【ストーカートラブル】家族がストーカー被害に遭っている|家族が代わりに相談するとき
この記事は、2026年10月時点の法令に基づいています。ストーカー規制法は令和7年法律第83号により改正され、2025年12月30日から、被害者を雇用する者が被害者への援助に努める立場に加えられています(同法9条3項)。
上司から何度も食事に誘われ、断っても誘いが続いている。同僚から業務と関係のない連絡が毎日のように届き、帰りの時間に合わせて声をかけられる。職場の人間関係を考えると強く言えず、かといって会社に相談すれば大ごとになりそうで踏み出せない、というご相談をいただくことがあります。
こうした場面では「会社のハラスメント窓口に相談しましょう」と案内されることが多く、その案内自体は誤りではありません。ただ、会社に伝えた後に何が動き出すのか、伝える前に何を整えておくとよいのかは、あまり説明されていません。会社への相談は一度動き出すと元に戻しにくく、伝え方によって、その後の働き方が大きく変わることがあります。
この記事では、職場の上司・同僚からの執拗な好意について、会社に伝える前に整理しておきたいことを順に説明します。お客様からつきまとわれる場面で会社ができることは別の記事で、元交際相手からのつきまといは各記事で扱っていますので、あわせてご覧ください。
【ストーカートラブル】職場や店舗で客からつきまとわれる|従業員を守るために会社ができること
会社に伝える前に、いま起きていることを整理する
好意を伝えることと、断られた後も続けることは別に評価される
同じ職場で好意を持つこと、それを一度伝えること自体が、直ちに法的な問題になるわけではありません。問題になりやすいのは、断られた後も誘いや連絡が続く場合や、仕事上の立場を背景に断りにくい状況がつくられている場合です。
そのため、「好意を示されたこと」よりも「断った後に何が続いているか」に目を向けて整理すると、会社や専門家に説明するときにも伝わりやすくなります。
食事やデートへの執拗な誘いは、セクハラの例としても挙げられている
職場のセクシュアルハラスメントについて、男女雇用機会均等法は、事業主に相談体制の整備などの措置を講じることを義務付けています(男女雇用機会均等法11条1項)。厚生労働省の資料では、「性的な言動」のうち性的な内容の発言の例として、食事やデートへの執拗な誘いが挙げられています。
身体への接触や性的な発言がないから相談できない、と考える必要はありません。断っても繰り返される誘いは、それ自体がセクハラとして扱われる可能性があります。身体への接触がある場合の考え方は、次の記事で説明しています。
職場でのボディタッチ|セクハラと不同意わいせつの境界
ストーカー規制法は「勤務先」での待ち伏せや業務外の連絡も対象にしている
ストーカー規制法は、好意の感情などを満たす目的で行われる一定の行為を「つきまとい等」として規制しています。条文には、勤務先の付近での見張りや押し掛け(ストーカー規制法2条1項1号)、行動を監視していると思わせることを告げる行為(同項2号)、面会や交際の要求(同項3号)、拒まれたにもかかわらず連続して電話やメッセージを送る行為(同項5号)などが並んでいます。
同じ職場にいる以上、顔を合わせることや業務上の連絡は避けられません。判断の分かれ目になるのは、業務上の必要がないのに繰り返されているかどうかです。連絡の回数や、どこからが「ストーカー行為」になるのかについては、次の記事も参考になります。
連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違い
三つの枠組みを並べると、次のようになります。
| 枠組み | 主に問題にする行為 | 会社との関係 |
|---|---|---|
| セクシュアルハラスメント(男女雇用機会均等法11条) | 意に反する性的な言動。食事やデートへの執拗な誘いも例に挙がる | 事業主に、相談への対応や事後の適切な対応などの措置義務がある |
| パワーハラスメント(労働施策総合推進法30条の2) | 優越的な関係を背景にした、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動 | 事業主に、同様の措置義務がある |
| ストーカー規制法 | 好意の感情などを満たす目的のつきまといや、拒まれた後の連続した連絡など | 勤務先は被害者への援助に努める立場(同法9条3項)。警察による警告や禁止命令の対象となる |
上司から断った後に仕事上の扱いが変わった、たとえば担当を外された、必要以上に業務へ干渉されるようになったという場合は、パワーハラスメントの観点からも整理できます。一つの枠組みに絞る必要はなく、重なっている部分を把握しておくことが、会社への伝え方を考える手がかりになります。
会社に伝えると何が動き出すのか
事実確認のために、相手から事情を聞くのが通常の流れ
会社がハラスメントの相談を受けると、事実関係を確認するために、相談者だけでなく相手からも事情を聞くのが通常の流れです。つまり、会社に相談すれば、相談したことは相手に伝わることを前提に考えておく必要があります。
相手が事情を聞かれた後、態度が硬くなったり、周囲に自分に都合のよい説明をしたりすることもあります。会社に伝える前に、そうなった場合に自分の安全や業務が守られるか、どのような手当てを会社に求めるかを考えておくと、相談後の動きに振り回されにくくなります。
法改正で、勤務先は警察との連携を求められる立場になった
2025年12月30日から、ストーカー規制法により、被害者を雇用する者が被害者への援助に努める立場に加えられました(ストーカー規制法9条3項)。会社に対応を求める際の手がかりになる改正です。
もっとも、警察庁が勤務先向けに作成した資料では、この改正は勤務先に具体的な措置を義務付けるものではないと説明されています。そのうえで、従業員の被害を知った場合には速やかに警察へ相談すること、被害者の氏名などの情報管理に配慮すること、勤務形態に配慮することなどへの協力を求めています。
ここから分かるのは、ストーカーの被害として会社に伝えた場合、会社が警察に相談する方向で動く可能性があるということです。警察への相談を望むかどうか、望む場合に自分で行くのか会社と一緒に行くのかについて、自分の考えを先に固めておくと、会社との話がかみ合いやすくなります。
配置の調整は、自分の側に及ぶこともある
会社が二人の接触を減らそうとする場合、座席や担当、勤務時間の調整などが検討されます。このとき、相手が管理職である場合や業務の代わりがききにくい場合には、異動や担当変更の対象が相談した側になることがあります。
自分が異動することを望まないのであれば、その旨を相談の段階ではっきり伝えておくことが大切です。逆に、部署を離れることで安心して働けるのであれば、それを希望として伝える方法もあります。
伝える前に整えておきたい3つのこと
断ったことが後から分かる形にしておく
ストーカー規制法のうち連続した連絡を対象とする類型は、「拒まれたにもかかわらず」行われることが条件の一つになっています(ストーカー規制法2条1項5号)。職場では角が立たないよう曖昧に返事をしたり、既読のまま返さずにいたりすることが多いのですが、それでは断った事実が後から確認しにくくなります。
業務上の連絡は拒めないため、業務とそれ以外を区切って伝えるのが現実的です。たとえば、次のような伝え方が考えられます。
- 業務と私的な内容を区切る場合=「業務のご連絡には引き続き対応しますが、業務と関係のないお誘いやご連絡は控えていただけますか」と伝える。
- 誘いをはっきり断る場合=「お食事のお誘いはお受けできません。今後もお受けすることはありません」と伝える。
理由を詳しく説明したり、相手の気持ちに反論したりする必要はありません。社内チャットやメールなど内容が残る手段で伝え、画面を保存しておくと確実です。口頭で伝えた場合は、その日のうちに、日時・場所・伝えた言葉をメモに残しておいてください。
日付順の記録を1枚にまとめる
会社に説明するときも、警察や弁護士に相談するときも、日付順に整理された記録があると話が早く進みます。次のような項目を、分かる範囲で並べていきます。
- いつ、どこで、どのような誘い・連絡・待ち伏せがあったか。
- 自分がどのように断ったか、断った後に何が続いたか。
- 業務上の必要があったかどうか、そのときの業務の状況。
- 見ていた同僚がいたかどうか。
- 仕事上の扱いの変化や、体調への影響があったか。
メッセージの画面保存は、送信日時と相手の名前が写る形で残しておくと、後から確認しやすくなります。記録の残し方と、相手を刺激しない距離の取り方は、次の記事で詳しく説明しています。
ストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方
A4一枚の時系列メモの作り方|相談の質を決める1枚
会社に求めること・求めないことを書き出す
「困っています」とだけ伝えると、会社としても何をすればよいのか判断しにくく、対応が進まないことがあります。相談の前に、会社に求めることを具体的に書き出しておくと話がまとまりやすくなります。
- 相手に、業務外の誘いや連絡をやめるよう注意してほしい。
- 座席・担当・シフトを調整し、二人きりになる場面を減らしてほしい。
- 自分の住所や連絡先、勤務予定を相手に伝えないよう管理してほしい。
- 事実確認を進めるときは、事前に知らせてほしい。
- 自分を異動の対象にすることは望まない。
情報管理については、ストーカー行為等をするおそれがある者だと知りながら、その者に被害者の氏名や住所などを提供することは、法律で禁じられています(ストーカー規制法6条1項)。シフト表や社内名簿など、相手が見られる情報の扱いもあわせて相談するとよいでしょう。
あわせて、「求めないこと」も整理しておきます。いまは注意だけにとどめてほしいのか、懲戒などの処分まで求めるのか、警察への相談を急いでほしいのか急がないでほしいのか。ここが定まっていると、会社が先回りして想定外の方向に動くことを防ぎやすくなります。
誰に、どのように伝えるか
相手が直属の上司なら、その上か人事・相談窓口へ
相手が直属の上司である場合、その上司に相談する必要はありません。さらに上の立場の方、人事部門、社内のハラスメント相談窓口などが相談先になります。社外の相談窓口を設けている会社もありますので、就業規則やハラスメント防止規程で窓口を確認しておくとよいでしょう。
社内の窓口の担当者が相手と親しい、同じ部署であるといった事情がある場合は、別の窓口を選ぶことも考えられます。
口頭で済ませず、相談した事実を残す
相談は面談で行うことが多いと思いますが、相談した日時、相手方の担当者、伝えた内容と求めたこと、会社の回答は、記録に残しておいてください。面談の後に「本日ご相談した内容の確認です」としてメールを送っておくと、いつ会社に伝え、会社がどう答えたかが後から確認できる形になります。
会社が対応しなかった場合や、対応が不十分だった場合に、次の手段を検討する材料になります。
相談したことを理由とする不利益な扱いは禁止されている
セクハラやパワハラについて相談したこと、事実確認に協力したことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをすることは禁止されています(男女雇用機会均等法11条2項、労働施策総合推進法30条の2第2項)。相談した後に評価や配置で不自然な変化があった場合は、その経過も記録しておいてください。
会社より先に動いたほうがよい場面
自宅や通勤経路にまで及んでいるとき
待ち伏せが職場の外に広がっている、自宅の近くで見かける、帰宅経路や休日の行動を言い当てられるといった場合は、社内の手続を待つより、警察への相談を先に考えたほうがよい場面です。身の危険を感じたときは、ためらわず110番通報をしてください。
ストーカー規制法に基づく警察の警告は、被害者の申出によるほか、2025年12月30日からは警察の職権でも行えるようになっています(ストーカー規制法4条1項)。警察による対応と、裁判所に接近を禁じる命令を求める手続との違いは、次の記事で整理しています。
接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分け
社内の窓口が相手に近い、または会社が取り合わないとき
相談しても「個人的なことだから」と取り合ってもらえない場合や、窓口が相手と近く安心して話せない場合は、社外の窓口を使う方法があります。セクハラやパワハラについては、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が相談を受け付けています。
会社の対応を待たなければ、警察や弁護士に相談できないわけではありません。会社への相談と並行して、あるいは会社に伝える前に、外部に相談しておくこともできます。
社内で広く話すことは控える
つらさを分かってほしい気持ちから、同僚に事情を広く話してしまうことがあります。しかし、事実関係が確認される前に社内で話が広がると、相手との間で別の争いが生じたり、会社の事実確認が進めにくくなったりすることがあります。
社内で話す相手は、相談窓口や信頼できるごく一部の方に限るほうが、結果として自分を守ることにつながります。
弁護士が関わる意味
会社への申入れを、整理された形で行う
弁護士に相談すると、起きていることがセクハラ・パワハラ・ストーカー規制法のどれに当たり得るかを整理したうえで、会社に何を求めるかを一緒に組み立てることができます。会社への申入れを代理人の名前で書面にすることで、会社が対応の必要性を受け止めやすくなる場合もあります。
相手本人への通知は、勤務への影響を見ながら判断する
相手に対し、業務外の連絡や接触をやめるよう求める通知を弁護士から送ることもできます。ただし、同じ職場で働き続ける前提がある場合は、業務上の連絡まで妨げないよう配慮が必要です。どこまで強い対応をとるかは、その後の勤務への影響も踏まえて決めることになります。
代理人を立てることで何が変わるのか、また同僚からのつきまといが止まった事例については、次の記事をご覧ください。
【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味
【解決事例】元同僚からのストーカー被害|弁護士の介入により付きまといを停止させ解決金100万円を受領した事例
よくあるご質問
以前に一度、食事の誘いに応じたことがあります。それでも相談できますか。
ご相談いただけます。一度応じたことがあっても、その後に断った以上、断った後も誘いや連絡が続いていることが問題になります。これからの分について、断ったことが分かる形で伝え、記録を残していくことが大切です。
相手に知られないように会社へ相談することはできますか。
会社が事実確認を進める場合、相手から事情を聞くことになるため、相談したことが相手に伝わらないまま対応してもらうことは難しいのが実情です。まずは相談だけにとどめ、事実確認に進むかどうかは改めて決めたいと伝える方法もあります。どの段階まで進めてよいかを、相談の最初に会社と確認しておいてください。
退職も考えています。辞める前にしておくことはありますか。
受け取ったメッセージの保存、日付順の記録、会社に相談した経過の記録は、退職前に手元に整えておいてください。退職した後も連絡が続く場合は、業務上の連絡という説明が成り立たなくなるため、ストーカー規制法の対象としてより判断しやすくなります。退職に至った経緯によっては、相手や会社の責任を検討できる場合もありますので、辞める前に一度ご相談ください。
まとめ
- 断られた後も続く誘いや業務外の連絡は、好意の伝え方の問題ではなく、法的に評価され得る行為です。
- 食事やデートへの執拗な誘いは、厚生労働省の資料でセクハラの例に挙げられています(男女雇用機会均等法11条1項)。
- ストーカー規制法は、勤務先付近での見張りや、拒まれた後の連続した連絡も対象にしています(ストーカー規制法2条1項1号・5号)。
- 2025年12月30日から、勤務先は被害者への援助に努める立場に加えられましたが、具体的な措置を義務付けるものではありません(同法9条3項)。
- 会社に伝えると相手にも事情が聞かれ、会社が警察に相談する方向で動く可能性もあるため、求めること・求めないことを先に整理しておきます。
- 相談したことを理由とする不利益な取扱いは禁止されています(男女雇用機会均等法11条2項、労働施策総合推進法30条の2第2項)。
- 職場の外に及んでいる場合や身の危険を感じる場合は、社内の手続を待たずに警察へ相談してください。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカーやつきまといに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。会社にどう伝えるか、警察と会社のどちらを先にするかといった段階からご相談いただけます。
職場の上司や同僚からの誘いや連絡に悩み、会社に伝えるべきか迷っている方は、記録がそろっていなくてもかまいません。いま分かっていることを整理するところから、一緒に考えていきます。


