【男女トラブル】相手の荷物が家に残っている・自分の荷物を取りに行きたい|勝手に処分してよいか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は2026年9月時点の法令に基づいています。個別の事情によって結論は変わりますので、実際の対応はご相談ください。


 出ていったきり連絡がつかない。部屋には段ボールが積まれたまま、クローゼットには相手の服が残っている。何度か連絡してみたが返事がない。捨ててしまいたいが、後で何か言われるのではないか。あるいは逆に、自分の荷物を相手の家に置いたままで、取りに行きたいけれど気が進まない。どちらの側からも、ご相談をいただくことがあります。

 この場面には、何もしないでいると自分が損をし、動くと自分が加害者になりかねないという、やっかいな構造があります。置いたまま放置すれば場所も気持ちも占領され続けますし、勝手に捨てれば責任を問われる立場になります。

 この記事では、勝手に処分することの危うさ、引き取りを求める通知の出し方、期限を過ぎた後にできることとできないこと、自分の荷物を取りに行くときの注意、そして保管の費用を求められるかを、順に整理します。

相手の物を勝手に処分することの危うさ

 置いていかれたとはいえ、それは相手の所有物です。自分の判断で処分してよい、ということにはなりません。

「捨てる」は壊すことと同じ扱いになり得る

 他人の物を損壊した者は処罰されるとされています(刑法261条)。ここでいう「損壊」は、物を物理的に壊す場合に限られず、その物の効用を害する一切の行為を指すと解されています。捨てる、隠す、使えない状態にする。いずれも含まれ得るということです。

 さらに、売却して代金を得たり、自分の物として使い始めたりすれば、別の問題が生じることもあります。処分の仕方によって、問われる中身が変わってくると考えてください。

本当のリスクは、あとから来る

 もっとも、実務で実際に起きるのは、刑事の話よりも民事の言い分です。荷物を処分した後になって、「あの中に高価な物が入っていた」と主張されることが、この分野の典型的なトラブルです。

 ここで困るのは、中身を確認しないまま処分してしまうと、その主張を否定する材料がこちらに何も残らないことです。相手が何を入れていたかを知っているのは相手だけ、という状態を自分で作ってしまうことになります。金額の多寡ではなく、この立証の不利こそが最大のリスクだと私は考えています。

 だからこそ、次に述べる手順は、相手のためというよりご自身を守るための作業です。

引き取りを求める通知の出し方と、期限の置き方

 連絡がつかない相手にも、記録に残る形で伝えておく必要があります。

先に、中身を確かめて記録する

 通知を出す前に、何が残っているのかを一覧にしてください。段ボールを開けることに抵抗があるかもしれませんが、開けずに保管し、開けずに処分するのが、いちばん危ない進め方です。

  1. 箱の外観、開けた状態、中身が分かるように撮影する。
  2. 品目を一覧にする(衣類一式、書籍◯冊、といった程度で足ります)。
  3. 貴重品らしきものがあれば、その部分だけ細かく記録して分けて保管する。
  4. 撮影の日付が分かる形で保存する。


通知に書くこと

 そのうえで、次の内容を伝えます。

  • 残っている荷物の品目(一覧を添えると確実です)。
  • 引き取ってほしい期限。
  • 受け渡しの方法(日時、場所、宅配便の着払いで送る、など)。
  • 期限を過ぎた場合の扱いについての考え。
  • 連絡先と、連絡してほしい期限。


 期限は、2週間から1か月程度を置くのが一般的です。退去日が決まっている場合は、そこから逆算してください。搬出と清掃の日数を差し引いた日を期限にします。

 伝える手段は、メッセージアプリでも構いません。日時と内容が残ります。応答がまったくない場合には内容証明郵便を使うことも考えられ、受け取られずに戻ってきたとしても、その日に通知を出したという記録は残ります

 なお、逆にご自身が貸した物や渡した物を返してもらう場面の考え方は、恋人に貸した車・ブランド品を返してほしい|返還を求めるときの考え方で整理しています。

期限を過ぎた後にできること・できないこと

 期限が来ても引き取りに来ない。この段階で法律が用意しているものを見ておきます。

保管の負担は軽くなる

 相手が受け取りを拒んだり、受け取ることができなかったりする場合、保管する側の注意義務は軽くなります。物を引き渡す債務を負う人は、本来は善良な管理者としての注意をもって保管する必要がありますが、受領遅滞の後は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって保存すれば足りるとされています(民法413条1項)。

 あわせて、受け取りを拒んだことによって費用が増えた場合、その増加額は相手の負担とされています(同条2項)。

 ただし注意していただきたいのは、これは「処分してよい」という意味ではないということです。丁寧に扱う義務が軽くなるだけで、捨てる権限が与えられるわけではありません。

裁判所を通す道

 法律には、引き取ってもらえない物を処分する仕組みも用意されています。裁判所の許可を得て、その物を競売に付し、代金を供託するという方法です(民法497条)。認められるのは、供託に適しないとき、価格が下がるおそれがあるとき、保存に過分の費用を要するとき、その他供託することが困難な事情があるとき、とされています。

 制度としては存在しますが、家財道具のように1点あたりの価値が小さいものについて、この手続を進めることは現実的でない場合がほとんどです。使える道があることと、それが合理的であることは別だとお考えください。

結局、合意を作るのが最短

 実務でいちばん確実なのは、相手から同意を取ることです。「期限までに引き取らない場合は、こちらで処分することに同意します」という趣旨の返信を、一言でも文字で残してもらえれば、状況は大きく変わります。

 その際は、品目を特定したうえで同意を取ってください。「荷物」とだけ書いた同意では、後から「あれは含まれていないと思っていた」と言われる余地が残ります。

それでも処分に踏み切る場合

 同意も引き取りも得られないまま、退去日などの事情で処分せざるを得ないことはあります。その場合は、次の点を押さえてください。

  • 処分の前に、あらためて全体と個別を撮影する。
  • 明らかに価値のない物と、価値がありそうな物を分ける。
  • 価値がありそうな物は処分せず、保管を続けるか、有料の保管サービスに預けて領収書を残す。
  • 通知を出した日付と内容、保管していた期間が分かる資料をまとめておく。


 これらが揃っていれば、後から高価な物があったと主張されても、こちらの対応が相当であったことを説明できます。

自分の荷物を取りに行くとき

 立場が逆の場合も見ておきます。相手の家に自分の荷物が残っているケースです。

承諾なく入らないこと

 まず押さえていただきたいのは、相手の住居に承諾なく立ち入れば、住居侵入の問題が生じ得るということです。以前は自由に出入りしていたとしても、また合鍵を持っていたとしても、扱いは変わりません。取りに行く日時は、事前に文字で決めてください。

一人で行かないほうがよい場面

 次のいずれかに当てはまる場合は、一人で向かうことをおすすめしません。

  • 別れ方が一方的で、相手が納得していない様子がある。
  • これまでに物を壊されたり、金銭を求められたりしたことがある。
  • 相手が感情的になりやすく、話が長引きやすい。
  • 相手の家に上がる形になる。
  • 夜間や、周囲に人がいない時間帯しか都合がつかない。


 現実的な対応は、玄関先で受け取る、第三者に同行してもらう、宅配便で送ってもらう、といったところです。すべてを一度に回収しようとせず、優先順位の高い物から取り戻すという考え方も有効です。

 なお、受け渡しの場面で物を壊されたり金銭を求められたりした場合の考え方は、別れ際に物を壊された・お金を要求された|器物損壊と恐喝で整理しています。

保管にかかった費用は求められるか

 保管が長引けば、実際に費用がかかります。

 先に触れたとおり、相手が受け取りを拒んだことによって増えた費用は、相手の負担とされています(民法413条2項)。また、他人のために事務を管理した者は、本人のために有益な費用を支出したときはその償還を請求できるという規定もあります(民法702条1項)。トランクルームの利用料などは、この枠組みで請求を検討することになります。

 もっとも、次の点は現実として押さえておいてください。

請求したいもの通りやすさ押さえる点
保管サービスの実費比較的通りやすい契約書と領収書を残す
運搬や梱包にかかった費用通る余地がある見積書と明細を残す
部屋の賃料の一部通りにくい部屋全体を使えなかったとは言いにくい
精神的な負担に対する賠償通りにくい金額の裏づけが立てにくい


 そして、請求できることと、実際に回収できることは別です。相手の資力や所在によっては、判決を得ても回収に至らないことがあります。費用をかけて争うかどうかは、金額と手間を見比べて決めることになります。

進め方の順序

 最後に、順序を整理します。

  1. 中身を確認し、撮影して品目の一覧を作る。
  2. 引き取りの期限と方法を示した通知を、記録が残る形で送る。
  3. 期限までに引き取りがなければ、処分についての同意を文字で求める。
  4. 同意が得られない場合は、価値がありそうな物とそうでない物を分けて扱う。
  5. 保管にかかった費用の資料を、その都度そろえておく。


 1番目を最初に置いたのは、この作業が後のすべての場面で効いてくるからです。通知にも、同意を求めるときにも、費用を請求するときにも、そして万一争いになったときにも、同じ一覧と写真が使えます。

 なお、引き取りの当日に相手が自宅まで来ることになる場合は、建物の管理会社に事前に伝えておくと安心です。共用部での対応については、自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることをご覧ください。

 荷物の問題は、金額としては大きくないことが多い一方で、放置すると生活の中に相手の存在が残り続けます。捨ててよいかどうかで迷っている段階は、まだ選択肢が多い段階でもあります。手をつける前に、一度整理してみることをおすすめします。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
 当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
 早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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