【解決事例】メンズエステでの盗撮発覚|示談金300万円から45万円まで見直された事例
本記事は、2026年10月時点の民法・刑法・刑事訴訟法・消費者契約法に基づいて記載しています。2025年6月1日施行の改正刑法により「懲役」は「拘禁刑」に改められており、本記事の法定刑はこれを反映しています。
「酔っていて、気づいたら部屋の照明やテーブルを壊していた。翌日、店から高額な弁償額を告げられたが、その金額が妥当なのか分からない」「壊したことは申し訳ないと思っているが、新品の値段に加えて営業できなかった分まで払うよう言われている」。風俗店の利用中に備品を壊してしまった方から、このようなご相談が寄せられます。
「壊した物は弁償する」という説明は、それ自体は誤りではありません。ただ、弁償額がどのように決まるのか、店から示された金額のどこまでが法的に根拠のある部分なのかは、外からは見えにくいところです。弁護士ドットコムにも、酔って飲食店の備品を壊した後に50万円近い見積もりを示されて減額できないかという相談や、ホテルの備品について新品の価格を求められたという相談が寄せられており、金額の決まり方に戸惑う方は少なくありません。
この記事では、酔って店の備品を壊した場合の弁償額がどのような考え方で決まるのか、請求に含まれやすい項目と、その一つひとつをどう確かめるかを整理します。器物損壊罪の成立要件や被害届が出された後の刑事手続の詳細は、それぞれの別記事に譲ります。
酔っていても弁償の責任はなくならない
酔っていたことは責任を消す理由にならない
民法には、自分の行為の責任を判断する能力を欠く状態で他人に損害を与えた人は賠償責任を負わないという規定があります。ただし、その状態を故意または過失によって一時的に招いた場合は、この限りではないとされています(民法713条)。
自分でお酒を飲んで酔った状態は、通常この「一時的に招いた」場合にあたると考えられます。そのため、「酔っていて覚えていない」という事情だけで、弁償の責任そのものがなくなるわけではありません。
弁償の法的な根拠はどこにあるのか
他人の物を壊したときの弁償は、法律上は損害賠償にあたります。わざと壊した場合だけでなく、不注意で壊した場合も、それによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。店の利用契約に伴う義務に反したとして、契約上の責任が問われることもあります(同法415条)。
いずれの根拠であっても、賠償の対象になるのは「壊したことによって実際に生じた損害」です。店が示した金額がそのまま弁償額になるのではなく、損害の中身によって金額が決まる、という点が出発点になります。
そもそも自分が壊したのかがはっきりしないとき
酔っていて記憶がない場合、店の説明だけで「自分が壊した」と認めてよいかは、慎重に考えたいところです。もともと傷んでいた物だった、別の人が壊した可能性がある、といった事情が後から分かることもあります。
まずは、いつ、どこで、何が、どのように壊れたと店が考えているのかを具体的に聞き、防犯カメラの映像や破損した物の写真があれば確認させてもらうよう求めることが考えられます。記憶がない状態での請求への向き合い方は、泥酔状態で身に覚えのない請求・トラブル|記憶がない場合の対応でも解説しています。
弁償額は「新品の値段」で決まるとは限らない
修理できる物は修理費が基本になる
壊れた物が修理によって元の状態に戻せる場合、損害額の基本は修理にかかる費用です。照明のカバーが割れた、椅子の脚がぐらつくようになったといった場合には、部品の交換や修理で足りることも多く、新品に買い替える費用がそのまま損害になるわけではありません。
もっとも、修理費が壊れた物の価値を大きく上回る場合には、修理費全額ではなく、その物の価値が上限とされるのが一般的な考え方です。
修理できない物は壊れた時点の価値が基本になる
修理できない場合の損害額は、原則として壊れた時点でのその物の価値(時価)が基準になります。何年も使われてきた家具や家電であれば、その分だけ価値は下がっているのが通常で、新品の価格と時価の差は小さくないことがあります。
一方で、購入して間もない物や、中古での取引がなく同等品を新品で買うしかない物などでは、新品に近い金額が損害と評価されることもあります。新品の価格での請求が常に不当というわけではなく、その物の使用期間や状態に照らして確かめることが大切です。
| 壊れた物の状態 | 損害額の基本となる考え方 | 確かめたいこと |
|---|---|---|
| 修理で元に戻せる | 修理にかかる費用 | 修理の見積書、修理か交換かの判断の理由 |
| 修理できない・修理費が価値を上回る | 壊れた時点の価値(時価) | 購入時期と購入価格、使用年数、同等品の価格 |
| 購入直後・同等品が新品しかない | 新品に近い金額になることもある | 購入日を示す資料、代わりの品の有無 |
店側の事情で弁償額が減ることもある
損害の発生や拡大について、損害を受けた側にも落ち度があった場合には、その事情を考慮して賠償額を減らすことができるとされています(民法722条2項)。
たとえば、もともと固定が不十分だった棚が少し触れただけで倒れた、ひびの入っていた鏡が割れたといった事情があれば、弁償額の話し合いの中で考慮される余地があります。こうした事情は時間がたつと確かめにくくなるため、気づいた点は早めに記録しておくとよいでしょう。
備品の代金以外に請求されやすい項目
部屋を使えなかった期間の営業損害
備品の破損によって部屋を一定期間使えなくなった場合、その間の売上の減少を「営業損害」として請求されることがあります。破損との結びつきが認められる範囲であれば、営業損害が損害として認められる可能性はあります。
ただし、実際に営業を止めたのか、他の部屋で代わりに営業できなかったのか、修理にどのくらいの日数が必要だったのかといった点によって、認められる範囲は変わります。営業損害は金額が大きくなりやすい一方で、算定の根拠を確かめる余地も大きい項目です。売上の記録や休業した期間を示す資料の提示を求めることが考えられます。
清掃・取替工事・運搬などの付随費用
壊れた物の代金とは別に、割れたガラスの清掃費、取替工事の費用、運搬費などが請求されることもあります。破損によって実際に必要になった費用であれば、損害に含まれることがあります。
この場合も、何の作業にいくらかかったのかが分かる見積書や領収書があるかどうかが確認のポイントになります。示された書類の確かめ方は、【不当要求対応】示された領収書・見積書をどう検証するか|金額の根拠を確かめるで詳しく解説しています。
「罰金」や「慰謝料」の名目による上乗せ
備品の弁償に加えて、「罰金」や「迷惑料」といった名目の金額が上乗せされることがあります。私人である店が刑罰としての罰金を科すことはできず、法的に意味を持つのは、実際に生じた損害の賠償として説明できる部分です。この点は「罰金」を請求された|私人が罰金を科すことはできないでも取り上げています。
また、物が壊れたことによる精神的な苦痛を理由とする慰謝料は、物の損害については原則として認められにくいとされています。店の規約に「備品を壊した場合は一律〇万円」といった定めがある場合でも、その規約に利用時に同意していたか、金額が実際の損害と比べて大きく離れていないかが問題になり、過大な部分は効力が争われることがあります(民法90条、消費者契約法10条)。
誰に弁償するのかで請求の根拠が変わる
ホテルの備品を壊した場合
デリバリーヘルスなどをホテルで利用していて備品を壊した場合、壊れた物の持ち主は通常ホテルです。損害賠償を求めることができるのも、原則として持ち主であるホテルということになります。
店のスタッフから「ホテルの分も含めて店に払うように」と言われた場合には、ホテルからどのような請求を受けているのか、店がすでにホテルに支払ったのかを確かめる必要があります。持ち主ではない店に支払っても、後日ホテルから別に請求される可能性が残るためです。
店舗の個室や店の貸出品を壊した場合
店舗型の店の個室の設備や、店が貸し出している物を壊した場合は、店が持ち主として損害賠償を求める立場になります。この場合も、上で整理した修理費や時価の考え方は同じです。
建物を借りて営業している店では、壁や扉など建物そのものの修繕を建物の所有者が負担するのか、店が負担するのかによって、誰の損害なのかが変わることもあります。
キャストの私物を壊した場合
キャストのスマートフォンや衣服など私物を壊した場合、損害を受けたのはキャスト本人です。店が窓口となって請求してくることもありますが、店とだけ話をまとめても、キャスト本人との関係で解決したことにならない可能性があります。
支払う場合には、誰の何についての弁償なのかを明確にし、持ち主本人が受け取ったことや、それ以上の請求をしないことを確かめられる形で書面を整えることが大切です。
刑事事件になるかどうかの分かれ目
器物損壊罪はわざと壊した場合に限られる
他人の物を壊したときに問題になる器物損壊罪は、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料とされています(刑法261条)。ただし、罪を犯す意思のない行為は原則として処罰されず(同法38条1項)、器物損壊罪には不注意による場合を処罰する規定がありません。
そのため、よろけてぶつかった、手が滑って落としたといった不注意による破損は、民事上の弁償の問題にはなっても、器物損壊罪にはあたらないのが原則です。一方、酔って腹を立てて物を投げたといった場合には、わざと壊したと評価される可能性があります。故意の認定については壊すつもりはなかった|器物損壊罪の故意はどこで認定されるかで解説しています。
親告罪であることと、建物を壊した場合の違い
器物損壊罪は、被害者などの告訴がなければ起訴できない親告罪です(刑法264条)。告訴は、原則として犯人を知った日から6か月以内にしなければならないとされています(刑事訴訟法235条)。
これに対して、壁や扉など建物の一部を壊した場合には、建造物損壊罪(刑法260条)が問題になることがあり、こちらは親告罪ではありません。どちらにあたるかの分かれ目は、建物や門扉を壊した|建造物損壊と器物損壊はどこで分かれるかで取り上げています。
「警察に届ける」と言われたとき
店から「払わなければ警察に届ける」と言われると、金額に納得できなくても支払ってしまいたくなるかもしれません。しかし、刑事手続になるかどうかは、壊れ方や経緯によって変わり、弁償額の妥当性とは別に考える必要があります。
被害届が出された場合の流れや修理費の示談については、器物損壊で被害届が出された|修理費と示談をご覧ください。
請求を受けたときの進め方
その場で金額を確定させない
破損に気づいたその場や当日のうちに、店から金額の確定や支払いを求められることがあります。酔いが残っている状態では、内容を十分に確かめないまま約束してしまうおそれがあります。その場では、次のような対応を控えておくのが無難です。
- 示された金額をその場で認める書面や借用書に署名すること。
- 運転免許証や社員証など身分証の原本を預けること。
- 金額の根拠を確かめないまま現金で支払うこと。
即時の支払いを求められた場合の考え方は、【風俗トラブル】「今すぐ払えばこの場で終わる」と言われた|即時払いを求められたときの判断でも整理しています。
金額の根拠となる資料を求める
弁償に応じる意思があることを伝えたうえで、金額の根拠となる資料の提示を求めることが考えられます。確かめたい資料としては、次のようなものがあります。
- 破損した物と破損箇所の写真。
- 修理の見積書、または交換が必要と判断した理由。
- 購入時期と購入価格が分かる資料。
- 営業損害を求める場合は、休業した期間と売上の記録。
- ホテルやキャスト本人の物であれば、持ち主からの請求内容。
資料をもとに、修理費や時価の考え方に照らして金額を整理すると、話し合いの土台ができます。連絡のたびに金額が変わるような場合は、【風俗トラブル】請求額が連絡のたびに増えていく|金額が動く請求への向き合い方も参考になります。
支払うときは書面で区切りをつける
金額に合意して支払う場合は、何についての弁償なのか、支払う金額と方法、それ以外には互いに請求しないことを書面に残しておくことが大切です。後から別の名目で請求されることを防ぐ条項の考え方は、清算条項の意味|後から追加請求されないためにで解説しています。
支払ったことの記録として、受領書や領収書を受け取っておくことも欠かせません。受領書の作り方は【風俗トラブル】示談金の領収書・受領書をどう作るか|後日の否認に備えるをご覧ください。
よくあるご質問
店の規約に「備品を壊したら一律10万円」とありました。その金額を払わなければなりませんか?
規約に同意して利用していた場合、その定めが損害賠償額の予定として扱われる可能性はあります(民法420条1項)。もっとも、利用時に規約が示されていなかった場合には同意があったとは言いにくく、また実際の損害と比べて大きく離れた金額であれば、過大な部分について効力が争われることがあります。壊れた物が何で、実際の修理費や時価がいくらなのかを確かめたうえで判断するのがよいでしょう。
酔っていて壊したかどうか覚えていません。認めて払った方が早く終わりますか?
早く終わらせたいという気持ちは自然なものですが、記憶がないまま全面的に認めると、後から事実と違うと分かっても取り戻しにくくなります。まずは店が何を根拠に壊したと考えているのかを確かめ、映像や写真を確認させてもらうことが考えられます。そのうえで、自分が壊した可能性が高いと分かれば、適正な金額で誠実に弁償することが早い解決につながることも多くあります。
弁償すれば、警察に届けられることはなくなりますか?
器物損壊罪は親告罪のため、被害者との間で弁償を含む示談が成立し、告訴をしないことや告訴を取り消すことが合意されれば、刑事手続に進まないことが多いといえます。ただし、建造物損壊罪のように親告罪ではない罪が問題になる場合もあり、弁償したことで必ず刑事手続がなくなるとまでは言えません。示談書にどのような条項を入れるかも含めて確かめておくと安心です。
まとめ
- 自分で飲酒して酔った状態で壊した場合でも、弁償の責任はなくならないのが原則です(民法713条ただし書)。
- 弁償の根拠は損害賠償で、対象になるのは実際に生じた損害です(民法709条、415条)。
- 修理できる物は修理費、修理できない物は壊れた時点の価値(時価)が損害額の基本です。
- 営業損害や付随費用は、算定の根拠を資料で確かめることが大切です。店側の落ち度は減額の事情になり得ます(民法722条2項)。
- 「罰金」名目の上乗せや一律の規約額は、実際の損害と比べて過大な部分が争われることがあります(民法90条、420条1項、消費者契約法10条)。
- 不注意による破損は器物損壊罪にあたらないのが原則で、器物損壊罪は親告罪です(刑法38条1項、261条、264条)。建物を壊した場合は建造物損壊罪が問題になることがあります(刑法260条)。
- 支払う場合は、誰の何についての弁償かを明確にし、清算条項付きの書面と受領書を残しておきましょう。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。店の備品を壊してしまい弁償額に納得できない方、規約や見積書をもとにした請求の妥当性を確かめたい方は、支払いや署名をする前にご相談ください。
酔っていて当時の状況が分からない場合や、ホテル・キャスト本人など請求する相手が複数にわたる場合も、事情を伺ったうえで、金額の整理や相手方との交渉の進め方をご案内します。


