【ストーカートラブル】被害がおさまった後からでも、告訴はできる?
夜中に、交際を断った相手や別れた元恋人が自宅の前に立っているのに気づいたとき、「この程度で110番してよいのか」「大げさだと思われないか」とためらう方は少なくありません。この記事では、夜中に相手が家の前に来た場面で110番をしてよいのか、通報の際に何を伝え、警察官が来るまでどう過ごし、翌日以降に何をしておくとよいのかを、順を追って整理します。
この記事は、2025年12月30日に施行された改正ストーカー規制法(警察の職権による警告の創設など)を踏まえた内容です。個別の行為が規制の対象になるかどうかは、行為の態様やそれまでの経緯によって判断が分かれます。
夜中に相手が家の前に来たときは、110番してかまいません
110番は、事件や事故が起きている、または起きるおそれがあり、すぐに警察官に来てもらう必要がある場面のための緊急通報です。交際を断った相手や関係を終えた相手が、夜中に連絡もなく自宅の前に現れ、身の危険や不安を感じている状況は、その場で警察官に駆けつけてもらう必要がある場面に当たり得ます。
各地の警察も、ストーカー被害について、危険を感じたときや自宅周辺で不審な状況に気付いたときは110番通報するよう案内しています。結果として相手がすぐに立ち去ったとしても、通報したこと自体が間違いだったということにはなりません。「何かされてから」ではなく、「何か起きるかもしれない」と感じた段階で呼んでよい、と考えておくと判断しやすくなります。
110番と#9110の使い分け
| 窓口 | 使う場面 | 主な対応 |
|---|---|---|
| 110番 | 今まさに相手が家の前にいる、危険を感じている | 警察官がその場に駆けつける |
| #9110(警察相談専用電話) | 相手は今いないが、これまでの出来事を相談したい | 最寄りの警察の相談窓口につながる |
| 警察署の生活安全課 | 継続的な被害として相談し、警告などを求めたい | 事情の聴取、警告・禁止命令の検討、防犯指導 |
#9110は緊急の通報先ではありません。相手が家の前にいる最中に#9110へかけると、かえって時間がかかることがあります。目の前で状況が動いているときは110番、落ち着いてから経緯を相談するときは#9110や生活安全課、と分けて考えてください。
家の前に来る行為は法律上どう扱われるか
相手が家の前に来ることが法律上どのように扱われるかは、相手との関係、来た目的、来たときの様子、それまでの経緯によって変わります。ここでは、主に問題になり得る規定を整理します。
ストーカー規制法の「押し掛け」「見張り」「うろつき」
ストーカー規制法は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的で、特定の相手やその家族などに対して行う一定の行為を「つきまとい等」として規制しています(同法2条1項)。住居の付近で見張りをすること、住居に押し掛けること、住居の付近をみだりにうろつくことも、その一つに挙げられています(同項1号)。
元恋人や交際を断った相手が夜中に家の前で待っている、何度も前を行き来している、インターホンを押し続けるといった行為は、この類型に当たる可能性があります。なお、この類型が「ストーカー行為」として処罰の対象になるのは、身体の安全や住居の平穏などが害される不安を覚えさせるような方法で繰り返し行われた場合とされています(同条4項)。
敷地や共用部分に入ってきた場合
相手が門の内側や玄関先の敷地、マンションのオートロックの内側の共用部分にまで入ってきた場合には、住居侵入罪(刑法130条)が問題になることもあります。ドアを強くたたく、大声で怒鳴る、物を壊すといった行為が加われば、ほかの罪名が検討される場面もあります。どの罪に当たるかを通報する側が判断する必要はありません。見えている事実をそのまま伝えれば足ります。
一度きりでも相談の対象になる
「家に来たのは今回が初めてだから、ストーカーとは言えないのでは」と迷う方もいます。ストーカー規制法では、一回ごとの行為を「つきまとい等」、それを繰り返すことを「ストーカー行為」として区別しています。一度きりであっても、つきまとい等に当たり得る行為があれば、警察は相手への警告などを検討することがあり、改正法により、被害者からの申出がなくても警察が職権で警告できる仕組みも設けられました。両者の違いは連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いで詳しく解説しています。
110番するか迷ったときの目安
次のような事情がある場合は、迷わず110番することを考えてください。
- 相手から以前に暴力や脅すような言葉を受けたことがある。
- ドアをたたく、インターホンを何度も押す、大声を出すなどの行動がある。
- 敷地内や建物の中に入ってきている。
- 声をかけても、または時間がたっても立ち去らない。
- 刃物などを持っているように見える、酒に酔っている様子がある。
- 警察からすでに警告や禁止命令が出ている。
- 一人暮らしで、頼れる人がすぐ近くにいない。
これらに当てはまらなくても、怖いと感じているのであれば通報してかまいません。相手が家の前に「いるだけ」に見えても、夜中に何の連絡もなく訪ねてくること自体が、住んでいる人にとっては大きな不安になります。警察官に来てもらい、その場の状況を確認してもらうこと自体に意味があります。
通報するときに伝えること
通報では、オペレーターの質問に答えていく形で話が進みます。うまく話せなくても、次の点を順に伝えるようにすると、状況が伝わりやすくなります。
- 自宅の住所(マンションであれば建物名と部屋番号)。
- 今起きていること(家の前に人が立っている、ドアをたたいているなど)。
- 相手が誰か(元交際相手、交際を断った相手など、分かる範囲)。
- 相手の様子(人数、服装、刃物などの有無、酒に酔っているか)。
- 自分が今どこにいて、誰と一緒にいるか。
- これまでに警察へ相談したことがあるか。
相手の名前や関係が分かっている場合は、それも伝えてください。過去に同じ警察署へ相談していれば、その記録と結びつけて対応してもらえることがあります。
警察官が到着するまでの過ごし方
警察官が来るまでの間は、自分の安全を守ることを最優先にしてください。
- 玄関のドアを開けず、外に出て相手と話をしないようにします。
- 玄関や窓の鍵がかかっているかを確かめ、相手から見えにくい部屋に移ります。
- インターホン越しやドア越しに、相手の言葉に応じたり言い返したりしないようにします。
- 室内から安全にできる範囲で、インターホンの録画や防犯カメラの映像を残します。
- 家族や知人に電話をつなぎ、状況を知ってもらいます。
証拠を残すことは後の手続で役に立ちますが、そのために外へ出て相手を撮影したり、窓を開けて呼び止めたりする必要はありません。防犯カメラの映像の扱い方は【ストーカートラブル】防犯カメラの映像を証拠にする|設置と保存の注意点、マンションでの備えは【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることで解説しています。
警察官が来た後と、翌日以降にすること
その場での対応
警察官が到着すると、まず状況を聞かれます。相手がその場にいれば、警察官が相手から事情を聞き、立ち去るよう求めたり、注意をしたりすることがあります。相手がすでに立ち去っていても、何時ごろ、どのような様子だったかを説明しておくことで、記録が残ります。相手がその場で逮捕されるかどうかは、行為の内容や証拠の状況によって異なり、通報すれば必ず逮捕されるというものではありません。
記録を残す
翌日以降に備えて、通報した日時、来てくれた警察官の所属する警察署、相手がいた時間や様子をメモしておくと役に立ちます。インターホンや防犯カメラの映像は、上書きされる前に保存してください。記録の作り方は証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはで整理しています。
生活安全課への相談と、警告・禁止命令
110番でその場が収まった後も、相手がまた来るおそれがあるときは、警察署の生活安全課に継続的な被害として相談しておくことが考えられます。相談の結果、相手に警告が出されたり、禁止命令が検討されたりすることがあります。差し迫った危険があるときには、相手から事前に意見を聞く手続を経ずに出される緊急の禁止命令という仕組みもあります。詳しくは【ストーカートラブル】緊急の禁止命令とは|聴聞を経ずに出る場面をご覧ください。
110番緊急通報登録システム
都道府県警察によっては、ストーカー被害などを受けている方の情報をあらかじめ登録しておき、110番をしたときにすぐ状況を把握できるようにする仕組みが設けられています。生活安全課に相談する際に、利用できるかを尋ねてみるとよいでしょう。
弁護士に相談することでできること
110番や警察への相談は、その場の安全を確保するうえで欠かせない手段です。そのうえで、相手が誰か分かっている場合には、弁護士が代理人として相手に書面を送り、今後の連絡や訪問をやめるよう求め、連絡の窓口を弁護士に一本化することが考えられます。相手と直接やり取りせずに済むようになるため、家の前で待たれる、連絡が続くといった状況を、警察の対応と並行して整理していくことができます。
相手がそれでも接近をやめない場合には、裁判所に接近禁止の仮処分を申し立てることや、慰謝料などの請求を検討することもあります。警察での手続と民事の手続の使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分け、代理人を立てる意味は【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で解説しています。
よくあるご質問
相手が家の前に立っているだけでも、110番してよいですか
はい、かまいません。夜中に連絡もなく自宅の前に現れること自体が、住んでいる人にとっては不安を覚える状況です。何もされていない段階でも、警察官に来てもらって状況を確認してもらうことができます。
通報したことで、相手を刺激してしまわないか心配です
通報をためらう理由として多く聞かれる心配です。ただ、相手の訪問に一人で対応を続けると、かえって状況が長引くことがあります。通報の後は、生活安全課への相談や弁護士からの通知などを組み合わせ、相手との接点を減らしていく方向で考えることが大切です。相手を刺激しない関わり方についてはストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方も参考にしてください。
相手が帰った後でも、警察に連絡してよいですか
はい。相手がすでに立ち去っていて差し迫った危険がない場合は、#9110や最寄りの警察署に連絡して経緯を伝えてください。ただし、相手が近くに戻ってきている様子があるなど、再び危険を感じる状況であれば、その時点で110番してかまいません。
夜中に相手が家の前に来たときは、まず自分の安全を守ることを優先し、ためらわずに110番してかまいません。そのうえで、記録を残し、警察での継続的な相談や弁護士への相談を組み合わせることで、同じことが繰り返されないよう備えていくことができます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


