ストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?
この記事は、2026年10月時点の民法・民事訴訟法・民事執行法などの規定にもとづいて解説しています。2020年4月1日より前に貸したお金には、改正前の消滅時効の規定が適用される場合があります。
「別れてしばらくは『少しずつ返す』と言っていたのに、ある日LINEがブロックされ、電話番号も使われなくなっていた」。元交際相手にお金を貸していた方から、このようなご相談をいただくことがあります。反対に、借りた側の方から「気まずくて連絡先を変えてしまったが、踏み倒すつもりはなかった」というお話を伺うこともあります。
ネット上では「相手の住所が分からなければどうにもならない」という説明を見かけます。住所が分からないと進めにくい手続があるのは事実ですが、それだけで貸したお金の権利がなくなるわけではありません。むしろ見落とされやすいのは、相手が姿を消している間も、消滅時効の期間は進んでいくという点です。
この記事では、元恋人が連絡先を変えていなくなったときに、貸したお金の権利がどうなるのか、時効との関係、居場所の確かめ方、使える手続の違いを順に整理します。借用書がない場合の立証については恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?で、デート代や生活費の立て替えが返還の対象になるかについては交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?で詳しく解説しています。
連絡先を変えても、返す義務はなくならない
貸したお金の権利は、相手が消えても残る
交際相手との間でも、返してもらう約束でお金を渡していれば、法律上は金銭の消費貸借(民法587条)にあたります。借りた側には返す義務があり、その義務は連絡先を変えたり、引っ越したりしたことで消えるものではありません。相手が連絡を断ったことは「請求の届け先が分かりにくくなった」という事情にとどまり、権利そのものが失われたわけではありません。
返済の時期を決めていなかった場合でも、貸した側は相当の期間を定めて返すよう求めることができます(民法591条1項)。
「いなくなった」にはいくつかの段階がある
一口に「いなくなった」といっても、相手について何が分かっているかによって、取れる手段は大きく変わります。まずはご自身の状況がどれにあたるかを確かめておくと、次に何をすべきかが見えやすくなります。
| 状況 | 手元に残っている情報の例 | 進め方の目安 |
|---|---|---|
| 連絡手段だけが切れた | 住所や勤務先は分かっている | 書面での請求や裁判所の手続を、通常どおり検討できる |
| 引っ越して住所が分からない | 本名・以前の住所・勤務先・電話番号 | 今の住所を調べる作業が先になる |
| 勤務先も辞めて所在が分からない | 本名・以前の住所 | 住民票の記録などからたどれるかを確かめ、たどれなければ公示送達を検討する |
| 本名すら確かでない | LINEのアカウント・振込先の口座など | 相手が誰なのかを特定する作業から始める |
相手がいない間も、時効は進んでいく
個人間の貸し借りの時効は原則5年
2020年4月1日以降に貸したお金は、返してもらえる時期が来たことを知った時から5年、または返してもらえる時期から10年のいずれか早い方が過ぎると、時効により請求できなくなるおそれがあります(民法166条1項)。返済期限を決めていた場合は、その期限が数え始めの基準になるのが一般的です。期限を決めていなかった場合は、いつから数えるかそのものが争点になることもあります。
相手が消えていると「いつか見つかったら請求しよう」と考えがちですが、時効は相手の居場所が分からなくても進むため、待っている間に期間が過ぎてしまうことがあります。請求の種類ごとの時効の期間は男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかにまとめています。
最後に「返す」と言ったのはいつか
相手が借りていることを認めると、その時点から時効の期間があらためて数え直されます(民法152条1項)。「必ず返す」というLINEのメッセージや一部の返済があれば、この承認にあたる可能性があります。連絡が途絶える前のやり取りを見返し、最後に相手が借金を認めた日付を確かめておくと、残された期間の見通しが立てやすくなります。
住所が分からないと、内容証明では時効を止めにくい
内容証明郵便などで返済を求めると、その時から6か月間は時効の完成が猶予されます(民法150条1項)。ただし、この効果は請求が相手に届いてはじめて生じるのが原則で、届け先が分からない場合には使いにくい方法です。また、猶予されている間にもう一度請求しても、期間はさらに延びません(同条2項)。
これに対して、裁判所に訴えを起こせば、相手の所在が分からなくても時効の完成は猶予され(民法147条1項1号)、判決が確定すると時効は新たに進み直します(同条2項)。期間が迫っている場合は、居場所の調査と並行して、訴えの準備を進めるかどうかを考えることになります。
連絡先を変えた相手の居場所を確かめる
まずは手元の情報を書き出す
相手を探す前に、分かっていることを一覧にしておきます。思いのほか多くの手がかりが残っていることがあります。
- 本名と生年月日、以前の住所(同棲していた住所や、郵便物の宛先を含む)。
- 勤務先や、相手が話していた職場・取引先の名前。
- 電話番号、メールアドレス、LINEやSNSのアカウント。
- お金を振り込んだ口座の金融機関名と名義。
- 車のナンバー、実家の所在地、共通の知人。
弁護士が使える調査の手段
弁護士は、依頼を受けた事件の処理に必要な範囲で、相手の住民票の写しなどを請求することができます。以前の住所が分かっていれば、転居先の記録をたどれる場合があります。
また、弁護士法23条の2にもとづく弁護士会照会を使い、携帯電話会社などに契約者の氏名や住所を問い合わせる方法もあります。ただし、照会先が回答に応じないこともあり、どの手がかりからでも住所にたどり着けるわけではありません。照会の仕組みは弁護士会照会とは|風俗トラブルで相手方を特定する仕組みで解説しています。LINEの履歴と照会を組み合わせて回収に至った例として、【解決事例】店舗型風俗店のキャストに貸した200万円|LINE履歴と弁護士会照会で回収に至った事例もご覧いただけます。
なお、これらは請求などの事件を受任した弁護士が使う手段であり、住所を調べることだけを目的とした依頼は受けられない点にご注意ください。
自分で探すときに気をつけたいこと
早く見つけたい気持ちから、相手の実家や職場に押しかけたり、共通の知人やSNSに借金のことを広めたりすると、名誉毀損や業務妨害などの問題を生じるおそれがあります。返済を迫る言葉が強くなりすぎると、脅迫や恐喝を疑われることもあります。貸した側に正当な権利があっても、取り立ての方法によっては、かえって自分が責任を問われる立場になりかねません。どこまでが許されるかは「金を返せ」と強く迫った|正当な債権回収と恐喝の境界で詳しく整理しています。
また、復縁を望む気持ちと返済の請求が混ざったまま連絡を重ねると、相手からつきまといとして受け止められることもあります。請求の連絡は目的をお金のことに絞り、回数と内容を記録に残せる方法で行うのが無難です。
居場所に応じて、使える手続は変わる
主な手続と、住所が分からない場合の扱い
貸したお金を返してもらうための手続はいくつかありますが、相手の住所が分からない場合に使えるものは限られます。
| 手続 | 概要 | 住所が分からない場合 |
|---|---|---|
| 内容証明郵便による請求 | 書面で返済を求め、請求した事実を残す | 届け先がなければ効果が生じにくい |
| 支払督促 | 書類の審査で簡易裁判所が支払いを命じる | 公示送達が使えないため、利用できない(民事訴訟法382条ただし書) |
| 少額訴訟 | 60万円以下の請求を、原則1回の審理で判断する | 公示送達が必要になると、通常の訴訟に移される(同法373条3項3号) |
| 通常の訴訟 | 証拠にもとづいて裁判所が判断する | 公示送達によって進められる場合がある(同法110条) |
住所が分からなくても訴訟を進められる場合
住所は分からなくても勤務先が分かっていれば、勤務先に訴状を届けてもらえる場合があります(民事訴訟法103条2項)。住民票の住所に相手が住んでいる様子があるのに受け取らないときは、書留郵便で発送した時に届いたものとみなす付郵便送達(同法107条)が検討されます。
調査を尽くしても所在が分からない場合には、裁判所の掲示によって書類が届いたものとみなす公示送達(同法110条)で手続を進めることになります。この場合も、お金を貸したことは請求する側が証拠で示す必要があり、LINEのやり取りや振込の記録が判断の中心になります。転居や行方不明の場合の手続の流れは【不貞慰謝料】相手が転居・行方不明になった場合でも取り上げています。
判決を得ることと、お金を回収することは別
判決が出ても、相手が自分から支払わなければ、預金や給与などの財産を差し押さえる強制執行が必要になります。差し押さえるには、どの金融機関に口座があるか、どこに勤めているかなど、対象となる財産を請求する側で特定しなければなりません。
判決を得た後は、裁判所を通じて金融機関に口座の有無などを照会してもらう手続(民事執行法207条)も利用できます。ただし、勤務先の情報を取得できるのは養育費などの一部の請求に限られ、貸したお金の請求では使えません(同法206条1項)。相手の居場所や財産の手がかりが乏しいほど、手続にかかる費用と時間に対して、実際に回収できる見込みを慎重に見ておく必要があります。
「いなくなった」ことの意味を考える場面
返さないだけでは、直ちに犯罪にはならない
借りたお金を返さないことは原則として民事上の問題であり、それだけで犯罪になるわけではありません。そのため、警察に相談しても、返済させるために動いてもらうことは難しいのが一般的です。
一方で、病気や家族の事情などの作り話でお金を出させ、最初から返すつもりがなかったと認められる場合には、詐欺罪(刑法246条1項)が問題になることがあります。お金を受け取った直後に姿を消した、聞いていた名前や勤務先が偽りだったといった事情は、その判断の手がかりの一つになりえます。こうした場合の考え方は【男女トラブル】病気や不幸の話を信じてお金を渡していた|嘘だと分かった後や結婚詐欺に遭ったかも|結婚詐欺の立証と損害賠償請求で解説しています。
相手が自己破産していた・亡くなっていた場合
調べた結果、相手が自己破産して免責を受けていたと分かることがあります。この場合、貸したお金は原則として請求できなくなります(破産法253条1項)。ただし、だましてお金を出させたような事情があれば、免責の対象外となる損害賠償として請求できるかが検討されることがあります。
相手が亡くなっていた場合には、借金は原則として相続人に引き継がれます。ただし、相続人が相続放棄をしていれば、その人に請求することはできません。
連絡が途絶えたら、まずしておきたいこと
相手の居場所が分からない段階でも、今のうちに整えておけることがあります。
- LINEなどのやり取りを、日付が分かる形で保存する。ブロックされても自分の端末の履歴は残っていることが多いため、消さずにバックアップを取っておく。
- 振込明細や通帳、手渡しした日と金額のメモをまとめ、貸した日・金額・理由を一覧にする。
- 相手が最後に借金を認めた日付を確かめ、時効までの残り期間を把握する。
- 手元にある相手の情報(本名・以前の住所・勤務先・電話番号など)を書き出す。
- 相手の家族や知人に連絡する場合は、借金のことを広めない範囲にとどめる。
貸したお金のほかに、同棲していた部屋の荷物や共有していた契約の整理も残っている場合は、【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
相手の親に返してもらうことはできますか?
親が保証人になっているなどの事情がない限り、成人した子の借金を親が返す義務はありません。事情を伝えて本人への取り次ぎを頼むこと自体は考えられますが、親に返済を迫ったり、繰り返し連絡したりすることは控えた方がよいでしょう。
相手の職場に連絡して、居場所を聞いてもよいですか?
在籍の確認や本人への取り次ぎを頼む程度であれば、直ちに問題になるとは限りません。ただし、借金のことを職場の人に伝えたり、何度も電話をかけたりすると、名誉毀損や業務妨害などを問われるおそれがあります。勤務先が分かっているなら、勤務先への訴状の送達など、手続の中で使う方法を検討する方が無難です。
何年も前に貸したお金でも請求できますか?
貸した時期や返済期限、相手が最後に借金を認めた時期によって、時効がすでに完成しているかどうかが変わります。時効の期間が過ぎていても、相手が時効を主張するまでは請求できなくなるわけではありませんが、主張されれば請求は認められません。2020年4月1日より前に貸したお金は改正前の規定が適用される場合もあるため、日付を整理したうえで確認することをおすすめします。
まとめ
- 元恋人が連絡先を変えていなくなっても、貸したお金を返してもらう権利そのものは消えない(民法587条)。
- 相手の居場所が分からなくても消滅時効の期間は進み、2020年4月1日以降に貸したお金は原則5年が目安となる(民法166条1項)。
- 最後に相手が借金を認めた日は、時効の数え直しの基準になる(民法152条1項)。
- 内容証明による請求は届け先がなければ使いにくく、訴えを起こせば所在不明でも時効の完成は猶予される(民法150条・147条)。
- 弁護士は住民票の写しなどの請求や弁護士会照会(弁護士法23条の2)で居場所をたどれる場合があるが、判明しないこともある。
- 住所が分からない場合、支払督促は使えず、通常の訴訟で公示送達によって進めることになる(民事訴訟法382条・110条)。
- 判決を得ても回収には財産の特定が必要であり、自分で探す際は取り立ての方法が行き過ぎないよう注意する。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。交際関係の解消にともなう金銭の清算については、【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でもご案内しています。
元恋人と連絡が取れなくなり、貸したお金をどう取り戻せばよいか迷っている方は、手元のやり取りや振込の記録をお持ちのうえでご相談ください。反対に、元交際相手から返済を求められていて、どう対応すればよいか分からないという方のご相談もお受けしています。


