【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方
この記事は、2026年10月時点の個人情報の保護に関する法律(2023年4月から都道府県警察にも直接適用)と、警視庁が公表している開示請求の案内をもとにしています。請求の窓口・受付時間・費用は都道府県ごとに異なるため、実際に請求する際はお住まいの地域の警察の案内をご確認ください。
「警察には何度も相談してきたのに、手元には何も残っていない」「弁護士から、警察に相談した記録があれば裁判で使えると言われたが、どうやって取り寄せればよいのか分からない」。ストーカー被害のご相談では、このような声をよく伺います。
警察に相談した内容は、警察の側で書類として残されているのが一般的です。ただ、その書類が自動的に相談者へ渡されることはなく、必要になったときには自分から請求して取り寄せる必要があります。また、取り寄せた記録は一部が黒塗りになって届くことが多く、何が読めて何が読めないのかを知らないまま受け取ると、思っていたものと違うと感じる方もいらっしゃいます。
この記事では、警察への相談記録を個人情報保護法に基づく開示請求で取り寄せる手順と、黒塗りになりやすい部分、取り寄せた記録を使う場面での注意点を整理します。日々の被害をどう記録しておくかは証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはで、警察がなかなか動かない場合の対応は警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることで詳しく扱っています。
警察への相談記録とはどのような書類か
相談のたびに作成される受理票・処理票
警察署への来署や電話で相談をすると、相談を受けた日時、相談者、相談の内容、警察がとった対応などを書き留めた書類が作成されるのが通常です。名称は都道府県警察ごとに異なり、「相談等受理票」「相談等処理票」「警察安全相談受理及び処理票」「警察安全相談等・苦情取扱票」といった名前で管理されています。
ストーカー規制法に基づく警告を求める申出をした場合には、申出書のほか、聴き取った内容をまとめた事情聴取書などが作成される例もあります。同じ一度の相談でも、どの窓口でどの書類が作られたかによって、取り寄せられる記録の中身は変わります。
すでに手元に届いている書類もある
警告を求める申出をした場合、警察が警告をしたときはその内容と日時が、警告をしなかったときはその旨と理由が、申出をした方に通知される仕組みになっています(ストーカー規制法4条)。警告をしなかった場合の通知は書面で行われます。開示請求の前に、まず手元に届いている書類を確認しておくと、どの記録を請求すればよいかの見当がつきやすくなります。
記録には保存期間がある
相談記録はいつまでも保管されるものではありません。保存期間は各都道府県警察の文書管理の規程で定められており、岐阜県の個人情報保護審査会の答申では、相談の受理・処理票の保存期間が3年で、事案の処理が完結した日の属する年の翌年1月1日から数える扱いが確認されています。
保存期間が過ぎて廃棄された記録は、「不存在」として開示されません。数年前の相談記録が必要になりそうなときは、裁判などの予定が固まる前でも、早めに請求を検討しておくのが無難です。
取り寄せの根拠は個人情報保護法の開示請求
自分に関する記録は本人が請求できる
相談記録のうち相談者本人に関する情報は、個人情報保護法の「保有個人情報」にあたります。何人も、行政機関等が保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができます(個人情報保護法76条1項)。2023年4月からは都道府県警察もこの法律の直接の対象となり、警視庁もこの法律に基づく開示請求の窓口を設けています。
情報公開条例による請求とは別の手続
警察の文書を取り寄せる手続には、誰でも利用できる情報公開条例による開示請求もあります。ただ、こちらの手続では、自分の相談記録のような個人情報は請求の対象になりません。埼玉県警察も、請求者自身の相談記録は公文書開示請求ではなく、保有個人情報の開示請求の手続によるよう案内しています。請求書の様式を取り違えないよう注意が必要です。
代理人による請求もできる
開示請求は、本人のほか、法定代理人や本人から委任を受けた代理人もできます(同法76条2項)。警視庁の案内では、任意代理人が請求する場合、30日以内に作成され実印を押した委任状と、その実印の印鑑登録証明書(いずれも原本)を求めています。実印と印鑑登録証明書に代えて、委任者の運転免許証などの写しを添える方法も受け付けるとしています。
実際に弁護士がご依頼者の代理で請求するか、ご本人に請求していただくかは、記録を使う目的や急ぎの度合いを踏まえて、事案ごとに決めていくことになります。
警視庁へ請求する場合の手順
東京で相談をしていた場合の請求先は警視庁です。警視庁が公表している案内の要点は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 請求先 | 警視庁情報公開センター(千代田区霞が関)、または相談した警察署 |
| 受付時間 | 平日の午前8時30分から午後4時30分まで |
| 請求の方法 | 窓口への持参、または郵送(電子メール・FAX・オンライン申請は不可) |
| 本人確認書類 | 窓口では運転免許証・マイナンバーカード等。郵送では確認書類の写しと、30日以内に発行された住民票 |
| 決定までの期間 | 請求の翌日から30日以内(延長されることがあります) |
| 費用 | 写しの交付を受ける場合に所定の手数料がかかります |
記録を持っている部署を意識して請求先を選ぶ
警視庁の場合、情報公開センターでは警視総監が保有する自己の情報全般について、各警察署ではその警察署が保有する情報について、請求を受け付けています。複数の警察署に相談してきた場合は、情報公開センターにまとめて請求するか、署ごとに請求するかを、事前に窓口へ確認しておくと手戻りが少なくなります。
請求書には対象を具体的に書く
請求書には、相談した警察署と担当の課、相談した日(分からなければおおよその時期)、相談の内容、来署か電話かといった事項を、分かる範囲で具体的に書きます。対象の特定があいまいだと、補正を求められたり、探してもらう範囲から漏れたりすることがあります。
手帳やスマートフォンの通話履歴など、相談した日を確かめられる自分側の記録を見返してから請求書を書くと、取り寄せの精度が上がります。
決定の通知から写しの受け取りまで
開示するかどうかの決定は、請求があった日の翌日から30日以内に行うのが原則で、事務処理上の困難など正当な理由があるときは、さらに30日以内に限り延長されます(同法83条)。県警によっては、これより短い処理期間の目安を示しているところもあります。
開示や部分開示の決定が出ると、決定通知書が届き、開示を受ける日時や場所が知らされます。その後、閲覧や写しの交付を受ける流れです。裁判の提出期限などが決まっている場合は、延長の可能性も見込んで、余裕をもって請求しておくと安心です。
黒塗りになりやすい部分と、読める部分
対応した警察職員の氏名・印影
開示される記録では、対応した警察職員の氏名や印影が黒塗りになることがよくあります。警部補以下の職員の氏名などを、開示請求者以外の個人に関する情報として不開示とした扱いが、各地の審査会の答申で妥当とされています(同法78条1項2号)。
捜査や犯罪の予防に関わる部分
開示することで犯罪の予防や捜査などに支障を及ぼすおそれがあると認めることに相当の理由がある情報も、不開示とされることがあります(同法78条1項5号)。また、司法警察職員が行う処分などに関する保有個人情報には、開示請求の規定がそもそも適用されません(同法124条1項)。
東京都の審査会は、被害届に関する記録のうち、捜査の端緒、被疑者の氏名、送致や逮捕に関する欄について、被害者本人からの請求であっても開示請求の対象外とした扱いを妥当と判断しています。相談の段階を越えて事件として捜査が進んでいる場合、その部分は相談記録の開示請求では取り寄せにくいと考えておく必要があります。
相談の日時と内容は残ることが多い
一方で、黒塗りがあるからといって、記録全体が読めなくなるわけではありません。不開示の部分を容易に区分して除くことができるときは、残りの部分は開示しなければならないとされています(同法79条1項)。
「いつ、どこの警察署に、どのような被害を相談したか」という骨格は読める形で残ることが多く、交渉や裁判で意味を持つのは主にこの部分です。決定の内容に納得できない場合は審査請求ができ、原則として処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に行う必要があります(行政不服審査法18条1項)。
取り寄せた相談記録を使う場面
損害賠償の請求や接近禁止の仮処分
相手に慰謝料などを請求する場面や、裁判所に接近禁止の仮処分を申し立てる場面では、被害が続いていたことや、その当時に不安を感じていたことを示す資料が求められます。相談記録は、被害の当時に第三者である警察へ申告していたことを示す点で、自分で書いたメモとは違う意味を持ちます。
警察による手続と裁判所による手続のどちらで接近禁止を求めるかは、接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで解説しています。
つきまといが再び始まったとき
しばらく収まっていたつきまといが再開した場合、以前の相談記録は、同じ相手から過去にも被害を受けていたという経緯を示す材料になります。転居などで相談先の警察署が変わった場合も、以前の記録の写しがあれば、新しい窓口でのいきさつの説明がしやすくなります。
裁判所を通じて取り寄せる方法
すでに裁判が始まっている場合には、裁判所から警察に文書の送付を求めてもらう、文書送付嘱託という方法もあります(民事訴訟法226条)。ただし、警察が応じるかどうか、どこまで応じるかは事案によって異なります。
同居していた交際相手や配偶者からの暴力が関わる場合には、保護命令の手続のなかで、裁判所が警察に相談の状況を記した書面の提出を求める仕組みもあります。どちらの制度が自分のケースにあたるかは、ストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?をご覧ください。
記録を提出する前に確認したいこと
今の住所や避難先が書かれていないか
裁判の証拠として提出した書類は、相手方も目にすることになります。相談記録には、相談した当時の住所や電話番号、勤務先、避難先などが書かれていることがあります。転居して住所を知られないようにしている場合には、提出前にそうした箇所を確認し、必要に応じて伏せてから提出することを検討します。
警察庁の通達も、配偶者からの暴力の相談記録について、保護命令の裁判で加害者が閲覧できることを踏まえ、避難先など閲覧されることが不適切な住所は記載しないよう求めています。取り寄せた記録は、そのまま相手方に渡しても差し支えないかという目で、一度読み直すことが大切です。
相談記録だけで足りるとは限らない
相談記録は、相談者が警察に話した内容を警察官がまとめたものです。相手の行為そのものを直接示す資料ではないため、メッセージの保存画面や写真、日々の被害の記録などと組み合わせることで、説得力が増します。
記録の内容に事実と違う点があると感じたときは、訂正を求める訂正請求という手続もあります(個人情報保護法90条1項)。
よくあるご質問
相手が開示請求をすれば、私が相談した内容を知られてしまいますか
開示請求は、原則として請求する人自身に関する情報を対象とする手続です。第三者が警察に相談した記録の開示が求められた事案について、和歌山県の審議会は、時期や場所を特定した請求に応じると誰が相談したかが推測できてしまうとして、記録があるかどうかも明らかにしない扱いを妥当と判断しています(現在の個人情報保護法81条にあたる仕組みです)。
また、警察庁の通達は、住民票の写しの交付制限などの支援措置に関係する相談記録簿などについて加害者から開示請求があった場合、書類の存否自体を回答しないよう求めています。ただし、警告を受けた相手が、自分に対して出された警告の内容を知ることはあり得ます。心配な点は、事前に警察や弁護士に確認しておくと安心です。
何年前の相談まで取り寄せられますか
保存期間内であれば取り寄せることができますが、期間は書類の種類や都道府県によって異なります。保存期間が過ぎて廃棄されていれば、請求しても不存在という結果になります。古い相談の記録が必要になりそうな場合は、思い立った時点で請求を検討しておくのが無難です。
弁護士に依頼しないと取り寄せられないのでしょうか
相談記録の開示請求は、ご本人が自分で行うことができます。弁護士に相談する意味は、どの記録を何のために取り寄せるのか、届いた記録を交渉や裁判でどう使い、どこを伏せて提出するのかといった、取り寄せた後の組み立てにあります。代理人を立てることで何が変わるかは、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で詳しく扱っています。
まとめ
- 警察への相談の内容は、受理票や処理票などの書類として警察の側に残されているのが通常です。
- 相談者本人に関する記録は、個人情報保護法に基づく開示請求で取り寄せることができ、本人のほか代理人も請求できます(個人情報保護法76条1項・2項)。
- 自分の相談記録は、情報公開条例による請求ではなく、保有個人情報の開示請求の手続で請求します。
- 開示の決定は請求の翌日から30日以内が原則で、さらに30日以内の延長があり得ます(同法83条)。
- 職員の氏名や捜査に関わる部分は黒塗りになることがありますが、相談の日時や内容の骨格は読める形で残ることが多いといえます(同法78条1項・79条1項・124条1項)。
- 相談記録には保存期間があり、廃棄された後は取り寄せられないため、必要になりそうなら早めの請求が無難です。
- 裁判などに提出する前に、今の住所や避難先などが書かれていないかを確認することが大切です。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。警察への相談記録をどう取り寄せるか、取り寄せた記録を交渉や裁判でどう使うかについても、ご事情を伺ったうえで一緒に整理します。
「相談記録を取り寄せたいが、何から始めればよいか分からない」「届いた記録の黒塗りが多く、使えるのか判断がつかない」という方は、一人で抱え込まずにご相談ください。


