日本版DBSで何が変わるのか|性犯罪歴の確認が始まる職種と風俗トラブルの接点
本記事は、特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(平成30年法律第103号。以下「チケット不正転売禁止法」)と刑事訴訟法の、2026年10月時点の規定に基づいて記載しています。2025年6月の改正刑法の施行により、罰則の「懲役」は「拘禁刑」に改められています。
「2年近く前に転売サイトで売ったライブのチケットのことで、警察署から電話があった」「転売サイトで買っただけなのに、売った人の件で話を聞きたいと言われた」。チケットの転売をめぐる刑事のご相談は、出品した側からも購入した側からも、こうした一本の連絡から始まることが多くあります。
チケット不正転売禁止法については、「興行主の同意なく、反復継続の意思をもって、定価を超える価格で売ると違法になる」「罰則は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」という説明が広く知られています。それ自体は正しい説明です。ただ、連絡を受けた方が本当に知りたいのは、いま自分がどの立場で連絡を受けているのか、警察は何を確かめようとしているのか、話す前に何を整理しておけばよいのか、という点であり、ここは要件の解説からは見えにくい部分です。
この記事は、警察から連絡が来た段階に絞って、その意味と最初の動き方を整理します。どのような転売が処罰の対象になるのかという要件の詳細はチケットの高額転売|不正転売禁止法で処罰される条件で、チケット以外の物の転売については転売が古物営業法違反になるのはどこからかで解説しています。
なぜ時間が経ってから警察から連絡が来るのか
発端は興行主の申告であることが多い
チケットの不正転売は、個人が「被害に遭った」と届け出る種類の事件ではありません。高い値段で買った購入者は、納得して代金を払っているため、自ら警察に申告することはあまりないからです。そのため捜査の発端は、興行主(主催者)や運営事務所が転売サイトやSNSの出品を見つけて警察に申告する、という経路が中心になります。
報道された例でも、2023年6月の転売について、興行主側の発見をきっかけに翌年5月に書類送検されたケースや、転売から1年以上経って自宅の捜索が行われたケースがあります。2026年9月にも、劇団四季の公演チケットの不正転売で逮捕者が出たことを主催者が公表しています。
連絡が来る前に、取引の履歴が集められている
申告を受けた警察は、問題になった1件の出品だけでなく、その人の取引全体を確認するのが通常です。不正転売に当たるには「業として」、つまり反復継続の意思をもって売ったことが必要で、それを裏付けるには1件の取引だけでは足りないためです。転売サイトの運営会社への照会などを通じて、出品数、販売価格、取引の期間がまとめて把握されていることが多く、連絡が来た時点で、警察の手元には自分が覚えている以上の記録がそろっていると考えておく方が現実的です。
公訴時効は3年
チケット不正転売禁止法の罰則は、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科です(チケット不正転売禁止法9条1項)。法定刑の上限が5年未満の罪の公訴時効は3年とされているため(刑事訴訟法250条2項6号)、「昔のことだから」と思っていた取引でも、3年以内のものは捜査の対象になり得ます。
興行主の民事の動きが先に届くこともある
刑事の連絡とは別に、興行主が転売サイトの運営会社に出品者の情報の開示を求め、運営会社から開示についての意見を尋ねる書面が届いたり、興行主の代理人から損害賠償を求める通知が届いたりして、問題が表に出ることもあります。民事と刑事は別の手続ですが、同じ取引が対象なので、一方への対応がもう一方にも影響します。どちらか一つが届いた段階で、両方を見据えて動くことが大切です。
連絡を受けた自分はどの立場なのか
警察からの連絡にはいくつかの形があり、その形から自分の置かれている立場のおおよその見当がつきます。
| 連絡の形 | 考えられる立場 | まず確かめること |
|---|---|---|
| 電話で「話を聞きたい」と言われた | 参考人の場合も、被疑者の場合もある | 警察署名・担当者名・部署、何の件か、出向く日時 |
| 呼出状が届いた・出頭を求められた | 被疑者として扱われていることが多い | 指定された日時、持参する物、日程変更の連絡先 |
| 自宅に捜索差押えが来た | 被疑者として扱われている | 令状に書かれた罪名と押収の対象、押収品目録 |
| 購入者として連絡が来た | 売った人の取引を確かめるための参考人が中心 | 自分が何枚を、どの経路で、いくらで買ったか |
自宅に捜索が来た場合の立ち会いについては家宅捜索(ガサ入れ)が来た|立ち会いでできること・できないことで解説しています。
電話を受けたら、その場で答えすぎない
電話口でいきなり詳しい説明を始める必要はありません。所属と担当者名、何の件で連絡したのかを確認し、出向く日程を調整するところまでにとどめても失礼にはあたりません。電話が本当に警察からのものかを確かめるため、警察署の代表番号にかけ直して担当者につないでもらうのも一つの方法です。折り返しの前に確認しておきたい点は「警察から電話が来た」|折り返す前に確認したい3つのことにまとめています。
買っただけの方は処罰の対象になるのか
チケット不正転売禁止法が禁じているのは、不正転売と、不正転売を目的とした譲受けです(同法3条、4条)。自分が観に行くために転売サイトで買っただけであれば、同法の処罰の対象にはなりません。購入者への連絡は、売った人の取引を確認するための事情聴取であることが通常です。
ただし、売るつもりで買い集めていた場合は4条の問題になり、他人の名義になりすまして入場した場合などには、別の罪名が検討される余地もあります。最初は参考人として呼ばれても、話の内容によって立場が変わることがある点は『参考人』として呼ばれた|被疑者に切り替わる瞬間で解説しています。
警察が確かめようとしていること
「業として」の判断に使われる事情
取調べの中心になるのは、反復継続の意思があったかどうかです。意思は内心の問題ですが、実際には次のような客観的な事情から判断されます。
- 出品・販売した枚数と、取引が続いた期間。
- 同じ公演や同じアーティストの公演を繰り返し扱っていたかどうか。
- 定価と販売価格の差、得た利益の総額。
- チケットの入手方法(ファンクラブ、家族や友人の名義、複数のアカウント)。
- 出品時の文言や、購入者とのやり取りの内容。
- 入場に必要な身分証の画像や情報を購入者に渡していたかどうか。
「一度きりのつもりだった」という説明は、取引が実際に一度きりで、ほかの事情とも食い違わなければ意味を持ちます。反対に、出品が何度もあったり、売るために多めに申し込んでいたりすると、説明と記録が合わなくなります。警察が見ているのは、本人の言葉よりも記録との整合性であり、記録と食い違う説明は、かえって不利に受け取られることがあります。
不正転売禁止法以外の罪名が出てくる場面
チケットの入手や受け渡しの方法によっては、別の罪名が問題になることがあります。架空の名義や他人の名義で抽選に申し込んだ場合には私電磁的記録不正作出・同供用罪(刑法161条の2)や電子計算機使用詐欺罪(同法246条の2)が、転売目的を隠して購入した場合には詐欺罪(同法246条)が、それぞれ検討されることがあります。会場周辺で対面で売った場合は、各都道府県の迷惑防止条例の問題にもなります。
これらの中には不正転売禁止法より法定刑が重いものもあるため、警察が何の罪名で捜査しているのかは、早い段階で確かめておきたい点です。売買の相手とのやり取りが詐欺に当たるかどうかについてはフリマアプリのトラブルが詐欺になる場合も参考になります。
連絡を受けてから最初にすること
取引の全体像を手元で整理する
まず、自分がこれまでにしたチケットの売買を、分かる範囲で書き出します。いつ、どの公演のチケットを、どの経路で何枚手に入れ、どこでいくらで売ったのか。転売サイトの取引履歴や入金記録を見ながら一覧にしておくと、取調べで数字を推測で答えずに済みます。
このとき、アカウントの削除、取引履歴やメッセージの消去、一緒に申し込んだ家族や友人との口裏合わせは避けてください。記録は運営会社の側にも残っていることが多く、手元で消しても事実は変わりません。そのうえ、こうした行為は証拠を隠そうとしたと受け取られ、逮捕や勾留の判断に影響することがあります。スマホやパソコンが押収された場合の扱いはスマホ・PCを押収された|いつ返るのか、中身はどこまで見られるのかで解説しています。
話す内容と、話さない権利
取調べで話した内容は供述調書にまとめられ、後の処分の資料になります。覚えていない枚数や金額を、その場の勢いで答えるのは避けたいところです。また、取調べでは自己の意思に反して供述する必要はないとされています(憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項)。黙秘を選ぶかどうかは事案によって判断が分かれるため、黙秘したほうがよいのか|黙秘の効果とリスクの整理も踏まえて、話す前に方針を決めておくことをおすすめします。
呼び出しに応じるかどうか
任意の呼び出しに応じる法的な義務はありません。ただ、正当な理由なく応じない状態が続くと、逃亡のおそれがあると受け取られることがあります。都合が合わなければ、無視するのではなく日程の変更を申し出るのが基本です。転売から捜索、さらに逮捕に至った事案でも、それまで任意の取調べに協力し、次の予定を自分から確認していたことが考慮され、勾留されずに釈放された例が報告されています。相談の時期については弁護士に相談するタイミング|早いほど選択肢が残る理由と「早すぎる相談」はあるのかもご覧ください。
被害者がいない事件で、処分を左右するもの
示談の相手が定まりにくい
チケット不正転売禁止法が守ろうとしているのは、チケットの適正な流通という社会全体の利益です。痴漢や窃盗のように特定の被害者がいるわけではないため、「被害者と示談して不起訴を目指す」という典型的な道筋を、そのまま当てはめることができません。
そのため、処分の見通しを考えるうえでは、取引の規模(枚数・期間・利益)、入手方法に別の違法がないか、前科の有無、反省の態度に加えて、次のような事後の対応が意味を持ちます。
- チケットを買った購入者への代金の返還。
- 興行主への謝罪や申入れ。
- 転売で得た利益に相当する額の贖罪寄付。
- 転売に使ったアカウントの整理と、再び売買をしないための具体的な手立て。
購入者へ代金を全額返金し、最終的に不起訴となった例も報告されていますが、その事案についても、興行主との示談がなければ略式起訴となった可能性は否定できなかったとの見方が示されています。どの対応がどこまで考慮されるかは事案ごとに異なるため、弁護人を通じて検察官の意向を確かめながら進めることになります。寄付の手続は贖罪寄付の申込み方と領収書の扱いで解説しています。なお、転売で得た代金は、犯罪行為によって得た物として没収・追徴の対象となる余地があります(刑法19条1項3号、19条の2)。
想定される処分の幅
在宅のまま捜査が進んだ場合、警察から検察へ書類が送られ(書類送検)、検察官が起訴するかどうかを決めます。処分には、不起訴、略式手続による罰金、正式な裁判がありえます。罰金の上限が100万円の罪であるため、事実を認めている事案では略式命令による罰金が選択肢に入ります(刑事訴訟法461条)。ただし略式手続には本人の同意が必要で(同法461条の2)、罰金であっても前科として扱われます。
それぞれの分かれ目は認めた場合の処分の見通し|罰金・略式・不起訴の分かれ目で、前科の残り方は前科と前歴はどう違い、どこに残るのか|期間と照会される場面で解説しています。
取引の規模が大きい場合や、他人名義での申込み、身分証の偽造などが絡む場合には、逮捕されることもあります。逮捕されると、起訴されるかどうかが決まるまで、最長で23日間身柄を拘束される可能性があります(同法203条、205条、208条)。
よくあるご質問
仲介サイトの手数料や送料を上乗せしただけでも対象になりますか
チケット不正転売禁止法の「不正転売」は、興行主等の販売価格を超える価格で売ることを要件の一つにしています(同法2条4項)。手数料や送料を上乗せした結果として定価を上回った場合の扱いは一律には決まらず、上乗せ分の内訳や取引全体の事情とあわせて評価されます。上乗せの根拠を説明できるよう、手数料の明細などは消さずに残しておくとよいでしょう。
家族名義で当選したチケットを売った場合はどうなりますか
家族が自分の意思で申し込んだのか、名義だけを借りて本人が申し込んだのかで評価が変わります。名義を借りた申込みは、興行主の規約に反するだけでなく、申込みの仕方によっては別の罪名が問題になることもあります。家族が事情を聴かれる可能性もあるため、事実関係を正確に整理しておくことが大切です。
興行主から損害賠償を求められたら、刑事の手続にも影響しますか
民事の請求と刑事の手続は別のものですが、興行主との間で解決できれば、刑事の処分を考えるうえでも事後の対応の一つとして考慮され得ます。反対に、請求を放置したり、感情的に反論したりすると、解決の糸口を失うことがあります。請求の根拠と金額を確認したうえで、刑事の見通しと合わせて対応を決めるのが望ましいでしょう。
まとめ
- 警察からの連絡は、興行主の申告を受けて取引の履歴が集められた後に来ることが多く、転売から1年以上経っていることも珍しくありません。
- チケット不正転売禁止法違反の公訴時効は3年で、3年以内の取引は捜査の対象になり得ます(チケット不正転売禁止法9条1項、刑事訴訟法250条2項6号)。
- 自分で観るために買っただけの方は同法の処罰の対象ではなく、購入者への連絡は売った人の取引を確かめるためのものが中心です(同法3条、4条)。
- 「業として」の判断は、枚数・期間・利益・入手方法などの記録から行われるため、記録と食い違う説明や、記録の削除は避けることが大切です。
- 他人名義での申込みなどがあると、私電磁的記録不正作出罪や電子計算機使用詐欺罪など、別の罪名が問題になることがあります(刑法161条の2、246条の2)。
- 被害者との示談という道筋が取りにくいため、購入者への返金、興行主への申入れ、贖罪寄付などの事後の対応が、処分を考えるうえで意味を持ちます。
- 事実を認める事案では略式命令による罰金も選択肢になりますが、罰金も前科として扱われます(刑事訴訟法461条、461条の2)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。チケットの転売について警察から連絡があった段階でも、取調べの前に取引の整理や話す方針を一緒に確認することができます。
ネットでチケットを売って警察から連絡が来た方も、購入者として事情を聴きたいと言われた方も、一人で判断する前にご相談ください。


