【親子問題】暴力を続ける子に財産を渡したくない|相続廃除の要件
子が勤務先のお金を使い込んでいたと分かり、会社から親に「本人に代わって返してほしい」と連絡が来ることがあります。突然の知らせに、親として責任を取らなければならないと感じ、言われた金額をそのまま用意しようとする方も少なくありません。ただ、法律上、親が子の横領分を弁済する義務を負う場面は限られています。この記事では、親が払う義務を負う場面と負わない場面の分かれ目、会社から連絡が来たときの対応、親が任意で弁済する場合に考えておきたいことを整理します。
本記事は2026年10月時点の法令に基づいて記載しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご相談ください。
親に弁済義務が生じる場面は限られています
成人した子が勤務先で横領をした場合、会社に対して損害を賠償する責任を負うのは、原則として子本人です。親子であることだけを理由に、親が子の債務を引き受けることにはなりません。
一方で、親が入社時に身元保証書へ署名していた場合や、横領の発覚後に示談書や返済誓約書へ連帯保証人として署名した場合には、その書面に基づいて親が責任を負うことがあります。まずは、次の表のどこに当てはまるかを確かめることが出発点になります。
| 場面 | 親の支払義務 | 確認すること |
|---|---|---|
| 成人した子が横領し、親は何も署名していない | 原則としてない | 会社が親に請求する根拠を示しているか |
| 入社時に親が身元保証書へ署名していた | 書面の内容と期間によってはありうる | 署名した時期、期間、極度額の有無 |
| 発覚後に親が示談書・誓約書へ連帯保証人として署名した | 署名した範囲で生じる | 保証した金額と支払条件 |
| 子が亡くなり、親が相続人になった | 相続を承認すれば引き継ぐことがある | 相続放棄の期限(原則3か月) |
| 未成年の子が横領した | 事情によってはありうる | 子の年齢、親の監督の状況 |
親が払う義務を負わないのが原則である理由
横領による賠償責任は子本人のものです
会社のお金を自分のために使い込む行為は、会社に対する不法行為として、行為をした本人が損害を賠償する責任を負います(民法709条)。成人した子は独立した法律上の主体であり、親が子の債務を当然に負担する仕組みはありません。親の扶養義務も、子の借金や賠償金を肩代わりする義務までは含まないと考えられています。
そのため、会社から「親なのだから払うべきだ」と言われたとしても、何らかの書面に親が署名していない限り、法律上の支払義務が生じるわけではありません。応じるかどうかは、家族として判断してよい事柄です。
未成年の子の場合は事情が異なることがあります
子が18歳未満で、アルバイト先などで横領をした場合には、親の責任が問題になる場面があります。子に自分の行為の責任を判断する能力がないとされる場合には、監督義務者である親が賠償責任を負うことがあります(民法714条)。また、子に責任能力がある場合でも、親の監督に問題があり、それが損害の発生につながったと認められるときは、親自身の責任が問われることがあります。もっとも、こうした責任が認められるかどうかは個別の事情によるため、未成年の子の件では早めに状況を整理しておくことが大切です。
親が支払いの責任を負う可能性がある3つの場面
入社時に身元保証書へ署名していた
会社によっては、入社の際に親族の身元保証書を求めることがあります。身元保証書は、従業員が会社に損害を与えたときに保証人が賠償することを約束する書面です。親がこれに署名していた場合、子の横領について親に請求が来ることがあります。
ただし、身元保証には「身元保証ニ関スル法律」による制限があり、署名していれば必ず全額を負担するわけではありません。詳しくは次の章で整理します。
示談書や返済誓約書に連帯保証人として署名した
横領が発覚した後、会社から「本人の返済を親が保証してほしい」と求められ、示談書や返済誓約書に連帯保証人として署名する場面があります。この場合、親は署名した書面の内容に従って、子と同じように支払いを求められる立場になります。
身元保証と異なり、発覚後に金額を特定して保証する場合には、身元保証法による減額の考え方は基本的に及びません。署名を求められたときは、その場で応じずに、金額の根拠や支払条件を確かめてから判断することが望ましいといえます。
子が亡くなり、親が相続人になった
子に配偶者や子どもがいないまま亡くなった場合などには、親が相続人になることがあります。相続を承認すると、子が会社に負っていた賠償債務も引き継ぐことになります。返済の見込みが立たない場合は、相続を知った時から原則3か月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続をとることで、債務を引き継がずに済ませる道があります(民法915条)。
身元保証書に署名していた場合に確かめること
身元保証の責任は、署名した書面の内容だけでなく、法律による制限も踏まえて判断されます。次の点を順に確かめてみてください。
- 署名した日付と、書面に定められた保証期間。
- 期間の定めがない場合は、成立から3年で効力を失う(身元保証法1条)こと。
- 期間を定めた場合でも、5年を超える部分は5年に短縮される(同法2条)こと。
- 2020年4月以降に結んだ契約・更新した契約では、保証の上限額(極度額)の定めがあるかどうか。
- 会社から、子の不誠実な行動や業務内容の変更について通知を受けていたかどうか。
何年も前に署名した身元保証書は、期間の経過によってすでに効力を失っていることがあります。また、2020年4月に施行された改正民法により、個人が保証人となる根保証契約は、極度額を定めなければ効力を生じないとされました(民法465条の2)。身元保証もこの規律の対象になると考えられているため、改正後に結ばれた書面に上限額の記載がない場合には、保証の有効性自体が問題になることがあります。
さらに、身元保証人が責任を負う場合でも、裁判所は、会社の監督に落ち度があったかどうか、保証人になった経緯、子の業務内容の変化などの一切の事情を考慮して、賠償の範囲や金額を定めるとされています(身元保証法5条)。横領が長期間見過ごされていたような事情があれば、こうした点も考慮の対象になりえます。裁判例でも、損害の全額ではなく一部に限って保証人の賠償額を定めたものがあります。
会社から親に連絡が来たときの対応
会社から突然連絡を受けると、早く収めたいという思いから、その場で支払いを約束してしまうことがあります。次の順序で落ち着いて対応することをおすすめします。
- その場で支払いを約束したり、書面に署名したりしないこと。
- 会社が主張する横領の金額と、その根拠になる資料を確認すること。
- 親に請求する理由(身元保証書の有無など)を会社に確かめること。
- 子本人から事実関係を聞き、本人の返済の意思と見通しを確認すること。
- やり取りが難しい場合は、窓口を弁護士に移すことを検討すること。
会社が主張する金額には、確認できた使い込みのほかに、調査費用や推計に基づく金額が含まれていることがあります。金額の内訳を確かめないまま支払いを約束すると、後から争うことが難しくなるおそれがあります。
また、会社とのやり取りの中で「親が払わなければ警察に届ける」という趣旨の話が出ることもあります。会社が被害届や告訴をするかどうかは会社の判断ですが、親に支払義務がない以上、親が払うかどうかとは本来別の問題です。家族として支払いに協力する場合でも、内容を書面で確認したうえで判断することが大切です。
親が任意で弁済する場合に考えておきたいこと
法律上の義務がなくても、子の刑事処分や今後の生活を考え、親が弁済に協力することを選ぶご家庭もあります。その判断自体は家族の自由ですが、次の点を整理しておくと、後のトラブルを避けやすくなります。
弁済が刑事手続に与える影響
業務上横領罪(刑法253条)は、10年以下の拘禁刑が定められている罪です。横領のような財産をめぐる事件では、被害弁償の有無や示談の成否が、起訴するかどうかの判断や量刑で考慮されることがあります。もっとも、弁償をすれば必ず不起訴になるというわけではなく、金額や期間、手口などの事情も含めて判断されます。
示談書に入れておきたい内容
親が資金を出して示談をする場合は、支払う金額で会社との間の問題をすべて解決するという清算条項や、会社が処罰を求めない意思を示す条項を入れられるかどうかが重要になります。弁済したにもかかわらず、後から追加の請求を受けたり、別の名目で支払いを求められたりすることを防ぐためです。
親が出したお金の位置づけ
親が出したお金を、子への贈与とするのか、子に貸したものとするのかは、あらかじめ決めておくことが望ましいといえます。貸したものとする場合は、返済の方法を書面に残しておくと、子の自立を考えるうえでも区切りになります。きょうだいがいる場合には、将来の相続で不公平感が生じないよう、記録を残しておくことも考えられます。
ほかの借金や問題がないか
横領の背景に、ギャンブルや借金、浪費などの問題があることも少なくありません。横領分だけを弁済しても、背景にある問題が残っていれば、同じことが繰り返されるおそれがあります。弁済に協力するかどうかを考える際には、子の生活全体を見直す機会にすることも大切です。
子が刑事手続に入った場合の親の関わり方
会社が被害届を出し、子が警察の捜査を受けることになった場合、親は弁済のほかにも、身元引受人として子の生活を支える役割を求められることがあります。成人した子の刑事事件では、親が代わりに手続を進めることはできませんが、弁護人を探す、生活環境を整えるといった形で関わることができます。
また、刑事手続と並行して、会社から子に対して民事の損害賠償請求が進むこともあります。親が関わる範囲をどこまでにするかを、家族の中で話し合っておくことが望ましいといえます。
よくあるご質問
何年も前に書いた身元保証書は、まだ有効ですか?
期間の定めがない身元保証書は成立から3年、期間を定めた場合でも最長5年で効力を失うのが原則です。更新の手続をとっていなければ、すでに効力を失っていることがあります。会社から身元保証書を根拠に請求された場合は、まず書面の写しを求め、署名の日付と期間を確認してください。
親が払えば、会社は警察に届けないと約束してくれますか?
会社が被害届や告訴をしないことを示談書に盛り込むことはありえます。ただし、口頭の約束だけでは後で内容が争われることがありますので、合意する場合は書面にしておくことが大切です。また、すでに警察が捜査を始めている場合には、示談が成立しても手続がそのまま進むことがあります。
子が返済しないまま連絡が取れなくなりました。親に請求は来ますか?
親が身元保証書や示談書に署名していなければ、子と連絡が取れないことを理由に親が支払義務を負うことはありません。会社から親に連絡が来ることはありますが、その場合も、請求の根拠となる書面があるかを確かめたうえで対応を考えることになります。
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まとめ
子が勤務先で横領をしていた場合でも、親が法律上の弁済義務を負うのは、身元保証書や示談書に署名していた場合など限られた場面です。身元保証書に署名していた場合でも、期間や極度額、会社側の事情によって責任の範囲が変わることがあります。会社から連絡が来たときは、その場で約束をせず、請求の根拠と金額を確かめるところから始めてください。親が弁済に協力する場合も、示談書の内容や出したお金の位置づけを整理しておくことで、子の自立に向けた区切りをつけやすくなります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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