「同意があった」を証明できるか|風俗トラブルの証拠と限界
「1回だけのつもりだった」「初めての利用だった」。風俗トラブルのご相談では、この言葉が最初に出てくることが少なくありません。ところが、店から金銭を請求されている場面でも、警察から連絡が来ている場面でも、「初めてなのに」という説明が状況を動かすことは、実際にはあまりありません。
なぜ通用しにくいのか。そして、回数が本当に意味を持つのはどの場面なのか。ここを取り違えると、言わなくてよいことを話し、認めなくてよいことを認めてしまうことがあります。この記事では、性風俗を利用してトラブルになった方(客側)の立場から、「1回だけ」という事情が法的にどう扱われるのかを整理します。
この記事が扱う範囲
成人同士のケースを前提に、利用した側(客側)の視点で書いています。相手が18歳未満である可能性がある場合、すでに逮捕・勾留されている場合、飲酒などで当日の記憶がはっきりしない場合は、判断の枠組みそのものが変わりますので、早い段階で個別にご相談ください。
なお、示談金の相場、罪名ごとの法定刑、すでに書面に署名してしまった場合の効力については、それぞれ別のコラムで扱っています。
「1回だけ」「初めて」は、どこに効いてどこに効かないのか
最初に全体像を示します。回数という事情は、「責任が生じるかどうか」にはほとんど効かず、「どう処理されるか」には効きうる、という分かれ方をします。
| 場面 | 「1回だけ・初めて」の影響 | 理由 |
|---|---|---|
| 犯罪が成立するかどうか | ほとんど影響しない | 成立の有無は行為の内容と行為時の認識で決まり、回数は要件になっていない |
| 損害賠償の義務があるかどうか | ほとんど影響しない | 民法709条は、故意または過失、損害の発生、因果関係で判断される |
| 請求された金額が相当かどうか | 影響しうる | 継続的・反復的だったかどうかは、金額を考えるうえでの事情のひとつになりうる |
| 検察官が起訴するかどうか | 影響しうる | 刑事訴訟法248条が、犯人の性格や情状、犯罪後の情況を考慮すると定めている |
| 裁判になった場合の量刑 | 影響しうる | 情状として考慮されうる |
| 記録が残るかどうか | 影響しない | 不起訴になった場合でも、捜査を受けた記録(前歴)は残る |
つまり「1回だけだったから責任がない」という話にはなりにくく、「1回だけだったことが、処分や金額の判断材料のひとつになりうる」という位置づけです。この違いは、誰に何をどの順番で伝えるかを決めるうえで、意外に大きく効いてきます。
「知らなかった」が弁解として通りにくい理由
法律を知らなかったこと自体は、原則として責任を否定しない
刑法38条3項は、法律を知らなかったとしても、そのことによって罪を犯す意思がなかったとすることはできない、と定めています。ただし書には「情状により、その刑を減軽することができる」とありますが、これは成立を否定するものではなく、刑を軽くする余地を認めるにとどまります。
「その行為が禁止されていると知らなかった」「そういう法律があると思わなかった」という説明は、この枠組みでは、成立の話ではなく情状の話として扱われることになります。
ただし「事実を取り違えていた」は別の問題
これと区別されるのが、事実そのものの認識を誤っていた場合です。相手の年齢、相手の同意の有無、自分が何をしたのかといった事実の認識は、犯罪の成立に必要な「故意」の中身に関わります。ここは「法律を知らなかった」とは扱いが異なります。
もっとも、どちらの問題なのかは、話の組み立て方によって見え方が変わります。自己判断で「知らなかった」と一括りに説明してしまうと、本来は事実を争える場面でも、事実は認めたうえで情状を述べているものとして受け取られることがあります。
「規約を読んでいない」「説明を受けていない」はどう扱われるか
店から違約金や「罰金」を請求されている場面は、刑事とは別に、契約の問題として整理する必要があります。
利用規約のように、不特定多数を相手として画一的な内容で用意された条項の総体は、民法上の「定型約款」に当たることがあります。定型約款に当たり、これを契約の内容とする旨の合意または事前の表示があった場合には、個別の条項を読んでいなくても合意したものとみなされます(民法548条の2第1項)。「読んでいないから知らない」というだけでは当然に効力を否定できるとは限らないのは、この規定があるためです。
一方で、同条2項は、相手方の権利を制限し、または義務を加重する条項のうち、信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなすと定めています。また、契約前に約款の内容の開示を求めたのに正当な理由なく拒まれた場合には、みなし合意の規定が適用されないという仕組みもあります(民法548条の3)。
性風俗店の利用ルールがこの定型約款に当たるかどうかは、示され方や内容によって判断が分かれ得ます。いずれにしても、争点は「初めてかどうか」ではなく、何が契約の内容として示されていたか、その内容と金額が相当といえるかという点に移ります。なお「罰金」はもともと刑罰の名称であり、私人が科せるものではありません。この点は別のコラムで詳しく扱っています。
「初めてなのに」と口にすること自体のリスク
実務で気をつけたいのは、この一言が行為があったことを前提にした発言として受け取られうることです。
「初めてなのに、そんなに払うんですか」「1回だけなのに大げさだ」という言い方は、金額の不当性を訴えているつもりでも、行為自体は争っていない、という理解につながります。電話口での一言も、メッセージアプリの一文も、記録として残ります。
整理するときは、次の3つを分けて考えると混乱しにくくなります。
- 事実があったかどうか(何をしたのか、していないのか)
- 法的な支払義務があるかどうか(根拠となる規定があるのか)
- 金額が相当かどうか(内訳と根拠が示されているのか)
「1回だけ」という事情は、3つ目に関係することがあっても、1つ目と2つ目を動かす力は弱い、というのが実際のところです。謝罪や反省の言葉についても同じで、事実の認否と情状の主張は、本来は分けて扱うべき性質のものです。
初めての利用がトラブルになりやすい4つの構造
「初めてだから軽く扱われる」どころか、初回だからこそ不利に働きやすい事情があります。人柄や落ち度の問題ではなく、置かれた状況の問題です。
- ルールを知らないまま利用が始まる
- 記録が一方にしか残らない
- その場の環境が判断を急がせる
- 誰と話しているのかが分からない
1つ目は情報の差です。禁止行為やオプションの範囲は店ごとに異なり、初回の利用者はその前提を共有しないまま、短時間で判断を求められます。
2つ目は記録の差です。店側には予約の履歴や在籍する女性からの報告が残る一方、初めての利用者の手元には、店名の正確な表記も入退店の時刻も残っていないことが珍しくありません。後日に事実関係を確認しようとしたとき、この差が効いてきます。
3つ目は環境です。深夜、密室、一人、飲酒という条件が重なると、その場で結論を出したくなります。しかし、その場で支払う、その場で署名するという判断は、後から動かすのが容易ではありません。
4つ目は相手方の問題です。請求してきているのが店なのか、相手の女性本人なのか、代理を名乗る第三者なのかによって、話の意味も、応じてよいかどうかも変わります。本人に代わって報酬を得る目的で示談交渉を行うことは、弁護士法上の問題を生じさせる場合があります。
それでも「初犯であること」が意味を持つ場面
ここまで「効きにくい」側を説明してきましたが、回数がまったく無意味というわけではありません。
刑事訴訟法248条は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる、と定めています。前科・前歴の有無や常習性は、この判断のなかで考慮されうる事情です。実務でも、初犯であることが有利な事情のひとつとして扱われることはあります。
ただし、次の点には注意が必要です。
- 初犯であれば起訴されない、という基準があるわけではない。起訴するかどうかを決めるのは検察官であり、判断は事案ごとに異なる
- 2017年の法改正により、性犯罪は親告罪ではなくなっている。相手が処罰を望まない意思を示していても、それだけで手続が当然に終わるわけではない
- 不起訴になった場合でも、捜査を受けた記録そのものは残る
「初犯だから大丈夫」でも「初犯でも意味がない」でもなく、効く場面が限られていると理解しておくのが、実際に近い整理です。
1回だけだからこそ、今のうちにできること
初回の利用は、記憶も記録も薄いまま時間が経ちやすいという特徴があります。次の順序で手を打っておくと、後から選べる手段が残りやすくなります。
- 覚えているうちに事実を書き出す
- その場や電話口で認めない、約束しない、支払わない
- 記録を消さない、作り直さない
- 連絡の窓口と手段を絞る
- 期限のある書面を最優先する
1つ目。日時、店名、利用した形態、支払方法、誰と何を話したかを、時系列で書き出しておきます。あいまいな部分は、無理に補わずに「あいまい」と書いておくことが大切です。後から記憶で埋めた部分は、食い違いの原因になります。
2つ目。請求の内容や根拠が分からない段階で、その場で支払ったり、示談書や誓約書に署名したりすることは避けます。「今日だけ」「これで終わり」と言われても、そのとおりに終わるとは限りません。
3つ目。やり取りの履歴や利用の記録を削除すると、後から自分に有利な事情を示せなくなるほか、対応の姿勢としても不利に評価されるおそれがあります。
4つ目。深夜の電話や対面での押し問答は、記録が残らないまま話が進みます。文字に残る形にまとめ、窓口を一つにすることを検討してください。連絡を無視する、着信を拒否するというのとは別の考え方です。
5つ目。回答期限のある書面、警察からの呼出し、裁判所から届く書類は、それぞれ期限が異なります。届いた書面は、まず期限を確認してください。
まとめ
「初めてなのに」という言葉には、事実を争いたい気持ちと、事情をくんでほしい気持ちが混ざっています。この2つは、伝える場面も伝え方も、本来は別のものです。
回数は、責任が生じるかどうかを左右しにくい一方で、処分の判断や金額の相当性の場面では意味を持ちうる事情です。だからこそ、最初の段階で「何を争い、何を認め、何を保留するか」を決めておくことが、結果として選べる手段を残すことにつながります。
1回きりの出来事だからこそ、確認できることは早いうちに確認しておく。それが、後から取り返しにくい判断を避けるための、現実的な方法です。


