児童買春・児童ポルノ事件の初犯|罰金で済むのか
警察署で取調べを受けた後、「この件は検察には送らない」と告げられて手続が終わることがあります。これが微罪処分と呼ばれる扱いです。
もっとも、微罪処分は本人が選べる出口ではなく、事件が軽ければ自動的に選ばれるものでもありません。誰が、どの段階で、何を決めているのかという枠組みが先にあり、「条件」はその枠の中ではじめて意味を持ちます。
この記事では、微罪処分の条件を「対象の枠」と「個別の当てはめ」という二つの層に分けて整理し、あわせて「警察限りで終わる」という言葉がどこまでを指すのかを、条文と公的な統計で確認します。
「警察限りで終わる」とはどの手続を指すのか
刑事訴訟法246条は、警察が犯罪の捜査をしたときは、書類および証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならないと定めています。これが全件送致主義と呼ばれる原則です。そのうえで同条のただし書は、「検察官が指定した事件については、この限りでない」としています。
このただし書にあたる処理が微罪処分です。警察の捜査の基本を定めた犯罪捜査規範198条は、捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる、と定めています。
ここで押さえておきたいのは、微罪処分が「事件として扱われなかった」という意味ではない点です。犯罪白書は微罪処分を、246条ただし書に基づき、検察官があらかじめ指定した犯情の特に軽微な20歳以上の者による事件について、司法警察員が検察官に送致しない手続を執ること、と説明しています。捜査が行われ、検挙された事件の処理区分の一つというのが、制度上の位置づけです。
書類送検との分かれ目
書類送検は、身柄を拘束しないまま書類と証拠物を検察官に送る扱いで、送致自体は行われます。微罪処分は送致をしない扱いです。両者は事件の重さの段階というより、検察官の手元に事件が届くかどうかで分かれています。
条件は二つの層に分かれている
| 層 | 決めるのは誰か | 決まる時期 | 外から見えるか |
|---|---|---|---|
| 対象の枠(指定) | 検察官(各地方検察庁の検事正) | 事件が起きる前から | 公開されていない |
| 個別の当てはめ | 捜査を担当する警察 | 捜査の過程で | 明文の基準がない |
条件を一つの箇条書きとして読むと、事情を積み上げれば近づいていけるように見えます。しかし実際には、先に対象の枠に入っているかどうかが決まっており、枠の外にある事件は、個別の事情がどれだけ軽くても微罪処分にはなりません。二つの層は順番が固定されている、と考えると全体像がつかみやすくなります。
一つ目の層|検察官があらかじめ指定していること
246条ただし書の「検察官が指定した事件」は、事件ごとに個別に指定されるものではありません。各地方検察庁の検事正から、その地域の警察に対してあらかじめ示される形をとるとされています。刑事訴訟法は、検察官が捜査の適正のために司法警察職員に一般的な指揮をすることを認めており(193条)、指定はその枠組みの中で行われるものと説明されています。
この指定の内容は公開されていません。公開すると、特定の行為が処罰されにくいという受け取られ方をして、かえって犯罪を招くおそれがあるためと説明されています。また、指定は地域ごとに行われるため、同じ罪名でも取扱いが全国一律とは限りません。
枠そのものは交渉の対象にならない
指定は事件が起きる前から存在するルールなので、当事者が働きかけて枠を広げてもらう、という性質のものではありません。示談や被害弁償が意味を持つのは、あくまで枠の中に入っている事件について、次に述べる個別の当てはめが行われる場面です。この順番を取り違えると、対応の方向を見誤ることがあります。
二つ目の層|個別の事件で見られている事情
犯罪捜査規範198条が求めているのは「犯罪事実が極めて軽微」であることです。何をもって軽微とするかについて公表された基準はなく、実務上は次のような事情が総合的に見られていると説明されています。
- 被害の程度(財産的な被害の大きさ、負傷の有無や程度)。
- 犯行の態様(偶発的か計画的か、単独か複数人か、道具を用いたか)。
- 被害の回復(弁償や示談が済んでいるか、その申し出があるか)。
- 被害者の意向(処罰を求める意思が示されているか)。
- 前科や前歴の有無、同種の行為を繰り返していないか。
- 本人の受け止め方と、生活を見守る立場の人がいるかどうか。
解説記事では、財産犯の被害額や負傷の程度について具体的な数字が目安として挙げられることがあります。ただし、これらは公表された基準ではなく、実務上の説明として示されている数値です。その数字の範囲に収まっていることが、微罪処分を保証するわけではありません。逆に、数字だけを見て「この金額なら大丈夫」と考えると、態様や経緯といった他の事情が抜け落ちてしまいます。
枠に入っていても対象から外れる場面
罪名が指定の枠に含まれていても、手続上の理由で送致が必要になる場面があります。
告訴・告発がされている事件
刑事訴訟法242条は、司法警察員が告訴または告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類および証拠物を検察官に送付しなければならない、と定めています。送付が法律上の義務として定められている以上、告訴・告発が受理された事件を警察限りで終わらせる余地はありません。告訴があった事件については、検察官が処分をしたときに告訴人へ通知する仕組みもあります(260条)。「被害者が告訴したかどうか」は、被害感情の強さという評価の問題であると同時に、手続の道筋そのものを変える事情でもあります。
自首として受理された事件
自首があった事件も対象外として扱われるという説明が、実務上は広く共有されています。自首は刑を減軽することができる事情として法律に定められており(刑法42条)、その評価は検察官や裁判所の判断にゆだねられる、という整理になります。
20歳未満の場合は仕組み自体が異なる
微罪処分は20歳以上の者による事件についての手続です。少年の事件では、罰金以下の刑にあたる罪について警察から家庭裁判所へ、それ以外は検察官を経て家庭裁判所へ、というように全件が送致される仕組みがとられています(少年法41条、42条)。
そのうえで、軽微な少年事件には別の扱いが用意されています。犯罪捜査規範214条は、事実が極めて軽微であり、動機や本人の性格、家庭の状況などから再犯のおそれがなく、刑事処分や保護処分を必要としないと明らかに認められ、かつ検察官または家庭裁判所からあらかじめ指定された事件について、少年事件簡易送致書などを作成し、一月ごとに一括して送致することができると定めています。これが簡易送致と呼ばれる扱いです。
微罪処分と簡易送致は、軽微な事件を簡略に処理するという点では似ていますが、送致をしない扱いか、まとめて送致する扱いかという違いがあります。18歳と19歳の人も少年法の適用を受けるため、成人と同じ処理を前提に考えると見通しがずれます。
手続の形も条件の一部になっている
微罪処分は、単に「送らないで終わり」という処理ではありません。犯罪捜査規範200条は、送致しない場合にとる処置として次の三つを挙げています。
- 被疑者に対し、厳重に訓戒を加えて、将来を戒めること。
- 親権者、雇主その他被疑者を監督する地位にある者などを呼び出し、将来の監督につき必要な注意を与えて、その請書を徴すること。
- 被疑者に対し、被害者に対する被害の回復、謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと。
身元を引き受ける人が警察署に呼ばれるのは、二つ目の処置が予定されているためです。つまり、監督する立場の人が現れて注意を受け、書面を差し入れるところまでが手続の形として想定されています。ここから、家族や勤務先の関係者に事件を伝えないまま微罪処分で終える、という形は取りにくいという帰結が出てきます。三つ目の処置も、被害の回復が手続の中に位置づけられていることを示しています。
「警察限り」はどこまでを指すのか
微罪処分は検察官に事件を送致しない処理ですが、検察官が何も知らないまま終わるわけではありません。犯罪捜査規範199条は、送致しない事件について、処理年月日、被疑者の氏名、年齢、職業および住居、罪名、犯罪事実の要旨を、一月ごとに一括して微罪処分事件報告書により検察官に報告しなければならないと定めています。
つまり「警察限り」という言葉が指しているのは、事件を送致して検察官の処分を求める手続をとらない、という意味です。誰にも知られずに記録が消える、という意味ではありません。報告の対象になる項目を見ると、本人が特定できる情報と事件の内容が含まれていることが分かります。処分後に残る記録の扱いについては、前科と前歴の違いを扱った記事もあわせてご覧ください。
数字で見る位置づけ
微罪処分がどの程度の割合で用いられているかは、公的な統計から確認できます。令和6年版犯罪白書によれば、令和5年に微罪処分により処理された人員は4万8,299人で、刑法犯では4万8,292人、全検挙人員に占める比率は26.4パーセントでした。
もう少し具体的に見るために、典型的な対象事件とされる万引きについて、令和5年の検挙人員を送致の区分ごとに並べると次のとおりです。
| 送致区分 | 女性 | 男性 |
|---|---|---|
| 微罪処分 | 9,806人 | 11,238人 |
| 書類送致 | 7,634人 | 10,571人 |
| 身柄付送致 | 2,340人 | 6,392人 |
微罪処分は区分ごとに見れば件数が多い一方で、書類送致と身柄付送致を合わせた人数のほうが上回っています。万引きの検挙人員に占める微罪処分の比率は、令和5年で女性が48.5パーセント、男性が38.5パーセントでした。指定の枠に入りやすい類型であっても、当然に警察限りで終わるわけではないことが数字からも読み取れます。
結果は本人に知らされない
検察官が不起訴の処分をした場合には、被疑者の請求があれば、その旨を告げる仕組みがあります(刑事訴訟法259条)。告訴があった事件では告訴人への通知も定められています(260条)。これに対し、微罪処分について本人に通知する定めは置かれておらず、報告先は検察官のみです。
自分で照会して確かめる方法も限られています。検察庁は、刑事事件の処分等に関する保有個人情報は開示請求の対象とならないと案内しています(個人情報保護法124条)。取調べのあと連絡が途絶えたときに、それが微罪処分だったのか、まだ捜査が続いているのかを本人が確定的に確かめる手段は乏しい、というのが実情です。
よくある受け止め方と実際のずれ
「被害額が小さいから微罪処分になる」
被害の程度は判断材料の一つですが、それだけで決まるものではありません。指定の枠に入っているか、告訴が出ていないか、態様がどうか、といった要素が同時に見られています。
「微罪処分なら記録は残らない」
犯罪捜査規範199条の報告があるとおり、事件の内容と本人を特定する情報は記録として扱われます。刑罰を受けた記録とは性質が異なりますが、何も残らないという理解は正確ではありません。
「微罪処分は検察官の不起訴と同じ」
判断する主体も段階も異なります。不起訴は事件の送致を受けた検察官の処分ですが、微罪処分は送致の前の段階で警察が行う処理です。手続の重さが同じというより、事件が進む道筋そのものが違う、と理解しておくほうが実際に近いといえます。
この段階でできることと、できないこと
微罪処分は結果として選ばれる処理であって、目標として請求できるものではありません。それでも、判断材料が整っているかどうかは、捜査の段階で変わり得ます。
- 事実関係を整理し、自分がしたことと、していないことを区別して説明できるようにしておく。
- 被害を受けた方への謝罪や弁償について、対応する意思があることを早い段階で示す。
- 監督する立場になれる人がいるかどうかを確認しておく。
- 勤務先や家族への影響について、想定される範囲を先に把握しておく。
一方で、指定の枠を動かすこと、処理の区分を捜査機関に決めさせること、判断の時期を早めることはできません。弁護士に依頼した場合も、できるのは被害者との連絡の仲介や、事情を裏づける資料を整えて捜査機関に伝えることであり、結果そのものを引き受けることはできません。結果を約束する説明があれば、その根拠を確かめたほうがよい場面です。
なお、微罪処分にならず送致された場合でも、そこで終わりではありません。検察官が起訴・不起訴を判断する段階が残っており、被害者への対応はその判断のなかでも意味を持ちます。微罪処分を意識して行った対応が無駄になるわけではない、という点は押さえておいてよいでしょう。
まとめ
- 微罪処分は刑事訴訟法246条ただし書に基づき、検察官が指定した事件を警察が送致せずに終える処理である。
- 条件は「検察官の指定という枠」と「個別の事件の当てはめ」の二層に分かれ、枠の外にある事件は個別事情によらず対象にならない。
- 指定の内容は公開されておらず、地域によって取扱いが異なることがある。
- 犯罪捜査規範198条の「極めて軽微」について公表された基準はなく、被害の程度・態様・被害回復・被害者の意向・前歴などが総合的に見られている。
- 告訴・告発が受理された事件は、刑事訴訟法242条の送付義務があるため対象にならない。
- 20歳未満の事件は全件送致が前提で、軽微な事件には犯罪捜査規範214条の簡易送致という別の扱いがある。
- 犯罪捜査規範200条により、訓戒・監督者への注意と請書・被害回復の諭しが手続の形として予定されている。
- 「警察限り」とは送致をしないという意味であり、犯罪捜査規範199条によって月ごとに検察官へ報告される。
- 令和5年の統計では、万引きでも送致された人員のほうが多く、軽微な類型でも当然に微罪処分になるわけではない。
- 本人への通知の定めはなく、処分の内容を自分で照会して確かめる手段も限られている。
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