【親子問題】子の診断名を、きょうだいや親戚に伝えるべき?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

成人した子が医師から診断名を告げられたとき、そのことを同じ家で暮らすきょうだいや、離れて暮らす親戚にどこまで伝えるべきか、迷われる親御さんは少なくありません。伝えれば協力が得られるかもしれない一方で、本人の知らないところで話が広がることへの心配もあります。この記事では、診断名がそもそも誰の情報なのかという点から始めて、伝える必要が出てくる場面、伝える前に整理しておきたいこと、伝えた後に起きやすいことを順に整理します。

本記事は、成人した子について医療機関から診断名を告げられたご家庭を主に想定しています。病気や障害の内容、治療方針についての判断は主治医にご確認ください。


診断名は誰の情報なのか

 最初に押さえておきたいのは、成人した子の診断名は、基本的には子本人の健康に関する情報だという点です。医療機関の側では、医師には刑法上の守秘義務があり(刑法134条1項)、病歴は個人情報保護法で要配慮個人情報として特に慎重な取り扱いが求められています(同法2条3項)。そのため病院は、成人の患者の病状を家族に説明する場合も、原則として本人の同意を前提に進めます。

 一方、家族の中で診断名を話題にすることは、個人情報保護法が直接規制する場面ではありません。家族間で話したことが直ちに違法になるわけではなく、実際に争いになるのは、勤務先や近所、インターネット上など、家族の外に情報が広がった場面がほとんどです。もっとも、病気に関する情報を本人の承諾なく第三者に開示したことがプライバシーの侵害と判断された裁判例はあり、「家族だから何を話しても問題にならない」とまでは言い切れません。親戚の範囲が広がるほど、また伝え方が本人の評価を下げる内容に近づくほど、慎重に考える必要があります。

 なお、子が未成年の場合は、親権者である親が医師から説明を受けて治療に同意する立場にあり、状況は異なります。この記事では主に成人した子を念頭に置いて説明します。

伝える必要が出てくる場面

 診断名を家族の外に出さないことには意味がありますが、きょうだいや親戚に一定の情報を共有しておかないと、かえって本人や家族が困る場面もあります。代表的なものを挙げます。

同じ家で暮らすきょうだいがいるとき

 同居しているきょうだいは、本人の体調の波や気分の変化に日常的に接しています。何も知らされていないと、本人の言動を性格や怠けと受け止めて衝突したり、反対に自分のせいだと抱え込んだりすることがあります。暴言や物に当たる行動がある家庭では、きょうだい自身の安全をどう守るかという観点からも、最低限の共有が必要になることがあります。きょうだいにまで暴力が及んでいる場合は、【親子問題】きょうだいや配偶者にも暴力が及んでいる場合もご覧ください。

入院の同意を求められる可能性があるとき

 精神科の医療保護入院では、本人の同意に代えて「家族等」の同意が要件とされています。家族等とは、配偶者、親権者、扶養義務者、後見人または保佐人をいい、該当する人がいない場合などは市町村長が同意の判断を行います(精神保健福祉法33条)。成人したきょうだいは民法上の扶養義務者にあたるため(民法877条1項)、親が高齢や病気で動けないとき、病院からきょうだいに連絡が入ることがあり得ます。そのときに初めて事情を知るよりも、事前にある程度のことを知っているほうが、きょうだいも落ち着いて判断しやすくなります。同意の意味については、【親子問題】医療保護入院の同意を求められた|家族が同意することの意味で解説しています。

親が動けなくなった後を考えるとき

 親が入院したり亡くなったりした後、本人の生活を支える役割はきょうだいに回ってくることが多くあります。成年後見の申立ては4親等内の親族もできますし(民法7条)、本人が生活保護を申請した場合には、扶養義務者であるきょうだいに福祉事務所から照会が届くこともあります。将来の役割分担を話し合うには、少なくとも「どんな支えが必要な状態なのか」をきょうだいが知っていることが前提になります。この点は【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかもあわせてご確認ください。

病気の性質上、血縁者に関わる可能性があるとき

 遺伝が関係する病気では、診断がきょうだい自身の健康にも関わる場合があります。ただ、どこまでが血縁者に関わる情報なのかは医学的な判断を要しますので、親だけで判断せず、主治医や遺伝カウンセリングの窓口に、家族への伝え方も含めて相談するのが確実です。

伝えた場合と伝えない場合に起こり得ること


 伝えた場合伝えない場合
期待できること協力や見守りが得られやすい。きょうだいが本人の言動を誤解しにくくなる本人のプライバシーが保たれ、本人との信頼関係を損ないにくい
懸念されること話がさらに広がる、偏見を向けられる、本人が知って強く反発するきょうだいが孤立して疲弊する、緊急時に事情の分からない家族が対応することになる


 どちらにも利点と懸念があり、「伝えるのが正解」「伝えないのが正解」と一律に決められるものではありません。大切なのは、家族の状況に照らして、懸念の側をどう小さくするかを先に考えておくことです。

伝える前に整理しておきたいこと


  1. 何のために伝えるのか(安全の確保、協力の依頼、将来の役割分担など)。
  2. 誰に伝えるのか(同居のきょうだい、別居のきょうだい、親戚のうち特定の人など)。
  3. 何をどこまで伝えるのか(診断名そのものか、困っていることと必要な配慮か)。
  4. 本人の意向をどう確かめるか、確かめられない場合にどう考えるか。
  5. 伝えた相手に、ほかの人へ話さないようどう頼むか。


診断名ではなく「困っていること」を伝えるという選択

 協力を得ることが目的であれば、診断名そのものを伝えなくても足りる場合が多くあります。たとえば「人の多い場所に行くと強く疲れる」「急な予定の変更に混乱しやすい」「夜に眠れず生活リズムが崩れている」といった、日常の中で困っていることと、周囲にしてほしい配慮を具体的に伝える方法です。診断名は受け取る人によって印象が大きく異なり、誤った先入観を招くこともあります。困りごとを中心に伝えれば、本人のプライバシーへの影響を抑えながら、必要な理解を得やすくなります。

本人の同意をどう扱うか

 成人した子の情報ですから、伝える前に本人の意向を確かめるのが本来の順序です。「お兄さんにだけは、体調のことを少し話しておいてもいいか」など、相手と範囲を絞って尋ねると、本人も答えやすくなります。本人が拒んだ場合でも、きょうだいの安全に関わるときや、入院など差し迫った手続が控えているときには、必要な範囲で共有せざるを得ないことがあります。その場合も、伝える内容を最小限にとどめ、伝えたことを後で本人に隠さないほうが、関係の悪化を抑えやすいと考えられます。

きょうだいに伝えるときの注意点

 きょうだいの年齢や立場によって、伝え方は変わります。

  • 未成年のきょうだいには、年齢に応じた言葉で、本人の病気はきょうだいのせいではないことをあわせて伝えます。
  • 成人して別居しているきょうだいには、現在の状況と、将来どのような関わりをお願いしたいのかを分けて伝えます。
  • きょうだいの配偶者に話すかどうかは、きょうだい本人の判断に委ね、親から直接伝えることは控えます。
  • きょうだいに「親の代わりに何とかしてほしい」と求める形にならないよう、親が担う部分を先に示します。


 きょうだいが親に代わって相談先を探す立場になっている場合は、【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときも参考になります。

親戚に伝えるときの注意点

 親戚に対しては、きょうだい以上に範囲を絞ることをおすすめします。親戚の間では話が伝わるうちに内容が変わってしまうことがあり、本人が将来、親戚と顔を合わせる場面で不利益を受けるおそれもあります。冠婚葬祭などで事情を聞かれた場合は、「今は体調を整えている」「家族で相談しながら進めている」といった、具体的な診断名に触れない説明にとどめる方法もあります。

 親戚から治療方針や接し方について意見が寄せられ、家族の方針が揺らいでしまうこともあります。そうした場面については、【親子問題】親戚から子の問題に口出しされる|家族の方針を守る伝え方で整理しています。離婚した元配偶者に伝えるかどうかは、【親子問題】離婚した元配偶者に子の問題を伝えるべきか|伝える場面・伝えない場面をご覧ください。

子に「勝手に話した」と責められたとき

 伝えたことを本人が知り、強く反発することがあります。その場合は、なぜ伝えたのか、誰に何を伝えたのかを率直に説明し、それ以上は広げないことを約束するのが基本になります。言い訳を重ねるよりも、本人が受けた不快感を受け止めるほうが、話が収まりやすい傾向があります。

 ただ、反発が暴言や暴力、金銭の要求に結びつくようであれば、家族の中だけで抱えるのは難しくなります。安全の確保を優先し、警察への相談も含めて検討してください。また、診断を受けた子の対応そのものに悩んでいる場合は、精神保健福祉センターや保健所の家族相談、家族会なども選択肢になります。家族会の役割については【親子問題】家族会・当事者会の役割|弁護士に頼む前にできることを、医療とのつなぎ方については【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断をご覧ください。

弁護士に相談できること

 当事務所では、成人した子の暴力やお金の無心、家から出ていかないといった問題について、親御さんの代理人として子との間に入り、自立支援カウンセラーと役割を分担しながら対応しています。診断名を家族にどう共有するかは医療や福祉の領域と重なる問題ですが、本人との関係が悪化して暴力や金銭の要求に発展している場合や、親が動けなくなった後の体制を法的に整えておきたい場合には、弁護士が関わることで整理できる部分があります。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で紹介しています。

 診断名を伝えるかどうかは、家族構成や本人の状態、きょうだいとの関係によって答えが変わります。誰に、何を、何のために伝えるのかを一つずつ言葉にしていくと、家族にとって無理のない範囲が見えてきます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【親子問題】子の診断名を、きょうだいや親戚に伝えるべき?

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼