不貞慰謝料を請求されたときにまず確認すべき6つのポイント
ある日突然、弁護士の名前が記された内容証明郵便が届き、「慰謝料として〇〇万円を〇日以内にお支払いください」と書かれていたら、多くの方が強く動揺し、「早く払ってしまわないと大変なことになるのでは」と考えてしまいます。
しかし、内容証明が届いた段階は、あくまで相手方から請求の意思が通知された段階にすぎません。その書面自体が、あなたの支払義務や金額を確定させるものではないのです。慌てて振り込んでしまう前に、まずは落ち着いて内容を確認し、やるべきことを順番に整理していきましょう。
内容証明郵便とは何か——弁護士名でも「決定」ではない
内容証明郵便は、「どのような内容の文書を・誰が・誰宛に・いつ差し出したか」を日本郵便が証明してくれる郵便です。証明されるのは差出しの事実と文面の存在であって、そこに書かれた主張が法的に正しいことまで証明してくれるわけではありません。
したがって、内容証明そのものに、裁判所の判決のような拘束力はありません。訴状のように、応じなければ直ちに強制執行が始まる、という性質の書面でもありません。実務上は、請求した記録を残し、相手に「本気で請求している」という意思を伝えるために使われる、通知書・請求書の一種と捉えると整理しやすいでしょう。
弁護士の名前で届いた場合、「相手が代理人を立てて、本格的に動き始めた」という合図ではあります。ただし、代理人が就いたこと自体が、請求された金額をそのまま支払う義務を生じさせるわけではありません。弁護士名で示された金額も、この段階ではあくまで相手方の「言い値」であり、交渉や検討の出発点にすぎない、という点はおさえておきたいところです。
なお、相手が内容証明という形式をあえて選ぶ背景には、時効との関係もあります。不倫(不貞行為)にもとづく慰謝料請求には消滅時効があり、内容証明などで請求(催告)を行うと、その時から6か月間は時効の完成が猶予されます(民法150条1項)。時効の期限が近づいたタイミングで内容証明が届くことがあるのは、こうした事情によるものです。時効そのものの考え方は個別の記事で解説しています。
なぜ「弁護士名だから慌てて払う」が避けたい対応なのか
弁護士名という体裁のプレッシャーから、内容を十分に検討しないまま請求どおりに振り込んでしまう方がいます。しかし、次のような理由から、慌てて支払うことは得策とはいえません。
- 請求額には相場があり、書かれている金額が相場より高めに設定されているケースがあること
- そもそも支払義務がない、あるいは減額される事情があるケースがあること(時効の経過、相手が既婚者だと知らなかった事情など)
- 一度任意に支払ってしまうと、後から「払いすぎだった」と気づいても、取り戻すのは容易ではないこと
金額の妥当性や支払義務の有無は、書面が届いた勢いで判断できるものではありません。落ち着いて確認する時間をとることが、結果的にご自身を守ることにつながります。金額の相場や減額の可否、時効の詳しい考え方は、後述の関連記事で個別に解説しています。
慌てて払う前に——まずやるべきこと
支払う・支払わないを決める前に、初動として次のことを順番に行うことをおすすめします。
1. 受け取り、開封して内容を正確に把握する
届いた内容証明を、受取拒否したり放置したりするのは避けましょう。受取拒否や無視をしても請求そのものがなくなるわけではなく、かえって相手が訴訟など次の手段に進む理由になったり、後の手続きで不利に扱われたりすることがあります。まずは受け取り、開封して、何が書かれているかを正確に把握します。
2. 記載事項を落ち着いて整理する
感情的に読むのではなく、次の項目を書き出して整理すると、対応の見通しが立てやすくなります。
- 誰が請求しているか(相手本人か、その代理人弁護士か)
- 何を求めているか(金銭の支払いか、接触の禁止や謝罪か)
- 金額と、いつまでに、という回答期限
- 請求の根拠として、どのような事実が書かれているか
3. その場で「認める」「払う」と即答しない
書面に記載された連絡先へ慌てて電話をかけ、動揺したまま話してしまうと、支払いを認める趣旨の発言や、事実関係についての不利な説明が、相手側の記録や主張の材料になってしまうことがあります。相手方が通話内容を記録している場合もあります。口頭でその場の返答をするよりも、返答の内容を落ち着いて検討したうえで、書面で対応するほうが安全です。
4. 事実と食い違う点がないか確認する
請求書に書かれた交際の時期・経緯・関係の内容などに、事実と異なる点がないかを確認します。ただし、認める・認めないという返答は慎重に行う必要があります。安易に認めた内容が証拠として扱われることがあるため、認否の判断は弁護士に相談してから行うほうが無難です。
5. やり取りの記録を安易に消さない
慌ててLINEやメールの履歴を削除したり、書き換えたりすることは避けましょう。かえって不利に働くことがあるほか、後の交渉や反論で必要になる場合もあります。現状のまま保存しておきます。
6. 回答期限を確認し、期限前に弁護士へ相談する
内容証明には回答期限が設けられていることが多いものです。期限を無視すると、交渉の機会がないまま訴訟に進まれることもあります。一方で、期限に追われて拙速に返答してしまうのも避けたいところです。期限を確認したうえで、その前に弁護士へ相談し、返答の方針を決めるのが現実的です。
「そもそも支払義務があるか」は別途、丁寧に検討する
初動を整えたうえで、次に検討すべきなのが「請求どおりに支払う必要が本当にあるのか」です。たとえば、性的な関係の有無、相手が既婚者だと知っていた・知り得たかどうか(故意・過失)、不倫の時期が古く時効が問題になるか、金額が相場に照らして妥当か、といった論点ごとに、結論は変わってきます。
まとめ
弁護士名の内容証明が届くと、強い不安を感じるのは自然なことです。しかし、その書面は請求の通知であって、支払義務や金額を確定させるものではありません。慌てて振り込む前に、①受け取って内容を把握し、②記載事項を整理し、③その場で認めたり即答したりせず、④事実の食い違いを確認し、⑤記録を保存し、⑥期限を確認して弁護士に相談する、という順序で対応することが、ご自身を守ることにつながります。
弁護士名での請求に直面すると、ご自身だけで冷静に判断するのは難しいものです。回答期限が迫っている場合でも、まずは一度ご相談ください。内容の確認から返答方針、金額の交渉まで、状況に応じた対応をご一緒に検討します。


