示談を始めるタイミング|被害届前・受理後・起訴前で何が違うか
この記事は、2026年10月15日時点の刑法、民法、労働基準法、売春防止法、フリーランス法の規定をもとに、風俗店で働く方の立場から書いています。
「お客さんと一度食事に行っただけなのに、店から罰金として100万円を払うよう言われた」。風俗店で働く方から、こうしたご相談を受けることがあります。反対に、お客様の側から「店外で会っていた女性が店から請求を受け、自分のところにも連絡が来た」というご相談が寄せられることもあり、店外での接触をめぐるトラブルは、働く側と利用する側の双方に及びます。
インターネット上では「店の罰金は違法だから払わなくてよい」という説明もあれば、「規約に同意した以上は払うしかない」という説明もあります。どちらもまったくの誤りとは言えませんが、実際には、店外で何をしたのか、どのような契約で働いているのか、店が何を根拠にいくらを求めているのかによって、考え方が変わります。
このコラムでは、風俗店で働くキャストの立場から、客と店外で会ったことを店に知られ、罰金を求められた場面の考え方と、最初にとりたい対応を整理します。遅刻や当日欠勤など、店外での接触以外を理由とする罰金や減給については、風俗店の「罰金」に支払義務はある?|減給の条件とペナルティへの対処法で解説しています。なお、ここでの説明は一般的な考え方であり、個別の事案の結論を示すものではありません。
店が求める「罰金」は、法律上どう扱われるか
店が刑罰としての罰金を科すことはできない
法律でいう罰金は、刑法9条・15条に定められた刑罰の一つで、裁判所の手続を経て国が科すものです。店や会社が、働く人に刑罰を科すことはできません。この点は「罰金」を請求された|私人が罰金を科すことはできないでも解説しています。
店が「罰金」と呼んでいるお金は、法律上は、ルールに違反したときに払う金額をあらかじめ決めておく「違約金」や「損害賠償額の予定」(民法420条)として扱われるか、店に実際に生じた損害の賠償として扱われるかのどちらかになります。
「あらかじめ決めた金額」と「実際の損害」は分けて考える
この二つは、支払義務の考え方が大きく異なります。入店時の規約や誓約書に「客との店外での接触は100万円」と書かれていた場合、問題になるのは、その金額をあらかじめ決めておく約束自体が有効かどうかです。
一方、店が「あなたが店を通さずに客と会ったことで、これだけの売上を失った」と主張する場合は、損害が本当に生じたのか、その金額はいくらなのかを、請求する店の側が示す必要があります。「罰金」という一つの言葉の中に、性質の違う二つの請求が混ざっていることが多いため、まず分けて考えることが出発点になります。
店外で会ったこと自体は、法律上どう評価されるか
食事や私的な付き合いにとどまる場合
お客さんと店の外で食事をする、連絡を取り合う、交際するといったことは、本来、個人の私生活の領域に属することです。店のルールで禁じられていたとしても、それは店との約束に反するかどうかという問題であり、それだけで法律に違反するわけではありません。
また、店外で食事をしただけであれば、店の売上が直接減ったとは言いにくく、店に実際の損害が生じたと説明するのは難しい場面が多いと考えられます。
店を通さずに対価を受け取り、サービスをしていた場合
店を介さずにお客さんから直接お金を受け取ってサービスをしていた場合(いわゆる裏引き・直引き)は、店から「本来は店に入るはずだった売上を失った」と主張される余地が出てきます。ただし、その場合でも、店が求めることができるのは実際の損害の範囲であり、店が決めた金額をそのまま払う義務があるという意味ではありません。そのお客さんが店外で会っていなければ店を利用していたといえるのか、失った売上がいくらなのかといった点は、店の側が具体的に示す必要があります。
なお、店外で対価を受け取って性的な関係を持つことは、売春防止法3条で禁じられています。もっとも、同法が処罰の対象としているのは勧誘や周旋、場所の提供などの行為であり、当事者として関係を持ったことそのものを罰する規定は置かれていません。
| 店外での行為 | 店が持ち出しやすい理由 | 主に問題になる点 |
|---|---|---|
| 食事・連絡先の交換・私的な交際 | 規約違反・風紀違反 | 違約金の約束の効力。実際の損害は考えにくい |
| 店を通さずに対価を受け取ってサービス | 規約違反・売上の損失 | 違約金の約束の効力と、実際の損害の有無と金額 |
働き方によって、使えるルールが変わる
労働者にあたる場合|違約金の約束そのものが禁じられる
店との契約が雇用であれば、労働基準法16条により、店は「違反したらいくら払う」という違約金や損害賠償額の予定を約束させることができません。契約書の名前が「業務委託」であっても、出勤日や接客の内容を店が指示し、勤務時間や場所が管理され、仕事を断る自由がないなど、店の指揮監督のもとで働いている実態があれば、労働者にあたると判断されることがあります(労働基準法9条)。
キャバクラなどを営む会社が、私的な交際を禁止し、違反したときは200万円の違約金を払うとする同意書を元キャストに書かせていた事案で、その定めを労働基準法16条に反し、公序良俗(民法90条)にも反するとして無効と判断し、店の請求を退けた裁判例があります(大阪地裁令和2年10月19日判決)。この判断では、交際の相手を限定せずに私的な交際を広く禁じ、高額の違約金を定めていた点が、働く人の自由への過度な介入として重く見られたと紹介されています。店外で会ったこと自体を理由とする高額な違約金は、有効と認められにくい類型の一つといえます。
業務委託の場合でも、高すぎる違約金は争える
実態として労働者にあたらないと判断される場合でも、違約金の約束が常に有効になるわけではありません。違反の内容に比べて金額が著しく高い定めは、公序良俗に反するものとして効力の全部または一部が否定されることがあります(民法90条)。
また、人を雇わずに個人で仕事を受けている方が、従業員を使用する店と1か月以上の継続的な業務委託の関係にある場合には、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)により、落ち度がないのに報酬を減らすことや、不当に金銭を提供させることが禁じられています(同法5条)。ただし、同法は行政による指導・勧告を中心とする仕組みであり、罰金の約束が当然に無効になると定めたものではありません。なお、キャストは事業として店と契約している立場にあたるため、消費者契約法による違約金の制限は、原則として使えない点に注意が必要です。
給料から差し引かれる形をとられた場合
罰金を現金で払わせるのではなく、給料から差し引く形をとる店もあります。労働者にあたる場合、賃金は全額を本人に支払うのが原則であり(労働基準法24条1項)、店の判断で罰金を差し引くことはできません。就業規則にもとづく減給の制裁には、1回あたり・1か月あたりの上限が定められています(同法91条)。詳しくはキャスト側の「罰金」「違約金」|遅刻・当欠・退店で引かれるお金は適法かもあわせてご覧ください。
誓約書や借用書にサインしてしまった場合
サインしたことで支払義務が確定するわけではない
店外で会ったことが知られた場で、「罰金〇万円を支払います」という誓約書や、借りてもいないお金の借用書に署名を求められることがあります。もとになる違約金の約束が無効であれば、それを前提とする書面にもとづく請求も争う余地があります。
また、長時間引き留められたり、家族に知らせると告げられたりして署名した場合には、強迫による意思表示として取り消すことを検討できる場合があります(民法96条1項)。署名した書面の効力については脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いで整理しています。
一部を払う・分割を約束する前に考えたいこと
「とりあえず少しだけ払えば収まるのでは」と考えて一部を支払ったり、分割払いを約束したりすると、請求の内容を認めたと受け取られるおそれがあります(民法152条1項)。払うかどうか、いくらなら払う理由があるのかを整理する前に、その場でお金を渡したり新たな書面に署名したりすることは控えたほうがよいでしょう。「持ち帰って確認します」と伝えて、その場を離れることを優先してください。
「家族や職場に知らせる」「辞めさせない」と言われたとき
言葉の内容によっては犯罪にあたることがある
支払いを渋ると、「家族や昼の職場に知らせる」「払い終わるまでは辞めさせない」と迫られることがあります。インターネット上の法律相談でも、客と一度食事をしたことや一度の店外デートを理由に高額の罰金を求められ、退店後も連絡が続いたり、家族への連絡をほのめかされたりしているという相談が見られます。
相手の名誉や生活に害を加えると告げて脅すことは、内容によって脅迫罪(刑法222条)にあたることがあり、それによってお金を払わせようとすれば恐喝罪(刑法249条)、義務のない書面への署名をさせれば強要罪(刑法223条)が問題になることがあります。言われた言葉や日時は、メモや画面の保存で記録しておいてください。
辞めることは店の許可がなくてもできる
罰金を払い終えることは、店を辞めるための条件ではありません。労働者にあたり期間の定めがない場合は、辞める意思を伝えてから2週間が経過すれば、店が認めるかどうかにかかわらず契約は終了します(民法627条1項)。業務委託の場合も、委任の性質を持つ契約であれば、原則としていつでも解除することができます(民法651条1項)。
罰金を求められたときに、まずすること
店外で会ったことを理由に罰金を求められたときは、次の順で動くと、後の話し合いを進めやすくなります。
- その場でお金を渡さず、誓約書や借用書にも署名しないでください。
- 入店時の規約や誓約書、契約書の写しを手元に確保してください。
- 店から求められた金額と、その理由として何を言われたのかを記録してください。
- 店外で何をしたのか(食事だけか、対価を受け取ったか)を自分の中で整理し、安易に認めたり否定したりしないでください。
- 脅すような言葉があれば、日時と内容をメモや画面の保存で残し、身の危険を感じる場合は警察に相談してください。
公的な相談先としては、労働基準監督署や都道府県労働局の総合労働相談コーナー、業務委託であればフリーランス・トラブル110番があります。もっとも、労働者にあたるかどうかの評価が分かれる事案や、すでに高額の書面に署名している事案、家族への連絡をほのめかされている事案では、店との交渉の窓口を弁護士に移すことも選択肢の一つになります。
よくあるご質問
店外で会っていたお客さんにも、店から請求がいくことはありますか?
あります。店は利用規約を根拠に、お客様の側にも違約金を求めることがあり、キャストと客の双方に別々に請求が向かう場面も見られます。お客様の立場での考え方は、風俗嬢と店外・プライベートで会ってトラブルに|「店を通さない」リスクや【風俗トラブル】キャストから個人的な連絡先を渡された|応じた後に起きやすいことで解説しています。
すでに罰金の一部を払ってしまいました。取り戻すことはできますか?
支払いの根拠になった約束が無効であれば、法律上の理由のない支払いとして返還を求める余地があります(民法703条)。ただし、どのような経緯で払ったのか、払ったことを示す記録が残っているかによって見通しは変わります。詳しくは払ってしまった示談金・違約金は取り戻せるか?返金請求の可否をご覧ください。
弁護士に相談したことが、家族や店に伝わることはありますか?
弁護士には法律上の守秘義務があり(弁護士法23条)、ご相談の内容がご本人の了解なく家族や勤務先に伝わることはありません。店との交渉をお任せいただく場合も、連絡の方法や郵便物の送り先など、周囲に知られないための配慮について、ご相談の段階でお伺いします。
まとめ
- 店が求める「罰金」は刑罰ではなく、法律上は違約金・損害賠償額の予定か、実際の損害の賠償として扱われます(刑法9条、民法420条)。
- 食事や私的な交際にとどまる店外での接触は私生活の領域に属し、店に実際の損害が生じたと説明するのは難しい場面が多いと考えられます。
- 店を通さずに対価を受け取っていた場合でも、店が求められるのは実際の損害の範囲であり、損害の有無と金額は店の側が示す必要があります。
- 労働者にあたる場合、違約金や損害賠償額をあらかじめ定める約束は禁じられており、私的な交際の禁止に違反した場合の高額な違約金を無効とした裁判例があります(労働基準法16条、民法90条)。
- 業務委託の場合でも、違反の内容に比べて著しく高い違約金は効力が否定されることがあります(民法90条、フリーランス法5条)。
- 署名した誓約書や借用書も、もとの約束が無効であれば争う余地があり、強迫による署名は取り消しを検討できます(民法96条1項)。
- 「家族に知らせる」などと告げて支払いを迫る行為は、内容によって脅迫罪・恐喝罪・強要罪が問題になります(刑法222条、249条、223条)。
店外で会ったことを理由に罰金を求められている方へ
店外で会ったことを理由とする請求は、規約の内容、働き方の実態、店外で何をしたのかによって、支払う理由があるかどうかが大きく変わります。誓約書に署名してしまった後や一部を払ってしまった後でも、請求の根拠と金額を一つずつ確かめていく余地は残っています。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


