【男女トラブル】同棲していた部屋の契約者が自分だけのとき、相手を退去させられる?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法(2020年4月施行の改正後の使用貸借・賃貸借の規定)、借地借家法、民事訴訟法、民事保全法、民事執行法、配偶者暴力防止法(2024年4月施行の改正を反映)に基づいて作成しています。賃貸借契約の内容や個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的なご判断は弁護士にご相談ください。


「同棲していた部屋は自分の名義で、家賃も自分が払ってきた。別れたのだから出ていってほしいのに、相手は『行く所がない』と言って動かない」。男女トラブルのご相談では、契約者の側からこうした声が寄せられます。反対に、契約者ではない側からは「別れた途端、今週中に出ていけと言われた」というご相談もあります。

 一般には「契約者が自分だけなら、相手を退去させられる」と説明されることがあり、最終的に退去を求められるという意味では、その説明は誤りではありません。ただ、契約者であることは大家との関係を示すものにすぎず、同居していた相手との関係はそれとは別に決まります。相手から家賃を受け取っていたか、大家にどう届け出ていたかによって、退去までの道筋や必要な期間は変わってきます。

 この記事では、契約者が自分だけの部屋について、相手を退去させられるのか、どの順序で進めればよいのかを、「相手との関係」と「大家との関係」の二つの面から整理します。退去を求める通知の出し方や裁判手続にかかる期間の目安は【男女トラブル】同棲していた部屋から相手が出ていかない|名義を貸した側にできることで、契約者ではない側の立場は【男女トラブル】相手名義の部屋に住んでいる|別れた後も住み続けられるかで扱っていますので、あわせてご覧ください。

「契約者は自分だけ」で決まること・決まらないこと

大家との関係では、部屋を借りているのは自分だけ

賃貸借契約は、大家と契約者の間で結ばれています。家賃を支払う義務も、退去時の原状回復の義務も、解約を申し入れる権利も、すべて契約者にあります。同居していた相手は契約の当事者ではなく、契約者が部屋を使う権利に依拠して住んでいるにすぎません。大家が部屋の明渡しを求める場面でも、同居人は独立した立場として扱われず、契約者に対する判決で足りるとされることが多いのはこのためです。

相手との関係は、一緒に住み始めたときの了解で決まる

一方で、契約者と相手との間には、同棲を始めるときに「ここに一緒に住んでいい」と認めた了解があります。家賃を受け取らずに住まわせていた場合、この了解は、無償で物を使わせる契約である「使用貸借」(民法593条)と整理されるのが一般的です。書面がなくても、口頭や事実上の了解で成立します。

 使用貸借は、期間も目的も定めていなければ、貸主はいつでも解除できます(同法598条2項)。同棲のように「二人で暮らすため」という目的があったと見られる場合は、目的に従った使用を終えた時に契約が終わり(同法597条2項)、使用に足りる期間が過ぎれば解除できるとされています(同法598条1項)。交際が終われば目的は失われたと評価されやすいものの、相手から「まだ終わっていない」と争われる余地もあるため、実務では、終わらせる意思をこちらから明確に伝え、転居先を探すのに必要な期間を置いて退去を求める形で進めるのが無理のない方法です。

 契約者であることは「最終的に退去を求められる立場にある」ことを意味しますが、「今日から出ていかせられる」ことまでは意味しません。この二つを分けて考えることが、出発点になります。

住民票・合鍵・契約書の「同居人」欄は、住む権利の根拠にはならない

相手が住民票をこの部屋に置いている、合鍵を持っている、契約書に同居人として名前が載っている、といった事情があっても、それだけで相手に契約者と同じ権利が生じるわけではありません。住民票は居住の事実を届け出るもの、同居人の欄は大家が入居者を把握するための記載、合鍵は契約者が渡したものにとどまります。ただし、住民票が残っていると郵便物の届け先などで後に行き違いが起きやすいため、退去の話し合いでは住民票を移す時期も決めておくとよいでしょう。この点は【男女トラブル】同棲解消後も住民票が同じ住所のまま、問題はある?で扱っています。

相手から家賃を受け取っていたかで、見通しが変わる

無償で住まわせていた場合

家賃も生活費も受け取らずに住まわせていた場合は、使用貸借と整理しやすく、退去を求める根拠は比較的はっきりしています。賃貸住宅の借主を保護する借地借家法は建物の賃貸借を対象としており(借地借家法1条)、無償の使用貸借には及びません。

家賃や生活費を分担してもらっていた場合

同棲では、家賃の半分や光熱費を相手が負担していることが少なくありません。こうした分担は、食費などと一緒に生活費を出し合う感覚で行われていることが多く、それだけで契約者と相手の間に賃貸借があったとは評価されにくいのが一般的です。使用貸借でも、借主は通常の必要費を負担するとされています(民法595条1項)。分担してきた経緯は、退去日の猶予や費用の清算を話し合う際の事情として考慮されることになります。

「家賃」として決まった額を受け取っていた場合

これに対し、「毎月○万円を家賃として払う」と取り決め、相場に見合う額を受け取っていたような場合には、契約者と相手の間に賃貸借(大家から見れば転貸借)があったと評価される余地があります。そうなると、相手との関係にも借地借家法が及び、解約の申入れから契約終了までの期間(同法27条)や、正当の事由(同法28条)が問題になり得るため、退去までに時間がかかることがあります。また、大家の承諾なく部屋を貸したと扱われれば、大家との関係で契約違反を問われるおそれもあります(民法612条)。

 おおまかな目安を整理すると、次のとおりです。

住まわせていた形相手との関係の整理の目安退去を求めるときの見通し
家賃も生活費も受け取らずに住まわせていた使用貸借終了の意思を伝え、相応の期間を置いて退去を求める
家賃や光熱費を分担してもらっていた多くは生活費の分担。使用貸借と整理されることが多い分担の経緯は、退去日や清算の協議で考慮される
「家賃」として決まった額を受け取っていた賃貸借(転貸借)と評価される余地がある借地借家法の規律が問題になり、時間がかかることがある
内縁・事実婚と評価される関係だった夫婦に準じた扱いが及ぶ場面がある財産の清算と一体で話し合う


 同じ「契約者が自分だけの部屋」でも、相手から何をどのような名目で受け取っていたかによって、退去までに必要な期間や手続の重さが変わります。内縁にあたるかどうかの判断は【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかをご覧ください。

退去を実現する道は三つある

どの道を選ぶかで、負う責任が変わる

「相手を退去させる」というと、相手に出ていってもらうことだけを思い浮かべがちですが、契約者が自分だけの部屋では、次の三つの道があります。

方法内容注意したい点
相手に出てもらう話し合いや裁判手続で相手の退去を実現し、自分が住み続ける合意できなければ、訴訟と強制執行が必要になる
自分が出て契約を終える自分が先に転居し、大家との契約を解約する相手が残っている限り、大家への明渡しの責任は契約者が負う
名義を相手に移す大家の承諾を得て相手が新たに契約し、自分が出る大家・保証会社の審査と、相手の協力が必要


相手に出てもらう場合

部屋に住み続けたいのであれば、この道が基本になります。相手が出ていかない理由が「転居費用がない」「次の部屋が見つからない」といった事情であれば、退去期限に猶予を持たせる、転居費用の一部を負担するなど、条件の調整で動くことがあります。その場合は、退去日と支払いの条件を結び付け、書面に残しておくことが大切です。

自分が出て解約する場合|順序を誤ると負担が残る

相手と同じ部屋で暮らし続けることがつらく、自分が先に部屋を出て契約を終わらせたいと考える方もいます。弁護士ドットコムにも、契約者が長く部屋に戻れないまま、解約して転居することを考えているという相談が寄せられています。

 ただ、解約しても相手が住み続けていれば、大家に対して部屋を明け渡す責任を負うのは契約者です。解約日を過ぎた後の賃料相当額を求められたり、明渡しの訴えを契約者が起こされたりするおそれがあります。管理会社によっては、人や物が残った状態での解約を受け付けないこともあります。解約を選ぶ場合も、相手の退去のめどが立たないまま先行させるのではなく、管理会社と事前に相談し、相手への退去の通知と時期を合わせて進めるのが安全です。

名義を相手に移す場合

相手がその部屋に住み続けることを強く望み、家賃を自分で払える見込みがあるときは、相手が大家と新たに契約し、自分が出る方法も考えられます。名義の切り替えには大家・管理会社・保証会社の承諾や審査が必要で、新規契約として初期費用がかかることもあります。名義を移さないまま自分だけが出て相手に住まわせ続ける形は、滞納や損傷があれば契約者に責任が及ぶため、避けたほうがよいでしょう。

 どの道を選んでも、相手が実際に部屋を出るまでは、大家との契約上の責任は契約者に残ります。この前提を踏まえて順序を組み立てることが大切です。

大家・管理会社・保証会社との関係を先に確かめる

同居の届出をしていたか

賃貸借契約では、契約者以外の人が住む場合に届出や承諾を求めていることが多くあります。届け出ずに同棲していた場合、管理会社から契約違反を指摘されることがあります。直ちに契約が解除されるとは限りませんが、相手の退去をめぐって管理会社に相談する場面が出てくることを考えると、契約書の該当条項を確かめ、必要に応じて早めに事情を説明しておくほうが、後の協力を得やすくなります。

相手が部屋で生じさせた損傷や迷惑の責任

相手が出す騒音、喫煙による汚れ、壁や設備の損傷などについても、大家との関係では契約者が責任を問われることがあります。借主は契約や物の性質に従って部屋を使う義務を負い(民法616条・594条1項)、退去時には通常の使用を超える損傷について原状回復の義務を負うためです(同法621条)。相手との間でどう負担を分けるかは、退去の話し合いの中で決めることになります。敷金や原状回復費用の分け方は同棲解消の敷金・原状回復・退去費用は誰が払う?で整理しています。

家賃の支払いは止めない

相手が居座っている間の家賃を払いたくないという気持ちは自然ですが、支払いを止めれば、滞納として大家から契約を解除される事由になり得ます。保証会社が立て替えて支払えば、契約者がその分を求められます。退去までの期間の家賃や光熱費は、契約者が支払いを続けたうえで、相手に負担を求める形で整理するのが基本です。

 相手との問題を解決しようとして、大家との関係を悪くしてしまわないことが、契約者の側にとって何より大切です。

話し合いで動かないときの進め方

終了の意思と退去期限を、記録が残る形で伝える

口頭で何度伝えても、後から「聞いていない」と言われれば水掛け論になります。使用貸借を終わらせる意思と、日付を特定した退去期限、期限後も住み続ける場合の負担を、内容証明郵便やメッセージなど記録の残る方法で伝えておくと、後の手続でも経緯を示しやすくなります。通知に入れておきたい項目は、冒頭に挙げた記事で詳しく扱っています。

合意できたら、守られなかったときの備えまで決める

退去について話がまとまったときは、合意書に次のような事項を盛り込んでおくと、後の行き違いを防ぎやすくなります。

  • 退去日と、その日までの家賃・光熱費の負担。
  • 転居費用など、こちらが支払う金銭があればその額と支払時期。
  • 合鍵の返却方法と、返却の確認の取り方。
  • 期限までに引き取られなかった荷物を処分することへの同意。
  • 退去日を過ぎた場合の損害金の定め。
  • 合意した内容以外に請求し合わないことの確認(清算条項)。


 もっとも、合意書を交わしても、相手が退去日に出ていかなければ、改めて訴訟を起こす必要があります。相手が約束を守らないおそれが強いときは、簡易裁判所で行う「訴え提起前の和解(即決和解)」を利用する方法があります(民事訴訟法275条)。和解調書は判決と同じように強制執行の根拠になるため、退去日を過ぎても出ていかない場合に、訴訟を経ずに明渡しの強制執行へ進めます。なお、公正証書で強制執行ができるのは金銭の支払いなどに限られ、部屋の明渡しには使えません(民事執行法22条5号)。清算条項の意味は清算条項の意味|後から追加請求されないために、合鍵の扱いは【男女トラブル】別れた相手が合鍵を持っている|返してもらう交渉と、鍵を替える判断をご参照ください。

訴訟と、その前に検討する仮処分

話し合いがまとまらない場合は、相手を被告として、使用貸借の終了に基づく建物明渡しの訴えを起こすことになります。判決を得ても相手が出ていかなければ、強制執行を申し立て、執行官による明渡しの催告を経て、最終的に占有を解いてもらいます(民事執行法168条・168条の2)。

 相手が知人を部屋に住まわせるなど、占有が別の人に移るおそれがある場合は、訴訟に先立って「占有移転禁止の仮処分」を検討します(民事保全法23条1項・62条)。これにより、後から住み始めた人がいても、相手に対する判決で明渡しを進められるようになります。また、使用貸借が終わった後も住み続けている期間については、家賃相当額の支払いを求められる可能性があります(民法703条・709条)。

 訴訟から明渡しまでには数か月以上かかることもあるため、手続の見通しを示しながら話し合いでの解決を探るのが、時間と費用の両面で負担を抑えやすい進め方です。弁護士が窓口となって話し合いで退去を実現した例としては【解決事例】自分名義の部屋に元交際相手が住み続けた|交渉で退去を実現し、その後の接触も止まった事例があります。

避けたい対応と、安全を優先すべき場面

鍵の交換・荷物の運び出し・電気やガスの停止

契約者であっても、相手の外出中に鍵を替えて締め出す、荷物を運び出したり処分したりする、電気やガスを止めるといった方法で退去させることは、裁判所の手続によらない「自力救済」として原則許されません(最高裁昭和40年12月7日判決)。相手から損害賠償を求められるおそれがあるほか、態様によっては住居侵入や器物損壊として扱われる可能性もあり、こちらが責任を問われる立場に回ってしまいます。荷物の扱いは【男女トラブル】相手の荷物が家に残っている・自分の荷物を取りに行きたい|勝手に処分してよいかで詳しく扱っています。

暴力や脅しがある場合

相手から暴力を受けている、身の危険を感じるという場合は、退去の交渉よりも安全の確保を優先してください。配偶者暴力防止法は、生活の本拠を共にする交際相手からの暴力にも準用されます(同法28条の2)。保護命令の一つである退去等命令は、裁判所が加害者に対し、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去するよう命じるもので、期間は原則2か月ですが、住居の所有者または賃借人が被害者のみである場合は、申立てにより6か月とされています(同法10条の2)。契約者が自分だけの部屋で暴力を受けている場合は、この規定に当てはまる可能性があります。

 身の危険があるときは、いったん部屋を離れることになっても、明渡しを求める権利が失われるわけではありません。警察や配偶者暴力相談支援センターに相談し、安全を確保したうえで手続を進めることができます。保護命令の要件や流れは交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応をご覧ください。

よくあるご質問


管理会社に頼んで、相手を退去させてもらうことはできますか

大家や管理会社が契約の当事者でない同居人に直接退去を求める権限は、通常ありません。管理会社が相手を退去させてくれるわけではありませんが、事情を説明しておけば、解約や名義変更の条件を教えてもらえたり、鍵の返却の確認に協力してもらえたりすることがあります。相手への退去の求めは、契約者の側から行うことになります。

相手が住民票を移さないまま出ていきました。そのままで問題はありませんか

住民票は本人が転居の届出をするのが原則ですが、届出がないまま居住の実態がなくなった場合には、市区町村に申し出ることで、調査を経て住民票が消除されることがあります。相手宛ての郵便物が届き続けると連絡をめぐる行き違いが生じやすいため、退去の話し合いの段階で転居届と郵便の転送届を出す時期を決めておくことをおすすめします。

相手の荷物が残ったまま、連絡が取れなくなりました

連絡が取れないからといって、荷物を勝手に処分することは避けてください。引き取りの期限と方法を記録が残る形で伝え、それでも応答がない場合は、建物明渡しの訴えとあわせて荷物の扱いを裁判所の手続の中で整理することになります。処分への同意をあらかじめ合意書に入れておくと、こうした場面での負担を減らせます。

まとめ


  1. 契約者が自分だけでも、大家との関係と、同居していた相手との関係は別に考える必要がある。
  2. 家賃を受け取らずに住まわせていた相手との関係は使用貸借と整理されることが多く、終了の意思を伝えて相応の期間を置けば退去を求められる(民法593条・597条・598条)。
  3. 「家賃」として決まった額を受け取っていた場合は賃貸借(転貸借)と評価される余地があり、借地借家法の規律が問題になることがある(借地借家法27条・28条、民法612条)。
  4. 退去を実現する道は、相手に出てもらう・自分が出て解約する・名義を移すの三つで、いずれも相手が出るまでは大家への責任が契約者に残る。
  5. 家賃の支払いは止めず、同居の届出や相手が生じさせた損傷の責任も含めて、大家との関係を先に確かめる(民法616条・594条1項・621条)。
  6. 合意できた場合は即決和解で強制執行に備えることができ(民事訴訟法275条)、合意できなければ占有移転禁止の仮処分や明渡しの訴えを検討する(民事保全法23条1項、民事執行法168条)。
  7. 鍵の交換や荷物の処分による締め出しは自力救済として原則許されず(最高裁昭和40年12月7日判決)、暴力がある場合は退去等命令によって相手を退去させられる場合がある(配偶者暴力防止法10条の2・28条の2)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。自分名義の部屋から別れた相手が出ていかない、退去の話し合いに応じてもらえない、解約や名義変更をどう進めればよいか分からないといったお悩みについて、事情を伺ったうえで、退去時期や費用の交渉、合意書の作成、裁判所の手続まで一貫してお手伝いします。

自分が契約者の部屋から相手に退去してもらいたい方も、契約者から急な退去を求められて今後の住まいに不安がある方も、一人で抱え込まず、早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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