【風俗トラブル】避妊具が破れてしまった後、店からお金を求められたら払うべき?
この記事は、2026年10月時点の刑法、刑事訴訟法、刑事訴訟規則に基づいて書いています。2023年7月施行の刑法改正(不同意性交等罪の新設)を反映しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は弁護士にご相談ください。
「店から『本番を強要された』と連絡が来たが、自分は何もしていない。先に警察へ行って事情を話しておけば、疑いが晴れるのではないか」。風俗店を利用した方からは、このようなご相談が寄せられます。反対に、「禁止されている行為をしてしまった。店から請求される前に自分から警察に言ったほうが、結果が軽くなるのではないか」と考える方もいます。
「自首すれば刑が軽くなる」「困ったら警察に相談を」という説明は、それ自体は誤りではありません。ただ、風俗の場面で客が自分から警察に連絡する場合、何をどう伝えるかによって、警察での扱いは大きく異なります。被害の相談として受け付けられることもあれば、自分の行為を申告したものとして捜査の出発点になることもあります。そして、一度話した内容は記録として残り、後から変えるのは簡単ではありません。
この記事では、客の側から警察に事情を伝えることが有利に働く場面と、そうとは言えない場面を整理し、伝える前に考えておきたいことをまとめます。自首が成立するかどうかの細かな判断は自分から出頭すべきか|自首の成否と実務上の意味で、取調べでの受け答えは「認める調書」を作られないために|風俗トラブルの取調べ対応の注意点で扱っていますので、あわせてご覧ください。
「自分から警察に伝える」には3つの形がある
ひと口に「自分から警察に伝える」と言っても、その中身は大きく3つに分かれます。どの形にあたるかで、警察での位置づけも、期待できることも変わります。
| 伝え方 | 警察での位置づけ | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 店からの請求や脅しを相談する | 被害の相談(恐喝などの被害者側) | 自分の行為についても事情を聞かれることがある |
| 自分の行為を申告する | 自首または出頭(被疑者側) | 申告した内容が捜査の出発点になる |
| 疑われる前に言い分を伝えておく | トラブルについての情報提供 | 否認のままでは自首にあたらず、その後の扱いは相手の届出の有無で変わる |
店からの請求や脅しを「被害」として相談する
店から高額な金銭を求められ、「払わなければ警察に行く」「家族や会社に知らせる」などと告げられている場合、客の側が被害者として警察に相談することが考えられます。正当な請求の範囲を超えて相手を怖がらせ、金銭を払わせようとする行為は、恐喝罪(刑法249条)にあたる可能性があるためです。相談は最寄りの警察署のほか、警察相談専用電話(#9110)でも受け付けています。
ただし、相談の場では、なぜ請求を受けているのか、店で何があったのかも聞かれるのが通常です。被害の相談のつもりで話した内容が、自分の行為についての説明として記録されることもあります。恐喝との境目については「金を払わなければ通報する」と脅されたら|風俗トラブルにおける恐喝罪への対処法で詳しく解説しています。
自分の行為を申告する(自首・出頭)
禁止行為をしてしまったことを自分から警察に申し出るのが、2つ目の形です。法律上の「自首」は、捜査機関に犯罪や犯人が発覚する前に、自ら犯罪事実を申告して処分を委ねることをいいます(刑法42条1項)。キャストや店がすでに被害届を出していて、警察が誰の行為かを把握している場合には、自分から名乗り出ても法律上の自首にはあたらず、一般に「出頭」と呼ばれます。
疑われる前に「言い分」を先に伝えておく
3つ目は、「店とこういうトラブルになったが、自分は同意を得ていた(あるいは何もしていない)」と、先回りして警察に伝えておく形です。弁護士ドットコムにも、店から「一緒に警察に行ってほしい」と言われて断った後、その日のうちに自分から管轄の警察署に電話をしたという相談や、店のスタッフが来て怖くなり、自ら警察を呼んで事情を聞いてもらったという相談が見られます。
この形は、自分の行為を罪として申告するものではないため、自首にはあたりません。警察にとっては「トラブルがあったという情報」の一つにとどまり、その後の扱いは、キャスト側が被害を届け出るかどうかに大きく左右されます。
自分から伝えることが有利に働く可能性がある場面
自首が成立すれば、刑の減軽の対象になる
刑法42条1項は、捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができると定めています。減軽するかどうかは裁判所の判断に委ねられており、自首をすれば当然に軽くなるという仕組みではありません。それでも、自ら申告したことは反省の態度を示す事情として、処分や量刑の判断で考慮される可能性があります。
風俗の場面では、店やキャストから連絡が来た時点で、すでに警察に相談が入っていることもあります。その場合は前述のとおり自首ではなく出頭の扱いとなるため、相手方の動きを確かめないまま「自首すれば軽くなる」と考えるのは早計です。
出頭でも、処分や身柄の判断材料になりうる
法律上の自首にあたらない出頭であっても、意味がないわけではありません。検察官が起訴するかどうかを決める際には、犯罪後の情況も考慮されます(刑事訴訟法248条)。また、逮捕状の請求を受けた裁判官は、逃亡や証拠隠滅のおそれがないなど、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは請求を退けることとされています(刑事訴訟規則143条の3)。
自分から警察に出向き、住所や連絡先を明らかにして呼び出しに応じる姿勢を示していることは、逮捕の必要性を判断する事情の一つとなりえます。逮捕されずに捜査が進む「在宅事件」については在宅事件と身柄事件の違い|風俗トラブルで逮捕を避けるための弁護活動もご参照ください。
請求や脅しの経過を、公的な記録として残せる
店からの請求や脅しについて警察に相談した場合、その内容は警察の相談記録として残ります。後になって店との交渉がこじれたり、相手が言い分を変えたりしたときに、いつの時点でどのような請求を受けていたかを示す材料になる場合があります。ただし、相談記録は警察が作成するものであり、自分の側に有利な内容だけが残るわけではない点には注意が必要です。
思ったほど有利にならない場面・注意が要る場面
先に話したからといって、その内容が信用されるわけではない
「先に警察へ行ったほうが話を信じてもらえる」と考える方は少なくありません。しかし、警察は申告の順番で判断するわけではなく、双方の説明や客観的な証拠を照らし合わせて事実を調べます。先に話したこと自体が、同意があったことや行為がなかったことの裏付けになるわけではありません。
話した内容は記録に残り、後から変えるのは難しい
警察で話した内容は、供述調書などの書面にまとめられることがあります。調書は読み聞かせを受けて訂正を求めることができ、署名押印を拒むこともできます(刑事訴訟法198条4項・5項)。一方で、署名押印をした調書のうち、自分に不利益な事実を認める内容のものは、後に裁判で証拠として用いられることがあります(同法322条1項)。
トラブルの直後は、記憶が整理されていなかったり、気持ちが動揺していたりして、事実と違う言い方や、必要以上に自分を責める言い方をしてしまうことがあります。最初の説明と後の説明が食い違うと、その食い違い自体が、説明の信用性を下げる方向で評価されることがあります。この点は供述が途中で変わると不利になる理由|変遷の評価で詳しく扱っています。
相手が動いていなかった件が、捜査の出発点になることもある
キャストや店が警察に届け出るかどうかを決めていない段階で、客の側から「こういうことがあった」と警察に伝えると、警察がその件を把握するきっかけになります。性犯罪の疑いにつながる情報に触れた以上、警察がキャスト側に事情を確認することも考えられます。相手が届け出るつもりのなかった件が、自分からの連絡を出発点に動き出すこともあるということです。
店から「警察に相談した」と聞かされていても、それが事実かどうかは分からない場合もあります。確かめ方については【風俗トラブル】キャストが警察に相談したと聞かされた|本当かどうか確かめる方法はあるかをご覧ください。
警察に伝えるかどうかを決める前に整理しておきたいこと
自分が何をしたのか、していないのかを時系列で書き出す
警察に伝えるかどうかにかかわらず、まずは自分の記憶を整理しておくことが出発点になります。次のような点を、できるだけ早いうちにメモに残しておくとよいでしょう。
- 利用した日時、店の名前、利用した場所(店舗かホテルか)。
- キャストとのやり取りのうち、同意や拒否に関わる言葉と、その前後の流れ。
- 店から連絡が来た日時、相手の名乗り、告げられた内容と金額。
- 店に見せた身分証や、書かされた書面の有無とその内容。
- LINEや通話履歴、予約サイトの記録など、手元に残っている客観的な記録。
記録の作り方は【風俗トラブル】自分側の記録をどう作るか|相談の前に整理しておく材料でも紹介しています。
相手方がすでに警察に動いているかを見極める
自首にあたるか出頭にとどまるか、言い分を伝えることが捜査の出発点になるかどうかは、相手方の動きによって変わります。店から「警察に行く」と言われただけの段階なのか、「被害届を出した」と告げられているのか、警察から自分に連絡が来ているのかで、取るべき対応は異なります。店から警察の話が出た直後の動き方は【風俗トラブル】店から「警察に行く」と言われた翌日にすること|被害届が出る前の時間で整理しています。
弁護士に相談してから伝えるという順序
警察に伝えること自体が悪いわけではありません。ただ、何をどこまで、どの形で伝えるかによって、その後の流れは変わります。警察に伝えるという判断は、一度行うと後戻りしにくい判断です。弁護士に相談したうえで伝える内容を整理し、必要に応じて弁護士が同行したり、事実関係をまとめた書面を添えたりすることで、誤解を招く説明や不正確な記録が残るのを防ぎやすくなります。
また、キャスト側との示談を検討する場合には、警察への申告と示談交渉をどの順序で進めるかも大切です。警察と弁護士のどちらに先に相談するかの考え方は、風俗トラブルは警察・弁護士どっちに相談すべき?状況別の判断基準もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
何もしていないなら、警察に行っても困ることはないのではありませんか?
事実として何もしていないのであれば、そのことを説明すること自体に問題はありません。ただ、警察は双方の言い分と証拠から事実を確かめていくため、こちらの説明だけで疑いが晴れるとは限りません。また、動揺した状態で話すと、細かな点で記憶違いの説明をしてしまい、後からの説明と食い違うことがあります。説明する前に、記録を整理しておくことをおすすめします。
名前を伏せて警察に相談することはできますか?
一般的な相談であれば、名前を伏せたまま助言を受けられる場合もあります。ただし、警察に具体的な対応をしてもらうには、身元や事情を明らかにする必要があるのが通常です。また、匿名の相談は自分の行為を申告したことにはならないため、自首としての効果は期待できません。
店から「一緒に警察へ行こう」と言われた場合はどうすればよいですか?
警察からの任意の呼び出しであっても、逮捕・勾留されていない限り、出頭するかどうかは本人が決められます(刑事訴訟法198条1項ただし書)。店からの同行の求めについても、その場で応じる義務はありません。もっとも、断り方によっては相手の感情を害し、話がこじれることもあります。応じるか断るかを決める前に、弁護士に相談して状況を整理することが望ましいでしょう。警察から連絡が来た場合の考え方は【刑事事件】警察から電話が来た段階で弁護士に相談する意味で解説しています。
まとめ
- 客の側から警察に伝える形には、被害の相談、自分の行為の申告、言い分の事前説明の3つがあり、どれにあたるかで警察での扱いが変わります。
- 店からの請求が正当な範囲を超え、脅して金銭を払わせようとするものであれば、恐喝罪(刑法249条)の被害として相談できる可能性があります。
- 捜査機関に発覚する前の自首は刑の減軽の対象になりますが、減軽するかどうかは裁判所の判断です(刑法42条1項)。
- 相手がすでに届け出ている場合は出頭の扱いとなり、自首にはあたりませんが、処分や逮捕の必要性の判断で考慮される事情にはなりえます(刑事訴訟法248条、刑事訴訟規則143条の3)。
- 否認したまま言い分を先に伝えても自首にはあたらず、相手が動いていなかった件が捜査の出発点になることもあります。
- 署名押印した供述調書は後の裁判で証拠となることがあり、説明の食い違いは信用性の評価に影響します(刑事訴訟法198条、322条1項)。
- 警察に伝えるかどうか、何をどう伝えるかは、記録を整理し、弁護士に相談してから決めることが望ましいでしょう。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。警察に事情を伝えるかどうか迷っている段階から、伝える内容の整理、警察への同行、キャスト側との示談交渉まで、状況に応じて対応いたします。
店から請求や脅しを受けて困っている方も、身に覚えのない疑いをかけられている方も、禁止行為をしてしまい今後の対応に悩んでいる方も、警察に連絡する前に一度ご相談ください。


