職業安定法違反(スカウト)と客の関係|紹介を受けた場合
遅刻や当日欠勤で数万円、風紀違反や裏引きを理由に100万円。店が決めた「罰金」を求められたというご相談が、風俗嬢やボーイ、ドライバーとして働く方から寄せられることが少なくありません。「払わないなら昼の職場や実家に知らせる」「払い終わるまでは辞めさせない」と迫られて、誓約書にサインした以上は断れないと感じている方もいらっしゃいます。
結論からお伝えすると、風俗店がスタッフに課す罰金に、原則として支払義務はありません。働き手にあらかじめ罰金や違約金を負わせる約束は、労働基準法が禁じているためです。例外として認められるのは、就業規則にもとづく減給(給与から差し引く形の制裁)だけで、その金額にも法律上の上限が定められています。
ここでは、風俗店で働く方のトラブルを扱ってきた弁護士が、次の点を解説します。
・風俗店の罰金に支払義務はあるのか
・減給が認められる条件と金額の上限
・罰金やペナルティの対象になりやすい行為
・請求されたときにとるべき対応
風俗店がスタッフに課す罰金に支払義務はある?
風俗店で働く人が、店のルールを破ったことを理由に罰金を求められても、その請求に応じる義務は原則として生じません。根拠になるのが、労働基準法第16条です。
労働基準法第16条(賠償予定の禁止)は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています(出典:e-Gov法令検索)。
この条文が禁じているのは、約束が守られなかったときに備えて「いくら払わせるか」を先に決めておくこと自体です。実際に店が損をしたかどうかも、金額の大小も関係ありません。入店時に署名した誓約書や契約書に罰金の条項が入っていても、その部分は効力を持たないことになります。
そもそも罰金は刑法が定める刑罰のひとつで、科すかどうかを決めるのは裁判所です。店が使う「罰金」は、言葉が同じだけの店内ルールにすぎません。
風俗店では業務委託(雇用されるのではなく、店から仕事を請け負う形の契約)を結ぶことも多く、「うちは雇用ではないから労働基準法は関係ない」と言われることがあります。ただ、同法にいう労働者にあたるかどうかは、契約書の名称ではなく実際の働き方で決まります(労働基準法第9条)。出勤する日やサービスの内容を店が指示し、勤務時間や場所が管理され、店から回された仕事を断る自由がないなど、店の指揮監督のもとで働いている実態があれば、労働者として同法の保護を受けられます。
なお、働き方の実態から労働者にあたらないと判断される場合でも、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律。2024年11月施行)の保護が及ぶことがあります。人を雇わずに個人で仕事を受けている働き手が、従業員を雇っている店(会社が営む店では役員が2人以上いる場合も含みます)と1か月以上続く契約を結んでいる場合には、店が自店の利益のために金銭を出させて働き手の利益を不当に害することや、働き手に落ち度がないのに報酬を減らすことが禁じられます。入店時に契約の終わりを決めていない場合も、この1か月にあたります。ただしこの法律は公正取引委員会などが店を指導・勧告する仕組みが中心で、罰金の約束が当然に無効になると定めたものではありません。もっとも、額が高すぎるなど内容が不当な約束の効力が否定されうる点は、契約の形を問いません。
例外的に「減給」の形なら認められる
例外として、風俗店の就業規則(店が定めた働き方のルール)にあらかじめ定めがある場合には、罰金ではなく給与を減らす形の制裁が認められています。
労働基準法第91条(制裁規定の制限)は、「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」と定めています(出典:e-Gov法令検索)。
この条文は、制裁が際限なく大きくならないよう上限を定めています。裏を返せば、店に認められているのは支払う給与を減らすやり方だけで、目の前で現金を出させることはここに含まれません。賃金は全額を本人に支払うのが原則ですから(労働基準法第24条1項)、店の判断で勝手に差し引くこともできません。
減給を使えるのは、就業規則に定めのある行為に限られます。どこにも書かれていない行為を持ち出して給与を減らすことはできませんし、「店が損をしたから」という賠償の名目で差し引くことも認められていません。
減給できる金額には上限がある
減給できる幅は、条文が置いた2つの上限で決まります。1回あたりは平均賃金1日分の半分まで、同じ月の合計でも給与総額の10分の1までです。
ここでいう平均賃金は、直前3か月の賃金総額を、その期間の暦日数(出勤日ではなくカレンダー上の日数)で割って求めます。ただし、働いた日や時間ごとに報酬が決まる場合や、本数・売上に応じた出来高で決まる場合には最低保障が置かれていて、賃金総額を出勤した日数で割った額の6割を下回らせない扱いです(労働基準法第12条1項)。両方を計算して、高いほうがその人の平均賃金になります。
たとえば、1日あたりの稼ぎが平均2万円の風俗嬢が月に10日出勤しているなら、1か月の賃金は20万円です。暦日数で割ると1日あたり7000円弱にとどまりますが、最低保障は2万円の6割で1万2000円ですから、平均賃金は高いほうの1万2000円になります。この場合、1回の減給は最大6000円、1か月の合計は給与総額の10分の1にあたる2万円までです。
そのため、就業規則に「遅刻1回につき1万5000円」と書かれていても、1回分の上限を超えているため、その定めは効きません。1回5000円の遅刻が5日分で2万5000円になったケースでは、1回分は上限の内側ですが、月の合計が2万円を超えます。超えた5000円をその月に引くことはできず、翌月以降の給与へ繰り越して処理することになります。
1回分を小刻みに分けて上限の内側に収めた書き方も見かけますが、1つの違反に対する制裁であることは変わらないため、この計算をすり抜けることはできません。就業規則に書かれていて金額も範囲内という場合でも、行為の中身に比べて制裁が重すぎるときは、その定め自体が公序良俗(社会一般の常識に照らして守るべき秩序)に反するもの(民法第90条)として効力を否定されることがあります。ここまで見てきた就業規則と減給のルールは、風俗店に限らずキャバクラなど接客を伴う業態にも同じように当てはまります。
風俗店で罰金・ペナルティを課される主なケース
店が罰金やペナルティの対象にしている行為には、売上や在籍者の管理に直結するものから、日々の勤務にまつわるものまで幅があります。デリヘルのような派遣型でも、ソープランドやヘルスといった店舗型の店でも、対象にされる行為に大きな違いはありません。相談の場で挙がることが多いのは、次のような場面です。
・店が禁止している行為をした(本番行為など)
・キャストと男性スタッフが交際した、連絡先を交換した(風紀違反)
・客と店外で会った(店外デート)、店を通さずに直接サービスを提供した(裏引き)
・他店へ移った、在籍者を誘って移籍させた(引き抜き)
・連絡がつかないまま出勤しなくなった(いわゆるバックレ)、予告なく退店した
・出勤時間に遅れた、無断欠勤や当日欠勤をした
・決められた本数や売上のノルマに届かなかった
後ろの項目ほど日常的で、金額も数千円から数万円と小さめに設定される傾向があります。一方、前半のように店の売上や在籍者に関わる行為では、数十万円から100万円を超える金額が誓約書に書き込まれていることも珍しくありません。もっとも、金額の大小にかかわらず、先に金額を決めておく定めが無効である点は変わりません。
お金を出させる形をとらないペナルティもあります。
・希望した日のシフトに入れてもらえない
・指名以外のフリーのお客さんが付かないように調整される
・バック率や給与のランクを引き下げられる
いずれも「支払い」の形をとらないぶん見過ごされがちですが、手取りが減るという結果は罰金と変わりません。話の流れで事実上の退店を持ちかけられることもあります。店に実際の損害が出ていて、その中身と金額を店の側が示せる場合には、賠償を求められる余地が残ります。ただし、それは先に決めておいた金額をそのまま請求できるという意味ではありません。
店から罰金を請求されたときの対処法
風俗店から罰金を求められた場面では、その場での受け答えと、その後の動き方が結果を左右しやすくなります。落ち着いて次の3つを押さえてください。
その場で支払わない・借用書にサインしない
罰金を請求されたその日に財布を出す必要はありません。いったん渡してしまうと、今度はこちらが「返してほしい」と求める側に回ることになり、手間のかかり方は渡す前とはまるで違ってきます。
借用書や念書も同じです。署名すれば、風俗店はその書面を根拠に請求を続けられます。すでに署名してしまった場合でも、もとになる罰金の定めが無効であれば、その書面にもとづく請求を争う余地は残ります。「持ち帰って確認します」と伝えて、その場での署名だけは避けてください。
支払いを渋ると、「今後シフトに入れない」「働いていることを家族に知らせる」「辞めたいなら罰金を払ってからだ」といった言葉で迫られることもあります。こうした脅し文句は、内容によっては恐喝罪や強要罪の問題になり得ます。応じないまま、そのときのやり取りを記録に残しておくとよいでしょう。
証拠を残し、天引きされた罰金の返還を求める
手元に残すものは、給与の振込履歴、出勤の記録、入店時に署名した書面の写し、店長とのやり取りの4つを目安にしてください。いつ・いくら・どの行為を理由に罰金を引かれたのかがつながる形で残っていれば、後の話し合いが早く進みます。
上限を超えていたり、就業規則に根拠がなかったりする減給であれば、引かれた分は支払われていない賃金として、その支払いを求めることができます。現金で風俗店に渡してしまった分についても、法律上の根拠を欠く支払いとして返還を求める余地があります。
労働基準監督署に相談する
罰金をめぐる店との話し合いが進まないときは、労働基準監督署(労働基準法が守られているかを監督する国の機関)という選択肢があります。法律に違反する扱いを受けている労働者は、その事実を監督署に申告できます(労働基準法第104条1項)。監督官には店に立ち入って帳簿を確かめたり、事情を聴いたりする権限があり、違反が確認されれば店に是正を求める指導が行われます。申告したことを理由に解雇などの不利益な扱いをすることは、法律で禁じられています(同条2項)。
辞めたいと伝えたのに、罰金の支払いを理由に引き止められている場合も、打つ手はあります。契約書の名目が業務委託であっても、実態として労働者と認められ、期間の定めがない場合には、退職を伝えてから2週間が過ぎることで、店が認めるかどうかにかかわらず契約は終わります(民法第627条1項)。
風俗店からの罰金請求でお困りの方へ
この記事でお伝えしたとおり、風俗店がスタッフに対してあらかじめ罰金を定めておく約束は労働基準法で禁じられており、それにもとづく請求に原則として応じる必要はありません。例外は、就業規則を根拠とする減給だけです。その減給にも、1回あたり・1か月あたりの上限が法律で決められています。
しかし実際には、法律の知識がないことにつけ込んで、高額な罰金を脅しとともに請求してくる風俗店も存在します。弁護士が代理人として風俗店との交渉窓口を引き受けることで、不当な請求を退け、脅迫的な連絡を止めさせることが期待できます。
「すでに罰金の一部を払ってしまった」「借用書にサインさせられた」「家族や職場にばらすと脅されている」など、おひとりでの対処が難しい状況であれば、早めに弁護士へご相談ください。当事務所は風俗トラブルの解決実績があり、全国どこからでも無料でご相談いただけます。お店とのやり取りは弁護士が引き受け、周囲に知られることのないよう配慮しながら、穏便な解決を目指します。


