【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲
本記事は2026年10月時点の法令に基づいて作成しています。2025年6月1日の刑法改正により「懲役」は「拘禁刑」に改められており、罰則はその表記で記載しています。
同居している子が、家で飼っている犬や猫を叩く、蹴る、乱暴に扱う。親として止めたいのに、止めに入ると自分に矛先が向きそうで動けない。そうしたご相談は、家庭内暴力のご相談の中で一定の割合を占めています。
ペットへの暴力は「家の中のこと」として抱え込まれやすい一方で、法律上は動物愛護管理法や刑法の対象になり得る行為です。また、ペットに向けられた暴力が、いずれ家族に向かうのではないかという不安を抱える親御さんも少なくありません。この記事では、ペットへの暴力が法律上どう扱われるか、その場でできること、相談先ごとに期待できることを整理します。
ペットへの暴力を「家庭のこと」で終わらせないほうがよい理由
ペットは言葉で被害を訴えられず、逃げ場もありません。けがをしても、家族が受診させなければ外から気づかれにくいという事情があります。
また、海外を中心に、動物への暴力と家族への暴力が同じ家庭で重なって見られることがあるという研究が積み重ねられています。もちろん、ペットに手を上げた子が必ず人に暴力をふるうわけではありません。ただ、物や動物に向いていた苛立ちが、別の家族に向く場面もあります。ペットへの暴力は、家庭の中で何が起きているかを知らせる一つのサインとして受け止め、早めに外部の目を入れることが大切です。
さらに、ペットを「人質」のように扱われることで、親が子の要求を断れなくなる構図が生まれることもあります。この点は後で詳しく触れます。
ペットへの暴力は法律上どう扱われるか
ペットへの暴力には、主に動物愛護管理法と刑法の器物損壊罪が関係します。
動物愛護管理法の虐待・殺傷
動物愛護管理法は、犬・猫・いえうさぎなどの「愛護動物」をみだりに殺したり傷つけたりした者に、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金を定めています(同法44条1項)。けがに至らなくても、身体に外傷が生じるおそれのある暴行を加えることや、えさや水を与えずに衰弱させることなどは「虐待」とされ、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です(同条2項)。
愛護動物には、犬や猫のほか、人が飼っている哺乳類・鳥類・爬虫類が含まれます(同条4項)。この規定は、飼い主が誰であるかを問いません。子が自分で飼っているペットを傷つけた場合でも、対象になり得ます。
器物損壊罪として扱われる場面
法律上、ペットは「物」として扱われます。そのため、親が飼い主であるペットを子が傷つけた場合、他人の物を損壊・傷害したとして器物損壊罪(刑法261条)が問題になることがあります。法定刑は3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料です。
器物損壊罪は、被害者からの告訴がなければ起訴できない親告罪です(刑法264条)。一方、刑法には親族間の窃盗などについて刑を免除する特例(244条)がありますが、器物損壊罪はこの特例の対象に含まれていません。親子の間であっても、刑事手続の対象から外れるわけではない点は押さえておきたいところです。
| 観点 | 動物愛護管理法44条 | 器物損壊罪(刑法261条) |
|---|---|---|
| 守っているもの | 動物の命と身体 | 飼い主の財産 |
| 飼い主が誰か | 問わない | 他人(親など)のペットが対象 |
| 告訴の要否 | 不要 | 必要(親告罪) |
| 親族間の特例 | 対象外 | 対象外 |
実際に刑事手続が進むかどうかは、けがの程度や繰り返しの有無、証拠の有無などによって変わります。動物の死亡や重いけがのケースに比べ、けがが軽い事案では立件に至らないこともあります。だからといって相談する意味がないわけではなく、相談の記録が後の対応の土台になります。
「ペットを傷つける」と言われたとき
「金を出さないとこの猫がどうなっても知らない」といった言葉で要求を通そうとする場面もあります。ペットは財産として扱われるため、ペットに危害を加えると告げて親を怖がらせる行為は、脅迫罪(刑法222条)の検討対象になり得ます。
お金の要求が伴う場合は恐喝罪も問題になりますが、恐喝罪には、同居の親族などの間では刑が免除される特例が及びます(刑法251条・244条)。親子間のお金の問題は、刑事手続だけでは解決しにくい場面があるということです。だからこそ、要求に応じ続ける前に、窓口を代える選択肢を知っておく意味があります。
その場でできること|ペットと家族の安全を先に
- 子が興奮しているときは、無理に間に入らず、まずご自身の安全を確保してください。
- ペットにけがの様子があれば、早めに動物病院を受診させてください。
- 暴力が続きそうな場合や刃物などが持ち出された場合は、ためらわず110番通報してください。
- 落ち着いた後、ペットを親戚・知人宅やペットホテル、動物病院などに一時的に預けることを検討してください。
- いつ、何があったかを、その日のうちに記録してください。
ペットを子から物理的に離すことは、ペットの安全だけでなく、親が子の要求に縛られない状態をつくるうえでも役立ちます。親御さんご自身が一時的に家を離れる場合、ペットを連れて入れる避難先は限られるため、預け先を早めに考えておくと動きやすくなります。
相談先ごとにできること
| 相談先 | 主に期待できること |
|---|---|
| 警察(緊急時は110番、緊急でなければ#9110や最寄りの警察署) | その場の制止、動物虐待・器物損壊としての相談、相談記録の作成 |
| 動物愛護相談センター・保健所 | 動物虐待の相談、飼育状況についての助言 |
| 動物病院 | ペットの治療、けがの状態の記録 |
| 精神保健福祉センター・保健所の精神保健相談 | 子の精神的な不調が疑われる場合の相談、医療へのつなぎ方の助言 |
| ひきこもり地域支援センター | ひきこもり状態が背景にある場合の継続的な相談 |
| 児童相談所(子が18歳未満の場合) | 子ども本人への支援を含めた相談 |
| 弁護士 | 親の代理人として子との間に入る、要求や接触への対応 |
警察
目の前で暴力が起きている、またはその危険が差し迫っている場合は、110番通報が基本です。その場では「誰が、何に、何をしているか」「刃物などがあるか」「けがをしている人や動物がいるか」を簡潔に伝えます。
緊急ではないものの継続して困っている場合は、警察相談専用電話の#9110や、最寄りの警察署の生活安全課に相談できます。ペットへの暴力は動物虐待事案として警察の扱う範囲に入るため、「家庭のことだから」と遠慮する必要はありません。相談した事実が記録に残ることは、後の手続でも意味を持ちます。
動物愛護相談センター・保健所
都道府県や政令市などには、動物愛護に関する相談窓口があります。東京都では東京都動物愛護相談センターが窓口の一つです。虐待が疑われる状況について相談でき、警察と情報を共有しながら対応することもあります。
動物病院
受診の際は、けがの原因を正直に伝え、診療記録を残してもらうことが大切です。獣医師には、虐待を受けたと思われる動物を見つけたときに関係機関へ通報することが法律上求められています(動物愛護管理法41条の2)。受診の記録は、ペットが受けた被害を客観的に示す資料にもなります。
精神保健やひきこもり支援の窓口
子の暴力の背景に、精神的な不調やひきこもり状態がある場合もあります。精神保健福祉センターや保健所、ひきこもり地域支援センターでは、家族からの相談を受け付けています。ペットへの暴力という出来事をきっかけに、子の状態全体について相談するという使い方もできます。
子が18歳未満の場合
子が18歳未満であれば、児童相談所も相談先になります。動物への暴力が、子ども自身が抱えるストレスや困りごとの表れであることもあり、子どもへの支援と合わせて考える視点が必要です。
相談の前に残しておきたい記録
どの窓口に相談する場合でも、具体的な記録があると話が伝わりやすくなります。
- 日時、場所、子が何をしたかを、見たままの言葉で書いたメモ。
- ペットのけがの写真や、動物病院の診療明細・診断書。
- 子の発言や物音を録音・録画したもの(安全に記録できる範囲で)。
- ペットを理由にした要求や脅しのメッセージの画面。
- 警察や行政に相談した日付と、担当者の名前・部署。
記録は、子に見つからない場所に保管してください。スマートフォンに保存する場合は、別の端末やクラウドにも控えを残しておくと安心です。
警察・行政だけでは届きにくい部分と弁護士の関わり
警察は事件として扱えるかどうかを基準に動き、行政の窓口は定められた支援の枠の中で対応します。どちらも大切な相談先ですが、子との日々のやり取りや、ペットを理由にした要求への対応まで継続的に担うことは難しいのが実情です。
当事務所では、弁護士が親の代理人として子と向き合い、親への要求や接触の窓口を引き受ける形で親子問題に関わっています。ペットへの暴力がある家庭では、ペットの預け先を確保したうえで、子との話し合いの中でペットや家族に近づかないことを取り決めたり、その内容を書面に残したりすることも考えられます。
また、子を孤立させたままでは状況は落ち着きにくいため、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、子の住まい探しや仕事探し、生活の立て直しを支える形をとっています。親子が適度な距離を取って暮らせるようになることで、ペットを含めた家族全体の安全につながることがあります。
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ペットへの暴力は、ペットの命に関わるだけでなく、家族全体の安全や、親が子の要求を断れるかどうかにも関わる問題です。まずはペットと家族の安全を確保し、記録を残したうえで、警察や行政、弁護士など複数の窓口を組み合わせて考えることをおすすめします。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


