【解決事例】デリヘルで罰金100万円を請求された|借用書への署名前に相談し、キャスト本人の署名入り合意書で解決
本記事は、2026年10月時点の法令(民法、消費者契約法、労働基準法、刑法)にもとづいて解説しています。結論は個別の事情によって変わることがあるため、具体的な対応については弁護士にご相談ください。
「女の子がショックで出勤できなくなった。休んだ分の休業補償を払ってほしい」。風俗店を利用した後、店からこのような連絡を受けたというご相談が寄せられています。「怪我をさせた覚えはないのに、1日あたりの金額と日数だけを一方的に示された」という方もいれば、「自分にも非があったことは分かっているが、言われた金額が妥当なのか判断できない」という方もいます。
インターネット上では、「休業損害は、実際に減った収入をもとに計算する」と説明されることが多く、その説明自体は誤りではありません。ただ、風俗店から求められる「休業補償」は、誰の損害なのか、日数や金額が何を根拠にしているのかがはっきりしないまま、示談金の一部として上乗せされていることがあります。
この記事では、女性が休んだ分の「休業補償」を求められた場面に絞って、支払う必要が出てくるのはどのような場合か、示された金額をどう確かめればよいかを解説します。診断書を示された場合の考え方は【風俗トラブル】キャストの診断書を見せられた|怪我や体調不良を理由にした請求、罰金そのものの扱いは風俗店の「罰金」に支払義務はある?|減給の条件とペナルティへの対処法で詳しく解説しています。
「休業補償」という言葉が指しているもの
本来は、雇い主が従業員に支払うもの
「休業補償」は、もともと労働基準法で使われている言葉です。労働者が仕事中の怪我や病気で働けなくなったとき、使用者(雇い主)が平均賃金の60%を補償する仕組みを指します(労働基準法76条)。
風俗店の利用客は、女性の雇い主ではありません。そのため、この本来の意味での休業補償を、客が負担する立場にはありません。店が「休業補償」という言葉を使っている場合、実際には、客の行為によって女性が働けなくなったとして、その間の収入減を損害賠償として求めていることが多いと考えられます。
法的に問題になるのは「休業損害」
故意や過失によって他人の権利を侵害した人は、それによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。怪我や体調不良で働けなかった期間に得られなかった収入は「休業損害」と呼ばれ、この損害の一つとして扱われます。
つまり、呼び方が「休業補償」であっても、支払う義務があるかどうかは、客の行為が違法といえるか、その行為と女性が休んだこととの間につながりがあるか、によって決まります。言葉の響きから、払うのが当然の費用だと受け止める必要はありません。
まず「誰が」請求しているのかを確かめる
同じ「休業補償」という言葉でも、誰の損害として求められているかで、確かめるべき点が変わります。
| 請求している人 | 法的な位置づけ | まず確かめたい点 |
|---|---|---|
| 女性本人 | 本人の休業損害(民法709条) | けがや不調の内容、休んだ期間、収入の裏付け |
| 店(女性の分として) | 本人の損害を、店が窓口になって求めている形 | 本人が店に交渉を任せているか、支払ったお金が本人に渡るのか |
| 店(店自身の売上減として) | 店の営業上の損害(いわゆる間接損害) | 客の行為と店の売上減に、直接のつながりがあるといえるか |
実際の請求では、これらが区別されないまま一つの金額にまとめられていることがあります。まずは、誰のどのような損害なのかを分けて考えることが出発点になります。
支払う必要が出てくるのは、どのような場合か
前提として、客の側に違法な行為があったこと
休業損害の賠償が問題になるのは、同意のない行為や暴力、盗撮など、客の側に違法な行為があった場合です。サービスの範囲内で起きた出来事や、双方が同意したうえでの行為について、後から「ショックで休んだ」と伝えられても、それだけで賠償の義務が生じるわけではありません。
身に覚えのない怪我を理由とする請求については、【風俗トラブル】キャストに怪我をさせたと言われたが身に覚えがないもあわせてご覧ください。また、体調不良の原因として性病が挙げられている場合は、【風俗トラブル】性病をうつしたと言われた|検査結果の扱いと請求への向き合い方で整理しています。
その行為と、休んだこととのつながり
仮に客の側に問題のある行為があったとしても、女性が休んだことがその行為によるものといえなければ、休業損害の賠償にはつながりません。出勤しなかった理由には、体調や私生活の事情など、さまざまなものがあり得るからです。
このつながりを示す資料としてよく出てくるのが診断書です。診断書が示された場合も、受診した時期が利用日から大きく離れていないか、傷病名と「休業を要する期間」がどのように書かれているかを確かめる必要があります。診断書があることと、記載された期間すべてが客の行為によるものと認められることは、同じではありません。
店自身の売上減は、認められる範囲が狭い
「女の子が休んだせいで店の売上が落ちた」という主張は、女性本人の休業損害とは別のものです。人を負傷させた場合に、その人が働く会社の損害まで賠償の対象になるかについて、最高裁判所は、会社がいわゆる個人会社で、負傷した本人と経済的に一体といえるような関係にある事案で、会社の損害の賠償を認めました(最高裁昭和43年11月15日判決)。
この判断を踏まえ、店が自らの売上減を理由に客へ賠償を求める場合、認められる範囲は限られると考えられています。店には他の女性の出勤で営業を続ける余地もあり、売上の増減には多くの事情が関わるためです。弁護士ドットコムにも、予約のキャンセルをめぐって「女の子が他の客につけなかった分も払え」と求められたという相談が寄せられていますが、こうした主張も、損害の中身と金額の根拠を一つずつ確かめる必要があります。
示された金額をどう確かめるか
1日あたりの金額の根拠
風俗店で働く女性の多くは、雇用ではなく業務委託などの形で働いており、収入は出勤日数や指名の数によって変わります。そのため、休業損害の日額を考えるときは、休む前の一定期間に実際に受け取っていた報酬をもとにするのが基本です。
「人気があるので1日○万円は稼げた」といった説明だけでは、日額の根拠としては足りません。また、客が支払う料金には店の取り分も含まれているため、料金をそのまま女性の収入として計算していないかも確かめたい点です。
休んだ日数の根拠
日数についても、診断書に記載された期間や、もともとの出勤予定と照らし合わせる必要があります。週に数日しか出勤していなかった方について、休んだ期間の暦日数をそのまま掛けて計算している場合、実際の収入減よりも大きな金額になっています。
さらに、女性が店を辞めたことを理由に、将来の分まで求められる例もあります。退職の理由は一つに限られないことが多く、客の行為との結びつきは、より慎重に判断されます。
罰金・慰謝料と重なっていないか
休業補償は、罰金、違約金、慰謝料、治療費などと並べて請求されることがよくあります。店の規約で定める罰金や違約金は、損害賠償額をあらかじめ決めておくもの(損害賠償額の予定)と推定されます(民法420条3項)。その場合、同じ出来事について罰金とは別に休業損害を求めることは、損害を重ねて数えていることになりかねません。
また、規約に「女性が休んだ場合は○万円を補償する」と定めていても、実際の損害から大きく離れた金額や、客に一方的に不利な定めは、消費者契約法10条や民法90条(公序良俗)によって効力が否定される余地があります。規約の効力については損害賠償額の予定(民法420条)は風俗の規約でも有効かで解説しています。内訳を書面で示してもらい、同じ損害が二重に数えられていないかを確かめることが、金額を考える前提になります。
請求を受けたときに避けたい対応と、残しておきたい記録
その場での支払いや、借用書への署名は控える
「今日中に払えば終わりにする」と言われると、早く終わらせたい気持ちから応じてしまいがちです。しかし、一度支払ったお金を後から取り戻すことは容易ではありません。借用書や支払いを約束する書面に署名すると、休業補償の金額を認めたものとして扱われるおそれもあります。即時の支払いを求められた場合の判断は、【風俗トラブル】「今すぐ払えばこの場で終わる」と言われた|即時払いを求められたときの判断で詳しく解説しています。
休んだ期間と金額の根拠を、書面で求める
請求に応じるかどうかを決める前に、休んだ期間、1日あたりの金額、その根拠となる資料を示すよう求めることは、相手方にとっても無理のない要望です。このとき、事実関係を認めるような言い方や、謝罪の言葉と金額の約束を一緒に伝えることは避けたほうが無難です。根拠の提示を求めることと、請求を認めることは別であると意識しておくことが大切です。
やり取りの記録を残しておく
電話の着信履歴、メッセージ、示された金額の変化は、後から請求の妥当性を検討するうえで重要な資料になります。連絡のたびに金額が増えていく場合の考え方は、【風俗トラブル】請求額が連絡のたびに増えていく|金額が動く請求への向き合い方をご覧ください。
なお、「払わなければ家族や職場に知らせる」といった言葉とともに支払いを迫られている場合は、その求め方自体が恐喝(刑法249条)として問題になり得ることもあります。言われた内容は、日時とともに記録しておいてください。
示談で終える場合に押さえたい点
休業補償も含めて、一度で清算する
客の側にも問題があり、一定の金額を支払って解決する場合でも、休業補償だけを別に支払うのではなく、慰謝料や治療費なども含めた全体の解決金として合意することが望ましいといえます。合意書には、合意した金額のほかに債権債務がないことを確認する条項(清算条項)を入れ、後から「休んだ期間が延びた」として追加の請求を受けることのないようにしておきます。示談金の水準については、風俗トラブルの示談金相場は?本番・盗撮・お触り別に弁護士が解説もご参照ください。
女性本人との関係でも解決しておく
休業損害は、本来は女性本人の損害です。店とだけ合意しても、本人から別に請求を受ける余地が残ることがあります。本人の休業損害が含まれる以上、本人の意思が合意に反映されていることを確かめることが、後のトラブルを防ぐうえで重要です。当事務所が扱った例として、【解決事例】デリヘル利用後にキャストの怪我を主張された男性が、店舗との合意書締結で解決した事例があります。
よくあるご質問
休業補償を求められたまま放っておくと、どうなりますか?
不法行為にもとづく損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年(人の生命や身体を害した場合は5年)で時効にかかります(民法724条、同法724条の2)。ただし、時効を待って放置することは、請求が繰り返されたり、訴訟を起こされたりする可能性を残すため、得策とはいえません。根拠を確かめたうえで、支払うかどうか、どのように終えるかを決めておくことをおすすめします。
女性が店を辞めてしまった分まで請求されています。払う必要はありますか?
退職によって得られなくなった将来の収入まで、客の行為によるものと認められる場面は限られます。退職の理由は一つとは限らず、ほかの店で働き続けている場合もあるためです。将来分を含む請求を受けた場合は、金額に応じる前に、その根拠を慎重に確かめる必要があります。
「払わないなら訴える」と言われました。どう受け止めればよいですか?
訴訟になった場合、休業損害があったこと、その金額、客の行為とのつながりは、請求する側が示す必要があります。「訴える」という言葉だけで支払いを決める必要はありません。一方で、裁判所から書類が届いた場合には、放置すると請求をそのまま認めたものとして扱われるおそれがあるため、必ず対応してください。書面が届いた場合の考え方は、【風俗トラブル】店から届いた請求書面に「法的措置」と書いてある|本当に訴えられるのかで解説しています。
まとめ
- 本来の「休業補償」は雇い主が従業員に支払うもので、利用客が負担する立場にはない(労働基準法76条)。
- 店が求める休業補償は、実際には不法行為にもとづく休業損害の請求であることが多い(民法709条)。
- 支払う義務が生じるのは、客の行為が違法といえ、その行為と女性が休んだこととの間につながりがある場合に限られる。
- 店自身の売上減を理由とする請求は、認められる範囲が限られると考えられている(最高裁昭和43年11月15日判決)。
- 罰金・違約金は損害賠償額の予定と推定され、休業補償と重ねて数えられていないかを確かめる必要がある(民法420条3項)。
- 実際の損害から大きく離れた補償額の定めは、効力が否定される余地がある(消費者契約法10条、民法90条)。
- 損害賠償請求権の時効は原則3年、人の生命・身体を害した場合は5年である(民法724条、同法724条の2)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗店の利用をめぐるトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。休業補償を含む請求について、内訳の確認から店や女性本人との交渉、合意書の作成まで対応しています。
女性が休んだ分の休業補償を求められ、支払うべきかどうか、示された金額が妥当かどうか迷っている方は、支払いや書面への署名をする前に、一度ご相談ください。


