【ストーカートラブル】勤務先に配慮を求める|勤務地や勤務時間の変更

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は2026年10月時点の法令に基づいています。ストーカー規制法は令和7年法律第83号による改正で、被害を受けている方を雇用する者が「援助に努める主体」に加えられました(2025年12月30日施行)。警察が第三者に情報提供を控えるよう求める仕組み(同法6条2項)は、2026年3月10日から施行されています。


相談の場では、「相手が職場を知っているので異動を願い出たい。ただ、事情を話したら会社にいづらくなるのではないか」という声をよく伺います。反対に、「会社には詳しく話したくないが、退勤時間に待たれているのでシフトだけでも変えてもらえないか」と、事情を伏せたまま調整できないかを尋ねられることもあります。

 ストーカー被害への対策としては、警察への相談や転居がよく取り上げられます。それ自体は大切な手段ですが、平日の多くの時間を過ごす職場は、自宅ほど簡単には動かせません。2025年12月の法改正で、勤務先も被害を受けている方への援助に努める立場に位置付けられました。ただ、具体的に何をするかまでは法律に書かれておらず、どのような配慮をどのように頼むかによって、会社の受け止め方も変わってきます。

 この記事では、従業員の立場から勤務先に勤務地や勤務時間の変更を求める場面に絞って、法的な足がかり、求める内容の組み立て方、会社への伝え方、情報の管理を整理します。会社側が従業員を守るためにとる対応は【ストーカートラブル】職場や店舗で客からつきまとわれる|従業員を守るために会社ができることで、職場への電話や押しかけそのものへの法的な対応は元恋人が職場へ電話・押しかけ|会社を巻き込む嫌がらせへの対応で扱っていますので、あわせてご覧ください。

勤務先に配慮を求めるための法的な足がかり

 勤務先に配慮をお願いするとき、個人的なお願いとして伝えるのと、法律上の位置付けを踏まえて伝えるのとでは、会社側の受け止め方が変わることがあります。ここでは、根拠になり得る3つの法律を整理します。

ストーカー規制法の改正で、勤務先が「援助」の担い手に加わった

 ストーカー規制法は、ストーカー行為等が行われているとき、その地域の住民に加えて、被害を受けている方を雇用する者や、在学先の学校の長も、被害を受けている方への援助に努めるものと定めています(ストーカー規制法9条3項)。勤務先と学校が加わったのは令和7年の改正によるもので、2025年12月30日から施行されています。

 警察の広報では、この援助の例として、勤務場所や時間といった勤務形態への配慮が挙げられています。また警察庁の通達は、被害に気づいたときや緊急時の速やかな通報、警察に引き継ぐまでの一時的な保護といった援助が得られるよう、勤務先などとの連携を図る方針を示しています。

 もっとも、この規定は努力義務であり、特定の措置を会社に義務付けるものではありません。法律が「何をするか」を決めていない以上、どのような配慮をどの範囲で求めるかを、相談する側で具体的に示すことが話を進める出発点になります。

会社の安全配慮義務

 使用者は、労働者が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をするものとされています(労働契約法5条)。職場の付近で待ち伏せをされている、勤務先に繰り返し電話がかかってくるといった事情を会社が知った場合、その危険の程度に応じた措置を検討することは、この義務の内容として考えられます。

 ただし、具体的にどの措置をとるかは会社の判断に委ねられる部分が大きく、本人が希望した異動先や勤務時間がそのまま実現するとは限りません。危険の程度と業務への影響とのバランスの中で、調整していくことになります。

相手が同じ職場の人である場合

 つきまといをしている相手が上司や同僚で、性的な言動にあたるものについては、会社はセクシュアルハラスメントへの対応として必要な措置を講じる義務を負います(男女雇用機会均等法11条1項)。厚生労働省の指針は、事実関係が確認された場合の措置の例として、被害を受けた方と行為者を引き離すための配置転換を挙げています。

 この場面では、被害を受けた方の側が異動しなければならないとは限らず、行為者の配置を変えるという選択肢もあります。また、相談したことを理由に解雇その他の不利益な取扱いをすることは禁じられています(同法11条2項)。

勤務地・勤務時間の変更として何を求めるか

 「配慮してほしい」とだけ伝えると、会社としても何をすればよいかが分かりにくくなります。変えたいもの(勤務地か、時間か)と、その狙い(相手に会わないためか、所在を知られないためか)を分けて考えると、求める内容を組み立てやすくなります。

求める変更主な狙いあわせて確認したい点
別の事業所・店舗への異動相手が知っている場所から離れる異動先が相手に推測されにくいか
在宅勤務・テレワーク出勤そのものを減らす自宅の住所を相手が知っているか
出退勤時刻の変更待ち伏せされやすい時間帯を避ける変更後の時刻が固定化しないか
シフト・担当業務の変更接客や外回りで姿を見せる機会を減らす賃金や評価への影響の有無


勤務地の変更

 相手が勤務先の場所を知っている場合、別の事業所や店舗への異動は有力な選択肢です。ただし、同じ会社の別拠点は、会社のウェブサイトや求人情報から相手にも調べやすい場所です。異動先を選ぶ際は、相手の生活圏や、以前に相手と話題にしたことのある拠点かどうかも含めて検討する必要があります。

 勤務地を限定した雇用契約の場合や、異動に伴って通勤手当・賃金が変わる場合は、労働条件の変更として本人と会社の合意で行うことになります(労働契約法8条)。条件を変える場合は、その内容を書面で確認しておくと、後の行き違いを防げます。

勤務時間・シフトの変更

 退勤時刻に合わせて待たれている場合は、出退勤の時刻をずらす、早番・遅番の組み合わせを変える、決まった曜日のシフトをやめるといった調整が考えられます。時刻を一度変えるだけでは、新しい時刻を相手に把握される可能性があるため、一定の幅で変動させる運用を相談することもあります。

 勤務時間を短くする場合は、賃金が下がることがあります。安全のための措置であっても、収入への影響は生活に直結しますので、時間を短くするのか、時間帯だけを移すのかを分けて相談するとよいでしょう。

期間と元に戻す時期を決めておく

 配慮は、一時的なものとして始まることが多くあります。いつまで続けるのか、どの時点で見直すのかを最初に決めておくと、会社にとっても応じやすく、本人にとっても知らないうちに元の勤務に戻されるという事態を避けやすくなります。警察による警告や禁止命令の有無、相手の動きが止まっているかどうかを、見直しの目安にする方法があります。

会社にどこまで話し、何を示すか

 配慮を求めるには、一定の事情を会社に伝える必要があります。ただ、被害の経緯をすべて話さなければならないわけではありません。伝える相手、伝える内容、示す資料を分けて考えます。

伝える相手を絞る

 最初に話す相手は、人事担当者、直属の上司、社内のハラスメント相談窓口などから、信頼できる人を選ぶのが一般的です。そのうえで、この件を知る人を最小限にしてほしいことを、はっきり伝えておくことが大切です。

 会社が従業員の個人情報を本人の同意なく第三者に提供することは、原則として制限されています(個人情報保護法27条1項)。とはいえ、社内で誰に共有するかは会社の運用に委ねられる部分があるため、共有の範囲を申し出の段階で一緒に決めておくと安心です。

被害を示す資料

 会社としては、事情の深刻さを確認できる資料があると、異動などの判断がしやすくなります。警察で警告や禁止命令が出ている場合には、援助の申出をすると、その実施を明らかにする書面(行政措置実施証明書)の交付を受けられます(ストーカー規制法施行規則16条7号)。この書面は、被害を受けている方が事業者などに協力を求める際に使うことを想定したもので、特段の必要がない限り、相手の氏名や住所は記載しない運用とされています。

 警告などにまだ至っていない段階では、相談した警察署と部署、相談日を伝える方法があります。メッセージの画面や通話履歴などの記録を見せる場合も、すべてを渡すのではなく、配慮の必要性が伝わる部分に絞って示すことが考えられます。

申し出は記録に残る形で

 口頭で相談した場合も、後からメールなどで要点を送っておくと、何を求め、会社がどう答えたかが残ります。申し出には、次のような項目を入れておくと伝わりやすくなります。

  • つきまといを受けていることと、職場や通勤経路に関わる事情の概要。
  • 警察への相談状況と、警告・禁止命令の有無。
  • 求める措置の内容(異動先の希望、勤務時間帯、在宅勤務など)。
  • 措置を続けたい期間と、見直しの時期の目安。
  • 社内で事情を共有してよい範囲と、外部からの問い合わせへの対応の希望。


勤務地や時間を変えるだけでは足りない情報の管理

 異動や時間の変更をしても、その情報が相手に伝われば効果は薄れてしまいます。配慮の中身として、会社の情報の出し方を見直してもらうことも検討してください。

在籍や異動先を外に出さない

 相手が家族や取引先を名乗って電話をかけ、在籍や異動先を確かめようとすることがあります。受付や代表電話で、個人の在籍・所在・出勤予定には答えない運用にしてもらうと、こうした確認を防ぎやすくなります。社員紹介のページ、会社のSNS、名刺やメールの署名に載っている情報も見直しの対象です。

 ストーカー規制法は、ストーカー行為等をするおそれがある者だと知りながら、その者に被害を受けている方の勤務先などの情報を提供することを禁じています(ストーカー規制法6条1項)。さらに2026年3月10日からは、警告や禁止命令が出ている場合に、情報を提供するおそれのある者に対して、警察が提供しないよう求めることができるようになりました(同条2項)。

社内のシステムや人事の連絡にも痕跡が残る

 社内チャットの所属表示、共有カレンダー、人事異動の社内告知、取引先への担当者変更の連絡などから、異動先が広まることがあります。相手が社内の人やその知人である場合は特に、異動の事実をどこまで、どのような形で知らせるかを会社と事前に調整しておくことが重要です。

 自宅の住所を知られないための対策は引っ越したのに住所を突き止められた|居場所を知られない対策で、スマートフォンや共有サービスからの情報の漏れについては【ストーカートラブル】スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるで整理しています。

職場の近くで相手を見かけたときの動き方

 勤務先の周辺で相手を見かけた場合に、誰に知らせ、誰が110番をするのか、どこで待機するのかを、あらかじめ決めておくと慌てずに済みます。警察庁の通達も、勤務先などの援助の例として、緊急時の速やかな通報や、警察に引き継ぐまでの一時的な保護を挙げています。

会社が応じない、扱いに不安があるとき

応じられない理由と代わりの案を確認する

 異動先に空きがない、シフトを組み替えると業務が回らないなど、会社側にも事情があることがあります。希望どおりにならない場合でも、理由を聞いたうえで、時間帯だけを変える、一定期間は在宅勤務を併用するなど、別の形で実現できる部分がないかを相談する余地があります。

申し出を理由とする不利益な扱い

 被害を相談したことを理由に評価を下げられた、退職を促されたといった対応があれば、日時と内容を記録しておいてください。退職を勧められても応じる義務はなく、解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠く場合には無効とされます(労働契約法16条)。相手が社内の人で性的な言動を伴う場合は、男女雇用機会均等法11条2項の不利益取扱いの禁止も問題になります。

相手を止める手続と並行して進める

 勤務先の配慮は、あくまで被害を受けにくくするための手段です。相手の行為そのものを止めるには、警察による警告・禁止命令や、裁判所の仮処分といった手続を並行して検討することになります。それぞれの使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで解説しています。

 弁護士が代理人として相手との窓口になると、本人が直接やり取りをせずに済み、会社への説明も整理しやすくなります。当事務所でも、【解決事例】警察に相談しても止まらなかった職場への押しかけが、弁護士の迅速な介入により約2週間で解決した事例があります。代理人を立てる意味については【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味をご覧ください。

よくあるご質問

被害の詳しい内容まで会社に話さなければなりませんか。

 すべてを話す必要はありません。配慮を求めるために必要なのは、職場や通勤に関わる危険があること、警察に相談していること、求める措置の内容といった範囲です。交際していた経緯などの私的な事情は、話したくなければ伏せたまま相談を進めることも考えられます。

会社が配慮に応じないのは違法になりますか。

 ストーカー規制法9条3項の援助は努力義務であり、応じないことが直ちに違法になるわけではありません。ただし、危険を知りながら措置を検討しなかった結果として被害が生じた場合には、安全配慮義務(労働契約法5条)の問題として会社の責任が問われる余地があります。まずは求める措置を具体的に示し、会社が検討できる材料をそろえることが現実的です。

パートや派遣で働いていても配慮を求められますか。

 求めることはできます。ストーカー規制法の「雇用する者」は、正社員の勤務先に限られません。派遣で働いている場合、雇用主は派遣元ですが、実際に働く場所は派遣先ですので、派遣元の担当者に事情を伝え、派遣先との調整を依頼する形が考えられます。

まとめ


  1. 勤務先は、被害を受けている方への援助に努める立場に位置付けられている(ストーカー規制法9条3項、2025年12月30日施行)。
  2. 会社には、労働者が安全を確保しながら働けるよう配慮する義務がある(労働契約法5条)。
  3. 相手が社内の人で性的な言動を伴う場合、行為者側の配置転換も選択肢になる(男女雇用機会均等法11条1項)。
  4. 異動や時短に伴って労働条件が変わる場合は、合意の内容を書面で確認しておく(労働契約法8条)。
  5. 警告や禁止命令が出ていれば、相手の氏名などを記載しない行政措置実施証明書を会社に示せる(ストーカー規制法施行規則16条7号)。
  6. 勤務先などの情報を、ストーカー行為等をするおそれのある者に提供することは禁じられている(ストーカー規制法6条1項)。
  7. 勤務先の配慮と並行して、警告・禁止命令や仮処分で相手の行為を止める手続を検討する。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。勤務先への伝え方や、警察・裁判所の手続との組み合わせについても、状況を伺ったうえで一緒に整理します。

職場を知られていて通勤や勤務に不安がある方、会社に相談したものの話が進まない方は、一人で抱え込まずにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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