前科があると海外に行けないのか|ESTA・ビザ申請での申告
この記事は2026年9月時点の法令に基づいて書いています。ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)については、令和7年12月30日施行分および令和8年3月10日施行分の改正を反映しています。個別の事情によって見通しは変わりますので、具体的な対応はご自身の状況に即してご検討ください。
警察から電話が来た。署に呼ばれて事情を聞かれた。「警告です」と言われて書面を渡された。そのどれかがあった日の夜に検索して、このページにたどり着いた方が多いのではないかと思います。知りたいことは、おそらく一つに絞られています。これで前科がつくのか、つかないのか。
先に申し上げると、警告を受けたこと自体で前科がつくことはありません。前科は、起訴されて有罪が確定したときに残るものです。ただ、そこに至るまでにはいくつかの段階があり、どこで止まるかは、これから何をするかによって変わってくる部分があります。
この記事では、警告・禁止命令・検挙・起訴という言葉がそれぞれ何を指しているのかを整理したうえで、起訴へ進みやすくなるのはどういう場面か、不起訴で終わることがあるのはどういう場合かを順に説明します。
同じ「警告」という言葉が、二つのものを指している
最初につまずきやすいのがここです。警察官からその場で受ける口頭の注意も、現場では「警告した」と表現されます。他方で、ストーカー規制法4条に基づく警告という、法律上の手続としての警告もあります。呼び名は似ていますが、位置づけは別のものです。
件数にも差があります。警察庁の公表資料によると、令和7年中に警察が加害者側に行った指導警告は14,049件でした。これに対し、ストーカー規制法に基づく警告は1,577件です。桁が一つ違います。寄せられた相談の多くは、口頭での注意や指導の段階で対応されているということになります。
法律に基づく警告は、警告書という書面を交付する形をとるのが原則です。口頭で注意されただけで書面を受け取っていない場合、それは法4条の警告ではなく、現場での指導だった可能性があります。手元に書面が残っているかどうかは、自分がいまどの段階にいるのかを見分ける最初の手がかりになります。
警告・禁止命令・検挙・起訴は、それぞれ何を意味するのか
| 段階 | 判断する主体 | 性質 | 前科・前歴との関係 |
|---|---|---|---|
| 口頭の注意・指導 | 警察官 | 法律上の手続ではない | 前科にも前歴にもならない |
| 警告(法4条) | 警察本部長等 | 行政上の措置 | 前科にはならない |
| 禁止命令等(法5条) | 都道府県公安委員会 | 行政処分 | 前科にはならない |
| 検挙・送致 | 警察 | 刑事手続の入口 | 前歴として扱われる |
| 起訴され有罪が確定 | 検察官・裁判所 | 刑事処分 | 前科として残る |
表の上から三つは、刑罰ではありません。行為をやめさせるための措置であって、有罪かどうかの判断ではないからです。このうち禁止命令等は不利益な処分にあたるため、原則として事前に本人が意見を述べる機会(聴聞)が設けられます(法5条2項)。緊急を要する場合には先に命令を出し、あとから意見の聴取を行う仕組みも置かれています。
分かれ目は、刑事事件として立件され、検察官が起訴し、裁判所が有罪と判断して確定するところにあります。ここを越えて初めて前科になります。検挙されて送致された段階では、捜査を受けた記録、いわゆる前歴が残るにとどまります。両者がどう違い、どの場面で照会されるのかは前科と前歴はどう違い、どこに残るのか|期間と照会される場面で整理していますので、あわせてご覧ください。
警告は処分ではない。ただ、記録は残り、次の判断に使われる
警告は刑罰ではなく、前科にも前歴にもなりません。もっとも、何も残らないわけではありません。警察は、相談の受理から警告・禁止命令等の実施までをストーカー事案として記録・管理しています。同じ当事者について次の相談が入ったとき、白紙の状態からの判断にはならない、ということです。
ここで注意しておきたいのが、段階が下から順に上がるとは限らない点です。かつては禁止命令の前に警告を経ることが求められていましたが、平成28年の改正(平成29年6月14日施行)でこの警告前置は廃止され、緊急時の禁止命令等も新設されました。実際の件数を見ると、令和7年中の警告は1,577件である一方、禁止命令等は3,037件で、そのうち1,840件は緊急のものでした。まだ警告を受けていないから次の段階は警告のはずだ、という順序を前提にはできない状況です。
さらに、令和7年12月30日施行の改正で、被害者からの申出がなくても警察の職権で警告ができる制度が設けられました。相手が申し出ていないから動きようがない、という見込みは立てにくくなっています。同じ改正で、紛失防止タグを使って相手の位置情報を取得する行為も規制の対象に加わりました。
警告を受けた直後にどう振る舞うかで、その後の流れは変わり得ます。書面の内容を確認し、何が対象行為とされているのかを正確に把握するところからです。受け取った時点で何を見ておくべきかは警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかで具体的に扱っています。
起訴へ進みやすくなるのは、どういう場面か
ストーカー規制法の罰則は、大きく三つに分かれています。つきまとい等または位置情報の無承諾取得等を反復して行うストーカー行為をした場合は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(法18条)。禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合は、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金(法19条)。その他の禁止命令等違反は、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(法20条)です。
令和7年中のストーカー規制法違反の検挙は1,546件で、その内訳はストーカー行為罪が1,302件、禁止命令等違反が244件でした。命令が出ているのに行為が続いた場合、法定刑そのものが重くなり、かつ「言われても止まらなかった」という経過が記録に残ります。禁止命令が出た後の扱いについては禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新をご覧ください。
あわせて見ておきたいのが、ストーカー事案に関連して刑法犯などで検挙された件数です。令和7年は2,171件あり、内訳としては住居侵入437件、脅迫292件、暴行159件、傷害153件などが含まれています。行為の中身が別の罪に触れている場合、ストーカー規制法ではなくそちらで先に動くことがあります。
実務上、重く見られやすいのは次のような事情です。
- 警告や禁止命令を受けた後も同種の行為が続いている。
- 期間が長く、回数が積み重なっている。
- 自宅や勤務先など、生活の場に直接出向いている。
- 相手の家族や職場の人など、周囲の人に及んでいる。
- 危害を連想させる言葉や、写真・動画の拡散をほのめかす言葉が含まれている。
- 位置情報の取得や機器の取り付けなど、相手に気づかれない方法を使っている。
もう一つ、誤解されやすい点があります。ストーカー行為罪は、かつては告訴がなければ起訴できない犯罪でしたが、平成28年の改正でその制限は外れました。相手が告訴していないから起訴されることはない、という前提は置けない仕組みになっています。
接触を止めることと示談は、判断にどう影響するか
検察官が起訴するかどうかを決めるとき、見られているのは、行為の内容と経過に加えて、今後同じことが起きないと言える状態かどうかです。ここに、本人の側から示せる材料があります。
まず、行為をいつ止めたかです。警告や連絡を受けてすぐに止まっているのか、その後も続いたのか。この差は、記録の上ではっきり残ります。止めたつもりでも、SNSの閲覧や共通の知人経由の接触が続いていると、止まっていないと見られることがあります。
次に、示談です。被害を申告した方との間で示談が成立し、宥恕(ゆうじょ。処罰を求めないという意思)が示されれば、不起訴の方向に働く材料になり得ます。ただし、示談ができれば不起訴になると決まっているわけではありません。行為の悪質性が高い事案や、公益上の必要が大きいと判断された事案では、示談があっても起訴されることがあります。
そして、この類型で特に注意が要るのは、示談を目指すこと自体が新たな行為と受け取られかねない点です。相手は接触を拒んでいます。謝りたい、誤解を解きたいという気持ちがあっても、直接連絡を取れば、それ自体がつきまとい等と評価されるおそれがあります。連絡は代理人を通す、という形をとらざるを得ない場面がほとんどです。
再発を防ぐ環境を整えることも、材料になります。警察庁の資料では、加害者側をカウンセリングや治療機関につなぐ取組が進められており、令和7年中に実施につながったのは233人とされています。受診や相談を始めていること、住まいや勤務先を含めて接点が生じにくい状態にしていることは、今後を示す事情として説明できます。
仕事や資格には、どこまで響くのか
公務員の場合
刑事事件で起訴されると、本人の意に反して休職とすることができる旨が定められています(国家公務員法79条2号、地方公務員法28条2項2号)。有罪が確定し、拘禁刑以上の刑に処せられた場合は、欠格事由にあたるとして職を失います(国家公務員法38条1号・76条、地方公務員法16条1号・28条4項)。罰金にとどまる場合、この失職の条項には該当しませんが、懲戒処分の検討は別に行われます。
民間企業の場合
前科の情報が勤務先へ自動的に通知される仕組みは設けられていません。実際に知られる経路は、逮捕や勾留による長期の欠勤、報道、本人からの申告といったところです。就業規則上の処分に進むかどうかは、職務との関連性や業務への影響によって判断が分かれます。
資格への影響
多くの資格制度は「拘禁刑以上の刑」を欠格事由としており、罰金にとどまる場合に資格そのものを失う場面は限られます。ただし、個別の法律で罰金でも欠格とされているものもありますので、ご自身の資格については根拠となる条文を確認しておくことをおすすめします。
なお、略式手続による罰金も有罪の判断です。裁判所に出向かないまま終わることが多いため軽く受け止められがちですが、前科としては残ります。
いま動けること
- 相手方への連絡を、経路を問わず止める。共通の知人を介した伝言も含めて止める。
- 警告書や禁止命令書など、受け取った書面をそのまま保管する。
- メッセージや通話の履歴を消さない。経過を説明する材料になることがある。
- 呼出しや取調べの日時、担当部署、聞かれた内容を控えておく。
- 心当たりのある行為を、日付とともに時系列で書き出しておく。
- 今後の見通しについて、早い段階で弁護士に相談する。
特に三つ目は迷われる方が多い点です。不利になりそうな記録を消したくなりますが、削除しても相手方の端末や通信事業者側に残っていることがあり、消したこと自体が不利に働く場面もあります。手を加えず、そのまま残しておく判断をおすすめしています。
ここまでの段階は、どれも「前科がついた」状態ではありません。どこで止まるかがまだ動く時期だからこそ、自己判断での接触や釈明は避け、状況の整理から始めていただければと思います。心当たりのある行為と、相手方の受け止め方に開きがあると感じている場合も、その差を言葉にしておくことが、後の説明の土台になります。自分がどの段階にいるのか判断がつかないまま動くより、受け取った書面と経過を手元に置いて一度専門家に見てもらうほうが、回り道は少なく済むと思います。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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