【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択
成人した子が入院した、あるいは通院を続けているのに、病院に問い合わせても「ご本人の同意がないとお答えできません」と言われ、病名も今の状態も分からない。親としては心配が募り、「親なのになぜ教えてもらえないのか」と感じる方も少なくありません。この記事では、成人した子の病状を親が医師から聞ける場面と聞けない場面を、個人情報保護法と医師の守秘義務の考え方から整理し、聞けないときに親ができることを解説します。
この記事は、2026年10月時点の個人情報保護法、刑法、厚生労働省・個人情報保護委員会の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」の考え方をもとにしています。個々の医療機関の運用は異なることがあり、法改正があった場合は取扱いが変わることがあります。
成人した子の病状は「本人の情報」として扱われる
病名や検査結果、治療の内容は、子本人の個人情報です。なかでも病歴は、個人情報保護法で「要配慮個人情報」とされ、特に慎重な取扱いが求められています。医療機関は、法律が定める例外にあたる場合を除き、本人の同意を得ずに第三者へ病状を伝えることができません(個人情報保護法27条1項)。ここでいう第三者には、親やきょうだいなどの家族も含まれます。
医師には守秘義務もある
医師には、個人情報保護法とは別に、刑法上の守秘義務があります。正当な理由なく業務上知った人の秘密を漏らすと、6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金の対象となります(刑法134条1項)。看護師や精神保健福祉士なども、それぞれの資格法で同じような義務を負っています。病院の窓口が慎重な対応をとるのは、こうした義務を踏まえたものです。
親であることだけでは理由にならない
子が18歳未満であれば、親は親権者として法定代理人の立場にあり、医療機関も親に説明するのが通常です。しかし、子が18歳になると親権は終わり、親は法律上「家族のひとり」という位置づけになります。治療費を負担していることや、同居していることだけで、病状を聞く権利が生まれるわけではありません。家族を名乗る電話に病状を答えない病院が多いのも、なりすましによる情報の漏れを防ぐためです。
親が病状の説明を受けられる主な場面
一方で、成人した子の場合でも、親が医師から説明を受けられる場面はあります。主なものを表にまとめます。
| 場面 | 考え方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 子本人が同意している | 本人の同意があれば第三者に伝えることができる | 同意の範囲(病名だけか、治療方針までか)を確かめておく |
| 子と一緒に説明を受ける | 本人と家族が同時に説明を受ける場合、本人の同意があるものと考えられる | 本人が同席を嫌がる場合は成り立たない |
| 命や身体を守るために必要で、本人の同意を得るのが難しい | 意識がない、重い状態で意思を確認できないなどの場合は例外として説明できる(同法27条1項2号) | 医師の判断によるもので、家族の求めで決まるものではない |
| 入院の手続で家族の関与が法律上求められる | 医療保護入院では家族等の同意が必要とされ、その判断に必要な説明を受ける | 説明の範囲は入院の判断に関わる部分が中心になる |
本人が同意している場合
もっとも確実なのは、子本人の同意です。同意は書面に限られず、口頭でのものも含まれますが、病院によっては同意書の提出を求めることがあります。入院時の書類に「病状説明を受ける家族」を記入する欄を設けている医療機関もあり、ここに親の名前があれば、その範囲で説明を受けられるのが一般的です。
命に関わる場面の例外
子が意識を失って搬送された場合など、本人の同意を得ることが難しく、本人の生命や身体を守るために必要な場合には、医師は本人の同意がなくても家族に説明することができます。ただし、これは医師が状況を見て判断するもので、「親が求めたから説明される」という性質のものではありません。
医療保護入院の場合
精神保健福祉法に基づく医療保護入院では、本人の同意によらない入院について家族等の同意が必要とされています。同意を求められる家族は、入院の必要性について説明を受けることになります。同意することの意味については、別の記事で詳しく解説しています。
カルテの開示を求められるのは誰か
医師の口頭の説明とは別に、カルテなどの診療記録の開示を求める手続もあります。開示を求められるのは、原則として本人です。代理人による請求も認められていますが、ここでいう代理人は、成年後見人のような法定代理人か、本人から委任を受けた任意代理人に限られます。親であることだけを理由に開示を求めることはできません。
子が判断能力の低下により後見や保佐の開始を受け、親が成年後見人に選ばれている場合には、法定代理人として開示を求めることになります。ただし、開示することで本人や第三者の権利利益を害するおそれがある場合には、医療機関が全部または一部を開示しない判断をすることもあります。
病院に問い合わせるときに気をつけたいこと
心配のあまり、本人になりすまして電話をかけたり、病院の職員に繰り返し説明を迫ったりすると、病院との関係がこじれるだけでなく、子が知ったときに親への不信が深まるおそれがあります。病院側も、本人の同意を確認できないまま答えることはできない立場にあります。
問い合わせる場合は、親であることを名乗ったうえで、「本人の同意があれば説明を受けられるか」「家族として相談できる窓口はどこか」を尋ねるのが現実的です。あわせて、誰に、いつ、何を尋ね、どのような回答だったかを記録しておくと、後で支援者や弁護士に相談するときに状況を正確に伝えやすくなります。
子が「親には言わないで」と伝えている場合
子本人が、医師に対して親へ説明しないよう求めていることもあります。この場合、医療機関は原則としてその意思を尊重します。親との関係が難しくなっている家庭では、子が「治療の場まで親に入られたくない」と感じていることも少なくありません。
ここで病院に強く迫ったり、子に黙って情報を集めようとしたりすると、子が通院そのものをやめてしまうおそれがあります。治療が続いていること自体が大切だと考え、本人との関係を保つことを優先するほうが、結果として状況が見えやすくなることがあります。
子の同意を得るための工夫
- 全部ではなく、知りたい範囲を絞って頼みます。「病名まで」ではなく「通院が続いているか」「急ぎで家族が気をつけることはあるか」といった形にすると、受け入れられやすくなります。
- 次の診察に一度だけ同席させてほしい、と期限を区切って頼みます。
- 親が知りたい理由を、心配や監視ではなく「生活の支え方を間違えないため」と具体的に伝えます。
- 親から直接頼むと反発が強い場合は、主治医や病院の相談窓口、支援者など、子が話しやすい人を通して意向を確かめます。
病状を聞けないときにも親ができること
病状の説明を受けられない場合でも、親にできることは残っています。
- 家庭での様子を医師に伝えることはできます。医師が家族から情報を受け取ることは、病状を家族に伝えることとは別に扱われます。
- 病院の医療相談室や地域連携室には、医療ソーシャルワーカーが置かれていることが多く、家族としての相談を受け付けています。
- 保健所や精神保健福祉センターでは、本人が来なくても家族からの相談を受け付けています。
- 入院費などの支払いを求められたときは、病状とは切り分けて、親に支払う義務があるかを確かめます。
家庭での暴力や金銭の要求など、医療だけでは解決しない問題が重なっている場合は、医療の窓口と法律の窓口を分けて考えることが大切です。
よくあるご質問
入院費を親が払っていれば、病状を教えてもらえますか
費用を負担していることだけでは、病状の説明を受ける根拠にはなりません。入院の保証人や連絡先として署名していても同じです。説明を受けたい場合は、子本人の同意を得る形をとることになります。
弁護士に依頼すれば、病院から病状を聞き出せますか
弁護士が親の代理人になっても、子本人の同意がない限り、病状の開示を受ける権限はありません。弁護士にできるのは、子の暴力や金銭の要求から親を守ることや、子との話し合いの窓口を親から切り替えることなどです。そのうえで、子が医療とつながるよう支援者と連携していくことになります。
子に判断能力がないように見える場合はどうすればよいですか
判断能力の低下が続いている場合には、家庭裁判所に後見・保佐・補助の開始を申し立てる方法があります。ただし、本人の権利を大きく制限する手続でもあるため、医師の診断や本人の生活の状況を踏まえて慎重に検討する必要があります。
未成年のうちは説明を受けていたのに、18歳を過ぎて急に断られました
18歳になった時点で、子は自分の医療情報について自分で判断する立場になります。それまで親に説明していた医療機関でも、成人後は本人の意思を確認する運用に切り替えることがあります。通院を続けている医療機関であれば、次の受診の際に、親への説明について本人の意向を医師から確かめてもらうよう頼む方法も考えられます。
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成人した子の病状は、親であっても本人の同意なく知ることは難しいのが原則です。それでも、本人との関係を保ちながら同意を得る道を探ること、家族として相談できる窓口を使うこと、医療以外の問題を別の窓口で整理することで、親が支えられる範囲は広がります。当事務所では、子の暴力や金銭の要求などに悩む親御さんの代理人として、自立支援カウンセラーと連携しながら対応しています。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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