【解決事例】元交際相手からの約300万円の請求と暴露予告|段階的な警告で解決した事例
慰謝料を請求しようとしたところ、相手がすでに引っ越していた。書面を送っても戻ってくる。教えられていた連絡先も使われていない。こうしたご相談は珍しくありません。
もっとも、「相手の所在が分からない」と一口にいっても中身は同じではありません。転居先をたどれる場合と、住民票上の住所にも住んでいる形跡がない場合とでは、進められる手続も、かかる時間や費用も変わってきます。
この記事では、相手が転居した、あるいは行方が分からなくなった場面について、手続がどこで止まり、どこから先は進められるのかを整理します。氏名や住所の調べ方そのもの(照会や調査の手段)は別の記事で扱っているため、ここでは立ち入りません。記事の後半には、引っ越した側から見た説明も置いています。
「転居」と「行方不明」は同じ問題ではない
同じ「連絡が取れない」でも、記録の上でどう見えているかによって、次に取るべき手は変わります。まずは自分がどの状況にいるのかを確かめるところから始まります。
| 状況 | 記録の上での見え方 | 進め方の見通し |
|---|---|---|
| 転居先が分かっている | 住民票や戸籍の附票に新しい住所が記載されている | 通常どおり書面を送り、訴訟も進められる |
| 転居した形跡はあるが転居先が不明 | 住民票が動いていない、郵便が「あて所に尋ねあたりません」で戻る | 居住の実態を確かめたうえで、別の送達方法を検討する |
| 住民票上の住所に住んでいる形跡がない | 住民票が職権で消除されていることもある | 訴訟は進められる場合があるが、回収の見通しは別に考える |
| 生死も分からない | 長期間にわたり連絡も記録の動きもない | 財産の管理や相続に関する制度が関係してくる |
この四つは、必要な手間の量が段階的に増えていく関係にあります。一つ目であれば通常の請求と変わりませんが、下に行くほど、手続を一つ進めるために別の手続が必要になっていきます。
所在が分からないと止まるのは、三つの場面のどこか
慰謝料の請求は、大きく分けて「請求を届ける」「手続を進める」「実際に回収する」という三つの作業でできています。所在が分からないことは、この三つすべてに同じように効いてくるわけではありません。
| 場面 | 所在が分からないと何が止まるか | 代わりの手段があるか |
|---|---|---|
| 届ける(請求を伝える) | 書面が相手に届かず、話し合いが始まらない | 勤務先など別の宛先を検討する余地はあるが、別の問題も生じやすい |
| 進める(訴訟を動かす) | 訴状を送達できず、訴訟が始まらない | 調査を尽くしたうえで、別の送達方法を用いる余地がある |
| 取る(判決の内容を実現する) | 差し押さえる財産を特定できない | 相手の財産が分かっている場合に限られる |
整理すると、法律が代わりの仕組みを用意しているのは主に真ん中の「進める」場面で、最後の「取る」場面にはそれに当たるものが乏しいということになります。「判決さえ取れば」と考えて動き始めた方が、判決を得た後で立ち止まることになりやすいのは、この非対称があるためです。
書面が届かない段階でできること
最初につまずくのは、通知書や内容証明が届かない段階です。戻ってきた封筒には返還の理由が印字されており、受け取りを拒まれたのか、不在で保管期間が過ぎたのか、そもそもあて先に該当者がいないのかで意味が異なります。この見分け方と次の一手については、相手が受け取らない場合を扱った別の記事で詳しく述べています。
勤務先が分かっている場合に、そちらへ書面を送るという選択肢が出てくることもあります。ただし、送り方によっては相手の職場に事情が伝わり、こちらが責任を問われる場面につながることがあります。この点は勤務先への連絡を扱った記事に譲ります。
相手が現れないまま訴訟を進める仕組み
所在が分からないまま訴訟を起こす場合、送達の方法として二つのものが用意されています。住所は分かっていて実際に住んでいるのに受け取らない場合に用いるものと、送達すべき場所そのものが分からない場合に用いるものです。前者は発送の時点で送達があったものとみなされ、後者は裁判所が定められた方法で公示することによって、一定期間の経過後に送達の効力が生じます。
どちらを使うにしても、居住の実態がどうなっているかを調べて裁判所に報告するのは、請求する側の役割です。現地の状況を確かめ、資料をそろえるところまでが求められます。それぞれの制度の中身と、相手が出てこない場合の手続の進み方については、音信不通の相手を追う方法を扱った記事で述べています。
公示送達で判決を得た後に起こりうること
あまり書かれていないのが、この先の話です。公示送達によって訴訟を終えた場合、相手は訴えられたこと自体を知らないまま判決が確定していることになります。ここには二つの含みがあります。
後から争われる道が残っている
民事訴訟法は、当事者が自分の責めに帰することができない事由で不変期間を守れなかったときは、その事由がなくなった後1週間以内に限り、本来その期間内にすべきだった訴訟行為を行うことができると定めています(法97条1項)。控訴期間についてもこの規定が働くため、相手が後から判決を知り、控訴を追加で行うことが認められる場合があります。過去には、強制執行を受けて初めて判決の存在を知った事案などで、控訴の追完が認められた例があります。
もっとも、これは常に認められるものではありません。判決が出ることも、その内容が自分に不利になることも十分に予測できたのに、何も調べないまま期間を過ごした場合には、追完を認めなかった判例もあります。どちらに転ぶかは、そこに至る経緯によって分かれます。
調査が足りないと、送達そのものが後で覆ることがある
公示送達は、送達すべき場所が知れない場合に認められるものです。裁判例のなかには、調べれば送達できる場所が容易に分かったのに調査を尽くさなかったとして、公示送達を無効と判断したものがあります。手早く進めようとした結果、後から手続そのものが問い直されることになれば、費やした時間は取り戻せません。急ぐ場面ほど、調査の記録を残しておく意味があります。
判決を得ることと、実際に回収することは別の作業
判決は、支払うべき金額を公に確定させる書面です。相手の財産を自動的に集めてくれるものではありません。所在が分からない相手との関係では、この違いが最も重くのしかかります。
強制執行を始めるには、判決などの債務名義が相手に送達されていることが必要です(民事執行法29条前段)。判決は裁判所の職権で送達されますが、和解の調書や公正証書は、送達の手続を自分で申請しなければならない点に注意が必要です。所在が分からない状態では、この送達自体がもう一度課題になります。
加えて、どの財産を差し押さえるのかは、請求する側が特定して申し立てる必要があります。給与を差し押さえるなら勤務先を、預貯金なら金融機関を挙げなければなりません。相手本人に財産の内容を述べさせる手続も用意されていますが、これは本人が期日に出頭して陳述することを予定した仕組みであり、呼出しが届かない状態ではそもそもかみ合いにくいという限界があります。回収の手段全般については、資力がない相手からの回収を扱った記事に譲ります。
相手の財産の側から動かす制度もある
相手本人と連絡が取れなくても、その人が残した財産に管理する人を付ける制度があります。従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない人について、家庭裁判所が財産管理人を選任するものです(民法25条1項)。
申し立てられるのは誰か
申立てができるのは利害関係人または検察官で、裁判所は利害関係人の例として、不在者の配偶者、相続人にあたる者とならんで債権者を挙げています。慰謝料の支払いを求める立場も、法律上の利害関係を有する者として位置づけられる余地があります。申立先は、相手の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。
申立てにあたっては、行方が分からないことを示す資料が求められます。戻ってきた郵便物や、住民票が職権で消除されていることを示す記録などがこれにあたります。ここでも、返送された封筒は捨てずに残しておくことが後から効いてきます。
費用は申立てをした側が用意することになる
選任された管理人は、家庭裁判所の監督のもとで財産を管理し、必要に応じて権限外の行為について許可を得ます。管理人の報酬を含む費用は相手の財産から支払われるのが原則ですが、財産からまかなえる見込みが立たない場合には、申立てをした側が予納金を納めるよう求められます。金額は事案によって異なり、数十万円の単位になることも珍しくありません。
向いている場面と、向いていない場面
この制度は、相手に管理すべき財産があることが前提です。不動産や預貯金の存在がある程度分かっている場合には、支払いを受ける道につながることがあります。反対に、めぼしい財産が確認できていない段階で申し立てても、費用ばかりが先に出ていくことになりかねません。選任までに一定の期間もかかります。使うかどうかは、回収できる見込みと費用を並べて判断することになります。
相手が亡くなっている可能性がある場合
連絡が取れない理由が転居ではないこともあります。相手が亡くなっていた場合、慰謝料の支払義務は消えるわけではなく、相続人が引き継ぎます。相続人が相続を放棄すれば、その人に対しては請求できなくなり、放棄には自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月という期間が定められています。
生死が分からない状態が長く続いている場合に用いられる失踪宣告という制度もありますが、これは相続を進めるための制度であって、慰謝料を回収するために使う手続ではありません。混同されやすい点なので、切り分けて考えておく必要があります。
待っている間も進むもの
所在が分からない期間を、こちらの都合で止めることはできません。相手を探している間にも、次のことは動き続けます。
- 請求できる期間には限りがあり、時間の経過は請求する側に不利に働きやすいこと。
- 調査や手続に費やす費用は、回収できるかどうかにかかわらず先に発生すること。
- 配偶者本人への請求という別の道が残っており、不貞相手が見つからなくても全額を請求できる立場にあること。
- 相手の生活状況が変わり、支払える資力が失われていく可能性があること。
請求できる期間の数え方や、期間が迫っているときの手当てについては時効を扱った記事で、配偶者と不貞相手のどちらに請求するかの選び方については請求先を扱った記事で、それぞれ詳しく述べています。
引っ越した側・連絡を絶っている側から見ると
ここまでは請求する側の視点で述べてきましたが、逆の立場からも触れておきます。請求を受けそうな状況で転居した方や、連絡を絶っている方が押さえておきたいのは次の点です。
- 住所が変わっても、慰謝料を支払う義務そのものがなくなるわけではないこと。
- 郵便の転送は届出の日から1年間で、期間が過ぎると差出人に返送されること。
- 住民票を移していない場合でも、居住の実態が確かめられれば送達は行われうること。
- 自分が知らないうちに訴訟が進み、判決が確定していることがありうること。
- 後から知った場合に争う道は残されているが、事情を知った後の対応が遅れると認められないことがあること。
- 書面を受け取らないままでいると、こちらの言い分が記録に残らないまま結論が固まる場合があること。
連絡を絶つことは、時間を稼ぐ手段にはなっても、話を終わらせる手段にはなりません。裁判所からの書面を家族に見られたくないといった事情がある場合には、送付先について別に取りうる方法もあります。この点は、自宅に書面が届く場合の対処を扱った記事で述べています。
よくある質問
住民票をたどれば現在の住所は分かりますか
記録が更新されていれば、たどれることがあります。ただし、住民票の写しなどを請求できる人は法律で限られており、また転居しても届出をしていない場合には記録自体が動きません。支援措置がとられている場合には交付が制限されることもあります。
公示送達はどのような場合でも認められますか
送達すべき場所が知れないと認められる場合に用いられるもので、申立てをすれば当然に認められるものではありません。調査を尽くしていないと判断されれば、認められないことも、後から効力が問い直されることもあります。
相手が海外に行った場合はどうなりますか
外国にいる相手への送達には別の仕組みが用意されており、国内の場合よりも時間がかかるのが通常です。相手のいる国が分かっているかどうかで進め方は変わりますので、早めに見通しを立てておくことをおすすめします。
まとめ
- 「転居先が分かる」「転居先が不明」「居住の形跡がない」「生死も分からない」では、必要な手間も進め方も異なること。
- 所在が分からないことは、届ける・進める・取るの三つの場面に別々の形で効いてくること。
- 法律が代わりの仕組みを用意しているのは主に「進める」場面で、「取る」場面には乏しいこと。
- 公示送達で判決を得ても、後から相手が争ってくる道は残っており、調査が不十分だと手続自体が問い直されうること。
- 判決を得ることと回収することは別の作業で、差し押さえる財産は請求する側が特定する必要があること。
- 相手に財産があると分かっている場合には、家庭裁判所に財産管理人の選任を求める道もあるが、費用を先に負担することになること。
- 探している間も請求できる期間は進むため、配偶者本人への請求を含めて、どこに時間と費用をかけるかを早めに決めておくこと。
ご相談について
相手の所在が分からない場面では、「探す」「進める」「回収する」のどこに力を入れるかで、かかる費用も結果も変わってきます。手元にある情報だけで見通しが立たないときは、封筒や記録を残したうえで、早い段階でご相談ください。当事務所では、男女間のトラブルに関するご相談をお受けしています。


