風俗事件の取調べで聞かれること|供述が争点に直結する項目
この記事は、2026年10月時点の民法、消費者契約法、割賦販売法、刑法及び東京都の「性風俗営業等に係る不当な勧誘、料金の取立て等及び性関連禁止営業への場所の提供の規制に関する条例」に基づいて作成しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は弁護士にご相談ください。
「予約の電話では60分1万5千円と聞いていたのに、終わった後に『うちは90分コースからなので6万円』と言われた」「延長を勧められて応じたら、聞いていない料金がいくつも上乗せされていた」。デリヘルやホテヘルなど、サービスの後に代金を支払う「後会計」の店を利用した方から、このようなご相談をいただくことがあります。一方で、店の側からは「料金はホームページに載せている」「キャストが説明した」という言い分が示されることもあります。
インターネット上では「ぼったくりの料金は払わなくてよい」という説明がよく見られます。方向性としては誤りではありませんが、後会計の場合はサービスをすでに受けていること、密室で一人で対応しなければならないことから、「全額払わない」か「言われるまま払う」かの二択で考えてしまい、かえって不利な結果になることもあります。また、ぼったくり対策としてよく紹介される東京都の条例が、派遣型の店にはそのまま使えないという点も、あまり知られていません。
この記事では、後会計で聞いていない高額なコース料金を請求された場面に絞って、支払う義務がどこまであるのか、その場でどう振る舞えばよいのか、払ってしまった後に何ができるのかを整理します。前払いの段階で高額な料金を示された場合や、本番行為などを理由とする示談金の請求については、別の記事で扱っています。
後会計で「聞いていないコース料金」が生じる仕組み
サービスの後に金額が示されるという構造
後会計では、予約時には料金の目安だけが伝えられ、サービスの終了後にキャストやドライバーから最終的な金額が示されます。前払いであれば、示された金額に納得できなければその時点で断ることができますが、後会計ではサービスを受けた後なので、「受けた以上は払わなければならない」という気持ちが働きやすくなります。ホテルや自宅で一人のまま、スタッフが後から来ることもあり、落ち着いて金額を確かめる余裕がない中で支払いを求められるのが、後会計の高額請求の特徴です。
「コース」という言葉で料金が変わる場面
ご相談で多いのは、次のような形です。
- 予約時に伝えた時間よりも長い「コース」が最低単位だったと後から言われる。
- 「指名料」「入会金」「交通費」「深夜料金」などが、予約時の説明になかったのに加算される。
- キャストが「サービスで延長する」と言った時間が、通常の延長料金として請求される。
- オプションが含まれた上位のコースを利用したことにされる。
いずれも、問題の中心は「どの料金で合意していたのか」という一点にあります。料金の高さそのものよりも、予約の時点でその金額を払うことに同意していたかどうかが、支払義務の範囲を左右します。
前払いの高額請求との違い
弁護士ドットコムなどの相談サイトにも、デリヘルを呼んだところ、到着したスタッフから当初の認識を大きく上回る金額を示されたという相談が寄せられています。前払いの場面では、払わずにサービスを断ればそれで済むことが多い一方、後会計ではすでに受けたサービスの対価をどう評価するかが問題になります。前払いで高額な料金を示された場合の考え方は、風俗・メンエスで法外な料金を請求された|支払いを拒否できるケースで解説しています。
支払う義務があるのは、合意した料金の範囲
料金は予約の時点で決まっている
契約は、申込みと承諾という当事者の意思が合致したときに成立します(民法522条1項)。電話やウェブで予約し、店が「60分1万5千円」と答えてそれで受け付けたのであれば、その料金で契約が成立していると考えるのが基本です。後から「当店の規定では90分からです」と告げられても、予約時に合意していない内容が当然に契約に加わるわけではありません。
代金を請求するのは店の側ですので、店が主張する高いコースで合意があったことは、店が示す必要があるという関係になります。「ホームページに書いてある」「規定だから」と言われただけで、その金額の支払義務が確定するわけではありません。
表示があった場合でも検討の余地は残る
もっとも、予約に使ったホームページに料金体系がはっきり表示され、それを見て予約したと言える場合には、その表示が契約の内容になっていると評価される可能性があります。他方で、料金表の目立たない場所に小さく書かれていた、電話での説明と食い違っていたといった事情があれば、その表示どおりの合意があったとは言いにくくなります。予約の画面や電話での説明がどうだったかを、できるだけ早く記録しておくことが大切です。
金額そのものが問題になる場合
合意の有無とは別に、料金が一般的な水準から大きく外れている場合には、暴利行為として公序良俗に反し無効であると主張する余地があります(民法90条)。重要な点について思い違いをしたまま契約した場合の錯誤による取消し(民法95条)や、店が料金について事実と異なることを告げた場合の消費者契約法による取消し(消費者契約法4条1項1号)も、事情によっては検討の対象になります。
不特定多数に向けた広告であっても、消費者契約法の「勧誘」に含まれる場合があるとした最高裁判決(最判平成29年1月24日)もあり、ホームページの表示が実際の請求と大きく異なる場合にも問題となりえます。なお、同法による取消しは、追認をすることができる時から1年以内に行う必要があります(同法7条1項)。
延長・指名料・オプションはどう考えるか
延長に応じた場合
延長すること自体に同意していた場合、延長分について何らかの支払義務が生じることは否定しにくいところです。ただ、延長の料金が説明されないまま同意した場合には、店が通常示している延長料金の範囲で考えるのが自然であり、説明のない高額な単価がそのまま認められるとは限りません。キャストが「サービスで」と言っていた時間を延長として請求された場合には、そのやり取りの内容が重要になります。
請求を項目ごとに分けて考える
請求された金額をひとまとめにせず、項目ごとに「予約時に説明があったか」を確かめると、払うべき部分と争うべき部分が見えやすくなります。目安としては次のように整理できます。
| 請求の項目 | 考え方の目安 |
|---|---|
| 予約時に合意した基本料金 | 支払義務があると考えるのが基本 |
| 予約時に説明のあった指名料・交通費 | 説明どおりの金額であれば支払義務があると考えられる |
| 後から示された上位コースとの差額 | 合意がなければ支払義務は認められにくい |
| 延長料金(延長には同意していた) | 延長分は支払義務が生じうるが、金額は通常の料金の範囲で検討 |
| 説明のなかった入会金・手数料など | 合意がなければ支払義務は認められにくい |
チェンジやキャンセルを含めた料金ごとの考え方は、チェンジ・キャンセル料・延長料金でのトラブル|支払い義務の有無もあわせてご覧ください。
東京都の「ぼったくり防止条例」はデリヘルに使えるのか
料金の表示や取立ての規制は派遣型には及ばない
東京都には、いわゆるぼったくり防止条例として「性風俗営業等に係る不当な勧誘、料金の取立て等及び性関連禁止営業への場所の提供の規制に関する条例」があります。この条例は、客の住居やホテルに人を派遣して営むデリヘルのような営業も「性風俗営業等」に含めています(同条例2条1項2号)。
ただし、料金を営業所内に表示する義務(同条例3条)や、料金を実際より著しく安いと誤認させる勧誘、粗野・乱暴な言動を交えた取立ての禁止(同条例4条)を定める部分は、「指定性風俗営業等」だけを対象としています。これは、営業所を設けて営む店舗型の営業(ソープランドを除く)と、接待をして酒類を提供するバーなどのうち、指定区域で営まれるものに限られています(同条例2条3項)。そのため、派遣型のデリヘルや受付所を設けて営むホテヘルは、条例の料金表示や取立ての規制の直接の対象にはなっていません。
よりどころになるのは民事の一般ルールと刑法
条例の規制が及ばないからといって、店が自由に取り立ててよいわけではありません。脅して金銭を払わせれば恐喝罪(刑法249条)、部屋から出さずに支払いを迫れば監禁罪(刑法220条)、脅して義務のないことを行わせれば強要罪(刑法223条)が問題となります。支払義務の範囲そのものは、前の章で述べた民法や消費者契約法の考え方で判断されます。
インターネット上では条例の名前だけが紹介されていることもありますが、利用した店の形態によって使える根拠が異なる点は押さえておくとよいでしょう。キャバクラなど接待飲食店での高額会計については、ぼったくりバー・キャバの高額会計|ぼったくり防止条例と支払い拒否で解説しています。
その場で高額な金額を示されたときの対応
合意した金額は支払う意思を示す
納得できない金額を示されたときでも、予約時に合意した料金まで拒むのは得策ではありません。「予約で聞いた金額は払う。それを超える部分は確認してから話したい」と伝え、合意した額を差し出すことで、支払いを免れようとしているのではないことがはっきりします。合意した料金を支払い、それを超える部分について争うだけであれば、そのこと自体が直ちに犯罪になるとは考えにくいところです。反対に、何も払わずに立ち去ったり、連絡先を偽ったりすると、店に警察へ相談する理由を与えることになり、話がこじれやすくなります。
その場で控えておきたいこと
後の交渉に備えて、次の点を記録しておくと役立ちます。
- 予約時のホームページの画面、電話の発信履歴、メッセージのやり取りを保存する。
- 請求された金額と、その内訳として説明された項目を書き留める。
- 誰が、何時ごろ、どのような言い方で請求したかを記録する。
- 可能であれば、やり取りを録音する。
ホームページの料金表は後から書き換えられることがあるため、画面の保存は早いほど意味があります。
帰してもらえない、身分証やカードを求められる場合
部屋から出してもらえない、大声で威圧される、身分証やスマートフォンを預けるよう求められるといった状況では、金額の交渉よりも身の安全を優先し、110番通報も選択肢に入れてください。その場で借用書に署名したり、キャッシュカードの暗証番号を伝えたりすると、後の交渉が難しくなります。スタッフが部屋に来た場面については【風俗トラブル】ホテルの部屋に店のスタッフが来た|ドアを開ける前に考えること、ATMやカードでの支払いを迫られた場面についてはATMで金を下ろさせられる・カードを切らされる|悪質な恐喝からの離脱法で詳しく扱っています。
払ってしまった後にできること
現金で払った場合
その場の雰囲気に押されて払ってしまった場合でも、合意を超える部分について返還を求める余地はあります。ただし、相手が任意に応じない限り回収は容易ではなく、店の実態がはっきりしない場合には、かかる時間や費用との兼ね合いも考える必要があります。請求の記録や支払ったときの状況を早めに整理しておくことが、交渉の前提になります。払った後の返還については、払ってしまった後に取り戻せるか|恐喝・強迫を理由とする返還も参考になります。
クレジットカードで払った場合
カードで支払った場合は、できるだけ早くカード会社に連絡し、事情を伝えて調査を求めます。分割払いやリボ払いであれば、店との間の事情を理由にカード会社への支払いを拒む「支払停止の抗弁」が問題となりえます(割賦販売法30条の4)。一方、1回払いはこの規定の対象外とされており、カード会社の判断や国際ブランドの手続による対応となります。詳しくはクレジットカードで高額決済させられた|取消・チャージバックは可能かをご覧ください。
後日、店から差額を請求された場合
その場で払わなかった差額について、後日電話やメッセージで請求が続くこともあります。そこで一部でも追加で支払うと、店の主張する金額を認めたと受け取られるおそれがあります。回答する前に、何を払い、何を争うのかを整理しておくことが大切です。料金の説明が事前と違っていた場合の返金交渉の進め方は、【風俗トラブル】料金の説明が事前と違った|行政への申告と返金交渉を並行させる手順で解説しています。
よくあるご質問
キャストに「延長してもいいよ」と言われて応じただけでも、延長料金を払う必要がありますか?
延長すること自体に応じていれば、延長分の料金が発生すると判断される可能性はあります。ただし、キャストが無料であるかのように説明していた場合や、料金の説明がなかった場合には、説明のない高額な料金まで当然に支払う義務があるとは限りません。やり取りの内容をできるだけ具体的に思い出し、記録しておくことが大切です。
請求額の一部だけを払って帰ると、警察に通報されませんか?
店が警察に連絡すること自体を止めることはできません。もっとも、予約時に合意した料金を支払い、連絡先も偽らずに、超える部分について話し合いを求めている場合には、支払いを免れようとしたとは言いにくく、料金をめぐる民事の争いとして扱われることが多いと考えられます。不安がある場合は、その場で弁護士に連絡して対応を相談する方法もあります。
「家族や職場に知らせる」と言われた場合はどうすればよいですか?
支払いを求める手段として家族や勤務先に知らせると告げることは、内容や言い方によっては恐喝や脅迫にあたる可能性があります。知られたくないという気持ちから言われるままに払うと、追加の請求につながることもあります。弁護士が代理人として窓口になれば、本人への直接の連絡を控えるよう店に求めることができます。
まとめ
- 後会計での料金は、予約時に合意した内容で決まるのが基本であり、後から示されたコースが当然に契約の内容になるわけではありません(民法522条1項)。
- ホームページの表示や電話での説明は合意の内容を判断する材料になるため、早めに保存しておくことが大切です。
- 料金が不相当に高額な場合は公序良俗違反(民法90条)、思い違いがあった場合は錯誤(民法95条)、事実と異なる説明があった場合は消費者契約法による取消し(同法4条1項1号)を検討する余地があります。
- 延長や指名料、オプションは、同意の有無と料金の説明の有無を項目ごとに分けて考えます。
- 東京都のぼったくり防止条例のうち料金表示や取立ての規制(同条例3条・4条)は、派遣型のデリヘルには及びません。
- 帰してもらえない、脅されるといった場面では身の安全を優先し、恐喝(刑法249条)や監禁(刑法220条)が問題となりうることを念頭に置いてください。
- カードで支払った場合は早めにカード会社へ連絡し、分割払いやリボ払いであれば支払停止の抗弁(割賦販売法30条の4)も検討します。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。後会計で予約時と異なる金額を請求された、その場で払ってしまった、後日も請求が続いているといった状況でも、事情を伺ったうえで、支払うべき範囲と対応の順序を一緒に整理します。
ご家族や勤務先に知られずに解決したいというご希望にも配慮しながら進めますので、一人で抱え込まず、早めにご相談ください。


