【男女トラブル】交際相手の子どものために使ったお金を返してもらえるか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法(2020年4月施行の債権法改正後の条文)と民事訴訟法にもとづいて執筆しています。個別のご事情によって結論が変わることがあるため、具体的な判断は弁護士にご相談ください。


交際相手のお子さんの学費や塾代、服やおもちゃ、家族として出かけた旅行の費用。別れることになったとき、「あの子のために出したお金だけは返してほしい」というご相談を受けることがあります。反対に、別れた相手から「子どもに使った分を返せ」と言われて戸惑っている、という親御さんからのご相談もあります。

 交際中に使ったお金は原則として贈与にあたり、返還を求めにくいという説明はよく目にしますし、それ自体は誤りではありません。ただ、交際相手のお子さんのための支出には、そもそも出す義務があったのか、お金の利益を受けたのは誰か、誰に請求するのかという、二人の間のデート代や生活費とは異なる論点が加わります。

 この記事では、交際相手の連れ子のために使ったお金に絞って、返還を求められる場面と求めにくい場面、請求の相手と進め方を整理します。交際中の生活費やプレゼント全般の考え方は交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?で、贈与と貸付の区別そのものは別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いで詳しく扱っています。

お子さんのための支出は、法律上どう扱われるのか

交際相手には、お子さんを養う法律上の義務はない

 民法が扶養の義務を負わせているのは、直系血族と兄弟姉妹が原則です(民法877条1項)。親は自分の子を扶養する義務を負いますが、その親と交際しているだけの人とお子さんとの間には、親族関係がありません。結婚して配偶者の連れ子と暮らしている場合や、養子縁組をした場合とは、ここが大きく異なります。

 義務がないのに出したお金は、多くの場合、自分の意思で無償で渡したもの、つまり贈与(民法549条)と評価されます。そして、契約書などの書面がない贈与でも、すでに渡し終えた部分は後から解除できません(同法550条)。「養う義務がないのに出した」という事情は、返還の根拠になるというより、好意による贈与だったと見られやすい方向に働きます。出した側の感覚と法律上の評価がずれやすいところです。

学費や塾代は「交際相手の支払いの肩代わり」になりやすい

 学校や塾、習い事との契約は、通常、親権者である交際相手が結んでいます。その費用を代わりに振り込んだ場合、法律上は、交際相手が負っている支払いを第三者として済ませた形になります(民法474条1項)。

 このため、学費や塾代については、利益を受けたのはお子さん本人というより、支払いを免れた交際相手だと整理するのが基本です。後で返してもらう約束があれば交際相手に対する請求の問題となり、約束がなければ交際相手への贈与として扱われるのが一般的です。

お子さんに直接渡した物やお小遣い

 誕生日のプレゼントやお年玉、服やゲームなど、お子さん本人に渡した物は、お子さんへの贈与です。未成年者であっても、単に物をもらうだけの行為は、親の同意がなくても有効に成立します(民法5条1項ただし書)。渡し終えている以上、別れたことを理由に返還を求めることは難しいと考えておくのが現実的です。

返還を求められる可能性がある場面

返すことを約束していた|貸付・立替

 「入学金を一時的に貸してほしい」「来月まとめて返すから塾代を立て替えて」といったやり取りがあれば、贈与ではなく貸付や立替として返還を求める道があります(民法587条)。進学時の費用のように、金額がまとまっていて一時的な出費だと説明されていた場面では、返す約束が交わされていることも少なくありません。

 ただし、返す約束があったことを示すのは請求する側です。名目が「学費」であることだけでは、返す約束の証拠にはなりません。借用書がなくても、メッセージや振込の記録から約束を裏づけられる場合があります。具体的な進め方は恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?をご覧ください。

結婚や同居を前提にした支出だった

 結婚を前提に、新居への転居に合わせてお子さんの部屋の家具をそろえた、転校の費用を負担した、といった場合には、「結婚しないことになったら効力を失う」という条件付きの贈与(民法127条2項)だったと主張できる余地があります。条件が成就すれば、受け取った側はお金を保持する理由を失い、不当利得として返還の対象になります(同法703条)。

 もっとも、明確な取り決めがない限り、交際中の一般的な支出に条件が付いていたと認められるのは容易ではありません。婚約が成立していて、相手方から正当な理由なく破棄された場合には、婚約を前提とした支出を損害として請求する構成も検討できます。詳しくは結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかと婚約を一方的に破棄された|慰謝料を請求できるケース・できないケースで解説しています。

事実と異なる説明を受けて出した

 「子どもの治療費が必要」「学校から未納分の督促が来ている」といった説明を受けて出したのに、実際にはそのような事情がなかった場合は、詐欺(民法96条1項)や錯誤(同法95条1項)を理由に贈与の意思表示を取り消し、返還を求めることが考えられます。説明の内容と実際の使い道との食い違いを、記録で示せるかどうかが分かれ目になります。

 ここまでを整理すると、次のようになります。

支出の例基本的な扱い返還を求められる可能性がある事情
学費・塾代・習い事の月謝交際相手への贈与返す約束、事実と異なる説明
服・おもちゃ・お小遣いお子さんへの贈与事実と異なる説明など、ごく限られる
家族での旅行・外食共同の支出としての贈与立て替えて後で精算する約束
結婚に向けた転居・家具条件付きの贈与と評価される余地結婚しないことの確定、婚約の不当な破棄


請求の相手は誰か|お子さん本人に求めることの難しさ

請求の相手は、原則として交際相手

 学費の肩代わりや貸付は、交際相手との間の約束です。返還を求める相手も、原則として交際相手になります。お子さんのために使ったお金だからといって、お子さんが借りたことになるわけではありません。

お子さん本人への請求が難しい理由

 お子さんが未成年の場合、仮に本人が借りる約束をしていても、親の同意がなければ取り消すことができます(民法5条2項)。本人に渡した物は、前述のとおり贈与として有効に成立しています。お子さん本人に返還を求める法的な根拠は、通常は見いだしにくいと考えておくのが現実的です。

 また、お子さんに直接連絡して返還を求めることは、根拠の問題を離れても、お子さんや交際相手との間で新たなトラブルを生みやすい行動です。請求は交際相手に向けて、記録の残る方法で行うのが基本です。

自分の名義で契約していた場合

 塾や習い事の申込みを自分の名前で行っていた、教育ローンの保証人になっていた、という場合は事情が異なります。契約の当事者や保証人として、別れた後も支払いの義務が自分に残ることがあるためです。まずは契約書を確認し、解約や名義の変更ができるかを契約先に問い合わせてください。交際相手に負担を求められるかどうかは、契約時にどのような話し合いがあったかによります。

返還を求めるときの進め方

手元に残しておきたい記録

 返還を求める場合、次のような記録が支えになります。

  • 振込の明細や領収書など、いつ・いくらを・どこへ支払ったかが分かる記録。
  • 「立て替えて」「必ず返す」など、返す約束が読み取れるメッセージ。
  • 支出を求められたときの説明と、実際の使い道との食い違いを示す資料。
  • 結婚や同居の予定、婚約の事実をうかがわせるやり取り。


 LINEなどのやり取りは、相手にブロックされたり端末を替えたりすると見られなくなることがあります。保存の方法は男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にするを参考にしてください。

話し合いから手続までの流れ

 最初に、これまでの支出を「返す約束があったもの」「条件付きと言えるもの」「贈与にあたるもの」に仕分け、根拠のあるものに絞って交際相手に返還を求めます。総額をまとめて求めるより、根拠のある支出から順に示すほうが、相手も検討しやすく、話し合いがまとまりやすくなります。合意できた場合は、返済の方法と、それ以外に互いに請求するものがないことを書面に残しておくと、後の蒸し返しを防ぎやすくなります。書面の効力については【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で解説しています。

 応じてもらえない場合は、内容証明郵便による請求のほか、請求額が60万円以下であれば少額訴訟(民事訴訟法368条1項)、通常の訴訟や民事調停といった手続を検討します。少額訴訟は、原則として1回の期日で審理を終える手続です(同法370条1項)。相手と連絡が取れなくなった場合の対応は【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法をご覧ください。

 貸付や立替の返還を求める権利は、返してもらえる時期が来たことを知った時から5年で時効にかかります(民法166条1項1号)。お子さんの入学時の費用など、何年も前の支出を請求するときは注意が必要です。時効の全体像は男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかにまとめています。

返還を求められている側が確認したいこと

返す約束があったかどうかを振り返る

 別れた相手から「子どもに使った分を返せ」と言われた場合も、考え方は同じです。返す約束をした支出であれば応じる必要がありますが、好意で出してもらった費用まで返す義務は、原則としてありません。相手が示す一覧の中に、約束をしたものとしていないものが混在していないかを一つずつ確認してください。総額だけを示されたときは、内訳と根拠の説明を求めるところから始めます。

お子さんを巻き込まない形で整理する

 相手がお子さんに連絡を取ろうとしたり、学校など周囲に事情を伝えると告げたりしている場合は、金銭の問題とは別に、お子さんの生活を守る対応が必要です。金銭の清算と、お子さんへの接触の問題は、切り分けて対応することが大切です。やり取りは記録に残し、連絡の窓口をご自身か代理人に一本化するよう求めます。脅しに近い言動がある場合は、警察への相談も選択肢になります。

よくあるご質問

交際期間が長ければ、子どものために使ったお金も返してもらいやすくなりますか?

 交際期間の長さそのものは、返還の可否を直接決める要素ではありません。むしろ、長く家計を共にしていれば、支出は共同生活の費用として贈与と評価されやすくなる面があります。詳しくは【男女トラブル】交際期間の長さは金銭の清算に影響するのかをご覧ください。

同居して事実婚の状態だった場合も同じ考え方ですか?

 内縁・事実婚と評価される関係では、夫婦に準じて生活費を分担し合う関係とされるため、お子さんを含む家計への支出は、共同生活の費用として扱われることが多くなります。一方で、関係を解消するときに、財産分与の考え方が参考にされる場面もあります。【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかで整理しています。

領収書が残っていない支出も請求できますか?

 領収書がなくても、銀行の振込記録やクレジットカードの明細、当時のメッセージから支払いの事実を示せることがあります。もっとも、支払った事実と返す約束は別の問題です。支払いを示す記録がそろっていても、返す約束を示す資料がなければ、贈与と判断される可能性が残ります。

まとめ


  1. 交際相手には、お子さんを扶養する法律上の義務がなく(民法877条1項)、義務なく出したお金は贈与と評価されやすい。
  2. 書面のない贈与でも、渡し終えた部分は解除できない(民法550条)。
  3. 学費や塾代の肩代わりは交際相手の支払いを代わりに済ませた形となり(民法474条1項)、請求の相手は原則として交際相手になる。
  4. 返す約束があった場合は貸付・立替として返還を求められる(民法587条)が、約束があったことは請求する側が示す必要がある。
  5. 結婚を前提とした支出は条件付きの贈与や婚約破棄の損害として、事実と異なる説明による支出は詐欺・錯誤による取消しとして、返還を検討できる(民法127条2項、95条1項、96条1項)。
  6. お子さん本人に返還を求める根拠は通常見いだしにくく、本人への直接の連絡は新たなトラブルを生みやすい。
  7. 貸付・立替の返還を求める権利は、原則として5年で時効にかかる(民法166条1項1号)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。交際相手のお子さんのために出したお金について、どの支出に返還を求める根拠があるのか、どのように話を進めればよいのかを、具体的なご事情をうかがいながら整理します。

返還を求めたい方も、別れた相手から返還を求められてお困りの方も、お一人で抱え込まずにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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