美人局と正当な慰謝料請求の見分け方|払う前に確認すべきこと
「予約した時間が終わったあとになって、聞いていなかったオプション代だといって高い金額を求められた」「途中でやめてほしいと伝えただけなのに、セラピストの方から個人的に慰謝料を請求されている」。女性用風俗をめぐるお金の請求について、こうしたご相談が寄せられるようになりました。
インターネットで調べると、「風俗店が言う罰金に法的な支払義務はない」という趣旨の説明が数多く見つかります。この説明そのものが誤っているわけではありません。ただ、その多くは男性がお客さまである場面を前提に書かれていて、請求してくるのが「店」であることを当然の前提にしています。女性用風俗では、請求してくるのがセラピスト個人であったり、店と個人の区別がはっきりしないまま話が進んだりすることが少なくありません。前提が違えば、確認すべき点も変わってきます。
この記事では、金銭の請求を受けた女性のお客さまが、支払いに応じるかどうかを決める前に確認しておきたい点を整理します。業態そのものの位置づけや、責任を問われる側・被害を受けた側それぞれの論点は別の記事で扱っていますので、ここでは「届いた請求にどう向き合うか」に絞ります。なお、18歳未満の方が関わる場合や、すでに警察から呼び出しを受けている場合は事情が大きく異なりますので、個別にご相談ください。
請求を受けたとき、最初に切り分ける三つのこと
金額の高い安いを考える前に、先に片づけておきたいことがあります。誰から来ている請求なのか、何を根拠にしている請求なのか、そして書かれている名目と実際の中身が一致しているのか、の三点です。
誰から来ている請求か
男性向けの風俗店をめぐるトラブルでは、店が窓口となり、店の名前で請求書が届く形が典型です。これに対して女性用風俗では、セラピストが業務委託の形で稼働していることが多く、連絡もセラピスト本人のメッセージアプリから届くことがあります。店が同席することもあれば、店はまったく関与していないこともあります。
誰が請求しているかによって、話し合う相手も、支払った場合にその支払いが有効になるかどうかも変わります。請求してきた相手が、そのお金を受け取る権限を持っているとは限りません。支払先を誤ると、あらためて別の人から同じ請求を受ける可能性が残ります。支払先の確認については、別の記事で整理しています。
何を根拠にしている請求か
お金の請求には、土台となる考え方があります。大きく分けると、契約に基づくもの(決められた代金や違約金)、不法行為に基づくもの(慰謝料や損害賠償)、そして貸し借りに基づくもの(貸したお金の返還)の三つです。土台が違えば、争点になる事実も、必要な資料も違ってきます。
名目と土台は一致しているか
実際の請求では、「罰金」「迷惑料」「ペナルティ」といった、法律上の名前ではない言葉が使われることがよくあります。名目だけを見ても中身は分かりませんので、次のように置き換えて考えてみてください。
| 請求書や連絡に書かれている名目 | 土台になり得る考え方 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 罰金・ペナルティ | 規約に基づく違約金、または損害賠償 | その規約に同意した事実があるか、条項の中身はどうか |
| 違約金・キャンセル料 | 契約上の損害賠償の予定(民法420条) | 定められた金額が実際の損害と釣り合っているか |
| 追加料金・オプション代 | 契約に基づく代金 | 事前に説明を受け、合意していたか |
| 慰謝料・迷惑料 | 不法行為に基づく損害賠償(民法709条・710条) | 何をした結果、誰にどのような損害が生じたとされているか |
| 治療費・検査費 | 不法行為または債務不履行に基づく損害賠償 | 原因とのつながりを示す資料があるか |
| 立替金・貸したお金 | 貸したお金の返還請求(民法587条) | 貸したものなのか、渡し切りだったのか |
表に載っているからといって、その請求が当然に認められるという意味ではありません。相手が何を土台にして話しているのかを見分けるための手がかりとお考えください。
「罰金」という言葉に、法律上の意味はありません
請求の場面でもっとも使われる言葉が「罰金」です。この言葉の受け止め方を間違えると、話がいきなり不利な方向に進んでしまいます。
刑罰としての罰金とは別のものです
法律でいう罰金は、裁判所が刑罰として科すものです。店やセラピストが「罰金」と呼んでいるものは、これとはまったく別で、実質は違約金や損害賠償の請求にすぎません。「罰金」と言われたからといって、直ちに支払義務が生じるわけではありません。
もっとも、これを裏返して「罰金と呼ばれているものは払わなくてよい」と考えるのも正確ではありません。呼び方にかかわらず、契約上の義務や損害賠償の義務が実際に生じていれば、支払う必要は出てきます。問われるのは名前ではなく中身です。
規約に書いてあることと、支払義務があることは別です
「規約に同意しているはずだ」と示されることもあります。ただ、規約に条項が置かれていることと、その条項どおりの支払義務が認められることは、同じではありません。そもそもその規約を提示され、同意したといえる状況だったのか。同意していたとして、その条項の金額が妥当といえるのか。この二段階で考えることになります。
女性が客の場合に見落とされやすい視点
男性がお客さまである場面を前提にした解説には、ほとんど出てこない論点があります。ここが、女性用風俗の請求を考えるうえで実際に効いてくる部分です。
料金や違約金の条項は、消費者契約法の問題になり得ます
女性用風俗の利用は、事業として役務を提供する側と、個人として利用する側との契約という形をとります。この形に当てはまる限り、料金や違約金に関する条項について消費者契約法の規定が問題になる余地があります。
同法9条1項1号は、解除に伴う損害賠償の予定や違約金の条項について、同種の契約の解除に伴い事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分を無効としています。同法10条は、法律の一般的な規定に比べて消費者の義務を加重する条項のうち、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効としています。事前に説明のなかった追加料金や、実際の損害とかけ離れたキャンセル料を求められている場面では、検討する意味のある枠組みです。
ただし、限界も正直に申し上げておきます。平均的な損害の額をどう立証するかは消費者の側の負担とされており(最高裁平成18年11月27日判決)、条項を無効だと主張すれば当然に支払いを免れるという性質のものではありません。加えて、性的なサービスを内容とする契約は、公序良俗(民法90条)との関係で契約そのものの効力が争点になることもあります。使える可能性のある道具として押さえておく、という位置づけになります。
ホストクラブに入った規制が、そのまま及ぶわけではありません
2025年6月に施行された改正風営法では、客の恋愛感情につけ込んだ飲食等の要求や、客が注文していない飲食等の提供などが禁止されました。報道でも取り上げられたため、同じ規制が女性用風俗にも及ぶと考えている方がいらっしゃいます。
しかし、これらの規定が向けられている相手は「接待飲食等営業」を営む事業者であり、女性用風俗のような性風俗関連特殊営業に直接及ぶものではありません。恋愛感情を背景にした高額な支払いを問題にしたい場合は、風営法ではなく、民法上の詐欺や錯誤、不法行為の枠組みで検討することになります。改正の内容そのものについては、別の記事で解説しています。
店を通さない関係になっていた場合
女性用風俗のご相談で特に多いのが、店の予約を経由せず、個人的なやり取りに移行していたケースです。この場合、請求の見え方が大きく変わります。
契約の相手が誰なのかが曖昧になります
店を通した予約であれば、料金も規約も店との間の話として整理できます。個人的なやり取りに移った後は、どこまでが仕事としての約束で、どこからが私的な約束なのかの線引きが難しくなります。このとき、店から「規約違反だ」として金銭を求められることがありますが、店の規約は基本的にセラピストとの取り決めとして定められているものです。お客さまに同じ義務がそのまま及ぶのかは、規約の内容と、お客さまがそれに同意したといえるかを個別に見なければ判断できません。
貸したお金なのか、渡したお金なのか
関係が続くうちに、生活費や立替金という形でお金が動いていることもあります。後になって「あれは貸したお金だ」と返還を求められる場合もあれば、逆にお客さまの側が「返してほしい」と考える場合もあります。ここで見られるのは、返す約束があったといえるかどうかです。金額と日付が分かる送金記録、そのときのやり取りの文面、返済についての話が出た場面の記録などが判断材料になりますので、消してしまわずに残しておいてください。
慰謝料・損害賠償として請求されている場合
「精神的な苦痛を受けた」として金銭を求められることもあります。契約上の代金とは考え方がまったく違いますので、分けて検討します。
内訳が示されているかを確かめる
損害賠償は、本来、生じた損害の内容ごとに積み上げて算定するものです。ところが実際の請求では、総額だけが示され、内訳が説明されないことがよくあります。内訳を尋ねることは、値切りの交渉ではなく、請求の中身を確認するための当然の作業です。
休業したというのであれば、いつからいつまで、どの程度の減収が生じたのか。治療を受けたというのであれば、いつどこで受診したのか。示された資料がその主張と結びついているかを見ていくことになります。
「呼んだ」「払った」だけで結論は決まりません
サービスを申し込んだこと、料金を支払ったことは、その場で行われた個々のやり取りにすべて同意していた証明にはなりません。この点は請求する側にも請求される側にも同じように働きます。同意の有無をめぐる考え方については、別の記事で詳しく扱っています。
支払いを求められる場面で気をつけたいこと
請求そのものよりも、支払いの「させ方」に無理がある場面で、後々こじれることが多くあります。
その場・当日・現金という組み合わせ
「今日中に」「現金で」「直接会って」という条件がそろっているときは、いったん立ち止まる場面だと考えてください。急がせる理由が説明されないまま条件だけが厳しくなっていく場合、検討する時間を与えないこと自体が目的になっている可能性があります。
支払うかどうかを決めるにあたり、その場で結論を出さなければならない法的な理由は基本的にありません。「内訳を確認したうえで返事をします」と伝えて持ち帰ることは、不誠実な対応ではありません。
一部だけ払うという選択の意味
早く終わらせたい一心で、とりあえず一部だけ支払うという選択をされる方がいます。ただ、一部の支払いは、請求の存在を認めたものと受け取られる可能性があります。民法152条1項では、義務があることを認める行為によって時効が更新されると定められており、支払いがその「承認」にあたると評価されることがあります。
一度支払ったことで話が終わるとも限らず、理由を変えて追加の請求が続く例もあります。支払う場合には、何に対する支払いなのか、これで清算が終わるのかを書面で明確にしてから行ってください。
「家族や職場に知らせる」と併せて求められたとき
請求に理由があるかどうかと、その求め方が許されるかどうかは、別の問題です。義務のないことを求めるために害を加えると告げる行為や、人を怖がらせて金銭を交付させる行為は、刑法上の強要や恐喝として評価される余地があります。ただし、そうした評価がされるかは言葉のやり取りの全体を見て判断されますので、断定的に決めつけて相手に伝えるのではなく、やり取りをそのままの形で残しておくことをおすすめします。この論点は別の記事で詳しく扱っています。
なお、知られたくないという気持ちから支払いに応じると、その事実自体が次の要求の材料として使われることがあります。早く終わらせたいという判断が、結果として長引く原因になることもあります。
応じる前に確認したいことと、残しておきたい記録
ここまでの内容を、実際に手を動かせる形で整理します。
返事をする前に確かめる項目
次の項目について、答えられるかどうかを確認してみてください。答えられない項目があるなら、そこが相手に確認すべき点です。
- 請求してきているのは店か、セラピスト個人か、それ以外の誰かか。
- その相手は、そのお金を受け取る権限を持っているといえるか。
- 請求の土台は、契約か、損害賠償か、貸し借りか。
- 金額の内訳と、その根拠となる資料が示されているか。
- 規約に基づく請求なら、その規約をいつ、どのような形で示されたか。
- 支払った場合、それで清算が終わるという内容が書面になっているか。
- 支払期限や支払方法に、検討する時間を奪う要素がないか。
記録として残しておくもの
時間が経つと集まらなくなる資料があります。早い段階で手元にそろえておいてください。
- 請求の連絡が来た日時と、そのメッセージの画面。
- 予約の申込み画面、料金表、提示された規約の画面。
- 支払いの記録(振込明細、電子決済の履歴、領収書)。
- やり取りの中で金額や条件が変わった経過が分かる部分。
- 当日の待ち合わせから解散までの時系列を、思い出せる範囲で書き出したメモ。
メッセージアプリの履歴は、機種変更や退会によって失われることがあります。スクリーンショットだけでなく、日付が分かる形で保存しておくと安心です。
相談先と、その順序
窓口によってできることが違いますので、目的に応じて選ぶことになります。
窓口ごとにできることが違います
料金や違約金の条項そのものに疑問がある場合は、消費生活センター(消費者ホットライン188)で相談を受け付けています。身の危険を感じる状況や、つきまといが続いている場合は警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署が窓口になります。請求への回答内容を決めたい、相手との連絡を代わってほしいという段階であれば、弁護士への相談が選択肢になります。
なお、店の届出の有無が気になる方もいらっしゃいますが、店に営業上の届出がないことは、それ自体でお客さまの支払義務を左右するものではありません。行政上の取締りの問題と、当事者間の金銭の問題は、別の筋道で判断されます。
名前を出さずに相談できるか
一般的な質問であれば匿名で受け付ける窓口もありますが、具体的な請求について踏み込んだ回答を得ようとすると、やり取りの中身を共有する必要が出てきます。弁護士には守秘義務がありますので、ご家族や職場に知られたくないという事情も含めてお話しいただいて差し支えありません。
よくあるご質問
ご相談の場で実際に多くいただく質問を三つ挙げます。
支払いに応じなければ、裁判を起こされますか
訴訟を起こすかどうかは相手の判断ですので、可能性がないとは言えません。ただ、裁判では請求する側が根拠と金額を資料で示す必要があります。内訳の説明を求めた段階で請求が続かなくなる例もあります。「訴える」と伝えられたこと自体は、支払義務の有無とは別の話です。
お店に届出がないようです。支払わなくてよいのでしょうか
届出の有無は、行政上の規制に関する問題です。届出がないからといって、お客さま側の支払義務が当然になくなるわけではありませんし、逆に届出があるからといって請求が当然に正当になるわけでもありません。請求の当否は、契約の内容や実際に生じた損害から判断されます。
すでに一部を支払ってしまいました。取り戻せますか
支払った経緯によります。支払義務がないのに欺かれたり、強く迫られたりして支払った場合には、返還を求められる余地があります。一方で、任意に支払ったと評価される場合には、取り戻しが難しくなることもあります。支払った日時と方法、そのときのやり取りの記録をそろえたうえで、早めにご相談ください。
まとめ
- 金額を検討する前に、誰からの請求か、何を土台にした請求かを切り分ける。
- 「罰金」は刑罰の罰金とは別のもので、名前ではなく中身で判断される。
- 規約に条項があることと、その条項どおりの支払義務があることは別である。
- 料金や違約金の条項は、消費者契約法9条1項1号や10条の問題になる余地がある。ただし平均的な損害の立証は容易ではない。
- 2025年6月施行の改正風営法の色恋営業に関する規定は、接待飲食等営業に向けられたもので、女性用風俗に直接及ぶものではない。
- 損害賠償として請求されている場合は、総額ではなく内訳と裏づけ資料を確認する。
- 一部の支払いは、義務の承認(民法152条1項)と評価される可能性があり、追加請求につながることもある。
- 当日・現金・対面という条件がそろったときは、いったん持ち帰って検討してよい。
女性用風俗をめぐる金銭の請求でお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。女性用風俗の利用に関して金銭を請求されている方からのご相談も承っています。弁護士には守秘義務がありますので、周囲に知られたくないという事情を含めてお話しください。
請求を受けている方には、応じるかどうかを決める前に、請求の根拠と金額の内訳を確認する道筋をご説明します。逆に、支払ったお金の返還や、受けた被害についての請求を検討されている方についても、手元の資料でどこまで示せるかという観点からご一緒に整理します。どちらの立場であっても、早い段階でご相談いただくほど、選べる方法は多く残ります。まずはお気軽にお問い合わせください。


