拘束が続くことで失われるものを日付入りの書面で示す材料と、示談にあてる資金です。
- 延長の日数は上限が10日というだけで、短くなることも、満期前に処分が出ることもあります。
- 関係者への連絡や本人の持ち物の整理は、延長を求める理由を強める方向に働きます。


