本番があった場合、処罰されるのは誰か|客・嬢・店の責任の違い
店との話し合いがまとまり、示談金も支払った。ようやく終わったと思っていたところに、店から「女性が納得していない」「このままでは女性が警察に行くと言っている」と連絡が来ることがあります。一度区切りをつけたはずの話が再び動き出すと、追加で支払うしかないのではないかと考えてしまう方も少なくありません。
ただ、この連絡にどう向き合うべきかは、先に交わした示談が「誰と」「どのような内容で」成立しているかによって大きく変わります。女性本人との間で有効な合意ができているのか、それとも店との間だけで話が済んでいるのかで、取るべき対応は異なります。この記事では、示談後に「女性が納得していない」と言われた場面で確かめておきたいことと、避けたい対応、弁護士が入る場合の進め方を整理します。
本記事は、2023年7月施行の刑法改正(不同意性交等罪・不同意わいせつ罪の新設)を前提に記載しています。個別の事情によって結論は変わりますので、具体的な対応はご相談の際に確認させてください。
最初に確かめたいのは「示談の相手方」と「書面の中身」
「女性が納得していない」という言葉だけでは、それが法的にどのような意味を持つのかは判断できません。まずは、手元にある示談書や合意書、念書、振込の記録を見直し、次の点を確かめることから始めます。
示談書に誰の名前があるか
示談書の当事者欄に、女性本人の氏名と署名があるのか、店の名前や店長の名前だけなのかを確認します。源氏名だけが書かれている場合や、店が「女性の代理として」署名している場合もあります。店が女性の代理人として署名しているときは、女性からその権限を与えられていたかどうか(委任状などがあるか)が問題になります。
どのような条項が入っているか
示談書に、この件についてほかに請求をしないことを確認する「清算条項」や、女性が処罰を望まないことを示す「宥恕条項」、被害届を出さないことの約束などが入っているかを確認します。条項の意味については、宥恕文言の意味|「許す」と書かれると刑事処分はどう変わるかでも解説しています。
確認の結果は、おおむね次のように整理できます。
| 示談の状況 | 女性本人との関係 | 考え方の目安 |
|---|---|---|
| 女性本人が署名した示談書がある | 合意が成立している可能性が高い | 一方的に「納得していない」と言われても、合意は原則として維持される |
| 店が女性の代理として署名した | 代理権の有無で分かれる | 権限がなければ女性本人には効力が及ばないおそれがある |
| 店とだけ合意し、女性の名前がない | 女性本人とは合意していない | 女性本人の請求や被害届の可能性は残る |
| 口頭の約束だけで書面がない | 内容の立証が難しい | まず約束の内容と支払いの記録を整理する |
女性本人との間で示談が成立している場合
女性本人が示談書に署名している場合や、女性から正式に委任を受けた代理人と合意している場合には、示談は和解という契約として当事者を拘束します(民法695条、696条)。後になって「やはり納得できない」と思い直したとしても、それだけで合意がなかったことになるわけではありません。清算条項が入っていれば、合意に含まれる事柄について追加の支払いを求められても、応じる義務がないと整理できる場面が多いと考えられます。
ただし、どのような場合でも合意が維持されるとは限りません。示談の際に事実と異なる説明をしていた、相手を強く畏怖させて署名させたなどの事情があれば、錯誤や詐欺・強迫を理由に合意の効力が争われることがあります(民法95条、96条)。また、清算条項がどこまでの事柄を含むかは文言によって異なり、合意の対象に入っていない事柄が後から持ち出されることもあります。この点は清算条項を入れても蒸し返される場面|条項の射程の限界で詳しく取り上げています。
刑事手続との関係にも注意が必要です。不同意性交等罪や不同意わいせつ罪は、告訴がなくても捜査や起訴ができる罪とされています。そのため、示談が成立していても、女性が警察に相談すること自体を法的に止めることはできません。もっとも、示談が成立し宥恕の意思が示されていることは、捜査機関が処分を判断するうえで考慮される事情の一つになります。示談後に被害届が出された場合の考え方は、【風俗トラブル】示談金を払ったのに被害届を出された|合意の効果と刑事手続や示談が成立した後に被害者が処罰を求めた|宥恕の撤回はできるのかもあわせてご覧ください。
店とだけ示談している場合
風俗トラブルでは、その場に来た店長やスタッフと話をまとめ、女性本人とは直接合意していないまま示談金を支払っているケースが少なくありません。「女性には店からお金を渡して納得してもらう」と口頭で説明を受けていたという相談もよく見られます。
示談は契約ですので、原則として合意した当事者の間でしか効力を持ちません。店と客の間で交わした合意は、女性本人が自ら請求する権利や、警察に被害を申告することを当然に制限するものではありません。店が女性の代理人として署名していた場合でも、女性から権限を与えられていなければ、女性本人が追認しない限りその合意は女性に効力が及ばないと考えられます(民法113条)。
また、店が受け取ったお金が女性に渡っているのかどうかも、客の側からは分かりにくいところです。風俗トラブルで損害を受けたと主張できるのは主に女性本人であり、店自身が請求できる損害は限られることが多いとされています。この違いについては誰に払うのか|店の損害とキャスト個人の損害は別で整理しています。
このような状況で「女性が納得していない」と言われた場合、女性本人が実際に何を求めているのかを確かめたうえで、必要であれば女性本人との間で改めて合意を結ぶことを検討します。その際には、すでに店に支払った金額をどう扱うかも重要な論点になります。同じ出来事について二重に支払う形にならないよう、支払いの経緯を記録とともに示して話し合うことになります。
「納得していない」が追加請求の理由として使われている場合
一方で、「女性が納得していない」という言葉が、実際には店が追加の支払いを求めるための理由として使われていることもあります。客の側からは女性本人の意思を確かめる手段がないため、店の説明をそのまま受け入れるしかないように感じてしまいやすいのです。
次のような事情がある場合は、追加請求の構造になっていないか、いったん立ち止まって考える必要があります。
- 女性本人ではなく、店のスタッフや店長だけが連絡してくる。
- 「女性の分は別」と、以前の合意とは別の名目で金額を示される。
- 支払期限を短く区切り、急がせる。
- 支払わなければ家族や職場に知らせる、警察に行くなどと告げられる。
- 前回の示談書の内容について質問しても、はっきりした説明がない。
一度支払うと「これで最後」という説明が繰り返されることもあります。この構造については「これで最後」が繰り返される構造|追加請求が止まらない理由、示談後の請求への対応は示談したのに再度請求された|清算条項と蒸し返しへの対応で解説しています。
なお、店が女性に代わって客と示談の交渉をし、示談金を受け取ることについては、弁護士法72条が禁じる非弁行為にあたるのではないかという問題も指摘されています。実際に、店の関係者が客との示談交渉をめぐって弁護士法違反の疑いで逮捕されたとの報道もあります。店が交渉の窓口になること自体の問題点は、店がキャストに代わって示談交渉をしてよいのか|非弁行為という視点で取り上げています。
この連絡を受けたときに避けたい対応
不安な気持ちから早く終わらせたいと考えるのは自然なことですが、次のような対応は、かえって状況を複雑にするおそれがあります。
- 店の説明だけをもとに、追加の示談金をすぐに振り込むこと。
- 内容を十分に確かめないまま、新しい示談書や念書に署名すること。
- 女性本人の連絡先を探し出して、直接連絡や謝罪を試みること。
- 前回の示談書、振込の記録、店とのメッセージや通話の記録を削除すること。
- 感情的な言葉で店に反論し、そのやり取りが残ってしまうこと。
とくに女性本人への直接の連絡は、謝罪のつもりであっても、相手に不安を与えたり、働きかけと受け取られたりするおそれがあります。女性本人の意思を確かめる必要がある場合は、弁護士を通じて行うのが安全です。
弁護士が入る場合の進め方
当事務所でご相談をお受けする場合、事案によって細部は異なりますが、おおむね次のような順序で進めます。
- 前回の示談書、振込の記録、店とのやり取りを確認し、合意の当事者と内容を整理します。
- 店に対して弁護士が代理人になったことを通知し、ご本人やご家族、勤務先への連絡を控えるよう求めます。
- 「女性が納得していない」という説明の根拠と、女性本人の意思を、弁護士を通じて確認します。
- 女性本人との合意が必要な場合は、すでに支払った金額を考慮したうえで条件を話し合います。
- 新たに合意する場合は、女性本人の署名、清算条項、宥恕条項、口外禁止や接触禁止などを盛り込んだ書面を作成します。
確認の結果、すでに女性本人との間で有効な合意が成立していると整理できる場合には、追加の請求には応じない方針で対応を進めることになります。反対に、女性本人とは合意ができていなかった場合には、改めて女性本人との合意を目指すことが、結果として刑事手続のリスクを抑えることにつながることもあります。店と女性本人の双方と合意した事例として、【解決事例】風俗店で「警察に行く」と告げられた本番行為トラブル|解決金30万円で三者示談が成立した事例もご参照ください。書面に入れておきたい条項については、風俗トラブルの示談書に必ず入れる6条項|抜けると後で効かないで解説しています。
よくあるご質問
示談書が店の手元にしかなく、内容を正確に覚えていません。どうすればよいですか
まずは、振込の記録や店とのメッセージ、撮影していた書面の写真など、手元に残っているものを集めておくことが大切です。示談書の控えを求めることも考えられます。控えを求める意味については【風俗トラブル】示談書の原本を店しか持っていない|控えを求めるべき理由で解説しています。
店に支払ったお金は返してもらえますか
支払いの経緯や示談書の内容、店が女性に何を渡したのかによって判断が分かれます。返還を求められる場面もありますが、まずは女性本人との関係をどう整理するかを優先して検討するのが一般的です。
警察から連絡が来る可能性はありますか
女性本人が警察に相談すれば、事情を聞くために連絡が来る可能性はあります。示談が成立していることは処分の判断で考慮される事情になりますので、示談書や支払いの記録は捨てずに保管しておいてください。警察から連絡があった場合は、その段階で弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
示談後に「女性が納得していない」と言われたときは、すぐに追加で支払うかどうかを決めるのではなく、先に交わした示談が誰との間で、どのような内容で成立しているかを確かめることが出発点になります。女性本人との合意が有効に成立していれば原則として合意は維持されますし、店とだけ合意していた場合には女性本人との関係を改めて整理する必要があります。いずれの場合も、店の説明だけで判断せず、記録を残したうえで落ち着いて対応を選ぶことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


