【親子問題】子がローンで車を買い、支払いを親に求めてくる|親に返済義務はあるのか

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は、2026年10月時点の民法・貸金業法・割賦販売法・刑法・自動車損害賠償保障法・相続税法に基づいて解説しています。2020年4月施行の改正民法(保証に関する規定)と、2022年4月の成年年齢の引下げを反映しています。ローンの種類や契約の内容によって扱いが変わるため、個別の事情は契約書面をもとにご確認ください。


「息子がローンで車を買ったものの、返済が苦しくなったから代わりに払ってほしいと言ってくる」「断ると機嫌が悪くなり、物に当たるので、結局毎月振り込んでいる」。親御さんからは、こうしたご相談が寄せられます。一方で、子の側にも「通勤に車がないと仕事が続けられない」「親の買い物にも車を出している」といった言い分があることが少なくありません。

 インターネットでは「子の借金を親が払う義務はない」と説明されることが多く、それ自体は正しい説明です。ただ、車のローンには、車の所有者がローン会社になっている、返済が止まると車が引き揚げられる、家族の生活の足になっているといった事情が重なります。そのため、義務がないと分かっていても「払わないと車がなくなる」「払わないと家の中が荒れる」と考えて、手が止まってしまう方が多いのが実情です。

 この記事では、子が自分の名義でローンを組んで車を買い、その支払いを親に求めてくる場面に絞って、親が負う義務の範囲と、払う・払わないを決める前に確認しておきたいことを整理します。子の借金一般については【親子問題】子の借金を親が返す義務はあるのか、車が親の名義になっている場合は【親子問題】子の携帯・車の名義を親が持っている場合のリスクで詳しく扱っています。

契約者でも保証人でもない親に、ローンを払う義務はない

返済の義務を負うのは契約した本人

 ローンの返済義務を負うのは、ローン会社と契約を結んだ本人です。18歳以上の子は単独で契約を結ぶことができ(民法4条)、その契約から生じる債務は子自身のものです。親子であることだけを理由に、親が子のローンを引き継ぐことはありません。

 子が18歳未満のときに親が同意書を書いていた場合も、法定代理人としての同意(民法5条)をしただけでは、親が債務者になるわけではありません。親に支払義務が生じるのは、保証人や連帯保証人として署名している場合や、親自身が契約者になっている場合です。状況ごとに整理すると次のとおりです。

状況親の支払義務確認するもの
子が単独でローンを組んだなしローン契約書の契約者欄
未成年の子の契約に親が同意した同意だけでは生じない同意書と保証人欄の有無
親が保証人・連帯保証人として署名した保証人として生じる保証契約書・保証人欄の署名
親の名義でローンを組んだ契約者として生じる契約書の名義・車検証


 書類の控えが手元にない場合は、子を通じてローン会社に契約書面の写しを求めるか、親自身が保証人になっていないかをローン会社に確認します。保証人として署名していた場合の対応は【親子問題】保証人になってしまった後にできることをご覧ください。

扶養義務に車のローンは含まれない

 子から「親なんだから面倒を見るのが当然だ」と言われることもあります。親子の間には扶養義務がありますが(民法877条1項)、成人した子に対する扶養は、親が自分の生活を維持したうえで余力がある範囲で、最低限の生活を支えるものと考えられています。車のローンの返済がこの扶養の内容に当たると考えるのは難しく、扶養義務を理由に、親がローンの肩代わりを求められる関係にはありません。扶養の範囲については【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく扱っています。

ローン会社が親に請求できる場面は限られる

 ローン会社の側も、契約者でも保証人でもない親に支払いを求める根拠はありません。貸金業者からの借入れであれば、債務者や保証人以外の人に「代わりに払ってほしい」と求めること自体が禁止されています(貸金業法21条1項7号)。信販会社のオートローンや銀行のマイカーローンは適用される法律が異なりますが、契約関係のない親に返済を求められない点は変わりません。

車のローンに特有の事情|所有権留保と引き揚げ

車検証の「所有者」欄を確認する

 販売店や信販会社を通じたオートローンでは、完済するまで車の所有権をローン会社や販売店に残しておく「所有権留保」が付いていることが多く、車検証の所有者欄にはローン会社などの名前が、使用者欄には子の名前が記載されます。銀行のマイカーローンでは、購入した時点で子が所有者になるのが一般的です。どちらの形かによって、返済が止まったときに起きることが変わるため、まず車検証を確認しておきます。

返済が止まると何が起きるか

 返済が遅れると、ローン会社から督促が届き、それでも支払われないと、残りの金額を一括で請求されます。割賦販売法の対象となる個別クレジットの場合、ローン会社は20日以上の期間を定めて書面で催告し、その期間内に支払われないときでなければ、一括請求や契約の解除をすることができません(割賦販売法35条の3の17)。

 所有権留保が付いていれば、一括請求に応じられないときは車が引き揚げられ、売却した代金を差し引いた残りの金額が子に請求されます。延滞の情報は子の信用情報に登録され、その後しばらくはローンやクレジットカードの審査に影響します。

「車がなくなる」ことと「親が払う」ことは分けて考える

 引き揚げが近づくと、子から「車がなくなったら仕事に行けない」「家族の誰も困らないのか」と強く迫られることがあります。ただ、車が引き揚げられること自体は、子の契約をめぐって起きる出来事です。車が引き揚げられても、契約者でも保証人でもない親が残りの金額を負うことにはなりません。通勤手段の確保が必要であれば、公共交通機関への切り替えや、維持費の小さい車への買い替えなど、子自身の家計の範囲で考える問題として話し合う余地があります。

払ってしまう前に考えておきたいこと

一度払うと「次も払ってもらえる」が前提になりやすい

 親が子のローンを代わりに支払うこと自体は、法律上禁止されていません(民法474条1項)。ただ、義務のない支払いを一度引き受けると、翌月以降も同じ求めが続きやすく、車の任意保険や税金、駐車場代、修理代へと範囲が広がっていくことがあります。断ることの法的な位置づけについては【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで整理しています。

払うのであれば、立替えか援助かを書面で決めておく

 事情があって支払いを引き受ける場合は、それが後で返してもらう「立替え」なのか、返してもらうつもりのない「援助」なのかを、子との間で書面にしておきます。返済を求めない形で子のローンを支払った場合は、子が利益を受けたものとして贈与税の対象となることがあり(相続税法8条)、年間の合計額が基礎控除の110万円を超えると申告が必要になります。

 支払いの方法は、子に現金を渡すのではなく、ローン会社の指定口座へ親が直接振り込む形にしておくと、実際にローンに充てられたことを確認できます。返済状況をローン会社に問い合わせるには子の同意が必要になるため、支払いを引き受ける条件として、残高と返済予定が分かる書面を見せてもらうことも考えられます。こうした記録の意味については【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかもご参照ください。

車の管理に親が深く関わることのリスク

 親がローンだけでなく保険料や維持費まで負担し、車の保管場所や鍵の管理にも関わっていると、子がその車で事故を起こしたときに、親の責任が問題となる余地が生じます(自動車損害賠償保障法3条)。支払いを引き受けるかどうかを考える際は、「誰の、何の、いつまでの支払いか」を区切っておくことが、親自身を守ることにつながります。

「払わないなら」と迫られている場合

断ることは親が選んでよい対応

 支払いを断るときは、長い説明や説得を重ねるよりも、「ローンは契約したあなたが払うもので、私は払わない」と短く伝え、同じ言葉を繰り返す方が話がこじれにくくなります。その場で結論を出さず「家族で話してから返事をする」と時間を置くことや、一人で対応せず、配偶者やきょうだいが同席する形をとることも一つの方法です。

脅しや暴力が伴う場合の法的な位置づけ

 「払わないなら家の物を壊す」などと言って金銭を出させた場合、恐喝罪(刑法249条)に当たり得る行為ですが、親子の間では親族間の特例(同法251条・244条1項)により刑が免除されます。これに対して、暴行・傷害・脅迫・器物損壊には親族間の特例がなく、親子の間でも犯罪として扱われます。身の危険を感じる場面では、ためらわずに警察へ連絡してください。特例が及ばない範囲については【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲で詳しく扱っています。

親の名義やカードを使われていた場合

 子が親に無断で親の名義を使ってローンを組んでいた、あるいは親のクレジットカードで頭金や返済を支払っていたことが後で分かる場合もあります。このときは、親がその契約や支払いを認めるかどうかによって扱いが変わるため、【親子問題】子が親名義で契約した|追認しないという選択を参考に、支払いや連絡を始める前に方針を決めておくことが大切です。

子のローンを整理するための道筋

子自身の債務整理

 返済が続けられないのであれば、子自身が弁護士に相談し、債務整理を検討する道があります。任意整理では、所有権留保の付いたオートローンを整理の対象から外し、車を残しながら他の借入れを整理する選択がとれる場合があります。自己破産では、所有権留保の付いた車は原則として引き揚げられます。どの方法をとるかは子の判断であり、親が手続費用を負担する義務もありません。

車を手放して残りの金額を小さくする

 車の査定額がローンの残高を上回るのであれば、売却して完済し、ローンを終わらせることができます。所有権留保が付いている場合は、ローン会社との間で残高を精算する手続が必要になるため、子からローン会社に売却の意向を伝えて手順を確認します。査定額が残高に届かない場合は、差額をどう支払うかを子自身が考えることになります。

車の問題の背後にあるものに目を向ける

 車のローンをめぐる求めは、収入に見合わない買い物や、仕事が続かないこと、親との距離が近すぎることなど、別の問題の表れであることが少なくありません。浪費が繰り返される場合の制度については【親子問題】浪費が止まらない子|保佐・補助を検討する場面、同居している子の独立を考える場合は【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順をご覧ください。

弁護士が親の代理人として入る場合

要求の窓口を弁護士に移す

 弁護士が親の代理人になると、子からの支払いの求めは弁護士が受け、親が直接やり取りする場面を減らすことができます。親が支払うかどうか、支払う場合の条件を整理したうえで、子に方針を伝える役割も弁護士が担います。ローン会社との交渉は契約者である子の手続になるため、親の代理人として行うことはできませんが、子が債務整理を検討する場合には、別の弁護士に相談するよう促すことができます。窓口を代える意味については【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で詳しく扱っています。

子の生活を立て直す支援と組み合わせる

 支払いを断るだけでは、子の家計や仕事の問題は残ったままです。当事務所では、親の代理人である弁護士と、子の日常生活を支える自立支援カウンセラーがチームを組み、子の金銭管理や仕事探し、住まいの確保などを並行して進める形をとっています。ご相談から支援の開始までの流れは【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問でご案内しています。

よくあるご質問

子が未成年のときにローンの同意書を書きました。親も払う義務がありますか

 法定代理人として同意しただけであれば、親がローンの債務者になるわけではありません。ただし、同意書とは別に保証人欄へ署名している場合は、保証人として支払義務を負います。書類の控えを確認し、手元にない場合はローン会社に保証人として登録されているかを問い合わせてください。

ローン会社から親の自宅に電話がありました。どう答えればよいですか

 契約者でも保証人でもない場合は、その旨を伝え、連絡は契約者である子に取ってほしいと答えれば足ります。その場で「何とかします」「少しなら払えます」と答えると、支払いを引き受ける意思があるように受け取られるおそれがあるため、支払いの約束はしないでおくことをおすすめします。

これまで代わりに払ってきた分を、子に返してもらうことはできますか

 立替えとして返してもらう約束があれば、子に返還を求める根拠になります。約束が口頭だけで曖昧な場合は、援助として渡したものと受け取られやすくなるため、振込の記録や当時のやり取りを残しておくことが大切です。返還を求める権利は、原則として請求できると知った時から5年で時効により消滅するため(民法166条1項)、早めに整理しておくことをおすすめします。

まとめ


  1. 子が自分の名義で組んだ車のローンは子自身の債務であり、契約者でも保証人でもない親に支払義務はない(民法4条)。
  2. 未成年の子の契約に法定代理人として同意しただけでは、親は債務者にならない。保証人欄への署名の有無を確認する(民法5条)。
  3. 成人した子に対する扶養義務に、車のローンの肩代わりは含まれないと考えられる(民法877条1項)。
  4. 所有権留保付きのオートローンでは、返済が止まると一括請求を経て車が引き揚げられるが、残りの金額を親が負うことにはならない(割賦販売法35条の3の17)。
  5. 支払いを引き受ける場合は、立替えか援助かを書面で決め、ローン会社へ直接振り込む。返済を求めない支払いは贈与税の対象となり得る(相続税法8条)。
  6. 恐喝には親族間の特例が及ぶが、暴行・傷害・脅迫・器物損壊には特例がない(刑法244条1項・251条)。
  7. 親が車の維持や管理に深く関わると、事故の際に責任が問題となる余地がある(自動車損害賠償保障法3条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、子の暴力やひきこもり、お金の無心など、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。遠方にお住まいの方からのご依頼にも対応しており、弁護士が親御さんの代理人として子との窓口を担い、自立支援カウンセラーと連携して子の生活の立て直しを支えます。

子のローンの支払いを求められて対応に迷っている方、すでに払い続けていて区切りをつけたいと考えている方は、払う・払わないを決める前に一度ご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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