【不貞慰謝料】請求された側から見た『証拠の弱点』の見つけ方

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

慰謝料を請求され、相手方から「証拠はそろっている」と告げられると、その一言だけで反論の余地がないように感じてしまうことがあります。しかし、示された資料がどこまでを示せるものなのかは、資料の種類だけで決まるものではなく、その資料から相手方の言いたい結論までにどれだけ距離があるかによって変わってきます。この記事では、請求を受けた側の立場から、相手方の証拠のどこを見れば弱い部分が浮かび上がるのかを、順を追って整理します。

「証拠の弱点」とは何を指すのか

 弱点という言葉からは、写真が不鮮明である、録音が途切れているといった資料そのものの欠けを思い浮かべる方が多いかもしれません。もっとも、実際に争いになりやすいのは、資料そのものの出来ばえよりも、その資料と、相手方が導きたい結論との間にある隙間のほうです。

弱点は資料の中ではなく、資料と結論の間にある

 たとえば、二人で食事をしている写真は、その日にその場所で二人が会っていたことをよく示します。しかし、そこから性的関係があったという結論までには、いくつもの段差があります。鮮明でよく撮れた写真であっても、この段差を埋めるものではありません。逆に、粗い画像であっても、他の記録と組み合わさることで段差が小さくなることもあります。

 つまり、探すべきは「資料の質が低いところ」ではなく、「相手方の説明が、どの一段を飛び越えているか」という点です。この見方に立つと、手元に届いた資料の枚数や種類に圧倒されることが少なくなります。

「反論」には三つの層がある

 請求を受けた側の反論は、実際には次の三つの層に分かれています。証拠の弱点が中心的に働くのは一つ目の層であり、二つ目や三つ目の層では、証拠の弱点とは別の材料が必要になります。

争う対象具体的に何を争うのか証拠の弱点の効き方
事実そのものそのような関係があったといえるのか中心的に働く
責任の発生関係があったとしても賠償責任が生じるのか別の事情の主張が要る
金額支払うとしていくらが相当か部分的に働く


 二つ目の層には、不貞の当時に夫婦関係がすでに破綻していたという主張や、既婚であることを知らず知らないことに落ち度もなかったという主張、消滅時効といった論点が含まれます。これらは資料の弱点とは別の話であり、それぞれ独立した検討が必要になりますので、詳しくは関連する記事をご覧ください。

まず「何が示されているのか」を確定する

 弱点を探す作業は、資料を眺めることからではなく、いま自分が何を見せられているのかをはっきりさせることから始まります。ここが曖昧なまま反論を組み立てると、示されてもいないものに向かって反論することになりかねません。

交渉の段階では、一部しか示されないことが多い

 交渉の段階では、相手方に手持ちの資料をすべて開示する法律上の義務はありません。そのため、通知書に「証拠がある」と書かれていても、それが何を指すのかが明らかにされないことは珍しくありません。逆に、示された分がすべてだとも限らず、あえて一部だけを示している場合もあります。

 この段階でできるのは、何についての、いつの、どのような形の資料なのかを具体的に確認することです。示された範囲が定まらないうちに詳しい説明をしてしまうと、こちらの説明のほうが後から材料になることがあります。

訴訟になると「何を示すためのものか」が書面で示される

 訴訟に進むと、証拠の見え方が変わります。文書を提出して書証の申出をするときは、文書の標目、作成者及び立証趣旨を明らかにした証拠説明書を提出しなければならないとされています(民事訴訟規則137条1項)。また、証拠の申出は、証明すべき事実とその証拠との関係を具体的に明示してしなければならないとされています(同規則99条1項)。

 つまり、相手方は「この資料で何を証明するつもりか」を自ら書いて出すことになります。弱点探しの出発点は、この立証趣旨の欄と、実際の資料の中身がかみ合っているかを照らし合わせるところにあります。資料からは読み取れないところまで踏み込んだ立証趣旨が書かれていれば、そのずれ自体が指摘の対象になります。

原本か写しか、データそのものか

 文書の提出は、原則として原本、正本又は認証のある謄本ですることとされています(民事訴訟規則143条1項)。写真やメッセージの画面を印刷したものが出されている場合、元のデータが手元にあるのか、どの端末のどの画面を写したものかが問題になることがあります。

 なお、令和8年5月21日に民事訴訟手続のデジタル化が全面施行され、従来の書証や準文書に加えて、電磁的記録そのものを対象とする証拠調べの規定が設けられました(民事訴訟法231条の2)。どの方法で提出されているかによって、確認できることや確認の求め方が変わる場面もありますので、書面の表記に目を通しておく意味はあります。

弱点は四つの型に分けて探す

 資料の種類ごとに考え始めると、数が多いほど手が止まります。次の四つの型に当てはめて順に確かめていくと、種類が違っても同じ手順で見ることができます。

確かめる問い問題になりやすいところ
つながりそこから結論まで届くか親密さは示せても関係までは示せない
特定誰が、いつ、どこかが定まるか人物や日時が画面から読み取れない
範囲いつからいつまでを覆うか一時期の記録で全期間を語っている
前提誰かの説明に寄りかかっていないか報告書の評価部分や伝聞の記載


①つながりの弱点

 その資料が示す事実と、相手方の言いたい結論との間に、いくつ段差があるかを数えます。段差が多いほど、他の資料で埋める必要が出てきます。連絡の頻度や親しさを示す記録は、関係の存在そのものを直接に示すものではなく、他の事情と合わさって意味を持つ性質のものです。

②特定の弱点

 画面や写真から、誰であるか、いつであるか、どこであるかが読み取れるかを確かめます。表示されている名前が本人のものと結び付くのか、日付が写り込んでいるのか、写っているのが本人だと判別できるのか。特定が弱いまま積み重ねても、積み重ねた分だけ強くなるとは限りません。

③範囲の弱点

 資料が覆っているのは、いつからいつまでかを確かめます。ある月の記録しかないのに、それより前から続いていたかのように書かれている場合、その前後については別の裏づけが要ります。範囲の弱点は、事実そのものよりも、期間や態様の評価に効いてくることが多い点が特徴です。

④前提の弱点

 資料の意味づけが、誰かの説明に寄りかかっていないかを確かめます。調査報告書には、見聞きした行動の記録と、調査した側の評価や推測とが同じ冊子の中に並んでいることがあります。また、配偶者の方が語った内容がそのまま前提として書かれていることもあります。事実の記録と、そこに付けられた説明とを分けて読むことが必要です。

 なお、それぞれの資料に固有の見方については、メッセージ、写真や動画、調査報告書などの記事で個別に扱っていますので、そちらもあわせてご覧ください。

弱点が見つかっても結論が変わらないことがある

 弱点を見つけることと、請求が認められなくなることとは、同じではありません。この点を取り違えると、見通しを立て損ねることになります。

判断は資料を一つずつ切り離して行われるわけではない

 裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により事実についての主張を真実と認めるべきかを判断するものとされています(民事訴訟法247条)。一つの資料の弱さは、他の資料や、当事者の説明の一貫性といった事情と合わせて評価されます。ある一点が崩れても、全体として同じ結論に至ることはあります。

効き方は「請求が通らない」だけではない

 証拠の弱さは、請求そのものが認められないという形で表れるとは限りません。認められる期間が短くなる、態様の評価が変わる、といった形で、金額の側に表れることのほうが多いといえます。ゼロか満額かの二択で考えないほうが、実際の解決に近い見通しになります。

相手方は後から補うことができる

 弱点を指摘すれば、相手方はその点を補おうとします。補える材料が相手方の側に残っていれば、指摘は結果として相手方の準備を助けることにもなります。次の章で触れるように、指摘の順序が意味を持つのはこのためです。

弱点をどう述べるかには決まりがある

 思い当たる弱点があっても、述べ方が整っていなければ、争点として扱われないことがあります。とくに訴訟では、述べ方そのものに定めが置かれています。

否認には理由が求められる

 準備書面において相手方の主張する事実を否認する場合には、その理由を記載しなければならないとされています(民事訴訟規則79条3項)。また、文書の成立を否認するときは、その理由を明らかにしなければならないとされています(同規則145条)。答弁書についても、訴状に記載された事実に対する認否や抗弁事実を具体的に記載することが求められています(同規則80条1項)。

 単に「違います」と述べるだけでは、争点として深まりません。どの部分が、なぜ、どのように違うのかを述べることで初めて、相手方の側にも説明が求められる状態になります。理由の中身が問われるという点で、否認は言い切りではなく説明だと考えたほうが実際に近いといえます。

「知らない」と「違う」は同じではない

 自分が関わっていない事柄については知らないと述べ、事実と異なる部分については理由を添えて否認する、という区別が求められます。関わったはずの事柄について知らないと述べると、その説明自体の信用性が問われることがあります。また、認否を明らかにしないまま黙っていると、争っていないものとして扱われる場面もあります。

書面に残した言葉は後から動かしにくい

 交渉段階の回答書であっても、後の手続で示されることがあります。事実関係の記憶が整理できていない段階で細かく書き込むと、後から説明を変えることが難しくなります。分かっていることと分かっていないことを、そのまま分けて書いておくほうが安全です。

指摘する順序とタイミング

 弱点を見つけた後にすることは、すべてをその場で伝えることではありません。順序とタイミングによって、同じ指摘でも働き方が変わります。

早い段階ですべてを示すと、補う機会を与えることになる

 交渉の初期に手の内をすべて明かすと、相手方は不足している部分を把握し、その部分を補う時間を得ます。一方で、何も述べないまま進めば、相手方は請求を維持したまま次の手続に進みます。どこまでを早めに述べ、どこからを後の段階に残すかは、相手方が持っていそうな材料と、こちらの目的によって変わります。

黙っていることが有利に働くとは限らない

 訴訟に至った後は、期限までに認否を示さないことが不利に働く場面があります。とくに、指定された期日に何もしないままでいると、相手方の主張がそのまま前提とされて進むことがあります。交渉段階での沈黙と、訴訟が始まった後の沈黙は、意味がまったく異なります。

弱点の指摘が、別の事実を認めたことになる場合がある

 「その日はたしかに会ったが、そこでは何もしていない」という説明は、会っていた事実を認めたうえでの反論です。一つの弱点を突くために、それまで争えていた部分を自分から確定させてしまうことがあります。どの弱点を突くと、代わりに何を認めることになるのかを、述べる前に確認しておく必要があります。

 弱点を述べる前に確認しておきたい点をまとめると、次のようになります。

  1. 示された資料が何についてのものか、範囲が確定しているかを確かめる。
  2. その指摘によって、こちらが認めることになる事実は何かを書き出す。
  3. 指摘した場合に、相手方が補える材料を持っていそうかを考える。
  4. 述べる場所は交渉の場か、書面かを分けて考える。
  5. 記憶が曖昧な部分は、曖昧なまま伝えるという選択肢も検討する。


請求する側から見た同じ景色

 ここまでの内容は、請求する側にとっては、そのまま自分の立証の点検表になります。手持ちの資料について、結論までの段差はいくつあるか、人物と日時は特定できるか、覆っている期間はどこまでか、誰かの説明に寄りかかっていないかを、あらかじめ確かめておくことになります。

 また、相手方が理由を付けて否認してきた場合、その理由の中に相手方自身の説明が現れます。争いが深まることは、それ自体が不利な展開とは限らず、双方の言い分の食い違いが明らかになる過程でもあります。証拠の弱点をめぐるやり取りは、どちらの立場から見ても、事実の輪郭をはっきりさせていく作業だといえます。

よくあるご質問

相手方に証拠を見せるよう求めることはできますか

 求めること自体は自由ですが、交渉の段階で相手方がこれに応じる法律上の義務はありません。応じてもらえない場合もあります。訴訟になれば、相手方は主張を裏づけるために証拠を提出することになりますので、その段階で内容を確認できるのが通常です。

「まだ出していない証拠がある」と言われました

 そのような説明があったとしても、実際に何がどこまであるのかは、その言葉だけでは分かりません。あると仮定して慌てて認めることも、ないと決めつけて強く否定することも、いずれも後から動かしにくい結果を招くことがあります。分かっている範囲での説明にとどめておくのが無難です。

弱点を指摘すると、かえって金額が上がることはありますか

 事実に反する説明を重ねた場合や、対応の経緯そのものが相手方の精神的苦痛を大きくしたと評価される場合には、そうした事情が考慮されることがあります。もっとも、理由を示して事実関係を争うこと自体が不利に扱われるわけではありません。争う内容と、争い方とを分けて考えることが大切です。

まとめ


  1. 証拠の弱点は、資料そのものの出来ばえではなく、資料と結論との間の距離に現れる。
  2. 反論は「事実」「責任の発生」「金額」の三つの層に分かれ、証拠の弱点が中心的に働くのは一つ目の層である。
  3. 訴訟では、相手方が立証趣旨を記載した証拠説明書を提出することとされている(民事訴訟規則137条1項、99条1項)。
  4. 文書の提出は原則として原本等によるとされ(同規則143条1項)、令和8年5月21日からは電磁的記録そのものを対象とする証拠調べも設けられている(民事訴訟法231条の2)。
  5. 弱点は「つながり」「特定」「範囲」「前提」の四つの型に分けて確かめると整理しやすい。
  6. 判断は資料を切り離さず全体で行われるため(民事訴訟法247条)、弱点が見つかっても結論が変わらないことがある。
  7. 否認には理由が求められ(民事訴訟規則79条3項、145条)、文書の成立を否認するときも理由を明らかにする必要がある。


ご相談について

 証拠の見方や反論の順序は、手元にある資料と、相手方の出方によって変わります。判断に迷う段階でお話をうかがえれば、述べ方の選択肢を広く残したまま進めやすくなります。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。請求を受けた方からのご相談も、請求をお考えの方からのご相談も承っておりますので、お一人で抱えず、早い段階でご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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