恐喝と借金の取り立ての境界|個人間の債権回収がアウトになる線
裸の画像や動画を送ってしまった直後に「ばらまかれたくなければ金を払え」と告げられる。ビデオ通話の録画だと言われ、画面のスクリーンショットを見せられる。SNSやマッチングアプリをきっかけにしたこうした被害は、セクストーション(性的脅迫)と呼ばれます。
このとき多くの方が、頭が真っ白なまま、その場でいくつもの判断をしています。返信するか、払うか、ブロックするか、アカウントを消すか。そのうちのいくつかは、後から取り消すことができません。
この記事では、被害に気づいてからのおよそ1時間に何をどの順番で行うかを整理します。身の危険が差し迫っている場合は110番へ、気持ちの整理がつかないときは後述の相談窓口へ、先にご連絡ください。
1.「1時間で決まる」のは何で、決まらないのは何か
はじめに、正直に書いておきたいことがあります。
1時間で解決するわけではありません。 すでに送ってしまった画像を手元に戻すことはできませんし、相手が何者かがこの1時間で判明することも、通常はありません。「今すぐ動けばすべて防げる」と考えると、うまくいかなかったときに自分を責めることになります。そうではなく、この1時間で動かしやすいものと、時間が経つほど動かしにくくなるものがあるだけです。
この60分で左右されやすいのは、次の3つです。
- 相手に渡る材料が、これ以上増えるかどうか(追加の画像、本名、勤務先、家族の連絡先)
- 後から使える記録が残るか、消えるか(相手のアカウントが消される、メッセージが削除される、自分が消してしまう)
- 拡散されうる範囲を、あらかじめ狭められるかどうか(公開中のフォロワー一覧、タグ付け、プロフィールに出ている実名や所属)
表①:この段階で「まだ動かせること」と「もう戻せないこと」
| まだ動かせること | もう戻せないこと |
|---|---|
| これ以上の画像・情報を渡さないこと | すでに送ってしまった画像そのもの |
| やり取りを記録として残すこと | 自分で削除してしまった履歴 |
| 送金しないこと | 送金してしまった事実と、その後の連絡 |
| 公開範囲やフォロワー一覧を絞ること | すでに相手が取得した友人・家族の情報 |
| 外部(警察・弁護士)につながること | 「もう少し様子を見よう」と過ぎた時間 |
2.最初の1時間の順番
順番には理由があります。とくに**「保存」が「遮断」より先**である点は、支援情報の中でも助言が分かれるところです。ブロックを勧める案内も、証拠保全を勧める案内も、どちらも間違いではありません。先に保存し、そのうえで遮断すると、両方の利点が残ります。
0〜10分:返信を止める(まだブロックはしない)
交渉しない、言い返さない、謝らない。「もう送らない」「警察に行く」と宣言する必要もありません。やり取りを続けている時間そのものが、相手にとっては材料を増やす時間になりがちです。
一方で、この時点でアカウントを削除したり、トーク履歴を消したりするのは避けてください。相手の言葉が消えると、後から「何を言われたのか」を示すものがなくなります。
10〜25分:残す
次のものを、画面の撮影や保存機能で記録します。
- 相手のアカウント名、ID、プロフィールのURL、表示名の変更履歴
- 脅している文面(要求の内容と期限が写っている部分が重要です)
- 指定された送金先(口座、暗号資産のアドレス、電子マネーやギフトカードの指示)
- 自分が何をいつ送ってしまったかのメモ(記憶で構いません)
- 相手が「持っている」と示してきた画像や画面(見せられたものがあれば)
元のデータは消さず、そのうえで別の場所に控えを作るのが基本です。記録の残し方には、後から通用しやすい形とそうでない形があります。詳しくは別稿「証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とは」をご覧ください。
25〜35分:遮断する
保存が済んだら、ブロックや着信拒否、プラットフォームへの通報を行います。無視だけを続けると、相手が反応を引き出そうとしてやり取りが長引くことがあります。プラットフォームへの通報は、相手のアカウントに対する措置につながることがあり、これも記録が済んでからのほうが安全です。
35〜50分:拡散されうる範囲を狭める
セクストーションでは、「誰に見せるか」を人質にされます。 相手が狙うのは、多くの場合あなたのフォロワーや友人、家族、勤務先です。ここは1時間のうちで数少ない、実際に手を打てる部分です。
- SNSのフォロワー・フォロー・友達一覧を非公開に切り替える
- タグ付けやメンションを承認制にする
- プロフィールから実名、勤務先、学校、地域が特定できる情報を外す
- 連絡先の自動同期(アドレス帳との連携)をオフにする
- 不審なリンクを開いた、アプリを入れた心当たりがあるなら、そのアプリを削除し、パスワードを変更する
50〜60分:外部につなぐ
一人で抱えている時間が長くなるほど、判断が相手のペースに寄っていきます。最後の10分は、外につながるために使ってください。窓口は第7章にまとめました。
表②:この1時間ですること・しないこと
| すること | しないこと |
|---|---|
| 返信を止める | 交渉する、値切る、謝罪文を送る |
| 記録を残してからブロックする | 先にアカウントや履歴を消す |
| 公開範囲を絞る | 相手の身元を自力で調べようとする |
| 送金を止める | 「今回だけ」と支払う |
| 警察・弁護士につながる | 一人で朝まで抱え込む |
3.払うかどうか──この1時間で最も戻しにくい判断
要求されたからといって、支払う義務が生じるわけではありません。 相手の行為は、後述のとおり犯罪に当たりうるものです。
そのうえで、支払いを避けたい実務的な理由が3つあります。
第一に、一度支払うと要求が止まらないケースが少なくありません。 「これで最後」と言われても、名目を変えた請求が続くことがあります。
第二に、支払いの手段が回収を難しくします。 暗号資産、ギフトカード番号、電子マネーといった指定は、資金の行き先を追いにくくするために選ばれていることがあります。
第三に、送金は相手にとっての「反応がある相手」という情報にもなります。
すでに支払ってしまった方へ。 それ自体は責められることではありません。この段階でできるのは、それ以上支払わないこと、送金の記録(日時、金額、送金先、指示のやり取り)を残すこと、そして早めに相談することです。回収の見込みは事案によって差が大きく、ここで一律の見通しをお伝えすることはできません。
4.相手がしていることは、法的にどう評価されうるか
「セクストーション」という罪名があるわけではありません。行為の内容に応じて、次のような犯罪の成否が検討されます。
表③:要求の内容と検討されうる罪名
| 相手がしていること | 検討されうる罪名 |
|---|---|
| 「ばらまく」と告げるだけ | 脅迫罪(刑法222条/2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金) |
| 追加の画像や行為を求める | 強要罪(同223条/3年以下の拘禁刑)。性的な行為の強要は、より重い性犯罪の成否も問題になります |
| 金銭を求める | 恐喝罪(同249条/10年以下の拘禁刑)。支払わせるに至らなくても未遂として処罰の対象になり得ます(同250条) |
| 実際に公開・送信した | リベンジポルノ防止法(公表罪は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。親告罪です)、名誉毀損罪など |
| 相手が18歳未満の画像を扱っている | 児童ポルノ禁止法の問題となり、扱いが大きく変わります |
| URLやアプリを踏ませて情報を抜いた | 不正アクセス禁止法違反などが問題となることがあります |
※刑の重さは2025年6月1日の拘禁刑への一本化を反映しています。
なお、相手が海外にいるとみられる場合でも、日本の警察に相談する意味がなくなるわけではありません。 送金先や利用されたサービスの記録が、その後の手がかりになることがあります。
5.「相手は本当に画像を持っているのか」を切り分ける
セクストーションには、性質の異なる2つの型があります。
(A)実際に画像・動画がある型
やり取りの中で自分が送った、あるいはビデオ通話を録画されたケースです。相手はその一部を示してくることがあります。
(B)持っていない可能性が高い型
「あなたの端末を乗っ取り、アダルトサイト閲覧中の様子を撮影した」という趣旨のメールが、暗号資産での支払いを求めて届くものです。信用させるために、過去にどこかで流出したパスワードが本文に書かれていることもあります。この型では、実際には画像が存在しないことが多いとされています。
切り分けの目安は、①相手が画像そのものの一部を示したか、②示された内容が自分の記憶と一致するか、③同じ文面が広く送られている形跡がないか、です。
もっとも、どちらの型でも、この1時間の行動は変わりません。 払わない、記録を残す、遮断する。判断に迷う部分は、専門家に確認したほうが確実です。
6.1時間の外側──その後に効いてくること
拡散を先回りで抑える仕組みがあります。 StopNCII.orgは、自分の端末上で画像や動画の「ハッシュ(デジタル指紋)」を作り、画像そのものは送らずにハッシュだけを参加事業者と共有する仕組みです。参加するプラットフォーム側で一致する画像が検出されれば、そのサービス内での掲載が止まる場合があります。撮影時18歳未満の画像については、Take It Down(TakeItDown.NCMEC.org)が同様の仕組みを提供しています。
ただし、これはインターネット全体からの削除を保証するものではありません。 参加していないサービスや、個別のメッセージでの送信までは及びません。「打てる手のひとつ」として位置づけてください。
実際に公開されてしまった場合の削除は、プラットフォームへの申出(情報流通プラットフォーム対処法。削除申出に対する調査結果の通知期間が定められています)、裁判所の手続などのルートがあります。刑事の届出、民事の損害賠償、発信者情報の開示による相手方の特定も、その後の選択肢です。名誉毀損罪の告訴期間は犯人を知った日から6か月、不法行為の損害賠償請求権は損害と加害者を知った時から3年といった期限もあります。通信記録の保存期間には限りがあるとされており、時間が経つほど選べる手は減っていきます。
家族や職場に自分から話すべきかについて、一律の正解はありません。先に伝えておくことで脅しの効き目が弱まる面はありますが、伝えた後の生活への影響も同時に生じます。順序と範囲を決めてから動くほうが、後悔が少ない場面です。ここは弁護士と一緒に設計できる部分です。
7.ひとりで抱え込まないために
「相談したら、かえって知られてしまうのではないか」という不安をよく伺います。弁護士には法律上の守秘義務があり、正当な理由なく相談内容を他に漏らすことはありません。警察の相談も、相談したこと自体が周囲に知らされるものではありません。
- 緊急のとき:110番
- サイバー事案の通報・相談:警察庁のオンライン受付窓口(2025年12月15日から全国統一の窓口として運用されています。ただし、この窓口では被害届の受理はできません)
- 被害届の提出:お住まいの地域を管轄する警察署
- 相談すべきか迷うとき:警察相談専用電話 #9110
- 性被害としての相談:性犯罪被害相談電話 #8103(ハートさん)、ワンストップ支援センター #8891(はやくワンストップ。年齢・性別を問わず相談できます)
- ネット上の削除の相談:違法・有害情報相談センター(総務省の支援事業)
気持ちが追い詰められていると感じるときは、法的な手続の前に、まず上記の相談窓口に声を届けてください。この種の被害は、恥ずかしさから一人で抱え込みやすいものですが、相談された側は、あなたを責めるために話を聞くわけではありません。
8.まとめ
- 最初の1時間で被害が「解決」するわけではありません。ただし、この時間の選択は後から取り消しにくいという意味で重要です。
- 順番は、返信を止める → 記録を残す → 遮断する → 公開範囲を絞る → 外部につなぐ。保存が遮断より先です。
- 支払う義務はありません。 一度応じると要求が続くことが少なくありません。
- 「ばらまく」と告げる行為自体が、脅迫罪・強要罪・恐喝罪などに当たりうるものです。金銭を渡していなくても、未遂として問題になり得ます。
- すでに支払ってしまった、時間が経ってしまったという場合でも、打てる手が残っていることはあります。


