【ストーカートラブル】同じマンションの住人につきまとわれている|相手も住み続ける建物で、行動の記録と手続をどう組み立てるか
この記事は、2026年10月時点の法令にもとづいて書いています。ストーカー規制法は、令和7年12月30日に改正法が施行され(紛失防止タグを用いた位置情報の取得の規制、警察の職権による警告の創設、被害者の勤務先・学校による援助の追加など)、令和8年3月10日からは、被害者の情報を第三者が提供しないよう警察が求める仕組みも始まっています。
「娘が元交際相手につきまとわれているようだが、本人は大ごとにしたくないと言って警察に行こうとしない」「一人暮らしの息子の様子がおかしく、聞けばしつこく連絡を受けていた。親として何ができるのか知りたい」。ご家族からこうしたご相談を受けることは少なくありません。一方で、被害を受けているご本人からは「家族に心配をかけたくない」「家族が相手に連絡してしまわないか不安だ」という声をお聞きすることもあります。
ストーカー被害については「まずは警察に相談を」と案内されるのが一般的で、その説明自体は誤りではありません。ただ、相談に行けるのが家族だけという場面で、家族が代わりにどこまで動けるのか、どこから先は本人の意思が必要になるのかは、あまり整理されていません。
この記事では、被害を受けているのが家族(子・きょうだい・配偶者・親など)で、ご家族が代わりに相談する場面に絞って、家族にできること・本人でなければできないこと、相談の前に整理しておきたいことを解説します。ストーカー規制法の手続全体や、接近禁止を実現する方法の詳細は、それぞれの記事に譲ります。
家族からの相談でも、窓口は話を聞いてくれる
警察は家族・友人からの相談も受け付けている
警察庁の犯罪被害者等施策のページでは、各都道府県警察の被害相談窓口は、被害にあった本人だけでなく、家族や友人からの相談も受け付けていると案内されています。ストーカー被害の相談は、最寄りの警察署のほか、警察相談専用電話「#9110」でも受け付けています。身の危険が差し迫っている場合は、ためらわずに110番を使ってください。
家族からの相談であっても、警察は状況を聞き取り、相手への指導や自宅周辺の警戒など、その時点で取れる対応を検討します。本人が一緒に来られないことは、相談をためらう理由にはなりません。警察と弁護士のどちらに先に相談するか迷う場合は、警察に相談すべきか、弁護士に相談すべきか|窓口の使い分け早見表を参考にしてください。
家族自身へのつきまといも規制の対象になる
ストーカー規制法は、つきまとい等の対象を被害者本人に限っていません。特定の人への好意の感情などを満たす目的で、その人の配偶者、直系や同居の親族、その他社会生活で密接な関係にある人に対してつきまとい等をすることも規制しています(ストーカー規制法2条1項)。
たとえば、相手が実家に押しかけてくる、親に何度も電話をかけて本人の居場所を聞き出そうとする、といった行為は、ご家族自身が受けている被害として相談できます。この場合、ご家族は「代わりに相談する人」ではなく、当事者の一人として警察や弁護士に話をすることになります。第三者を巻き込む嫌がらせについては、別れた相手が家族や友人に接触してくる|第三者を巻き込む嫌がらせへの対応で詳しく解説しています。
家族が代わりにできること・本人でなければできないこと
家族が動ける範囲
ご家族が本人に代わってできることは、思いのほか多くあります。
- 警察・自治体・弁護士に相談し、取れる手段と順序を確認すること。
- 本人から聞いた経緯や、家族が見聞きした出来事を記録として整理すること。
- 本人が警察署や法律事務所に行く際に付き添うこと。
- 自宅の防犯対策や、一時的に実家へ戻るなど住まいを手当てすること。
- 本人が仕事や学校を続けられるよう、日常の負担を減らすこと。
相談の段階では、本人の同意がなくても話を聞いてもらえます。ただし、相談した内容をもとに具体的な手続へ進む段階では、本人の意思が問われる場面が出てきます。
本人の意思が前提になる手続
ストーカー規制法や刑事手続のしくみの多くは、被害を受けている本人が申し出ることを前提にしています。主な手続を整理すると、次のとおりです。
| 手続 | 行う人 | 家族の関わり方 |
|---|---|---|
| 警告の申出(ストーカー規制法4条) | 被害を受けている本人 | 相談・付き添い。改正後は警察の職権による警告もある |
| 禁止命令等の申出(同法5条) | 被害を受けている本人 | 相談・付き添い。公安委員会の職権で出されることもある |
| 援助の申出(同法7条) | 被害を受けている本人 | 相談・付き添い |
| 告訴(刑事訴訟法230条) | 被害を受けている本人 | 本人が未成年なら法定代理人も告訴できる(同法231条1項) |
| 住民票の写し等の交付制限(支援措置) | 被害を受けている本人 | 同じ住所の家族を併せて対象とする扱いがある |
| 弁護士への依頼 | 本人(未成年なら親権者) | 相談・費用の負担・連絡の一部を担うこと |
表のとおり、家族ができるのは主に相談と付き添いで、手続の申出そのものは本人が行うのが基本です。被害届と告訴のどちらを選ぶかについては、被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶをご覧ください。
本人が申し出をためらう場合と、職権による警告
改正前は、警察が相手に警告を出すには被害者の申出が必要でした。令和7年12月30日に施行された改正法により、被害者の申出がなくても、警察が職権で警告を出せるようになりました(ストーカー規制法4条)。
本人が「相手を刺激したくない」「自分が動いたと相手に知られるのが怖い」とためらっている場合でも、家族からの相談をきっかけに警察が状況を把握し、対応を検討する余地が広がったといえます。もっとも、警告を出すかどうかは警察が事案ごとに判断するもので、家族の相談があれば警告が出るというものではありません。警察に相談する際は、本人がどのような対応を望んでいるか、望んでいないかもあわせて伝えておくと、行き違いが生じにくくなります。
本人の年齢と状況で、家族の立ち位置は変わる
本人が未成年の場合
被害を受けているのが未成年の子であれば、親権者は法定代理人として、本人に代わって契約などを行う立場にあります(民法824条)。弁護士への依頼も親権者が契約するのが通常で、告訴も法定代理人が独立して行うことができます(刑事訴訟法231条1項)。
また、改正法では、被害者が就学する学校の長も、被害者への援助に努める主体に加えられました。登下校の時間や経路への配慮、学校のホームページ等への氏名の掲載を控えるといった対応を、学校に相談しやすくなっています。もっとも、親が代わって手続できる場面であっても、本人の気持ちを置き去りにして進めると、本人が家族に話さなくなるおそれがあります。年齢に応じて本人の意見を聞きながら進めることが大切です。
本人が成人している場合
本人が成人していれば、親やきょうだいであっても、本人に代わって手続を申し出たり、本人の名前で弁護士に依頼したりすることはできません。弁護士は依頼者の意思を尊重して職務を行うことが求められており(弁護士職務基本規程22条1項)、成人した本人の意思を確認しないまま、相手方に通知を送るなどの対応を進めることはできません。
家族としてはもどかしく感じるかもしれません。しかし、本人が知らないうちに家族が動くと、本人と家族の関係がこじれたり、相手が家族の動きに反応して行動を変えたりすることもあります。まずは家族が相談して見通しを持ち、その内容を本人に伝えて、本人が動きやすい状態をつくることが現実的な進め方です。
家族もつきまとわれている場合
相手が実家や家族の職場にまで来ている場合は、家族も自分自身の被害として警察に相談し、記録を残すことができます。本人と家族の双方が被害を受けているときは、それぞれの被害をあわせて伝えることで、相手の行動の全体像が警察にも伝わりやすくなります。家族に危害を加えるとほのめかされている場合については、家族・恋人への危害をほのめかされた|脅迫罪の保護範囲で解説しています。
家族が相談に行く前に整理しておきたいこと
本人と話しておきたいこと
可能であれば、相談に行く前に本人と次の点を話しておくと、相談の場で具体的な見通しを聞きやすくなります。
- 家族が相談に行くことを、本人が了承しているか。
- 警察や弁護士に、どこまで話してよいか。
- 本人が望んでいること(接触を止めたい、相手に知られずに身を守りたい、処罰を求めたいなど)。
- 本人が避けたいこと(勤務先や学校に知られたくない、相手を刺激したくないなど)。
本人が話したがらない場合は、無理に聞き出そうとせず、家族が把握している範囲で相談して構いません。
時系列と記録の整理
警察でも弁護士でも、最初に確認されるのは「いつ、誰から、何をされたか」です。相手の氏名や本人との関係、最初の出来事と最近の出来事、連絡の回数や手段、家に来た日時などを、分かる範囲で時系列にまとめておくと相談が進みやすくなります。まとめ方はA4一枚の時系列メモの作り方|相談の質を決める1枚が参考になります。
メッセージや着信履歴、手紙などの記録は、本人の手元にあることが多いはずです。家族が本人のスマートフォンを無断で見たり、記録を整理するつもりで消してしまったりすることは避け、本人に保存を頼むのが基本です。記録の残し方は、ストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方で解説しています。
家族が控えたほうがよい対応
本人を守りたい気持ちが強いほど、相手に直接働きかけたくなるものです。しかし、次のような対応は、かえって状況を難しくすることがあります。
- 家族が相手に会いに行ったり、電話をかけて抗議したりすること。
- 相手の家族や勤務先に連絡して、事情を伝えること。
- 相手の氏名や行為を、SNSなどで公にすること。
- 本人の了承なく、本人の名前で相手に連絡すること。
相手に直接働きかけると、相手を刺激して行動がエスカレートしたり、言い方や伝え方によっては家族の側が責任を問われたりするおそれがあります。相手との連絡が必要な場面では、警察や弁護士を通すことを検討してください。
弁護士に家族が相談するときの流れ
初回の相談は家族だけでもできる
法律相談は、本人が同席していなくても受けることができます。弁護士には守秘義務があり(弁護士法23条)、相談した内容が相談者の了承なく外部に伝わることはありません。守秘義務の範囲については、弁護士に相談した内容は家族や警察に伝わる?守秘義務の範囲で解説しています。
本人が同席しない相談では、聞けることが一般的な見通しにとどまる場合もあります。それでも、取れる手段とその順序を知っておくだけで、本人に話を持ちかけやすくなります。家族と本人が一緒に相談に来る場合の注意点は、相談に家族や知人を同席させてよいか|同席が与える影響をご覧ください。
依頼するときは本人の意思確認が必要になる
具体的に弁護士に動いてもらう段階では、成人している本人が依頼者となるのが原則です。費用を家族が負担すること自体は可能ですが、委任契約の当事者は本人であり、方針の決定も本人の意思にもとづいて行います。
家族が連絡の一部を担うことはできますが、どの情報を家族に伝えてよいかは、本人と弁護士の間であらかじめ決めておくことになります。本人と家族の希望が食い違う場合には、本人の希望が優先されることも理解しておく必要があります。
弁護士が入ることで変わること
弁護士が本人の代理人となれば、相手との連絡の窓口を弁護士に一本化し、接触をやめるよう求める通知を送ることができます。警察への相談に同行したり、警察の手続と並行して裁判所に接近禁止の仮処分を申し立てたりと、警察の手続と民事の手続を組み合わせて進められる点も、家族だけで対応する場合との違いです。
弁護士に依頼した場合の変化は【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で、警察と裁判所の手続の使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで詳しく解説しています。弁護士と警察が連携して付きまといを止めた事例として、【解決事例】一方的に好意を持たれ、ストーカー被害|弁護士と警察の連携により付きまとい・執拗なアプローチを阻止した事例もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
本人に知らせずに、家族だけで相談してもよいですか。
相談すること自体は問題ありません。ただ、相談した結果をもとに本人に知らせないまま手続を進めることはできないため、どこかの段階で本人と話し合う必要があります。相談で得た見通しを材料にすると、本人も判断しやすくなります。
本人が警察に行きたがらない場合、家族の相談だけで警察は動いてくれますか。
家族からの相談でも警察は状況を聞き取りますし、改正法により、被害者の申出がなくても職権で警告を出すことが可能になりました。ただし、どのような対応をとるかは警察が事案ごとに判断します。警察の対応が進まないと感じる場合については、警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることをご覧ください。
家族が遠方に住んでいても相談できますか。
警察の手続は本人の住所地を管轄する警察署が中心になりますが、家族が住んでいる地域の警察署や「#9110」に相談することもできます。弁護士への相談は、電話やオンラインで受け付けている事務所も多く、離れて暮らす家族からの相談にも対応しています。
まとめ
- 警察は、被害を受けている本人だけでなく、家族や友人からの相談も受け付けている。
- 家族へのつきまといも規制の対象で、家族自身の被害として相談できる(ストーカー規制法2条1項)。
- 警告・禁止命令等・援助の申出や告訴は、本人が行うのが基本(同法4条・5条・7条、刑事訴訟法230条)。
- 改正法の施行により、被害者の申出がなくても警察が職権で警告を出せるようになった(ストーカー規制法4条)。
- 本人が未成年なら、親権者が代わって契約し、法定代理人として告訴することもできる(民法824条、刑事訴訟法231条1項)。
- 本人が成人している場合、弁護士への依頼や方針の決定は本人の意思にもとづく(弁護士職務基本規程22条1項)。
- 家族が相手に直接働きかけることは控え、連絡が必要な場面では警察や弁護士を通す。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。ご本人がまだ相談に踏み出せない段階で、ご家族だけでご相談いただくこともできます。
被害を受けているご本人も、見守るご家族も、一人で抱え込まずにご相談ください。今の状況で取れる手段と、その順序を一緒に整理します。


