【ストーカートラブル】勤務先に配慮を求める|勤務地や勤務時間の変更
この記事は、2026年10月時点の刑法、刑事訴訟法、ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」)、民法をもとに作成しています。刑法の刑罰は、2025年6月1日に施行された改正により懲役・禁錮が拘禁刑に一本化された後の表記で記載しています。
ご相談の場面では、「郵便物の封が少し開いていたことが何度かある。気のせいかもしれないが、別れた相手は住所も郵便受けの番号も知っている」という声や、「カード会社から届いた明細の中身を、相手がなぜか知っていた」という声をお聞きします。どちらも、はっきりした証拠がないまま不安だけが続いているという点で共通しています。
郵便物を勝手に開けることについては、信書開封罪の解説が多く見られます。その説明自体は誤りではありませんが、多くは開けてしまった側がどうなるかという視点で書かれており、受け取る側が何を確かめ、何から手をつければよいのかは見えにくいところがあります。
この記事では、受け取る側の視点に立って、開けられたのかどうかの確かめ方、関わる法律、記録の残し方、郵便物から情報が漏れる経路の止め方、警察や弁護士への相談の仕方までを順に整理します。開けた側がどのような罪に問われるかの詳細や、転居後に居場所を知られない対策については、別の記事に委ねます。
「開けられている」と感じたときに、まず確かめること
郵便物の封が開いている原因は、第三者による開封だけではありません。最初に、ほかの原因と見分けておくことが、その後の相談を進めやすくします。
誤配や配達中の破損との見分け
郵便物は、配達の途中で機械や雨の影響を受けて破れることがあります。また、誤って別の家に配達され、受け取った人が開けてしまった後に戻ってくることもあります。誤配された郵便物を開けた場合には、封を修補して、その旨と氏名・住所を書き添えて郵便局に戻す扱いが郵便法で定められているため、そうした付記がある場合は誤配の可能性が考えられます。
これに対し、刃物で切ったような切り口がある、一度開けてテープやのりで閉じ直した跡がある、中身の向きや折り方が変わっているといった場合は、人の手で開けられた可能性を考える材料になります。
特定の郵便物に偏っていないか
開けられているのが、カード会社や銀行、勤務先、病院、役所からの郵便物など、生活の情報が分かるものに偏っていないかを見てみてください。ダイレクトメールは手つかずで、個人宛ての書類だけが開いているという偏りは、偶然の破損では説明しにくい事情の一つです。
あわせて、期間と回数も確かめておきます。一度きりの破損と、数週間にわたって同じような開き方が続いている状態とでは、相談先での受け止め方が変わります。
郵便受けの状態
郵便受けの錠が壊されていないか、ダイヤル錠の番号が変わっていないか、扉にこじ開けたような跡がないかも確認します。ダイヤル錠の番号を元交際相手や以前の同居人が知っている場合は、錠を壊さずに開けられる状態にあることになります。合鍵と同じく、番号を知っている相手がいるかどうかは早めに整理しておきたい点です。
鍵をめぐる考え方は、【男女トラブル】別れた相手が合鍵を持っている|返してもらう交渉と、鍵を替える判断もあわせてご覧ください。
郵便物を開ける行為に関わる法律
郵便物を開けたり抜き取ったりする行為は、その態様によって問題になる規定が変わります。主なものを整理すると、次のとおりです。
| 行為の例 | 問題になりうる規定 |
|---|---|
| 封をしてある郵便物を開ける | 信書開封罪(刑法133条) |
| 郵便物を抜き取って持ち去る、隠す、捨てる | 窃盗罪(刑法235条)、信書隠匿罪(同法263条) |
| 郵便受けの錠や扉を壊す | 器物損壊罪(同法261条) |
| オートロックの内側や管理された敷地に入る | 住居侵入罪(同法130条) |
| 開けた形跡を残して「見ている」と伝わる状態にする | ストーカー規制法2条1項2号に当たる余地 |
信書開封罪と信書隠匿罪
信書開封罪は、正当な理由がないのに、封をしてある信書を開けた場合に成立し、1年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金と定められています(刑法133条)。封を破って中身を読める状態にした時点で成立し、実際に読んだかどうかは問われないと解されています。一方、はがきのように封のないものは、この罪の対象になりません。
開けるだけでなく、郵便物を隠したり捨てたりした場合は、信書隠匿罪(同法263条)や窃盗罪(同法235条)が検討されます。開けた側の視点からの整理は、他人あての郵便物を開けた|信書開封罪と住居侵入の重なりで詳しく扱っています。
郵便受けまでの立入り
集合住宅の郵便受けがオートロックの内側にある場合や、敷地が管理されている場合には、郵便受けにたどり着くまでの立入りそのものが住居侵入罪(同法130条)として問題になることがあります。どこからが侵入にあたるかは、建物の構造や管理の状況によって判断が分かれます。
この点は、マンションの共用部に入った|どこからが住居侵入になるのかで整理しています。
ストーカー規制法との関係
ストーカー規制法が「つきまとい等」として定める8つの類型の中に、郵便物を開けるという行為そのものは挙げられていません。ただ、郵便受けの付近で見張ったり、住居の付近をうろついたりすることは1号に、開けた封筒をそのまま郵便受けに戻すなどして「あなたの生活を見ている」と伝わる状態にすることは2号の「監視していると思わせるような事項を(中略)その知り得る状態に置くこと」に当たる余地があります(ストーカー規制法2条1項1号・2号)。
規制法の対象になるには、恋愛感情やそれが満たされなかったことへの恨みといった目的が必要です。近隣とのトラブルなど、好意と関係のない動機が考えられる場合には、刑法の規定や民事上の請求で考えることになります。
痕跡を記録として残す
郵便物の開封は、その場を誰かに見られていることが少なく、後から立証しにくい類型です。そのため、気づいた時点からの記録が、相談の際の大きな手がかりになります。
開けられた郵便物はそのまま保管する
開けられた封筒や中身は、捨てずに、触れる回数をできるだけ減らして保管してください。透明の袋などに入れておくと、切り口やテープの状態を保ったまま警察に見せることができます。
保管の前に、封筒の表と裏、切り口、郵便受けの内部と外観を、日付が分かる形で撮影しておくとよいでしょう。
日付ごとの記録を作る
記録は、一度に書き起こすより、気づくたびに書き足していく形が向いています。次のような項目を残しておくと、経緯が伝わりやすくなります。
- 気づいた日時と、郵便物が届いたと考えられる日。
- 差出人と郵便物の種類(手紙、明細、通知など)。
- 開いていた箇所と、閉じ直した跡の有無。
- 郵便受けの錠や扉の状態。
- 同じ時期にあった、不審な人物や車、連絡などの出来事。
郵便物以外の出来事もあわせて書き留めておくと、つきまといの一部として全体像を示しやすくなります。記録の作り方の考え方は、証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはでも扱っています。
防犯カメラの映像は早めに保全を頼む
集合住宅で郵便受けの付近に防犯カメラがある場合、映像は一定期間で上書きされるのが一般的です。管理会社や管理組合には、保存期間を確認したうえで、該当しそうな日時の映像を残してもらうよう早めに依頼してください。映像の提供は、警察からの照会があって初めて応じるという運用のところもあります。
管理会社に相談する際の進め方は、【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることをご参照ください。
郵便物から漏れる情報を止める
郵便物には、勤務先、取引のある金融機関、通院先、転居先など、生活の情報が多く含まれています。開封されたこと自体への対応とあわせて、情報が漏れ続ける経路を止めることも大切です。
郵便受けの鍵と受け取り方を見直す
ダイヤル錠の番号を変える、錠そのものを交換する、郵便受けに長く郵便物を残さないといった基本的な見直しから始めます。賃貸住宅で錠の交換を考える場合は、管理会社に事情を伝えて相談してください。
重要な郵便物の届け先や形式を変える
カードや銀行の明細、各種の通知は、紙からWebでの確認に切り替えられるものが少なくありません。紙で届く量が減れば、郵便受けから読み取られる情報も減ります。
どうしても紙で受け取る必要がある書類は、郵便局で受け取る「局留め」を使う方法もあります。転居を考えている場合の住所の秘匿については、引っ越したのに住所を突き止められた|居場所を知られない対策で詳しく扱っています。
届かなくなった郵便物と、心当たりのない転送
開けられた形跡とは逆に、届くはずの郵便物が届かなくなった場合は、抜き取りのほか、心当たりのない転居届が出されて転送されている可能性も考えられます。最寄りの郵便局に事情を伝え、転送の設定がされていないかを確認してください。
郵便以外の経路から情報が漏れていることもあるため、スマートフォンや共有アカウントの設定もあわせて点検しておくと安心です。この点は、【ストーカートラブル】スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるをご覧ください。
警察と弁護士への相談
誰が開けたのか分からない段階でも、相談することはできます。相手の見当がついているかどうかで、とりうる手段の幅が変わります。
警察に相談するときに持っていくもの
保管している封筒や中身、撮影した写真、日付ごとの記録を持って、最寄りの警察署の生活安全課などに相談します。誰が開けたのか分からない場合でも、指紋の採取や周辺の確認など、捜査の中で相手が明らかになることがあります。相手が分からないときの進め方は、【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方で扱っています。
身の危険を感じる出来事が重なっている場合は、郵便物の件だけでなく、それまでの経緯全体を伝えることが大切です。
親告罪であることと告訴期間
信書開封罪と信書隠匿罪は、被害を受けた人の告訴がなければ起訴できない親告罪です(刑法135条、同法264条)。告訴できる人について、判例は、差出人は常に告訴でき、郵便物が届いた後は受取人も告訴できるとしています(大審院昭和11年3月24日判決)。
告訴には、犯人を知った日から6か月という期間の定めがあります(刑事訴訟法235条)。相手が特定できた後は、この期間を意識して相談を進める必要があります。被害届と告訴の違いは、被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶで整理しています。
弁護士に依頼する場面
相手の見当がついている場合には、弁護士が代理人として相手に通知を送り、接触や郵便受けへの接近をやめるよう求めたり、今後の接触禁止を約束する合意をまとめたりすることが考えられます。郵便物の開封によってプライバシーを侵害されたことについて、損害賠償を求められる場合もあります(民法709条、710条)。
警察に相談しても動きが見えないときの進め方は、警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることを、代理人を立てる意味については、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味をご覧ください。
よくあるご質問
一度だけで、誰が開けたのかも分からないのですが、相談してよいのでしょうか。
相談して差し支えありません。一度だけの出来事でも、記録として残しておくことで、その後に同じことが起きたときに経緯を示しやすくなります。相談の時点では、開けられた郵便物と写真、気づいた日時のメモがあれば十分です。
同居している(していた)交際相手が開けていた場合も、罪になるのでしょうか。
家族や同居人の間でも、信書開封罪の対象から外れるわけではありません。生計が一体の世帯で共通の請求書を開けるなど、本人が事情を知れば同意したと考えられる場合には、正当な理由があると評価されることがありますが、個人宛ての手紙や明細を本人に無断で開けることまで当然に許されるわけではありません。別れた後も開封が続いている場合は、ほかのつきまといとあわせて相談することをお勧めします。
開けられた郵便物の差出人に連絡したほうがよいのでしょうか。
カードや銀行、各種の会員サービスからの郵便物であれば、差出人に連絡することをお勧めします。カード番号や暗証番号の変更、再発行、不正な利用がないかの確認など、被害の広がりを防ぐ手続をとれる場合があります。郵送をやめてWebでの確認に切り替える手続も、その際にあわせて相談できます。
まとめ
- 封が開いている原因は誤配や破損のこともあるため、切り口や閉じ直した跡、開けられた郵便物の偏りから見分ける。
- 封をしてある郵便物を開ける行為は信書開封罪(刑法133条)、抜き取りや隠匿は窃盗罪(同法235条)や信書隠匿罪(同法263条)が問題になる。
- 開けた形跡を残して「見ている」と伝わる状態にすることは、目的によってはストーカー規制法2条1項2号に当たる余地がある。
- 開けられた郵便物は触れる回数を減らして保管し、写真と日付ごとの記録を残し、防犯カメラの映像は早めに保全を依頼する。
- 郵便受けの錠の見直し、Web明細への切替え、局留め、転送設定の確認で、情報が漏れる経路を止める。
- 信書開封罪・信書隠匿罪は親告罪(同法135条、264条)で、告訴は犯人を知った日から6か月以内(刑事訴訟法235条)。
- 相手の見当がついている場合は、代理人を通じた接触禁止の合意や、プライバシー侵害の損害賠償(民法709条、710条)も検討できる。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。郵便物の開封のように、一つひとつは小さく見える出来事でも、経緯を整理することで警察への相談や相手への対応につなげられる場合があります。
郵便物が開けられている形跡に気づき、誰が開けたのか分からず不安を抱えている方も、相手の見当がついていて接触をやめてもらいたいと考えている方も、手元の郵便物や記録をお持ちのうえ、早い段階でご相談ください。


