【風俗トラブル・キャスト側】店で知り合った客と結婚したら「直引き」で高額請求された

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

本記事は、2026年10月時点の民法・労働基準法・消費者契約法・刑法の規定をもとに、一般的な考え方を解説するものです。刑罰の表記は、2025年6月に施行された改正刑法にあわせて「拘禁刑」としています。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な対応は弁護士にご相談ください。


お店で知り合ったお客様と交際し、結婚したところ、以前の勤務先から「客を直引きした」「店の売上を奪った」として、高額の支払いを求められることがあります。請求が奥様(元キャスト)に向けられることもあれば、夫となった元のお客様に向けられることもあり、ご夫婦のどちらか一方、あるいは両方が対応を迫られます。

 「誓約書を書いたから仕方がない」と考えてしまう方もいますが、結婚したこと自体を理由とする請求には、支払う理由が認められにくい要素が多く含まれています。この記事では、請求を受けたご夫婦に向けて、請求の性質を見分ける考え方と、最初にとりたい対応を整理します。

「直引き」と結婚は、同じものではない

 風俗店などで「直引き」「裏引き」と呼ばれるのは、一般に、店を通さずにお客様と直接やり取りをして、店に入るはずの料金を介さずに対価を受け取り、サービスをすることを指します。店が問題にしているのは、本来は店の売上になるはずだった取引が、店の外で行われたという点です。

 これに対し、お客様と交際し、結婚することは、サービスの対価を受け取る取引ではありません。二人の間で生まれた関係を、私生活として選び取ったものです。店が結婚を「直引き」と呼んでいても、言葉が同じだからといって、同じ法律上の評価になるわけではありません。まずは、店が何を根拠に、どの名目で、いくらを求めているのかを分けて確かめることが出発点になります。

店の言い分法律上の位置づけ主に問題になる点
規約で客との交際・結婚を禁じていた違約金・損害賠償額の予定(民法420条)その約束自体が有効か
常連客を奪われ、売上が減った損害賠償(民法415条・709条)損害が本当に生じたか、金額はいくらか
「罰金」として払え刑罰ではなく、上のどちらかとして扱われる名目にかかわらず根拠の確認が必要


 店が「罰金」と呼ぶお金の扱いは、「罰金」を請求された|私人が罰金を科すことはできないでも解説しています。

結婚を理由とする違約金は、効力が認められにくい


誰と結婚するかは、本人が決めること

 憲法24条1項は、婚姻が両性の合意のみに基づいて成立することを定めています。憲法は直接には国と個人の関係を定めるものですが、私人どうしの約束であっても、こうした基本的な自由を過度に制約する内容は、公序良俗に反するものとして無効とされることがあります(民法90条)。

 客との交際や結婚を禁じ、違反すれば高額の違約金を払うという約束は、働く人の私生活の中心にある選択を、お金によって縛るものです。結婚という真摯な関係までを対象とする違約金の定めは、有効と認められにくい類型の一つと考えられます。

私的な交際の禁止と違約金を無効とした裁判例

 キャバクラなどを営む会社が、従業員に私的な交際を禁じ、違反した場合は200万円の違約金を払うとする同意書を書かせていた事案で、裁判所がその定めを無効とし、店の請求を退けた例があります(大阪地裁令和2年10月19日判決)。誰と交際するかは本人の自由に委ねられるべき事柄であるところ、真剣な交際まで禁じ、高額の違約金を定めていた点が、働く人の自由への著しい介入と評価されたと紹介されています。交際が店に損害を与える目的で行われたなどの特段の事情がない限り、交際自体が不法行為になるものでもないとされています。

働いていた方が労働者にあたる場合

 店との関係が雇用であれば、労働基準法16条により、違反した場合の違約金や損害賠償額をあらかじめ定めること自体が禁じられています。契約書の名前が「業務委託」でも、出勤や接客の内容を店が指示していたなど、実態によって労働者にあたると判断されることがあります。働き方による違いは、【風俗トラブル】客と店外で会ったことを店に知られ、罰金を求められたら?で詳しく整理しています。

「常連客を奪われた」という損害の主張をどう見るか

 違約金の約束が無効であっても、店が「実際に売上が減った」として損害賠償を求めてくることがあります。この場合、損害が本当に生じたのか、その金額はいくらなのかは、請求する店の側が示す必要があります。

 お客様には、どの店をいつまで利用するかを自由に決める立場があり、店に通い続ける義務はありません。結婚がなくても、お客様が来店をやめていた可能性は常にあります。そのため、「結婚していなければ、このお客様は今後も同じだけ店にお金を使っていたはずだ」という前提で将来の売上を積み上げた金額は、損害として認められにくいと考えられます。ホストクラブの元従業員が常連客を引き抜いたとして1年分の売上を請求された事案でも、自由競争の範囲を逸脱した違法な奪取があったとは認められないと判断されています(東京地裁令和2年11月18日判決)。

 インターネット上の法律相談でも、「1か月の稼ぎの1年分」といった計算で金額を示されたという相談が見られますが、こうした計算は店の側の主張にとどまります。

 なお、結婚に至る前の時期に、店を通さずに対価を受け取ってサービスをしていた事実がある場合には、その部分については別の検討が必要になります。その場合でも、店が求められるのは実際の損害の範囲であり、店が決めた金額をそのまま払う義務があるという意味ではありません。

夫(元のお客様)に請求が向けられた場合

 店が、利用規約に「キャストとの私的な交際・連絡先交換の禁止」「違反時は違約金100万円」などと定めていたことを根拠に、夫となった元のお客様へ請求することもあります。

 この場合、まず、その規約が利用の時点で示され、契約の内容になっていたのかが問題になります。仮に契約の内容になっていたとしても、店と客との契約は消費者契約にあたるため、消費者の利益を一方的に害する条項は無効とされることがあります(消費者契約法10条)。客とキャストが交際し結婚することを違約として高額の支払いを課す条項は、この観点からも効力が争われる余地が大きいと考えられます。規約の効力の確かめ方は、【風俗トラブル】店から『うちの規約では』と言われた|規約の効力を確かめる順序や損害賠償額の予定(民法420条)は風俗の規約でも有効かで解説しています。

退店した後、結婚した後に届く請求

 奥様がすでに店を辞めてから交際や結婚に至った場合、在籍中の規約や誓約書が退店後の私生活にまで及ぶとは通常考えにくいところです。退店後の請求全般については、【風俗トラブル】店を辞めた後も罰金や違約金を請求されたら、払う必要はある?もあわせてご覧ください。

 結婚の報告やSNSへの投稿をきっかけに、店が結婚を知って連絡してくることもあります。店の代理人を名乗る弁護士から書面が届いた場合でも、請求の根拠を確かめずに払う必要はありません。書面が届いたときの考え方は、内容証明が弁護士名で届いた|慌てて払う前にやるべきことで整理しています。

「家族や職場に知らせる」と言われたとき

 支払いを渋ると、「夫の両親に昔の仕事を伝える」「夫の勤務先に連絡する」などと告げられることがあります。結婚後は守りたい関係が増えるため、こうした言葉に強い不安を感じるのは自然なことです。

 相手の名誉や生活に害を加えると告げて脅すことは、内容によって脅迫罪(刑法222条)にあたることがあり、それによってお金を払わせようとすれば恐喝罪(刑法249条)が問題になります。請求に何らかの根拠があったとしても、方法が社会通念上許される範囲を超えれば、恐喝にあたり得るとされています。言われた日時や言葉は、メモや画面の保存で記録しておいてください。考え方は、「金を払わなければ通報する」と脅されたら|風俗トラブルにおける恐喝罪への対処法や店の請求が恐喝に変わる線引き|正当な権利行使との境界でも解説しています。

請求を受けたときに、ご夫婦でしておきたいこと


  1. その場でお金を払わず、誓約書・借用書・念書にも署名しないこと。
  2. 奥様の入店時の誓約書や規約、夫が利用時に示された規約など、手元にある書面の写しを確保すること。
  3. 店から求められた金額、その理由として言われた内容、連絡の日時と手段を記録すること。
  4. 店からの連絡がご夫婦の一方だけに来ている場合も、二人で情報を共有し、別々に返事をしないこと。
  5. 在籍していた時期と、交際・結婚に至った時期の前後関係を整理しておくこと。
  6. 脅すような言葉があり身の危険を感じる場合は、警察に相談すること。


 とりわけ避けたいのは、「少しでも払えば収まるのでは」と考えて一部を払ったり、分割払いを約束したりすることです。請求の内容を認めたと受け取られるおそれがあり、その後の話し合いが難しくなることがあります。夫婦の一方だけが先に店と話をまとめると、もう一方への請求が別に続くこともあります。すでに署名してしまった書面の扱いは、脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いで整理しています。

弁護士に依頼した場合にできること

 弁護士が代理人となると、店との連絡の窓口を弁護士に移すことができます。ご夫婦が店と直接やり取りする必要がなくなり、ご家族や勤務先に知られないための連絡方法や書面の送付先についても、あらかじめ取り決めておくことができます。この点は家族に知られずに解決できるか|連絡方法・書面の送付先の設計でも解説しています。

 弁護士は、規約や働き方の実態、交際の経緯を確かめたうえで、支払う理由のない請求には応じない姿勢を伝えます。話し合いで区切りをつける場合は、ご夫婦の双方に今後請求しないこと、ご家族や勤務先に連絡しないことなどを書面で取り決めることを検討します。結果は事案によって異なります。

よくあるご質問


入店時に「客との交際・結婚は禁止」という誓約書に署名しています。それでも争えますか

 署名したことだけで、書かれた金額の支払義務が確定するわけではありません。結婚という私生活の選択を違約金で縛る定めは、公序良俗に反するとして効力が否定される可能性があり、働き方によっては労働基準法16条によって禁じられる約束にあたります。誓約書の文言と働いていた実態をあわせて確認することが大切です。

結婚してから何年も経って請求が来ました。応じる必要はありますか

 まず問題になるのは、時間の経過よりも請求の根拠そのものです。そのうえで、契約にもとづく請求は権利を行使できると知った時から5年(民法166条1項)、不法行為にもとづく請求は損害と加害者を知った時から3年(民法724条)で、時効によって消滅することがあります。ただし、時効は援用して初めて効果が生じるため、いつから数えるかを含めて確認が必要です。

すでに一部を払ってしまいました。取り戻すことはできますか

 支払いの根拠となった約束が無効であれば、法律上の理由のない支払いとして返還を求める余地があります(民法703条)。ただし、払った経緯や記録の有無によって見通しは変わります。詳しくは払ってしまった示談金・違約金は取り戻せるか?返金請求の可否をご覧ください。

夫婦二人で同じ弁護士に相談できますか

 ご夫婦の利害が対立していないことを確認したうえで、お二人からまとめてご相談やご依頼をお受けできる場合があります。店への対応を一つの窓口にまとめられるため、別々に連絡が来ている場合でも、対応の足並みをそろえやすくなります。

まとめ


  • 店が「直引き」と呼ぶのは一般に店を通さずに対価を受け取る取引のことで、お客様と交際し結婚することとは性質が異なります。
  • 結婚を理由に高額の違約金を課す定めは、公序良俗に反するとして効力が認められにくく、私的な交際の禁止と違約金を無効とした裁判例もあります(民法90条、大阪地裁令和2年10月19日判決)。
  • 働いていた方が労働者にあたる場合、違約金や損害賠償額をあらかじめ定める約束そのものが禁じられています(労働基準法16条)。
  • 「常連客を奪われた」という損害は、お客様が来店を続ける義務がない以上、店の側が具体的に示す必要があり、将来の売上を積み上げた金額は認められにくいと考えられます。
  • 夫となった元のお客様への請求も、消費者契約法10条などに照らして有効かを確かめる余地があります。
  • 請求を受けたら、その場で払わず署名もせず、ご夫婦で情報を共有して窓口を一つにまとめることが大切です。


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 お店での出会いから結婚に至ったご夫婦にとって、以前の勤務先からの請求は、新しい生活に影を落とす出来事です。ただ、結婚したこと自体を理由とする請求には、支払う理由が認められにくい要素が多く含まれています。お一人で、あるいはご夫婦だけで抱え込まず、請求の根拠を一つずつ確かめるところから始めてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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