【風俗トラブル・キャスト側】客から本番を強要されたのに店が動いてくれないときは?

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

接客中に客から本番行為を強要され、店に報告したのに、客に念書を書かせて出入り禁止にしただけで終わってしまった。警察に相談したいと伝えても店に止められたり、客の連絡先を教えてもらえなかったりする。風俗の仕事をしている方から、このようなご相談をいただくことがあります。

本記事は、2023年7月施行の改正刑法(不同意性交等罪・不同意わいせつ罪)と、2025年6月の拘禁刑の導入を踏まえた内容です。個別の事案での見通しは、事情によって変わります。


 店の対応に納得がいかなくても、店が動かないからといって、ご自身が取れる手段までなくなるわけではありません。この記事では、店が動いてくれない理由として考えられること、店の対応とは切り離して考えたいご自身の権利、店を通さずに取れる手段と記録の残し方を順に整理します。

仕事の場であっても、強要された行為は被害として扱われます

 風俗店で働いていることや、店が本番行為を禁止していることは、客の行為が犯罪になるかどうかとは別の問題です。拒んでいるのに性交に持ち込まれた場合、刑法177条の不同意性交等罪(5年以上の有期拘禁刑)にあたる可能性があります。性交に至らなくても、同意のない性的な行為は176条の不同意わいせつ罪(6か月以上10年以下の拘禁刑)にあたることがあり、いずれも未遂が処罰の対象です(刑法180条)。

 2023年の改正では、同意しない意思を形成したり、表明したり、最後まで貫いたりすることが難しい状態で行為に及ぶことが、処罰の対象として整理されました。条文には、暴行や脅迫のほか、不意を突かれて拒む間がなかった場合や、予想していなかった事態に直面して恐怖や驚きで動けなくなった場合など、8つの事情が挙げられています。密室で突然押さえつけられた、はっきり断ったのに続けられたといった状況は、こうした事情との関係で検討されることになります。

 一方で、本番を持ちかけられて断り、客がそれで引き下がった場合まで、直ちに犯罪として扱われるわけではありません。ご相談の際には、客がどのように迫り、ご自身がどう拒み、その後に何が起きたのかという流れが大切になります。

店が動いてくれない理由として考えられること

 店が警察への通報や本格的な対応をためらう背景には、店側の事情があることが少なくありません。主に次のような事情が考えられます。

  • 警察が入ることで、営業に影響が出るのを避けたいと考えていることがあります。
  • 本番行為の有無が問題になると、店自身が売春防止法との関係で疑いを向けられることを心配している場合があります。
  • 客から金銭や念書を受け取り、店の中で話を終わらせたいと考えていることがあります。


 風俗で働く方の相談を受けている弁護士からも、店に任せるとその場で穏便に済まされてしまいやすいこと、店と客の間で金銭による解決がされたのにご本人は何も受け取っていないという相談があることが指摘されています。弁護士ドットコムの法律相談にも、派遣型の店で働く方から、無理やり性行為をされた際の店の対応が、客に念書を書かせて免許証を撮影し、以後の利用を禁止するだけだったという相談が寄せられています。

 店の対応ごとに、起きやすい問題を整理すると次のとおりです。

店の対応起きやすい問題ご自身で確認したいこと
念書と免許証の写しを取り、出入り禁止にした処分が店の中だけで終わり、ご本人への賠償が話し合われない念書の内容と、客の氏名や連絡先が店に残っているか
客から金銭を受け取って示談したご本人の知らないところで「解決済み」とされる誰と誰の間の合意か、ご本人が当事者に入っているか
警察への通報を止めた、待つよう言われた時間が経ち、体に残る痕跡や防犯カメラの映像が失われる警察に相談するかどうかはご本人が決められること
客の情報を教えてくれないご本人が加害者に連絡も請求もできない店に記録を消さずに残すよう求めたか


店の対応とご自身の権利は切り離して考える


店が客と示談しても、ご本人の請求がなくなるとは限らない

 被害によって生じた治療費や休業による損失、精神的な苦痛に対する慰謝料は、被害を受けたご本人が加害者に請求できるものです(民法709条・710条)。店は、ご本人から正式に任されていない限り、ご本人に代わってその請求を放棄したり、金額を決めたりすることはできません。店が客と結んだ合意は、基本的には店と客の間の取り決めにとどまり、ご本人の請求に直ちに影響するものではないと考えられます。

 ただし、ご本人がその合意書に署名している場合や、店を通じて金銭の一部を受け取っている場合は、その意味を個別に確認する必要があります。店の損害とご本人の損害の違いについては誰に払うのか|店の損害とキャスト個人の損害は別で、店がご本人に代わって交渉することの問題点については店がキャストに代わって示談交渉をしてよいのか|非弁行為という視点で解説しています。

店が客の情報を教えてくれないとき

 予約時の電話番号や会員登録の情報、念書や免許証の写しなど、客を特定する手がかりは店の手元にあることが多いものです。店がご本人に直接教えてくれない場合でも、警察が捜査として店に照会したり、弁護士が弁護士会を通じて照会したりすること(弁護士法23条の2)で、情報が明らかになることがあります。もっとも、照会に応じるかどうかは店の対応にも左右されるため、必ず開示されるとは限りません。

 まずは店に対して、予約記録や念書などを消さずに保管しておくよう、メッセージなど日付の残る形で求めておくことが考えられます。

店から口止めをされたとき

 「警察には行かないでほしい」「店に任せてほしい」と言われても、警察に相談するかどうかはご本人が決めることです。店との契約が雇用か業務委託かによって、店に求められる安全面の配慮の内容は変わりますが、被害を申告したことを理由に罰金を求めたり、出勤を不当に制限したりする扱いは、法的に問題となる余地があります。店とのやり取りに不安がある場合は、そのやり取り自体も記録に残しておいてください。

店を通さずに取れる手段


警察への相談・被害届・告訴

 被害の直後であれば、その場からご自身の携帯電話で110番通報することができます。時間が経ってからの相談には、警察の性犯罪被害相談電話(#8103)も利用できます。警察に届け出た性犯罪の被害については、初診料や緊急避妊などにかかる費用を公費で負担する制度があります(取扱いの細部は都道府県警察によって異なることがあります)。

 時間が経つほど、体に残る痕跡や衣類、ホテルや店の防犯カメラの映像といった証拠は失われやすくなります。ただ、日数が経っていても相談すること自体はでき、公訴時効は不同意性交等罪で15年、不同意わいせつ罪で12年とされています。相談しても受け付けてもらえなかった場合については、被害届を受理してもらえない|断られたときにできることや警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることもご参照ください。

ワンストップ支援センターへの相談

 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(#8891)では、医療機関の受診や警察への付き添い、法律相談の案内などの支援を受けられます。警察に届け出るかどうかを決めていない段階でも相談できます。

弁護士を通じた損害賠償の請求

 加害者の身元が分かれば、弁護士を通じて治療費や休業による損失、慰謝料を請求することが考えられます。身体を害する不法行為による損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から5年で時効にかかるとされています(民法724条の2)。時効の考え方は風俗トラブルの時効早見表|公訴時効と民事の消滅時効はいつ終わるのかでも整理しています。

 加害者側から先に示談を持ちかけられた場合は、金額だけでなく、どのような条件が付いているかを確かめてから判断することが大切です。詳しくは加害者側から示談を持ちかけられた|応じる前に確認することをご覧ください。

風俗で働く方向けの相談窓口

 風俗で働く方の生活や法律の相談を、弁護士やソーシャルワーカーが受けている「風テラス」のような窓口もあります。どこに相談すればよいか迷うときは、風俗トラブルで泣き寝入りしないために|相談先一覧(警察・弁護士・窓口)もあわせてご覧ください。

今からでも残しておきたい記録


  • 被害を受けた日時と場所(ホテル名・部屋番号など)。
  • 客の予約名や呼び名、外見、話していた内容などの特徴。
  • 店に報告した日時、報告した相手、伝えた内容。
  • 店からの返答(LINEやメッセージの画面、通話のメモ)。
  • けがや体調の変化、受診した医療機関と受診日。
  • 当日着ていた衣類(洗わずに紙袋などで保管)。


 経緯をまとめたメモは、作成した日付を付けて残しておくと、後で説明するときの手がかりになります。思い出すことがつらい場合は、無理にすべてを書き出す必要はありません。相談の場で、話せるところから一緒に整理していくこともできます。

よくあるご質問


本番禁止の店で働いていても、被害を訴えることはできますか?

 できます。店のルールや仕事の内容は、同意のない行為を正当化する理由にはなりません。働いていることを知られたくない、店に迷惑をかけたくないといった不安がある場合も、相談の際にそのままお伝えください。

店から「警察には行かないで」と言われました。従う必要はありますか?

 従う義務はありません。警察に相談するか、被害届を出すかは、ご本人が判断することです。店の意向と食い違う場合の伝え方や、店との関係をどう保つかも含めて、事前に相談しておくと動きやすくなります。

何日も経ってしまいましたが、まだ相談できますか?

 相談できます。直後に比べると証拠の面で難しくなる部分はありますが、残っている記録やメッセージ、店とのやり取りから組み立てられることもあります。時間が経ったことだけを理由にあきらめる必要はありません。

弁護士に相談したことは、店に伝わりますか?

 弁護士には守秘義務があり、ご本人の了解なく相談内容を店に伝えることはありません。店と連絡を取る必要があるかどうかも、ご本人と相談したうえで決めていきます。

店が動かないときこそ、ご自身の選択肢を確かめる

 店に報告しても対応してもらえないと、相談すること自体をあきらめてしまいがちです。しかし、店の対応と、被害を受けたご本人の権利は別のものです。警察、支援機関、弁護士と、店を通さずに使える窓口はいくつもあります。どの手段を選ぶか、あるいは今は何もしないかも含めて、ご自身で決めてよいことです。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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