【2026年10月施行】カスハラ対策が義務に|アルバイト1人の店も対象です
「遅刻したら3,000円」「当日欠勤は1万円」「無断で辞めたら在籍料として請求する」。キャバクラやガールズバーなどの接待飲食のお店では、こうした金銭的なペナルティが「罰金」と呼ばれ、給料から差し引かれたり、別途請求されたりすることがあります。
インターネット上では「罰金は労働基準法違反だから一切払わなくてよい」という説明と、「業界の慣習なのだから数千円なら払ったほうが賢い」という説明が、どちらも見かけられます。しかし実際には、どちらか一方に決まるものではなく、その人がどのような働き方をしているのか、何を理由にいくら請求されているのかによって結論が変わります。
このコラムでは、キャストとして働く側の立場から、「罰金」「違約金」と呼ばれるお金をどう見ればよいのかを、遅刻・当日欠勤・退店といった場面ごとに整理します。なお、ここでの説明は一般的な考え方であり、個別の事案の結論を示すものではありません。
1. その「罰金」は、刑罰の罰金ではない
まず前提として、法律でいう「罰金」は、刑法9条・15条に定められた刑罰の一種です。裁判所の手続を経て国が科すものであり、お店や会社が個人に科すことはできません。
つまり、お店がキャストに求める「罰金」は、刑罰ではなく、法的には**違約金(あらかじめ決めておいた金銭のペナルティ)**か、損害賠償か、報酬・給料からの控除のいずれかとして評価されることになります。呼び名がどうであれ、中身を見て判断する、というのが出発点です。
そしてもう一点、先にお伝えしておきたいことがあります。「罰金」という定めが無効だとしても、それだけで金銭の負担がゼロになるとは限りません。働いていない時間の賃金はそもそも発生しませんし、お店に現実の損害が生じていれば、その賠償が別途問題になる余地は残ります。この点は第5章と第7章で改めて触れます。
2. 分かれ目は、契約書の名前ではなく働き方の実態
「罰金」の有効性を考えるうえで最も大きな分かれ目は、そのキャストが労働基準法上の**「労働者」にあたるかどうか**です。労働者にあたれば労働基準法の保護が及び、後述する複数の規定が働きます。あたらなければ、原則として事業者同士の契約の問題として扱われます。
ここで重要なのは、契約書のタイトルが「業務委託契約書」となっていても、それだけで労働者性が否定されるわけではない、という点です。裁判所は契約書の名称ではなく、実際の働き方を見て判断します。一般に、次のような事情が考慮されます。
- 仕事の依頼や指示を断る自由があったか
- 接客の内容や態度について、お店から細かな指示を受けていたか
- 出勤日や出勤時間が実質的にお店に決められていたか、時間的な拘束が強いか
- 報酬が時給など労働時間に対応する形で決まっているか
- 衣装や備品を自分で負担しているか、お店のものを使っているか
- 報酬から所得税が源泉徴収されているか
もっとも、この判断は事案ごとに分かれます。たとえばホストクラブの事案では、タイムカードで打刻し、指示された接客を断ったことがなく、遅刻による罰金を科され、所得税も控除されていたことなどから労働契約と認めた裁判例(東京地裁平成27年7月14日判決)がある一方、報酬が売上に連動して勤務時間との関連が薄く、客の都合が優先されて時間的拘束が強いとはいえず、衣装も自弁だったことなどから自営業者と認めた裁判例(東京地裁平成28年3月25日判決)もあります。
キャバクラのキャストについては、近時、契約書上は業務委託とされていたものの、シフト管理や時間的拘束、遅刻・欠勤への罰金といった実態から労働契約の成立を認め、「罰金」などの名目による賃金控除を違法として、未払いの割増賃金等を含む支払を運営会社に命じた裁判例(東京地裁令和7年6月25日判決)も報じられています。「業務委託だから何も言えない」と考える必要はない、ということです。
3. 「労働者」にあたる場合に効いてくる3つの条文
労働者にあたると評価される場合、次の3つの規定が問題になります。
① 労働基準法16条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ決めておいたりする契約をしてはならない、とされています。「遅刻1回につき3,000円」「当欠は1万円」という定めは、まさに金額をあらかじめ決めておくものですから、この規定に触れると評価される可能性が高い類型です。
注意したいのは、この条文が禁じているのは**「額をあらかじめ決めておくこと」**であって、現実に生じた損害の賠償請求まで一切禁止する趣旨ではない、と一般に理解されている点です。
② 労働基準法24条1項(賃金全額払いの原則)
賃金は全額を労働者に支払わなければならず、法令に別段の定めがある場合(所得税や社会保険料など)や、労使協定がある場合を除いて、お店が一方的に控除することは認められません。裁判例にも、キャバクラ店が給与から差し引いていた厚生費・ヘアメイク料・送迎代・ドレス代・名刺代・罰金について、いずれも例外にあたる証拠がないとして控除を認めず、罰金についてはさらに16条にも違反すると判断したもの(東京地裁平成30年3月2日判決)があります。
③ 労働基準法91条(減給の制裁の制限)
制裁として減給を行う場合でも、就業規則に定めがあることが前提であり、1回の額は平均賃金の1日分の半額を、総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えてはならないとされています。「罰金」が実質的に制裁としての減給にあたるとしても、この枠を超える運用は認められにくいということです。
4. 「業務委託」とされている場合でも、手がかりはある
では、実態としても事業者(個人事業主)にあたると評価される場合、罰金は何でも有効なのでしょうか。そうとも言い切れません。
民法420条3項は、違約金は損害賠償額の予定と推定すると定めています。加えて、2020年4月1日施行の民法改正により、旧規定にあった「裁判所は、その額を増減することができない」という一文は削除されました。合意があるからといって、金額の当否がまったく争えなくなるわけではありません。
**民法90条(公序良俗)**による無効も、実際に認められた例があります。キャバクラ・ガールズバーを経営する会社が、全従業員に私的交際の禁止と違反時の違約金200万円を定めた同意書に署名させ、交際した元キャストに違約金と損害賠償あわせて140万円を請求した事案で、大阪地裁は、労働基準法16条に違反するとしたうえ、交際相手を限定せず真摯な交際まで禁止の対象とし、200万円という高額の違約金を定めている点で個人の自由や意思への介入が著しいとして、公序良俗にも反し無効と判断しました(大阪地裁令和2年10月19日判決)。売上が下がったことを理由とする不法行為の主張も、私的な交際は本来自由であり、損害を与える目的があったといった特段の事情もないとして退けられ、請求はすべて棄却されています。
さらに、2024年11月1日に施行された**フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)**も見落とせません。この法律は業種を限定しておらず、従業員を使用している発注事業者が、従業員を使わない個人に業務を委託する取引に広く適用されます。1か月以上継続する業務委託については、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに報酬の額を減らすことが禁止されており(5条1項2号)、取引条件の明示(3条)、給付を受けた日から60日以内の報酬支払(4条)なども義務づけられています。「罰金」名目での一方的な報酬控除が、この報酬減額の禁止に触れると評価される余地はあります。
なお、消費者契約法9条の「平均的な損害を超える部分は無効」というルールを持ち出す説明を見かけることがありますが、事業として契約している以上、キャストは同法の「消費者」にあたらないのが原則です。使える道具を取り違えないよう、この点は押さえておいてください。
5. 場面別に見る
遅刻
定額の罰金という定めが無効と評価されても、遅れた時間について賃金や報酬が発生しないこと自体は、原則として避けられません。争点になるのは、その時間分を超える定額のペナルティが上乗せされている部分です。「打刻が30分単位のため5分の遅刻でも30分として扱われる」といった運用も、実労働時間の切り捨てとして別途問題になり得ます。
当日欠勤・無断欠勤
急な欠勤でお店に実際の損害が生じることはあり得ます。しかし、それは「1万円」という金額があらかじめ決まっていることを正当化するものではありません。現実の損害を請求するのであれば、どのような損害がいくら生じたのかを主張し、立証する責任はお店側にあります。また、実際の裁判では、業務の性質上ある程度の欠員は織り込むべきものとして、損害の全額が認められるとは限りません。
退店・在籍抜き
「辞めるなら罰金」「在籍を抜いてほしいなら違約金」という形で、金銭が退店を思いとどまらせる圧力として使われることがあります。しかし、期間の定めのない雇用であれば民法627条1項により2週間の予告期間をおいて解約でき、期間の定めがあっても一定の場合には辞めることができます。委任型の業務委託であれば、民法651条1項により当事者はいつでも解除できるのが原則です。また、貸付金や衣装代を理由に退店を引き止める形は、前借金と賃金の相殺を禁じる労働基準法17条や、強制労働を禁じる同法5条の趣旨にも関わってきます。
風紀違反(客やスタッフとの交際)
第4章で紹介した大阪地裁の裁判例のとおり、誰と交際するかは本来その人の自由であり、高額の違約金を定めて禁止する条項は、無効と判断された例があります。この種の同意書に署名していたとしても、それだけで支払義務が確定するわけではありません。
6. すでに引かれた分・払った分は取り戻せるか
給料から差し引かれた分については、控除が認められないのであれば、その部分は未払いの賃金として請求することが考えられます。賃金請求権の消滅時効は、労働基準法115条により本則は5年ですが、当分の間は3年とされています(同法附則143条3項)。業務委託として支払われた報酬の場合は、民法の一般原則(原則5年)で考えることになります。
請求を検討するなら、次のような資料を残しておくことが重要です。
- 給与明細、報酬明細(控除の名目と金額が分かるもの)
- シフト表、出退勤の記録、タイムカードの写真
- 罰金の一覧表、ルールが書かれた紙やLINEの案内
- 店長やマネージャーとのやり取り(削除しない)
- 振込記録、現金を渡したときのメモ
相談先としては、労働基準監督署や都道府県労働局の総合労働相談コーナー、業務委託であればフリーランス・トラブル110番といった公的な窓口があります。ただし、これらの窓口は、労働者性の評価が分かれる事案や、逆にお店側から請求を受けている事案にまでは踏み込みにくい面があります。契約書や罰金のルール、実際の働き方をふまえた見通しが必要な場合や、お店とのやり取りを代わりに進めてほしい場合は、弁護士への相談も選択肢になります。金額や争点によっては、労働審判、少額訴訟(60万円以下)、通常訴訟という手続も考えられます。
7. 対応を誤らないために
最後に、両方向の注意点を挙げておきます。
「違法だから一切払わない」と自己判断で言い切らない。 第1章で触れたとおり、定額の定めが無効であることと、金銭の負担がまったく生じないことは別です。労働者性が否定される可能性もありますし、現実の損害の賠償が問題になる場面もあります。断定的な態度でやり取りを進めると、かえって紛争を長引かせることがあります。
一部だけ払う、分割を申し入れる、念書に署名する、といった対応は慎重に。 これらは、請求されている債務を認めたもの(債務の承認)と評価される余地があります。その場で結論を出さず、書面での説明を求めるほうが安全です。
取り立て方が度を越えている場合は、別の問題になる。 自宅や家族への連絡をほのめかす、大勢の前で威圧する、SNSでの公開を材料にするといった態様であれば、脅迫罪や恐喝罪の問題として扱われる余地があります。危険を感じたときは、その場で争わず、記録を残して離れることを優先してください。
やり取りは記録に残る形で。 口頭でのやり取りは後から確認できません。可能な範囲で、メッセージなど形の残る手段に切り替えておくと、後の相談がしやすくなります。
まとめ
- お店がキャストに科す「罰金」は刑罰ではなく、違約金・損害賠償・控除として中身を見て判断される
- 最大の分かれ目は労働者にあたるかどうかで、契約書の名称ではなく働き方の実態で決まる
- 労働者にあたる場合、労働基準法16条・24条・91条が問題になる
- 業務委託とされていても、民法420条3項・90条、フリーランス法という手がかりがある
- 定額の定めが無効でも、働いていない時間の賃金は発生せず、現実の損害の賠償が残る余地はある
- 引かれた分は未払賃金・未払報酬として請求できる場合があり、時効に注意して早めに記録を確保する
金額の大小にかかわらず、契約書やルールの内容、実際の働き方によって結論は変わります。判断に迷う段階で、記録を持って相談されることをおすすめします。


