「家に行く」「学校にバラす」と脅されている|安全に抜けるための手順
子どもを叱る場面で手が出てしまい、あとから警察や児童相談所から連絡が来た。あるいは、学校や医療機関から通告があったと知らされた。こうした場面で多くの方が最初に口にするのが、「しつけのつもりだった」という言葉です。
この一言は、言い訳として述べられているとは限らず、その時点での率直な認識であることも少なくありません。ただ、法律の側から見ると、この説明が届く場所と届かない場所は、はっきり分かれています。どこで意味を持ち、どこでは判断の材料にならないのかを知らないまま説明を重ねると、意図しない受け取られ方をすることがあります。
この記事では、しつけと体罰の境目が法律上どこに引かれているのか、そして「しつけのつもりだった」という説明が、それぞれの手続でどのように扱われるのかを整理します。
「しつけのつもりだった」という言葉が置かれる三つの場所
子どもへの有形力の行使が問題になったとき、動き出す手続は一つではありません。
一つ目は刑事の手続です。警察と検察が、何をしたのか、どのような結果が生じたのかを調べます。
二つ目は児童福祉の手続です。児童相談所が、子どもの安全と養育環境を評価し、必要と判断すれば調査や一時保護へ進みます。
三つ目は民事・家事の手続です。離婚や親権をめぐる争いがある場合には、親権の行使が法律の定める範囲に収まっていたかが問題になることがあります。
この三つは、目的も、見ている対象も、判断の基準も異なります。同じ「しつけのつもりだった」という説明が、一方では考慮される事情として扱われ、他方ではそもそも判断の要素に入らない、ということが起こります。
条文には「しつけのため」という例外が書かれていない
出発点になるのは民法の規定です。
民法821条は、「親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」と定めています。
この条文は令和4年の民法改正で新たに置かれたもので、体罰の禁止に関する部分は令和4年12月16日から施行されています。同じ改正で、それまで民法822条にあった、いわゆる懲戒権の規定、すなわち「親権を行う者は、監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」という定めは削除されました。
児童虐待の防止等に関する法律14条1項も、この改正に合わせて文言が揃えられ、現在は「児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、児童の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の児童の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」となっています。改正前の文言を引用したままの解説も見受けられますので、条文を確認する際にはご注意ください。
いずれの条文も、「しつけのためであれば」という留保を置いていません。ここが、多くの方の想定とずれやすい点です。
しつけそのものが否定されたわけではない
懲戒権の規定が削除されたことで、子どもを叱ることや注意することまでできなくなった、と受け取られることがあります。もっとも、法制審議会の部会で示された資料では、懲戒権に関する規定を削除したとしても、親権者は民法820条の「監護及び教育」として同様の行為をすることができるため、親権者がなし得る行為の範囲は基本的に変わらないと考えられる、と整理されていました。
民法820条は、親権を行う者が子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負うと定めています。この土台自体は変わっていません。変わったのは、その中に「懲戒」という枠が置かれなくなり、代わりに体罰の禁止が明文で書かれたという点です。
親であることは、刑事責任を免れる理由にならない
刑事の側については、児童虐待防止法が正面から規定を置いています。
同法14条2項は、「児童の親権を行う者は、児童虐待に係る暴行罪、傷害罪その他の犯罪について、当該児童の親権を行う者であることを理由として、その責めを免れることはない」と定めています。
条文が「暴行罪、傷害罪」と名指ししているとおり、親子という関係があること自体は、刑法の適用を外す事情としては扱われていません。刑法208条の暴行罪は2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料、204条の傷害罪は15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定められており、被害者が自分の子であることを理由に別の条文が用意されているわけでもありません。
また、食事を与えない、家から締め出すといった行為が問題になる場合には、刑法218条の保護責任者遺棄等罪(3月以上5年以下の拘禁刑)が検討されることがあります。長時間にわたって一室に閉じ込めたような場合には、220条の逮捕・監禁罪が問題になる場面もあります。
同じ出来事が、三つの窓口で別々に評価される
| 判断する側 | 見ている対象 | 「しつけのため」という説明の位置づけ |
|---|---|---|
| 警察・検察 | 何をしたか、どのような結果が生じたか、その認識があったか | 犯罪が成立するかどうかを決める要素としては置かれていない。処分を決める段階で、事情の一つとして見られることがある |
| 児童相談所 | 子どもの安全と、家庭で暮らし続けられる状態かどうか | 目的がしつけであっても、体罰に当たるかどうかで判断される |
| 裁判所(民事・家事) | 親権の行使が民法821条に沿っていたか | 条文が体罰を禁じているため、目的の説明だけで正当化する主張は通りにくい |
警察の手続は終わったのに児童相談所の関与は続いている、あるいはその逆、という状態が生じるのは、判断する側ごとに見ているものが違うためです。
では、どこからが「体罰」なのか
体罰の範囲については、こども家庭庁(公表当時は厚生労働省)の検討会がまとめた「体罰等によらない子育てのために」が、考え方を示しています。
ここでは、たとえしつけのためだと親が思っても、身体に何らかの苦痛を引き起こし、または不快感を意図的にもたらす行為(罰)である場合は、どんなに軽いものであっても体罰に該当し、法律で禁止される、と説明されています。
同じ資料は、体罰に当たる例として次のようなものを挙げています。
・言葉で3回注意したけれど言うことを聞かないので、頬を叩いた
・大切なものにいたずらをしたので、長時間正座をさせた
・友達を殴ってケガをさせたので、同じように子どもを殴った
・他人のものを取ったので、お尻を叩いた
・宿題をしなかったので、夕ご飯を与えなかった
・掃除をしないので、雑巾を顔に押しつけた
叩く行為だけでなく、正座をさせること、食事を与えないこと、物を押しつけることまで含まれている点が、一般的なイメージとの差が大きいところです。
体罰に当たらないとされている行為もある
一方で、同じ資料は、体罰に当たらない行為も明示しています。
罰を与えることを目的としない、子どもを保護するための行為については、道に飛び出しそうな子どもの手をつかむことが例として挙げられています。また、第三者に被害を及ぼすような行為を制止する行為については、他の子どもに暴力を振るうのを制止することが例として挙げられています。これらは体罰には該当しないとされています。
つまり、子どもの身体に触れる行為がすべて体罰と扱われているわけではありません。分かれ目に置かれているのは、罰を与えることが目的だったのか、それとも危険を止めるための行為だったのか、という点です。「線引き」を考えるとき、まず確認すべきはこの目的の違いです。
なお、同じ資料では、体罰は親以外の、監護や教育の権利を持たない者を含むすべての人について許されない、とされています。
判断の軸として示されている「目的・態様・継続時間」
目的の違いが実際にどう判断されたかを示す例として、学校での事案ではありますが、最高裁平成21年4月28日判決があります。
小学2年生の男児が、廊下で女子児童数人を蹴り、これを注意した教員の臀部付近を2回蹴って逃げ出したため、教員が追いかけて捕まえ、胸元をつかんで壁に押し当て、大声で叱ったという事案です。第一審と控訴審は、この行為を学校教育法11条ただし書が禁じる体罰に当たると判断していました。
これに対して最高裁は、教員の行為は児童の身体に対する有形力の行使ではあるものの、これからはそのような悪ふざけをしないように指導するために行われたものであり、悪ふざけの罰として肉体的苦痛を与えるために行われたものではないとして、その目的、態様、継続時間等から判断すると、許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく、体罰には該当しないとしました。
家庭の場面にそのまま当てはまる判断ではありませんが、目的・態様・継続時間という三つの軸で見るという枠組みは、しつけと体罰の境目を考えるときの手がかりになります。とっさに止めた行為なのか、時間をおいて罰として加えた行為なのかで、評価の向きが変わるということです。
「一度だけ」「痕は残っていない」という説明が通りにくい場面
説明の中でよく出てくるのが、一度きりだった、痕は残っていない、子どもも痛がっていない、という内容です。
もっとも、児童虐待防止法2条1号は、身体的虐待を「児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること」と定義しています。外傷が生じるおそれで足りる書き方になっているため、けがが確認されていない場合でも、児童相談所の側の手続は動き得ます。
刑事の側でも、けがの有無は罪名の分かれ目に関わりますが、けががなかったことが、それだけで手続の入口を閉じる事情になるわけではありません。「痕が残っていないのだから問題にならないはずだ」という前提で説明を組み立てると、話が噛み合わなくなることがあります。
事件になる入口は、家庭の外から開くことが多い
こども家庭庁が公表した令和6年度の集計では、全国236か所の児童相談所が対応した児童虐待の相談件数は223,691件でした。前年度から1,818件、0.8%の減少で、統計上は初めて減少に転じています。内訳は、心理的虐待が133,024件(59.5%)で最も多く、身体的虐待が52,535件(23.5%)と続きます。
注目したいのは、相談の経路です。警察等からが115,644件で全体の51.7%を占め、次いで近隣・知人が19,841件(8.9%)、家族・親戚が18,792件(8.4%)、学校が17,924件(8.0%)となっています。学校からの通告等は、前年度の16,583件から増えています。
児童虐待防止法6条1項は、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者に通告の義務を課しています。「思われる」という書き方であるため、確証がない段階でも通告はなされます。保育所や学校で子どもが話したこと、受診した医療機関が気づいたことが、そのまま入口になるのはこのためです。
そして、警察が関わった事案は児童相談所に、児童相談所が把握した事案は警察に、それぞれ情報が伝わります。片方だけで話を収めるという前提は、成り立ちにくいと考えておいたほうがよいでしょう。
児童相談所が動いた場合に進むこと
通告を受けた児童相談所は、まず子どもの安全確認を行います(児童虐待防止法8条)。必要に応じて、保護者に出頭を求めたり(8条の2)、住居への立入調査や質問を行ったりします(9条)。立入りを拒まれる状況では、裁判官の許可状を得て臨検・捜索を行う仕組みもあり(9条の3)、警察署長に援助を求めることもできます(10条)。
そのうえで必要と判断されれば、児童福祉法33条に基づく一時保護が行われます。子どもと離れて暮らす期間が生じるということであり、保護者にとっては刑事手続とは別に、重い意味を持つ場面です。
一時保護には裁判官の審査が入るようになった
この一時保護について、令和4年の児童福祉法改正で司法審査の仕組みが導入され、2025年6月1日から施行されています。
改正後の児童福祉法33条3項では、次の場合を除き、一時保護を開始した日から起算して7日以内に、裁判官に対して一時保護状を請求しなければならないこととされました。一時保護を行う前に請求する形も認められています。
・一時保護を行うことについて親権者等(親権を行う者または未成年後見人)の同意がある場合
・児童に親権者等がいない場合
・一時保護を開始した日から起算して7日以内に一時保護を解除した場合
ここで手続を分けているのが、親権者等の同意の有無です。こども家庭庁の対応マニュアルでは、親権者等が複数いるときはその全員の同意が必要であり、一部の親権者等と連絡がとれず同意が確認できない場合も同意があるとはいえない、と整理されています。
同意するかどうかは、その後の子どもとの関係や、手続の進み方に関わります。判断に迷う場合は、返事をする前に相談しておくことをおすすめします。
家庭の外での場面 学校・部活動・習い事
指導する立場で同じ問題に直面する方もいます。
学校教育法11条は、校長および教員が教育上必要があると認めるときは児童・生徒・学生に懲戒を加えることができるとしたうえで、ただし書で体罰を加えることはできないと定めています。文部科学省が示している参考事例では、児童生徒から教員等への暴力行為に対して防衛のためやむを得ずした有形力の行使や、他の児童生徒に被害を及ぼす暴力行為を制止し、目前の危険を回避するためにやむを得ずした有形力の行使は、通常は正当防衛・正当行為と判断されると考えられる行為として整理されています。
具体例としては、他の児童を押さえつけて殴っている児童の両肩をつかんで引き離す、別室での指導のため移るよう促しても抵抗する生徒の腕を引っ張って移動させる、といったものが挙げられています。
ここでも軸は同じで、罰として加えたのか、危険を止めるためだったのかが分かれ目になっています。部活動や習い事のように学校教育法が直接適用されない場面でも、体罰が許されない点は変わらず、刑事・民事の責任が問われる可能性があります。
説明を求められたときに気をつけたいこと
警察の取調べや児童相談所の面接で説明する場面では、次の点に留意しておくと、後から食い違いが生じにくくなります。
・「しつけのため」という言葉だけで説明を終えず、その日の出来事を時系列に分けて話す
・叩いた、押した、といった動作を一語にまとめず、どの部位に、どの程度、何回、どのくらいの時間かを分けて確認する
・記憶がはっきりしない部分は、はっきりしないままそのように伝える
・調書は署名する前に読み、自分の記憶と違うところは訂正を申し立てる(刑事訴訟法198条4項)
・児童相談所への説明と警察への説明とで、事実関係の内容がずれないようにする
児童相談所での面接は捜査の手続ではありませんが、そこで語られた内容は記録として残り、その後の判断に影響することがあります。別々の窓口だからと切り離して考えないほうがよいでしょう。
「しつけのつもりだった」が意味を持つ場面と持たない場面
ここまで見てきたとおり、「しつけのつもりだった」という説明は、犯罪が成立するかどうかを決める段階では、それ自体が結論を左右する事情としては置かれていません。児童虐待防止法14条2項が親権者であることを理由に責めを免れないと定め、民法821条と同法14条1項が目的を問わず体罰を禁じている以上、目的の説明だけで手続が止まる構造にはなっていないためです。
一方で、意味がまったくないわけでもありません。検察官が起訴するかどうかを決めるにあたっては、犯人の性格、年齢および境遇、犯罪の軽重および情状、犯罪後の情況が考慮されます(刑事訴訟法248条)。動機の内容や、その後どう受け止めているかは、この判断や量刑の場面で見られる事情に含まれます。
ただし、「しつけだったのだから問題はない」という主張を繰り返す形になると、受け止めが変わっていないと理解されることがあります。何があったかを正確に伝えることと、そこから先どうするかを示すことは、別の作業として整理したほうがよいでしょう。
行為が繰り返される背景に、余裕のなさや孤立がある場合もあります。市区町村の子育て相談窓口や、児童相談所相談専用ダイヤル(0570-783-189)など、手続とは別に利用できる相談先があります。手続への対応と並行して、こうした窓口につながっておくことも選択肢の一つです。
よくあるご質問
子どもが「痛くなかった」と言っています。それでも問題になりますか
子ども本人の受け止めは事情の一つですが、それだけで判断が決まるわけではありません。児童虐待防止法2条1号は外傷が生じるおそれのある暴行も含めて定義しており、こども家庭庁のとりまとめも、どんなに軽いものであっても体罰に該当するという考え方を示しています。また、子どもが保護者の前でどう答えるかは、状況に左右されやすい面もあります。
配偶者が通報しました。取り下げてもらえば終わりますか
暴行罪や傷害罪は、告訴がなければ起訴できない類型ではありません。通報した方が考えを変えても、捜査機関が独自に判断して手続を進めることがあります。また、児童相談所側の関与は、刑事手続とは別の判断で続きます。
児童相談所と警察の両方から連絡が来ています。同じ話をしてよいですか
内容が食い違うことのほうが問題になりやすいため、事実関係については同じ内容で説明するのが基本です。もっとも、二つの手続は目的も進み方も異なり、それぞれで求められる説明の範囲は同じではありません。順序や範囲について迷うときは、対応を始める前に確認しておくとよいでしょう。
まとめ
・民法821条と児童虐待防止法14条1項は、目的がしつけであっても体罰を禁じており、条文に「しつけのため」という例外は置かれていない
・同法14条2項は、親権者であることを理由に暴行罪・傷害罪その他の犯罪の責めを免れないと明記している
・こども家庭庁のとりまとめは、罰を与えることを目的としない保護のための行為や、第三者への被害を制止する行為は体罰に当たらないとしている
・最高裁平成21年4月28日判決は、目的・態様・継続時間から判断する枠組みを示しており、罰として加えたのか危険を止めたのかが分かれ目になる
・けがの有無だけで結論は決まらず、児童虐待防止法2条1号は外傷が生じるおそれのある暴行も定義に含めている
・入口は家庭の外から開くことが多く、令和6年度の児童相談所の対応件数223,691件のうち、相談経路の51.7%は警察等である
・一時保護には2025年6月1日から司法審査が導入され、親権者等の同意がない場合には7日以内に一時保護状の請求が必要となっている
・刑事と児童福祉の手続は別々に進むため、片方だけで話を収める前提では対応しにくい
しつけと体罰の境目は、行為の激しさだけで決まるものではなく、何のために行ったのかという目的を中心に見られています。すでに手続が始まっている場合には、説明の順序や範囲を含め、早い段階で整理しておくことが、その後の見通しを立てるうえで役に立ちます。


