【男女トラブル】二股をかけられていた|交際関係だけで請求できる場面
この記事は、2026年10月時点の民法(2020年4月施行の改正後の規定)、自動車損害賠償保障法、保険法をもとに作成しています。自動車保険の補償や特約の扱いは保険会社・契約内容によって異なるため、保険に関する記載は一般的な仕組みの説明にとどめています。
「付き合っていた頃に相手の車を借りて事故を起こした。そのときは『気にしなくていい』と言われたのに、別れた途端に修理代を全額払うよう連絡が来た」。車を運転した側からは、このようなご相談が寄せられます。反対に、車を貸した側からは「修理代は払うと言っていたのに、別れた後は連絡が取れなくなった」というお声も伺います。
他人の車を借りて事故を起こした場合、運転した人が修理費を負担するのが原則だという説明は、交通事故を扱う多くの解説で示されており、それ自体は誤りではありません。ただ、交際相手との間では、貸し借りの約束が口頭だけであったり、事故の後に「払わなくていい」「少しずつでいい」といったやり取りがあったりと、別れた後になって初めて認識の食い違いが表に出てくることが少なくありません。請求された金額のどこまでが修理代にあたるのか、保険で賄える部分はないのかといった点も、感情的なやり取りの中では見落とされがちです。
この記事では、交際中に相手の車で事故を起こし、別れた後にその修理代が問題になった場面に絞って、法律上の位置づけ、負担の範囲、保険との関係、期間の制限、やり取りの注意点を整理します。車そのものの返還や、共同で使っていた車の分け方については、恋人に貸した車・ブランド品を返してほしい|返還を求めるときの考え方と進め方や【男女トラブル】別れた後に共通のペット・車・家財をどう分けるかで扱っています。
交際相手の車を運転して事故を起こしたときの法律関係
無償で借りていた場合は「使用貸借」として考える
交際中に相手の車を借りる場面では、料金のやり取りがないのが通常です。このように物を無償で借りる関係は、民法上「使用貸借」と呼ばれます(民法593条)。口頭の約束や、日常的に鍵を預かって使っていたという関係でも、使用貸借が成立していると考えられる場合があります。
使用貸借の借主は、契約や車の性質に従った使い方をする義務(同法594条1項)と、返すまでの間、相応の注意を払って車を保管する義務(同法400条)を負います。交際相手から借りた車だからといって、求められる注意の程度が軽くなるわけではありません。
借主は損傷を元に戻す義務を負うが、例外もある
2020年4月施行の改正民法では、借りた物に損傷が生じたとき、使用貸借が終わった時点で借主がその損傷を原状に戻す義務を負うことが明文化されました(同法599条3項本文)。別れることで車の貸し借りの関係も終わるのが通常ですから、事故による損傷が残っていれば、その修理代の負担が問題になります。
ただし、損傷が借主の責任によらない事由で生じたときは、この義務を負いません(同項ただし書)。たとえば、駐車中に当て逃げされた、信号待ちで後ろから追突されたといった場合は、損傷の責任は第三者にあり、修理代は本来その第三者に求めるべきものです。運転していたのが自分であっても、損傷が誰の落ち度で生じたかによって、修理代を負担すべき人は変わります。
なお、借主の不注意で損傷させた場合には、契約上の義務違反(同法415条)とは別に、不法行為(同法709条)として賠償を求められることもあります。
第三者を巻き込んだ事故は分けて考える
事故の相手方がいる場合、その相手方への賠償と、交際相手の車の修理代とは別の問題です。相手方の車の修理代は、車の持ち主である交際相手の自動車保険の対物賠償で支払われることが多い一方、運転者の範囲が限定されているなどの理由で保険が使えない場合もあります。人身事故の場合には、車の持ち主も運行供用者として責任を負うことがあり(自動車損害賠償保障法3条)、持ち主が賠償した分を後から運転者に求めることも考えられます。この記事では、主に交際相手の車そのものの修理代を取り上げます。
別れた後に修理代を請求されたときに確認したいこと
交際中の「払わなくていい」は後から撤回できるのか
事故の直後に相手から「気にしなくていい」「修理代はいらない」と言われていたのに、別れた後になって請求されたというご相談は珍しくありません。
相手が修理代の請求を確定的に放棄する意思を示していた場合、それは債務の免除(民法519条)にあたり、後から一方的に撤回することはできないと考えられます。一方で、事故直後の気遣いの言葉にとどまる場合や、「今は払わなくていい」と支払の時期を待っただけの場合は、請求そのものが消えたとは言いにくいこともあります。
免除があったと主張するには、その言葉が交わされたことと、その言葉の意味を示す資料が重要になります。LINEやメッセージのやり取り、修理について相談した記録などは、消さずに残しておくことをお勧めします。
交際中に支払を約束していた場合
反対に、事故の後に「修理代は自分が払う」と約束していた場合、その約束は口頭やメッセージであっても効力を持ち得ます。誓約書や覚書の形で書面にしていたときも同様です。交際相手との間で作った書面の効力については、【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で詳しく扱っています。
ただし、約束した金額が実際の損害と比べて著しく高い場合や、別れ話の最中に「払わないなら職場に言う」などと迫られて署名した場合には、その効力を争う余地があります。この点は脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いもあわせてご覧ください。
請求の内訳を費目ごとに分ける
別れた後の請求では、「修理代」という名目に、事故と関係のない費用が加わっていることがあります。まずは請求の内訳を確認し、次のように費目ごとに分けて整理すると判断しやすくなります。
| 費目 | 整理の視点 |
|---|---|
| 事故による損傷の修理費 | 事故との関係と金額の相当性を、見積書・修理明細・写真で確認する |
| 事故前からあった傷やへこみの修理費 | 事故による損傷でなければ、原則として負担する理由はない |
| 代車費用・レンタカー代 | 実際に代わりの車が必要だったか、期間が相当かを確認する |
| 保険を使ったことによる保険料の上昇分 | 賠償の対象としては認められにくいとされている |
| 車の買い替え費用やローンの残額 | 修理が可能であれば、原則として修理費の範囲で考える |
| 車が壊れたことによる精神的な苦痛 | 物の損傷についての慰謝料は、原則として認められにくい |
| 交際中のデート代やガソリン代 | 事故とは別の問題として切り分けて考える |
交際中の金銭のやり取りまで含めて請求されている場合は、別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いも参考になります。
修理代として負担する範囲の目安
修理費は「必要かつ相当な範囲」が基本
事故で損傷した車の賠償は、修理が可能であれば、損傷を事故前の状態に戻すために必要かつ相当な修理費が基本となります。修理工場の見積書や修理明細、損傷部分の写真によって、どの部分をどのように直すのかを確認することが出発点です。
相手がまだ修理をしていない段階で、見積額をもとに請求されることもあります。この場合も、見積の内容が事故による損傷の範囲に見合っているかを確認する点は変わりません。
修理費が車の時価を上回る場合
年式の古い車などでは、修理費が車の時価を上回ることがあります。このような場合は「経済的全損」と呼ばれ、賠償は事故当時の車の時価額が上限になるのが一般的です(買い替えに必要な諸費用を含めて考えることもあります)。時価は、同じ車種・年式・走行距離などの中古車を市場で取得するのに必要な価格を基準に考えられています。
相手にとって思い入れのある車であっても、時価を大きく超える修理費を全額負担しなければならないとは限りません。
評価損や代車費用
修理をしても事故歴によって車の価値が下がったとして、いわゆる評価損(格落ち)を請求されることがあります。評価損は、登録から間もない車や市場で人気の高い車種などで認められることがある一方、認められない例も多く、損傷の程度や車の状態によって判断が分かれます。
代車費用は、修理期間中に実際に代わりの車を使う必要があり、その費用が生じた場合に問題になります。相手がもともとほとんど車を使っていなかった場合や、修理期間が必要以上に長引いた場合には、請求額の全部が認められるとは限りません。
保険で賄える部分を確認する
相手の車両保険を使う場合
車の持ち主である相手が車両保険に加入していれば、修理費を保険で賄える可能性があります。その場合、運転していた側との間で問題になるのは、免責金額(自己負担額)の部分などに絞られることもあります。
保険会社が保険金を支払うと、保険会社は持ち主の賠償請求権を引き継ぎ、運転者に請求できるのが原則です(保険法25条)。もっとも、多くの約款では、持ち主の承諾を得て正当に車を使っていた人に対しては、飲酒運転などの場合を除いて請求しない扱いとされています。実際の扱いは、相手の保険の約款を確認する必要があります。
自分の保険の「他車運転特約」
運転した側が自分の車について任意保険に加入している場合、他人から借りた車を運転中の事故を補償する特約が付いていることがあります。ただし、借りた車の損傷そのものが補償されるのは、自分の契約に車両保険が付いている場合に限られるなど、条件が設けられているのが一般的です。
また、交際相手の車を日常的に使っていた場合には、「常時使用する車」として特約の対象外とされる可能性があります。交際中に頻繁に借りていた車ほど、特約が使えるかどうかを事前に確認しておく必要があります。
運転者の範囲が限定されている場合
相手の保険が「本人・配偶者限定」などになっている場合、交際相手は通常この範囲に含まれません。内縁関係にあれば配偶者として扱う約款もありますが、交際しているだけの関係では難しいことが多いでしょう。保険が使えないことが事故の後で分かり、修理代の負担をめぐって関係がこじれることもあります。いずれの場合も、保険証券や約款の内容を確かめたうえで、負担の範囲を話し合うことが大切です。
修理代を請求できる期間
使用貸借の1年の期間制限
使用貸借では、借主が契約の本旨に反する使い方をしたことによる損害の賠償は、貸主が車の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならないとされています(民法600条1項)。また、この損害賠償請求権の時効は、貸主が返還を受けた時から1年が経過するまでは完成しません(同条2項)。
交際中に起きた事故の修理代がこの規定の対象になるかどうかは、事故の態様などによって判断が分かれ得るところです。
不法行為として請求される場合
貸主は、使用貸借の枠組みとは別に、不法行為として損害賠償を求めることも考えられます。この場合、物の損傷についての請求は、損害と加害者を知った時から3年で時効にかかるのが原則です(同法724条1号)。
期間がどの程度経過しているかによって、請求する側・請求された側のいずれにとっても見通しは変わります。1年が過ぎたことだけを理由に支払を拒めると即断せず、個別の事情に照らして検討することをお勧めします。また、一部を支払ったり、支払う意思をメッセージで伝えたりすると、債務を承認したものとして時効が更新されることがあります(同法152条1項)。男女間の請求ごとの期間は、男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかで整理しています。
別れた後のやり取りで気をつけたいこと
連絡は記録が残る形で
別れた相手と修理代の話をするとき、直接会って話そうとすると感情的な対立になりやすく、言った言わないの争いも生じます。見積書や修理明細の写しを送ってもらう、支払額や支払方法をメッセージで確認するなど、記録が残る形でやり取りすることが基本です。
請求する側も、修理代の清算という正当な用件であっても、相手が拒んでいるのに何度も連絡を重ねたり、自宅や職場に出向いたりすると、別の問題に発展するおそれがあります。この点は【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面で取り上げています。
支払う場合は清算の内容を書面に残す
修理代の支払で合意できた場合は、金額、支払方法、支払期限に加えて、この支払によって車の修理代に関する問題が解決したことを確認する条項を入れた書面を作っておくと、後から追加の請求を受けるおそれを減らせます。清算条項の考え方は清算条項の意味|後から追加請求されないためにで解説しています。分割で支払う場合は、支払が遅れたときの取扱いもあわせて決めておく必要があります。
修理代を名目にした過大な要求への対応
別れた相手から、修理代を名目に実際の損害を大きく超える金額を求められたり、「払わないなら家族や職場に知らせる」といった言葉とともに支払を迫られたりする場合もあります。請求の根拠が正当であっても、その伝え方によっては脅迫や恐喝の問題になり得ます。このような状況で一人で対応を続けるのは負担が大きいため、弁護士を窓口にして、請求の範囲を整理したうえで話し合うことも選択肢の一つです。
よくあるご質問
修理代を分割で支払うことはできますか。
相手が同意すれば、分割での支払も可能です。分割にする場合は、毎月の支払額と支払日、支払が遅れた場合の取扱い、完済によって修理代の問題が解決することを書面で確認しておくと、支払の途中で条件をめぐって争いになるのを防ぎやすくなります。
相手が修理をしないまま車を売却した場合も、修理代を払う必要がありますか。
車を修理するかどうかは持ち主の判断に委ねられており、修理をしていなくても、事故による損傷について賠償が問題になることはあります。もっとも、その額は見積額をそのまま当てはめれば足りるとは限らず、事故前後の車の状態や売却時の事情なども踏まえて、実際の損害がどの程度だったかを確認する視点が必要です。
車を貸した側ですが、修理代を払うと言っていた相手と連絡が取れなくなりました。
まずは、事故の状況、修理の見積や明細、相手が支払を約束したやり取りなどの資料を整理します。そのうえで、書面で支払を求める、簡易裁判所の手続を利用するといった方法が考えられます。相手と連絡が取れない場合の進め方は、【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法をご覧ください。
まとめ
- 交際相手の車を無償で借りていた場合は、使用貸借として考え、借主は損傷を原状に戻す義務を負います(民法593条・599条3項)。
- ただし、当て逃げや追突など借主の責任によらない損傷については、この義務を負いません(同法599条3項ただし書)。
- 事故後に「払わなくていい」と言われていた場合は、それが債務の免除にあたるかどうかが問題になり、やり取りの記録が重要です(同法519条)。
- 請求された金額は、事故による修理費と、事故と関係のない費用とに分けて整理します。
- 修理費が車の時価を上回る場合は、時価額が賠償の上限となるのが一般的です。
- 相手の車両保険や自分の他車運転特約で賄える部分がないか、約款の内容を確認します(保険法25条)。
- 請求の期間は、使用貸借の1年の期間制限と不法行為の3年の時効の双方を踏まえて検討します(民法600条・724条1号)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。交際中の事故をめぐる修理代について、負担すべき範囲や保険との関係を整理し、相手方とのやり取りの窓口となることも可能です。
別れた相手から修理代を請求されてお困りの方も、貸した車の修理代を請求したいとお考えの方も、どうぞお気軽にご相談ください。


