端末から他の画像も見つかった|児童ポルノ事件の余罪の広がり方
この記事は、2026年10月時点の刑法・著作権法の規定と、公表されている報道・裁判例をもとにしています。生成AIに関わる規制は見直しの議論が続いている分野のため、個別の事案では最新の状況をご確認ください。
「友人の写真をAIで加工して投稿したら、本人から『訴える』と言われた」「SNSで見つけた写真を加工して載せただけなのに、撮影した人から連絡が来た」。生成AIで加工した画像の投稿をめぐっては、こうしたご相談が寄せられるようになっています。
ネット上の解説では、名誉毀損罪、侮辱罪、著作権法違反などの罪名が並べて紹介されることが多く、その整理自体は誤りではありません。ただ、罪名を並べるだけでは、一つの投稿に誰がどの立場で関わっているのかが見えにくく、投稿した後に何を考えればよいのかがつかみにくいところがあります。
この記事では、他人の画像を生成AIで加工して投稿した側に立って、名誉毀損と著作権がそれぞれどこで線を引いているのかを整理します。性的な画像や、実在しない人物の画像については、別の記事に委ねています。
この記事で扱うこと・扱わないこと
- 実在する人の写真や画像を生成AIで加工し、SNSなどに投稿した場面を扱います。
- 名誉毀損と著作権の二つの線が、それぞれ誰との関係で引かれているかを中心に整理します。
- 親告罪であることが、投稿した後の対応にどう関わるかにも触れます。
- わいせつな画像や、18歳未満の人を性的に加工した画像は、別の法律が関わるため深くは扱いません。
- 被写体が実在しない生成画像は、本稿の対象から外しています。
わいせつな画像を投稿した場合についてはわいせつな画像をネットにアップロードした|頒布と公然陳列を、実在しない人物の画像についてはAIで生成した画像は罪になるのか|実在しない人物の場合をご覧ください。
一つの投稿に、立場の違う二人が関わっている
他人の写真をAIで加工して投稿すると、少なくとも二人の権利が関わります。一人は画像に写っている人、もう一人は元の写真を撮った人です。名誉毀損は写っている人の社会的評価を、著作権は写真を撮った人の創作を守る仕組みで、見ている相手が異なります。
写っている人と撮った人が同じとは限らない
本人が自分で撮影して公開していた写真であれば、写っている人と撮った人は同じです。一方、友人が撮った集合写真、カメラマンが撮った宣材写真、イベントの公式写真などでは、写っている人と著作権を持つ人が別になります。同じ投稿でも、どちらの線に触れるかは素材によって変わります。
二つの線を並べると
投稿した側から見た二つの線の違いを整理すると、次のとおりです。
| 観点 | 名誉毀損 | 著作権 |
|---|---|---|
| 守っているもの | 写っている人の社会的評価 | 元の写真を撮った人などの創作 |
| 問題になりやすい投稿 | 本人が実際にしていない言動をしたように見える画像 | 他人が撮った写真を素材にして加工・公開した画像 |
| 自分で撮った写真を使った場合 | 線に触れる可能性は残る | 問題になりにくい |
| 「AI加工」と表示した場合 | 表示だけで外れるとは限らない | 表示の有無で結論は変わりにくい |
| 告訴・示談の相手 | 写っている人 | 撮影者などの権利者 |
名誉毀損の線|本当の出来事だと受け取られるか
名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合に成立します(刑法230条1項)。ここでいう「事実」は、文字で書かれたものに限られません。写っている人が実際にその場にいた、その行為をしたと閲覧者に受け取られる画像であれば、画像そのものが事実を示していると評価される可能性があります。
画像は「事実の摘示」になりうる
判断の物差しは、一般の閲覧者が普通の注意で見たときにどう受け取るかです。犯罪や不品行をしているように見せる画像、本人が行くはずのない場所にいるように見せる画像、勤務先や所属を連想させる加工などは、社会的評価を下げる事実を示していると見られやすくなります。投稿文に本人の名前やアカウントを添えた場合や、元の投稿への返信として載せた場合は、誰のことかが分かりやすく、本人と結びつく度合いも高まります。
「AI加工」と書けば線の外に出られるのか
一見して作り物と分かる画像や、合成であると明記された画像は、事実の摘示がないとして名誉毀損が否定されることがあるとされています。ただし、民事の裁判例には、ディープフェイクであることをうかがわせる表示が付いた動画について名誉毀損を認めたものもあります。表示があっても、見た人の印象に本人の評価が結びつく限り、線の外に出たとはいえない場合があります。また、事実の摘示がないと評価された場合でも、人を公然と侮辱したものとして侮辱罪(刑法231条)が問題になる余地は残ります。侮辱罪の改正点は侮辱罪の厳罰化で何が変わったのか|公訴時効と逮捕の可能性で整理しています。
真実性の証明という出口が使いにくい
名誉毀損には、公共の利害に関する事実について、目的がもっぱら公益を図ることにあり、事実が真実であると証明された場合には罰しないという規定があります(刑法230条の2第1項)。しかし、加工画像は実際には起きていない場面を作り出したものであるため、この規定で処罰を免れる場面は想定しにくいとされています。文章による投稿では「書いた内容は本当だった」と争う余地があるのに対し、加工画像ではその余地が初めから狭いという違いがあります。刑事と民事の枠組みの違いはSNSの投稿で名誉毀損と言われた|刑事と民事の違いをご覧ください。
著作権の線|素材の写真は誰のものか
写真は、構図や光の当て方、シャッターのタイミングなどに撮影者の個性が表れるため、多くの場合、著作物として保護されます(著作権法10条1項8号)。他人が撮った写真を無断で素材にして加工し投稿すると、著作権と著作者人格権の両方が問題になります。
問題になる権利は一つではない
他人の写真をアップロードする行為は、複製(著作権法21条)と、ネット上で公開する公衆送信(同法23条)に関わります。加工によって元の写真に手を加えた点は、翻案(同法27条)や、著作者の意に反する改変を受けない同一性保持権(同法20条1項)の問題にもなります。さらに、著作者の名誉や声望を害する方法で著作物を利用する行為は、著作者人格権の侵害とみなされます(同法113条11項)。元の写真を貶めるような加工は、この点でも評価が厳しくなりえます。
パロディだから許されるという規定はない
風刺やパロディのつもりで加工したという事情があっても、日本の著作権法にはパロディを一般的に認める規定はありません。写真を素材にした合成作品について、昭和55年の最高裁判決は、元の写真の本質的な特徴を感じ取れる形で改変して利用したことを同一性保持権の侵害と判断しています。引用(同法32条)として認められる場面もありますが、加工した画像そのものを見せることが目的の投稿では、その要件を満たしにくいと考えられます。
手元で加工する段階と、投稿する段階
自分だけで楽しむために加工して保存する行為は、私的使用のための複製や翻案として、著作権の面では許される範囲に入ることがあります(同法30条1項、47条の6第1項1号)。線が大きく動くのは、加工した画像を他人が見られる場所に出した時点です。仲間内のグループに送っただけのつもりでも、人数や広がり方によっては私的使用の範囲を超えると評価されることがあります。なお、元の写真を自分で撮っていた場合は著作権の線に触れにくくなりますが、名誉毀損や肖像権の問題は別に残ります。肖像権と刑事責任の関係は他人の写真を無断で投稿した|肖像権侵害に刑事責任はあるのかで扱っています。
生成AIならではの三つの論点
従来の画像編集ソフトによる加工と比べて、生成AIを使った場合には次のような点が問題になりやすくなります。
加工と公開が同時に起きる仕組み
SNSに組み込まれた画像編集機能の中には、元の投稿への返信として加工を指示すると、生成された画像がそのまま公開の場に表示されるものがあります。この場合、「作っただけで投稿するつもりはなかった」という区別は成り立ちにくく、指示した時点で公開に関わったと見られる可能性があります。元の投稿のすぐ下に表示されるため、誰の画像なのかも明らかになりやすい点に注意が必要です。
加工を頼んだ側も無関係ではない
自分では加工せず、他人に頼んで作ってもらった場合でも、投稿に向けて意思を通じていれば、共犯として扱われることがあります。2026年8月には、生成AIで加工した画像の投稿をめぐり、加工した人物とともに、加工を依頼した側も名誉毀損などの容疑で書類送検されたと報じられています。
生成された画像にも権利がありうる
生成AIで作られた画像は著作物にならないと説明されることがありますが、一律にそうとはいえません。2025年11月には、他人が生成AIに指示を重ねて作った画像を無断で書籍の表紙に使ったとして、著作権法違反の疑いで書類送検された事案が報じられました。他人が生成した画像をさらに加工して投稿する場合も、元の画像を作った人との関係を考える必要があります。
親告罪であることが、投稿後の対応にどう関わるか
名誉毀損罪と侮辱罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪です(刑法232条1項)。著作権侵害の罪も原則として親告罪です(著作権法123条1項)。著作権には告訴がなくても起訴できる例外がありますが、対象は有償で提供されている作品を原作のまま複製・公開する場面などに限られており、加工を加えた投稿はこの例外に当たりにくいと考えられています。
告訴できる人が二人いることがある
写っている人と撮影した人が別の場合、名誉毀損については写っている人が、著作権については撮影者などの権利者が、それぞれ告訴をする立場にあります。一方と話し合いがまとまっても、もう一方の告訴の可能性が残ることがあるため、誰がどの権利を持っているのかを最初に整理しておくことが大切です。告訴期間と示談の関係は名誉毀損は親告罪|告訴期間と示談による解決で詳しく扱っています。
親告罪ではない罪が重なる場合
加工した画像がわいせつな内容であれば刑法175条のわいせつ電磁的記録頒布等罪が、18歳未満の人の姿を性的に加工したものであれば児童ポルノ禁止法が問題になることがあります。これらは告訴がなくても捜査・起訴される罪であり、示談が持つ意味合いも名誉毀損とは異なります。
投稿してしまった後に整理しておきたいこと
相手から連絡が来た段階でも、まだ何も言われていない段階でも、次の点を手元で整理しておくと、相談の際に見通しを立てやすくなります。
- 元の写真をどこから入手したか(本人のアカウント、第三者の投稿、公式サイトなど)。
- 元の写真を撮影したのが誰か、分かる範囲での情報。
- どの生成AIやアプリで、どのような指示をして加工したか。
- 投稿した場所、日時、公開範囲、拡散の状況。
- 投稿文に添えた言葉や、本人の名前・アカウントへの言及の有無。
- 相手から届いた連絡の内容と日時。
控えたほうがよい対応
- アカウントごと削除して、投稿の経緯が分からない状態にすること。
- 相手に直接連絡し、事情を説明しようと何度もメッセージを送ること。
- 「AIが勝手に作った」「冗談だった」とSNS上で弁明の投稿をすること。
- 加工画像を別の場所に保存し直したり、他の人に送ったりすること。
- 相手の連絡先や居場所を調べて接触しようとすること。
投稿の削除には拡散を止める意味がありますが、削除したことで投稿した事実がなくなるわけではありません。削除と記録の残し方はアカウントを消せばよいのか|投稿削除と証拠保全の関係で、謝罪や訂正の投稿が処分に与える影響は謝罪や訂正の投稿をした|示談・処分にどう影響するかで扱っています。
よくあるご質問
有名人の写真を加工した場合も同じですか
基本的な線の引き方は変わりません。公的な立場にある人への論評として許される範囲が広がる場面はありますが、実際にしていない言動を作り出す加工は、論評というより事実の作り替えと受け取られやすくなります。また、報道写真や公式写真には撮影者や所属事務所などの権利者がいるため、著作権の線にも触れやすくなります。
自分で加工せず、リポストしただけでも問題になりますか
自分で加工していなくても、加工画像を広めた行為が名誉毀損として争われることがあります。拡散行為の責任については引用リポスト・いいねは名誉毀損になるのか|拡散行為の責任をご覧ください。
「告訴する」と言われたら、すぐに逮捕されますか
告訴されたからといって、直ちに逮捕されるとは限らず、在宅のまま捜査が進む例もあります。ただ、投稿の内容や広がり方、証拠を消そうとする動きがあるかどうかによって扱いは変わるため、早い段階で状況を整理しておくことが望まれます。
まとめ
- 他人の写真をAIで加工して投稿すると、写っている人と撮った人という、立場の違う二人の権利が関わります。
- 名誉毀損は、加工画像が本当の出来事だと受け取られ、写っている人の社会的評価を下げるかどうかが線になります(刑法230条1項)。
- 「AI加工」の表示があっても線の外に出るとは限らず、事実の摘示がなくても侮辱罪が問題になる余地があります(同法231条)。
- 加工画像は実際に起きていない場面を作るため、真実性の証明による出口が使いにくい構造です(同法230条の2第1項)。
- 著作権は素材の写真を誰が撮ったかで結論が変わり、加工は複製・公衆送信に加えて改変の問題にもなります(著作権法20条1項、21条、23条、27条)。
- 手元での加工と、他人が見られる場所への投稿とでは、評価が大きく異なります(同法30条1項)。
- 名誉毀損と著作権侵害はいずれも原則として親告罪で、告訴できる人が二人いる場合があります(刑法232条1項、著作権法123条1項)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。
生成AIで加工した画像を投稿し、写っている方や撮影した方から連絡を受けた方、告訴や警察からの連絡を心配されている方は、投稿の経緯が分かる資料をお手元にご用意のうえ、お早めにご相談ください。


