職務質問で所持品検査を求められた|任意と強制の境界
逮捕状を差し出されたとき、そこに何が書かれているのかを落ち着いて読み取れる人はほとんどいません。示されるのは短い時間のことも多く、内容を理解しきる前に手続が進んでいきます。
もっとも、逮捕状に何を書くかは法律で定められており、裁判所が実務で用いる参考書式も公開されています。どの欄に何が書かれ、どの欄がまだ空欄なのかをあらかじめ知っておけば、その場で目を向ける先を絞ることができます。
この記事では、逮捕状の記載事項を条文と書式に沿って整理し、呈示された書面をどう読むかという観点からまとめます。令状の不備を探して逮捕を免れる方法を説明するものではありません。
逮捕状は逮捕を許可する書面
逮捕状は、捜査機関の請求を受けた裁判官が発する令状です。現行犯逮捕の場合を除いて、令状によらなければ逮捕されないことが憲法三十三条で定められており、通常逮捕はこの逮捕状に基づいて行われます。
逮捕状は捜査機関が作る書面ではなく、裁判官が発付し、裁判官が記名押印しているという点が出発点になります。
記載する事項は法律で決まっている
刑事訴訟法二百条一項は、逮捕状に記載すべき事項を次のように定めています。
・被疑者の氏名及び住居。
・罪名。
・被疑事実の要旨。
・引致すべき官公署その他の場所。
・有効期間、及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状を返還しなければならない旨。
・発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項。
そのうえで、裁判官がこれに記名押印しなければならないとされています。実際の書式には、このほかに年齢や職業の欄、請求した捜査官と逮捕した捜査官の官公職氏名の欄が設けられています。
「許可する」という言葉の意味
裁判所が示している参考書式では、書面の中ほどに「上記の被疑事実により、被疑者を逮捕することを許可する。」という一文が印刷されています。命じるのではなく許可するという書きぶりです。
逮捕状が発付されたことと、その逮捕状が実際に使われることとは別の事柄です。発付を受けた捜査機関が逮捕に着手しないまま、身柄を拘束せずに捜査が進むこともあります。書面の文言そのものが、そのことを示しています。
呈示の時点で埋まっている欄と、後から埋まる欄
逮捕状を読みにくくしている理由の一つは、書面のなかに逮捕の後で記入される欄が含まれていることです。示された時点で空欄になっている部分があるのは、書き漏らしではなく、そもそも後から書き込む欄だからという場合があります。
| 欄の内容 | 記入される時期 | そこから読めること |
|---|---|---|
| 氏名・年齢・住居・職業 | 発付の時点 | 誰に対する令状か |
| 罪名 | 発付の時点 | どの罪名で捜査が進んでいるか |
| 被疑事実の要旨 | 発付の時点 | いつどこで何をしたとされているか |
| 引致すべき場所 | 発付の時点 | どこへ連れて行かれるか |
| 有効期間・発付の年月日・裁判官の記名押印 | 発付の時点 | いつ誰が許可したか |
| 逮捕・引致・送致の年月日時 | 逮捕の後 | 手続がいつ進んだか |
空欄があっても不備とは限らない
参考書式では、書面の下半分に、逮捕の年月日時及び場所、引致の年月日時、送致する手続をした年月日時、送致を受けた年月日時という欄が並んでいます。いずれも逮捕された後に、担当した捜査官や検察事務官が記名押印とともに書き込んでいく欄です。
したがって、呈示された段階でこれらの欄が白いままであることは、通常の姿です。逆に、上半分にあたる罪名や有効期間の欄は、発付の時点で埋まっていることになります。
被疑事実の要旨が「別紙のとおり」となっている場合
逮捕状の記載事項のうち、読み手が知りたい中心にあるのが被疑事実の要旨の欄です。ところが、参考書式には「別紙のとおり」と印刷された型と、「別紙逮捕状請求書のとおり」と印刷された型の二種類が用意されています。
つまり、事実の中身は逮捕状の本体ではなく、別の紙に書かれている形が想定されています。
罪名は読めても事実の中身が読めないことがある
この書式が使われている場合、逮捕状の本体を見ても、罪名と有効期間、引致すべき場所は分かるものの、いつどこで何をしたとされているのかまでは読み取れません。別紙まで一緒に示されるかどうかは、その場の運用によって変わります。
「罪名は言われたが、具体的に何を問題にされているのかが分からなかった」という受け止め方が生じるのは、書式そのものにこうした構造があることが一因です。
逮捕された直後に告げられる機会がある
刑事訴訟法二百三条一項は、司法警察員が逮捕したときは、直ちに犯罪事実の要旨と弁護人を選任することができる旨を告げたうえで、弁解の機会を与えなければならないと定めています。
書面をその場で読み切れなかったとしても、事実の要旨を聞く機会は手続のなかに用意されています。聞いた内容をその場で記憶に残しておくことが、後の打ち合わせで役に立ちます。
有効期間の欄の読み方
令状の有効期間について、刑事訴訟規則三百条は、令状発付の日から七日とし、裁判所または裁判官が相当と認めるときは七日を超える期間を定めることができると規定しています。
実際の逮捕状には、この規定を受けて「有効期間 令和 年 月 日まで」という形で具体的な日付が印字されます。起算日の数え方を考えなくても、書面に書かれた日付そのものを見れば足ります。
「必要がなくなったときは返還する」という文言
有効期間の欄の下には、期間が過ぎた後はその令状で逮捕に着手できず裁判所に返還しなければならない旨に加えて、有効期間内であっても、逮捕の必要がなくなったときは直ちに返還しなければならない旨が印刷されています。
逮捕状が発付されている状態が、そのまま逮捕という結果に結び付くとは限らないことが、ここでも書面の文言に表れています。
氏名や住居の書き方が違うとき
刑事訴訟法二百条二項は、勾引状に関する六十四条二項及び三項を逮捕状に準用しています。これにより、被疑者の氏名が明らかでないときは、人相、体格その他その人を特定するに足りる事項によって指示することができ、住居が明らかでないときは記載を要しないとされています。
氏名の欄が通常と異なる書き方になっていたり、住居の欄が空いていたりする場合があるのは、こうした規定があるためです。ただし、そこに書かれた特定の仕方が自分に当てはまるかどうかは、書面を見ただけでは判断が付きません。違和感がある場合でも、その場で押し問答をするのではなく、弁護人に伝えて確認してもらう流れが現実的です。
被害を申告した人の氏名が伏せられた書面が示されることがある
令和六年二月から、刑事手続のなかで被害を申告した人などの氏名や住所を被疑者に知らせないための仕組みが設けられています。逮捕の場面については刑事訴訟法二百一条の二に定めがあります。
この規定により、捜査機関の請求を受けた裁判官は、逮捕状の発付と同時に、対象となる人の個人特定事項を明らかにしない方法で被疑事実の要旨を記載した逮捕状の抄本その他の逮捕状に代わるものを交付することができます。この交付があったときは、逮捕状そのものではなく、この書面を示して逮捕することができます。
裁判所の参考書式でも、逮捕状の冒頭に「逮捕状に代わるものの交付あり」というチェック欄が設けられています。示された書面の氏名欄などが伏せられている場合、書き漏らしではなく、この仕組みによるものであることがあります。
伏せられていても手続は進む
相手方の氏名が分からないままでは何もできないと感じられるかもしれませんが、弁護人が付いた後の対応や、示談を検討する場面でも、氏名を伏せたまま進める運用が用意されています。個別の進め方は事案によって異なるため、早い段階で弁護人と共有しておくことになります。
紙を見ないまま逮捕が始まる場合がある
刑事訴訟法二百一条一項は、逮捕状により被疑者を逮捕するには逮捕状を示さなければならないと定めています。もっとも、同条二項が準用する七十三条三項により、令状を所持していないために示すことができず、急速を要するときは、被疑事実の要旨と令状が発せられている旨を告げて逮捕することができるとされています。これを緊急執行といいます。
この場合でも、令状はできる限り速やかに示さなければならないとされています。書面を見せられないまま手続が始まったとしても、後で示される前提になっているということです。
緊急逮捕とは別の話
緊急執行は、逮捕状が既に発付されている場面の話です。逮捕状が発付されていない段階で一定の重い罪について逮捕し、その後に逮捕状を求める緊急逮捕とは仕組みが異なります。呈示がなかったことだけをもって、どちらの手続なのかを判断することはできません。
逮捕状に書かれていないこと
書面の読み方を考えるうえでは、そこに書かれていない事柄を押さえておくことも同じくらい大切です。
| 逮捕状に書かれていること | 逮捕状に書かれていないこと |
|---|---|
| 罪名 | 適用される条文や法定刑 |
| 被疑事実の要旨 | 捜査機関が集めた証拠の中身 |
| 引致すべき場所 | 勾留されるかどうかの見通し |
| 有効期間と発付の年月日 | 起訴されるかどうかの見通し |
| 許可した裁判官の記名押印 | 共犯とされる人がいるかどうか |
| 請求した捜査官と逮捕した捜査官の官公職氏名 | 被害を申告した人との連絡方法 |
罪名の欄から刑の重さを推し量りたくなりますが、書面が示しているのは、その時点で捜査機関が主張し、裁判官が逮捕を許可した範囲にとどまります。後の捜査で罪名が変わることもあります。
写しをもらえるのか
刑事訴訟法二百一条一項が求めているのは、逮捕状を「示す」ことです。写しを交付する、あるいは撮影させるといった規定は置かれていません。実務でも、その場で控えを渡される取扱いにはなっていないのが通常です。
加えて、逮捕状は有効期間が経過した後や、逮捕の必要がなくなったときには裁判所に返還される書面です。手元に残る性質のものではないという前提で、読める範囲を落ち着いて見ておくことになります。
その場で見ておくと後で役に立つ点
限られた時間のなかで書面を読むことになるため、見る順番をあらかじめ決めておくと整理しやすくなります。
・書面の表題が逮捕状となっているか、それとも捜索差押許可状など別の令状か。
・罪名の欄に何と書かれているか。
・引致すべき場所として、どこの警察署などが書かれているか。
・有効期間として、いつまでの日付が書かれているか。
・冒頭に、逮捕状に代わるものの交付があった旨の表示が付いていないか。
これらは、後から弁護人に状況を伝えるときの手掛かりになります。家族がその場にいた場合は、家族が覚えている内容も同じように役立ちます。
避けたい対応
書面の内容に納得できないときでも、その場での実力行使は状況を悪くします。次のような対応は避けたほうがよいといえます。
・示された書面を取り上げたり、破ったりすること。
・押し問答になり、手や体で押し返すこと。
・内容を読まないまま、示された書類に署名すること。
・記憶があいまいなまま、事実関係をその場で細かく説明すること。
書面の適法性をめぐる問題は、その場で決着する種類のものではありません。争点になり得る事情があるとしても、記録に残して後から検討する方が実際的です。
家族がその場に居合わせたとき
逮捕の直後は、家族が本人と面会することは通常できません。連絡が取れないまま時間だけが過ぎることが多く、状況が分からないことによる負担が大きくなりがちです。
その場で見た罪名、連れて行かれた警察署、逮捕された時刻をメモしておくと、弁護士に相談する際の出発点になります。当事務所では初回無料相談を二十四時間受け付けており、状況によっては即日の接見にも対応しています。
まとめ
・逮捕状の記載事項は刑事訴訟法二百条一項に定められている。
・書面の下半分は逮捕の後に記入される欄で、呈示の時点では空欄のことがある。
・被疑事実の要旨は「別紙のとおり」と書かれ、その紙だけでは事実の中身を読み取れない場合がある。
・被害を申告した人の氏名などを伏せた、逮捕状に代わるものが示されることがある。
・逮捕状は示されるだけで、写しが渡される仕組みにはなっていない。
・見通しに関する事柄は書面に書かれておらず、読み取れる範囲には限りがある。
書面から分かることには限界がある一方で、そこに書かれた罪名や引致すべき場所は、その後の見通しを立てるうえでの重要な材料になります。読み取れた範囲を早い段階で弁護人と共有することが、次の対応につながります。


