無許可・無届の店を利用した場合|客の立場はどうなるか
本記事は2026年10月時点の法令(2025年6月施行の拘禁刑、2023年7月施行の性的姿態撮影等処罰法を含む)に基づいて解説しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応はご相談のうえで判断してください。
店を辞めてしばらく経ってから、在籍中に接客した元客から「あのときの動画がある」とメッセージが届く。こうしたご相談は、風俗店やメンズエステなどで働いていた方から寄せられることがあります。「会ってくれないなら」「店に戻らないなら」といった言葉が続いていると、何をどう判断すればよいのか分からなくなるのも無理はありません。
この記事では、元客の言動がどのような法律の問題になり得るのか、連絡が来た段階で避けたい対応と残しておきたい記録、警察・店・弁護士それぞれへの相談の仕方を順に整理します。
「動画がある」と言われた段階で整理しておきたいこと
まず押さえておきたいのは、「動画がある」という言葉だけでは、本当に動画が存在するかどうかは分からないという点です。考えられる状況は、大きく分けて次のとおりです。
- 在籍中に、本人に気づかれないよう撮影されていたケース。
- 撮影オプションなど、当時は了承して撮影された動画を元客が持ち続けているケース。
- 実際には動画がなく、相手を動かすために「ある」と告げているだけのケース。
- 別人の動画や、加工・生成AIで作った画像を本人のものとして示しているケース。
どの場合でも、すぐにお金を払ったり要求に応じたりする必要はありません。一方で、「どうせはったりだろう」と考えて記録を残さずにいると、後で動画が出てきたときに経緯を説明しにくくなります。動画が実在するかを自分で確かめようとするよりも、言われた内容と相手の要求を記録しておくほうが、その後の手続では役に立ちます。
また、了承して撮影に応じていた場合でも、それは店の中のサービスとして撮影を認めたにとどまり、辞めた後にその動画を材料にされることや、第三者に見せられることまで認めたことにはなりません。「自分も撮影に応じたのだから」と引け目を感じる必要はないと考えられます。
元客の言動が当たり得る法律
元客の言動は、何をしたか・何を求めているかによって、問題になり得る法律が変わります。主なものを整理すると次のとおりです。
| 元客の言動 | 問題になり得る罪 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 同意なく性的な姿を撮影した | 性的姿態等撮影罪(性的姿態撮影等処罰法2条) | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 |
| 「動画をばらまく」「家族に送る」と告げる | 脅迫罪(刑法222条) | 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 拡散をほのめかして、会うことや店への復帰を求める | 強要罪(刑法223条) | 3年以下の拘禁刑 |
| 拡散をほのめかして、お金を求める | 恐喝罪(刑法249条) | 10年以下の拘禁刑 |
| 性的な動画を不特定または多数の人に公表する | 私事性的画像記録公表罪(リベンジポルノ防止法3条) | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
撮影そのものが罪になる場合
本人の同意なく性的な姿を撮影する行為は、性的姿態撮影等処罰法の性的姿態等撮影罪にあたることがあります。2023年7月の施行より前の撮影であれば、各都道府県の迷惑防止条例などで検討されることになります。撮影罪は告訴がなくても捜査できる罪で、隠し撮りが疑われる場合は、撮影された時期や場所が分かる情報が手がかりになります。
「動画がある」と告げて何かを求める場合
「動画をばらまく」「家族に送る」と告げることは、名誉に害を加える旨の告知として脅迫罪の問題になり得ます。そのうえで会うことや店への復帰などを求めれば強要罪、お金を求めれば恐喝罪が検討されます。要求に応じなかったために結果が生じなかった場合でも、強要や恐喝は未遂として処罰の対象になります。
はっきりと「ばらまく」とは言わず、「あの動画、まだ持ってるよ」「みんなが見たら驚くだろうね」と遠回しに伝えてくる場合もあります。言葉の選び方だけで判断が決まるわけではなく、それまでのやり取りや要求の有無を含めて全体で評価されるため、遠回しな表現であっても記録しておく意味があります。
実際に送られた・投稿された場合
性的な画像や動画を、撮影された人が特定できる形で不特定または多数の人に公表すると、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(いわゆるリベンジポルノ防止法)の公表罪にあたることがあります。公表させる目的で特定の人に送った場合も処罰の対象です。隠し撮りされた動画であれば、性的姿態撮影等処罰法の提供罪が問題になることもあります。
リベンジポルノ防止法の罪は、告訴がなければ起訴できない親告罪です。告訴できる期間は原則として犯人を知った日から6か月とされているため、投稿や送信に気づいたら、早めに動き出すことが大切です。
つきまといを伴う場合
在籍中の好意を引きずって連絡を続けてくる場合や、好意が受け入れられなかったことへの恨みから連絡してくる場合には、ストーカー規制法の対象になることがあります。同法は、性的羞恥心を害する事項を告げることや、そうした画像を送りつけることも「つきまとい等」に含めており、警察による警告や公安委員会の禁止命令といった手続を使えることがあります。
連絡が来たときに避けたい対応
不安な気持ちから、相手の要求に沿って事態を収めたくなるのは自然なことです。ただ、次のような対応は、後で選べる手段を狭めてしまうおそれがあります。
- 言われるまま、一人で相手に会いに行くこと。
- 「消してもらう」代わりにお金を払うこと。
- 相手を言い負かそうとして、強い言葉で言い返すこと。
- 怖さから、やり取りの画面やアカウントを削除すること。
- 本当にあるのか確かめるため、動画を送るよう求めること。
- 相手の家族や勤務先を調べて、自分から連絡すること。
お金を払っても、相手が動画を消したかどうかを確かめる方法はありません。一度支払うと「応じてくれる相手だ」と受け止められ、要求が続くこともあります。また、動画を送るよう求めると、相手に送信の口実を与えることになりかねません。返信するかどうか迷う場合は、返事を急がず、記録を残したうえで相談先を決めるのが落ち着いた進め方です。
まず残しておきたい記録
警察や弁護士に相談するとき、手元にある記録によって動き出せる範囲が変わります。次のものを、できるだけそのままの形で残しておいてください。
- 相手からのメッセージの画面(送信日時、アカウント名、ユーザーIDが写るもの)。
- 電話がかかってきた日時と、言われた内容のメモ。
- 在籍していた店の名前、在籍時期、当時の源氏名。
- その元客が来店していた時期、店での呼び名、撮影オプションの利用の有無。
- 相手の電話番号、SNSのアカウント、本名など、分かっている範囲の情報。
スクリーンショットは、トーク画面を上から順に、日付の区切りが分かるように撮っておくと経緯を追いやすくなります。相手が送信を取り消す機能を使うこともあるため、届いた時点で残しておくのが確実です。
相談先と、それぞれでできること
相談先はひとつに絞る必要はなく、状況に応じて組み合わせることができます。
警察
身の危険を感じる場合や、自宅の近くに現れるなど差し迫った状況では、ためらわず110番してください。そこまでではない段階では、警察相談専用電話(#9110)、性犯罪被害の相談電話(#8103)、最寄りの警察署の生活安全課などに相談できます。相談の際に記録を持参すると、状況が伝わりやすくなります。
相談しても、すぐに捜査が始まらないこともあります。その場合でも、相談した日と対応した部署を控えておくと、状況が変わったときに経緯を示しやすくなります。手続の選び方は被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶで解説しています。
在籍していた店
元客が会員登録をしていた場合、店には来店記録や連絡先が残っていることがあります。辞めた後でも、事情を伝えることで相手を特定する手がかりが得られる場合があります。ただし、店の側が本人に代わって元客と金銭の話し合いをすることには、法律上の問題が生じることがあります。この点は店がキャストに代わって示談交渉をしてよいのか|非弁行為という視点で詳しく扱っています。
弁護士
弁護士にご依頼いただくと、弁護士が窓口となって元客に通知を送り、本人への直接の連絡をやめるよう求めます。そのうえで、動画の削除と第三者への不提供、接触の禁止、約束を破った場合の違約金などを定めた合意書の作成を目指して交渉します。相手の本名や住所が分からない場合でも、弁護士会照会などの手続を使って特定を試みる方法があります。刑事告訴を考える場合は、告訴状の準備や警察とのやり取りを支援することもできます。
当事務所でも、店の利用客との間のトラブルで動画の消去を取り決め、関係を断つ形で解決に至った例があります。経緯は【解決事例】風俗店の利用客からの借入れに端を発するトラブル|弁護士の介入により不当な利息請求を拒絶し動画消去・分割返済で関係を遮断した事例でご紹介しています。
すでにネット上に出てしまった場合
投稿を見つけたら、まず投稿のURLと画面を保存し、そのうえで削除を求めます。削除の申出を先にすると、投稿が消えた後に何が載っていたかを示せなくなることがあるためです。
私事性的画像にあたる投稿については、リベンジポルノ防止法に基づく送信防止措置の申出という手続があります。サイトの管理者が投稿者に照会し、2日を経過しても反論がなければ、管理者が削除に応じやすくなる仕組みです。また、2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法により、大規模なプラットフォーム事業者には削除の申出窓口の整備や、一定の期間内での対応が求められるようになりました。投稿者が分からない場合は、発信者情報開示請求で特定を目指すことも検討します。
家族や今の職場に知られたくないとき
辞めた後の生活があるからこそ、家族や今の職場に知られずに解決したいと考える方は少なくありません。弁護士が窓口になれば、元客とのやり取りは基本的に弁護士を通じて行うことになり、ご本人の住所や今の勤務先を相手に伝える必要はありません。当事務所との連絡方法も、ご家族に気づかれにくい手段をご相談のうえで決めることができます。
警察に相談した場合も、相談したことが当然に家族や勤務先へ伝えられるわけではありません。気になる点があれば、相談の際に連絡先や連絡方法の希望を伝えておくとよいでしょう。
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「動画がある」という言葉を向けられると、要求に応じるかどうかだけを考えてしまいがちです。実際には、記録を残し、相談先を選び、相手との窓口を切り替えるという順序で、取れる手段は広がっていきます。辞めた後の生活を守るためにも、一人で抱え込まずにご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


